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部隊の集い

 俺、エレインはラフィンの剣を引き抜いた後、妙な声が脳内に響き渡った。

 とはいえ、その声は言葉として聞き取れるものではなく、ただただ呻いているような声であった。

 おそらくはこの剣に宿っている精霊の声なのだろうが、それすらもよくわからない。


「……剣の模様が変わった?」


 少し離れたところに座っているジェビリーが俺が引き抜いた宝剣を見ながらそう言った。

 当然ながら、俺も剣を引き抜いた瞬間にわかっていたことだが、それでも脳内に響き渡る声の主に違和感を覚えた。


「そのようだな」

「それが本来の宝剣の姿、なのかしら」

「わからないが、力が変わったのは確かだな」


 まだ強力とは言えないものの、それでも剣としての力が戻ったのは確かだ。

 ただ、伝説通りの宝剣であるとはまだ言えない。

 テラネアの話が本当なのであれば、宝剣には”遮蔽”と言う能力があるらしい。

 しかし、その能力を試そうにも内に宿っている精霊が苦しんでいるのであれば能力を発揮するのは難しいのかもしれない。

 そもそも精霊が苦しんでいるのは俺のせいなのだろう。

 俺はゆっくりと丁寧に剣を鞘に戻すことにした。


「……どうして鞘に納めたのですか?」

「精霊が苦しんでいるようだったからな。俺のせいで苦しめるわけにはいかない」


 鞘へと戻すと、次第に宝剣から溢れる力の流れが穏やかになる。

 やはり俺のせいで苦しんでいたようだ。

 それでも剣の模様がすぐに戻るわけでもなく、乱れていた力が落ち着いただけのようだ。


「エレイン様のおかげで宝剣が眠りから覚めた、と言ったところですか?」


 ラフィンがそう言うように眠りに着いていたものを俺が覚醒させたと言うことなのかもしれない。

 無理に起こしてしまったのだとしたら申し訳ないが、真相を確かめるには仕方のないことだ。

 それに、いつまでも眠っていては俺たちとしても困ることだからな。


「エレイン様、やはりその剣が伝説通りの宝剣で間違いないでしょう」

「そうかもしれないな」


 今まで出会ってきた聖剣や魔剣とは大きく違うものだと言うことは俺でもわかる。

 少なくとも特殊な剣ではあるとは言え、本当に伝説なのかはまだ判断できない。

 すると、リーリアが宝剣の方を見ながら俺に話しかける。


「精霊と話すことはできたのですか?」

「いや、呻いている様子ではあったが、話してはいない」

「呻いていたのですか?」

「ああ、苦しんでいるようだったな」


 俺がそういうとメフィナが思い出したかのように口を開いた。


「エレイン様の力に共鳴してしまったのでしょうか。それでも精霊が苦しむ理由にはなりませんが」

「もしそうなら、パルルと言う魔族とも話してみる必要があるな」


 テラネアの話ではこの剣を探しているのはパルルと言う魔族らしい。

 それならより詳しいことを知っている彼女に直接聞いた方がいいと言うものだ。

 そもそもここで俺が剣を引き抜いたところで大きな意味はないのだからな。


「でしたら、私たちが彼女たちを連れてきます。それでもよろしいでしょうか」

「ああ、俺も一緒に行こうか?」

「……嬉しいのですが、急にエレイン様が向かわれるとみんなも動揺すると思います」

「それだけなら問題ないだろう」

「その、お会いする準備さえ出来ていない人も中にはいると思います。失礼になるのではと……」

「そんなことは気にしなくていい」


 何も失礼に思う必要などない。

 そもそも誰かを従えるようなことを俺はしたくないのだ。

 それでも俺の元にいたいと言うのなら対等のような立場であって欲しいと思っている。

 ただ、リーリアのように大きな信念があって服従すると言うのなら俺も強く言うことはできないが。


「……わかりました。では、私と向かいましょう。テラネアはここに残ってください」

「どうしてだ?」

「保険になると思います」

「なるほど、保険か」


 必ずここに戻ってくると言う保険なのだろう。

 俺としても強く疑いを持っているわけではないし、リーリアもそこまで警戒していないことだ。

 一戦交えた彼女がその様子なのだから、メフィナたちに悪意がないと言うのは証明できたも同然だ。


「リーリア、ここの警備は任せてもいいか?」

「警備ですか」

「アイリスと合流して警戒してほしい」

「エレイン様はお一人で大丈夫なのですか?」

「話に行くだけだ。それにアイリスの影も一緒だからな」

「……わかりました」


 アイリスの影が俺に憑いているとしてもいつもならご一緒したいと言うと思った。しかし、今回はすんなりと俺の単独行動を許してくれた。

 いや、そもそも俺の従者なら命令に従うものではあるのだがな。

 理由はわからないものの、おそらくはメフィナたちの邪魔になると思ったのかもしれない。

 メフィナに実力で負けてしまったことをまだ引き摺っているのだろうか。そのことも後で伝えておくべきだな。


 それから俺はメフィナに連れられ、街の外れへと向かう。

 そこには旧王国の遺物である大きな建物が立っているらしい。古めかしい雰囲気の旅館となっているようだ。

 俺も詳しいことは知らないが、大きな変革が起きて今のドルタナ王国ができたと言うのは知っている。


「こちらに皆さんが泊まっています」

「何人いるんだ?」

「確か、五人です。私の部隊が三人、パルルさんとレメネスさんの二人です」


 では、メフィナとテラネアを含めて七人がここに泊まっていたことになるのか。

 それにしてもこの建物からは五人も泊まっているようには聞こえない。

