宝剣の真実
しばらくして戻ってきたエレイン様の後ろには二人の気品ある美しい女性が立っていた。
容姿からして姉妹のようだ。と言うことは彼女たちがこの国の王女様なのだろうか。
しかし、一人は剣を携えているようだ。派手な装飾はなく、シンプルなデザインの剣ではあるものの何か力を感じさせるものだ。
聖剣か何かだろうか。
ただ、確かに二人からならこの国の伝説とやらに詳しいのかもしれないが、それでも本当に連れてくるとは思ってもいなかった。
エレイン様は一体何者だというのだろうか。
私とテラネアは二人が部屋に入ってくると同時に立ち上がり、姿勢を正すことにした。
「剣聖のお仲間さんなのでしょう? そこまで気を張らなくてもいいわ」
そう王女の一人が私たちに向けて言った。
それでも私たちはなかなか姿勢を正すことができない。やはり、エレイン様は私たちと感覚が違いのだろう。
「……私はジェビリーよ。一応この国の第一王女だけど、気楽にしてくれると嬉しいわ」
「その妹のラフィンです」
すると、そう小さくも上品に頭を下げる。
どうやら本当にこの国の王女のようだ。
よく見てみると彼女たちの服には街で見かけた王国の紋章が縫い込まれている。
正装と言うわけでもないが、それでも美しいその装飾は彼女たちの気品をさらに引き上げているようにも見える。
当然ながら、私たちの服など少々小汚いものだ。
任務で使用している服であると同時に、先ほど模擬戦をして汚れてしまっている。
王女の前に立てるような身なりをしていないのは言うまでもない。
「……それで、聞きたいことがあるんだろう?」
エレイン様が気を遣ってくれたのか、私たちへと話を振ってくれた。
この状況で自分から話しかけると言うのがどうも難しい。
「はい、その……この国の宝剣のことについて何か知りませんか?」
私はそう彼女たちに聞いてみることにした。
この国の王家である二人なら伝説のことはより詳しいはずだ。
しかし、その話と言うのは大昔のことだ。いくら詳しいからと言って宝剣の在処を知っているわけでもないだろう。
ましてや、無関係の私たちがそれを少しの間譲って欲しいなどと言えた立場ではないのだから。
「宝剣? 伝説に出てくる剣のことですか」
「そうです。詳しいことを知りたいのです」
「……悪いのだけど、私も詳しいことは知らないの。伝説に言われているような力が本当にあるのかも知らないのよ」
ジェビリーは申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
ラフィンも同じようで詳しい宝剣の情報は知らないようだ。
「宝剣を知ってどうするのですか?」
「その、私も詳しいことまではわかりませんが、エレイン様に関係することだと言うことは確かです」
ラフィンの質問に私がそう答えると、彼女はすぐにエレイン様の方へと振り向く。
「俺は何も知らないな」
「……宝剣を知って何をしたいの? 内容によっては見せることはできるわ」
先ほどの優しい表情から一変してジェビリーが鋭い視線で私たちを見つめる。
この国の宝剣と言われるものだ。王女と言うのなら険しい表情をするのも納得できる。
ただ、私たちもその剣がどのようなものなのかも知らない上に欲しいと言っているのは魔族のパルルの方だ。
彼女がいればもっと話を進められると思うのだが、そんなことは言ってられない。
すると、テラネアが思い出したかのように口を開いた。
「とある人から聞いた話ですが、宝剣に宿る精霊の能力は”遮蔽”と呼ばれるようです。つまり防御系最強格とされる剣です」
「……それを使ってどうするのかしら」
「エレイン様の覚醒には他の能力の干渉は避けないといけません。その際に使うことができると思います」
「他の能力、か」
「はい。鬼石と呼ばれるものも障害となり得ます」
エレイン様の持つ神の力は同じ神の力を持つものと共鳴してしまうことがあるようだ。
そのことは帝国時代何度も教えられたことだ。
加えて、エレイン様はまだ完全にその力に適応できているわけではない。それならその力の行使に適応するまでは支援するべきだ。
当然ながら、神の力を下界で扱うにはリスクが伴うものだが、それでもやらなければいけない。
「……とある人と言うのは魔族か?」
「え?」
エレイン様からそう質問され、私たちは少しだけ言葉を詰まらせてしまった。
魔族が敵だと言うことは知っている。それはこの王国でも同じことだ。
「別に警戒しているわけではない。ちょうど俺も似たようなことを聞いたことがあっただけだ」
「そうなのですか?」
「ああ、俺も魔族とはよく話す」
詳しいことは置いておいて、パルルのことは話してもいいのだろうか。
どちらにしろ、本当のことを話さない限りはその宝剣とやらも見ることはできないのだから。
「……はい。私たちも魔族から話を聞きました」
「ですが、その魔族は帝国が攻撃されることをいち早く知らせてくれた存在です。決して敵と言うわけではありません」
私はテラネアの話に続けてそうパルルが敵ではないことを話す。
もちろん、エレイン様もそこまで敵意を見せるわけではないだろうが、それでも話しておくべきことだと思った。
「なるほど、そう言うことか。ジェビリー、宝剣を見せてもいいだろう」
「剣聖からの要望なら断ることはできないわね。ラフィン、ちょっとこっちに来てくれる?」
「わかりました」
ジェビリーが妹のラフィンの腰に携えている剣を取ると私たちのところへと持ってくる。
ここに来てからずっと見ていたその剣が宝剣だとでも言うのだろうか。
「お姉様、それが宝剣なのですか?」
「ええ、ずっと黙っててごめんね」
そう言ってジェビリーはその宝剣を私たちへと見せた。
「……何かわかるかしら?」
「やはり、見ただけではわかりませんね」
特殊な力が宿っていることだけはわかるが、それが一体なんなのかはわからない。
それに、その力は非常に弱いものだ。
とても伝説に言われているような最強格とは思えない。
「触ってみる?」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろんよ」
ジェビリーからその剣を受け取り、柄へと手をかける。
しかし、帝国で受けた教育通りと言うわけでもなく、難なく剣を引き抜くことができた。
普通であれば、精霊に認められた人にしか引き抜くことができないはずだ。それは聖剣も魔剣も変わらない。
簡単に引き抜いた私を見て、ジェビリーはゆっくりと椅子に座った。
「やっぱりそうよね。伝説通りの剣と言うには程遠いものなの。聖剣なのかどうかも怪しいわ」
「……どう言うことですか?」
「私が見つけたときも同じような感じだったのよ。聖剣は人を選ぶのだけど、その剣は違うみたい」
「そうなのですか」
「それに、力があるようにも見えないからね」
ジェビリーの説明に肯定するようにラフィンも頷く。
この剣を携えていた彼女ですらもこの剣の能力を感じなかったのだとしたら、本当にこれは宝剣なのだろうか。
いや、伝説の方が間違っていることもある。
「俺が引き抜いても同じなのか?」
「わかりません。お願いできますか?」
エレイン様に関係する剣ではあるけれど、伝説に出てくる宝剣を手に魔族と戦った張本人と言うわけではないはずだ。
少なくとも帝国の資料にはそのようなことは書かれていなかった。
ただ、帝国の収集できる歴史よりももっと古い神話の時代の話なのだとしたらそれは私たちもわからないことだ。
私がエレイン様に剣を渡すと、彼は柄に私と同じようにして触れる。
その瞬間、空気の流れが大きく変わったかのような感覚がした。
空気ではない。この空間にある力の流れが変わった。神の力に近い何かを感じる。
それはエレイン様から発せられるものなのだろうか。それともこの剣が……
「どうして?」
驚いたジェビリーがそう言って勢いよく立ち上がった。
私も剣の方へと視線を向ける。
そこには装飾が控えめであった先ほどの剣ではなく、異様なまでに装飾が施された芸術品とでも言える剣があったのだ。
まるでそれは蕾が開いたかのようなそんな印象すらも与える。
本当にこの剣が伝説通りのものなのだと私だけでなく、この場にいた全員が確信したことだろう。
こんにちは、結坂有です。
ドルタナ王国に眠る宝剣がついに目が覚めましたね。
それに宝剣の能力についても明かされてきました。
これから宝剣とエレインはどうなっていくのか、楽しみですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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