 正確にはわからないが、三人程度しかいないように思える。


「三人、か」

「え、どうかしましたか?」

「なんでもない。案内してくれないか?」

「わかりました」


 建物の中へと入ると大きなエントランスが見える。

 しかし、宿に立っているはずの受付もおらず、宿主らしき人もいないようだ。

 もしかすると、この建物全体を貸し切っているのだろうか。


「向こうの大部屋にいると思います」

「そのようだな」


 エントランスを抜け、大部屋へと向かう。

 メフィナがノックをすると、内側から女性の声が聞こえてくる。それと同時に衣が擦れるような音すらも聞こえてくる。着替えでもしているのだろうか。


「メフィナ?」

「うん、今戻ってきたとこ」

「今開けるから」

「待って、着替えてるんじゃ……っ!」


 メフィナは扉が開くのを止めようと取っ手へと手を伸ばすが、俺は危険を察知して彼女の腕を引っ張り下がらせる。


「ひゃっ!」


 ガチャンッと勢いよく開かれた扉の先には下着姿の女性が二人、そして手前には扉を開けたのであろう深緑の長い髪をした女性が一人転んでいた。


「いてて……っ!」

「すまない」


 俺は咄嗟に背を向けて彼女たちから視線を逸らす。

 ただ、彼女たちの下着姿を見てしまったのは事実だ。一度見てしまったものは取り消すことなどできない。


「メフィナっ、どう言うことよっ」

「え? え?」


 動揺するメフィナを連れて扉が勢いよく閉まる。

 なぜか閉め出された気分ではあるものの、しばらくすると扉がゆっくりと開いた。


「さ、先ほどは失礼いたしましたっ!」


 すると、俺の顔を見るなりすぐに先ほど転んだ女性が大きく頭を下げてなぜか謝罪をした。

 続けて、奥に立っていた二人も頭を下げた。


「お見苦しい姿でエレイン様の前に立ってしまったこと、深くお詫びいたします」

「いや、何も言わずにここに来た俺も悪かった。それに俺の方が謝るべきだろう」

「そんな、エレイン様は何も悪いことがしておりません。私たちの身体など、お目汚しに過ぎません」


 彼女たちはそう言うものの、訓練されていたと言うこともあり、非常に引き締まった美しい体をしていたのは確かだ。

 そこまで自分を卑下するほどのことでもないだろう。


「……その、私もごめんなさい。急にエレイン様を連れてきてしまって」

「メフィナは悪くありません。私たちがもう少し注意すべきだったことです」

「違うの、サリネ」


 そう彼女は自分が悪いと言い張るものの、三人は自分たちにも非があったとして譲ることはなかった。

 そもそも今回に関しては防ぎようはあったのだろうが、不可抗力と言っても過言ではないだろう。

 扉の手前で足を踏み外したこと、三人とも着替え中だったこと、それに俺の位置から全員が見えてしまったこと。

 その全てを完全に予測して防ぐことなどできなかっただろう。


 それからみんなが落ち着いたところで、俺はここに来た本来の目的を話すことにした。

 ここにいる全員が俺や小さき盾の従者として認めること、そして宝剣のことを話した。


「その、私たちが本当にエレイン様やアレク様の従者として認めてくださるのでしょうか?」

「ああ、そのつもりだ。議長にも説明しておこう」

「……ありがたいことですが、本当に私たちにその役目が務まると思いますか?」

「メフィナとテラネアを見ても十分だと判断した。アレクもそう思うだろう」


 直接アレクと話したわけではないが、彼もおそらく同じように思っているはずだ。

 聖剣を持っていないとしても、敵は魔族だけとは限らないからな。


「ありがとうございます。この日をどれだけ待ち望んでいたことか……」


 すると、深い紺色の髪をしたアネミルがその独特な灰色の瞳に涙を浮かべた。

 帝国が滅んでから彼女たちは様々な困難があったのかもしれない。

 俺に直接会うことができなかった理由はメフィナたちから聞いた。

 きっと不安に押し潰されそうになっただろう。

 それでも彼女たちは必死に生きてきた。こうして巡り会えたのも運命とでも言えるかもしれない。


「それで、パルルさんはどちらに?」

「メフィナたちが出かけた後彼女たちも出たのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、宝剣があるとすれば兵舎ではないかと言ってね」


 兵舎、この近くなら警備隊駐屯施設と言ったところか。

 そういえば、魔族が撤退してからあの場所は立ち入り禁止になっていたはずだ。

 地下の連絡通路は封鎖したとはいえ、完全に破壊したわけではない。


「もしそうならまずい状況かもしれないな」

「どうしてですか?」

「あの場所は魔族の侵入経路だったんだ。封鎖しているとはいえ、安全を確保できたわけではない」


 当然ながら、宝剣はラフィンが持っているため、そんなところにはない。

 何事もなければいいのだが、危険な場所であるのには変わりない。


「すぐにでも向かいましょうっ」


 メフィナの声を合図に全員が立ち上がり、武器を手にし始めた。

 その時のみんなの表情は非常に険しいもので、彼女たちが本当に部隊として訓練してきたのだなと実感した。 

こんにちは、結坂有です。


先行して宝剣を探しに向かってしまったパルルたちですが、一体どうなっているのでしょうか。

魔族と敵対していなければいいですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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