開かれた部隊へと
私、ミリシアはアレクに連れられてスティパトール部隊の模擬戦を見てみることにした。
彼の説明では彼女たちは私たちの従者となるような存在だったのだそうだ。
それがとある事情ですぐに合流できず、エレインが力に覚醒するまでの間潜伏していたようだ。
私としては私たちの活動などに構わず接触してきて欲しかったところだけれど、そんなことを言ったとしても私たちは知らないことが多すぎる。
彼女たちとしても悩んだ末の結果なのだ。今更私がどうこう言える立場ではないか。
メフィナと言う女性がリーリアと戦った後、テラネアと言う女性も続けて勝負をした。
彼女は互角とは言えず、終始劣勢と言った印象だった。
しかし、それでも真の実力が垣間見える瞬間はいくつもあった。
テラネアは後半にかけて攻撃を避ける精度が格段と上がっていたのだ。
傍目から見ただけだが、彼女はどうやら相手の攻撃の癖を瞬時に見抜く技術や能力でもあるのだろう。
ただ、リーリアの魔剣との相性が悪かったと言える。
それにしても、セルバン帝国が彼女たちのような部隊を隠し持っていたとは驚きだ。
加えて、アレクは彼女たちは帝国が滅んだと表現せず、消えたと表現しているのも気になると言っていた。
確かに外は魔族に包囲され、内は侵入した魔族で破壊の限りを尽くされていた。
その状況では誰もが滅んだと言っても過言ではない。
とは言え、私たちは帝国のことに関して何も知らないのだ。あの国が一体何を考えていて何をしようとしていたのかはもはや想像することすらできない。
そんなことを考えながら、私たちは自分たちの部屋へと戻る。
ラクアは彼女たちの戦いを見て非常に洗練されていると感じていたそうだ。もちろん、それは私としてもあれほどの実力を持っている人間は聖騎士団でもそう多くはないだろう。
ましてや、聖騎士団時代に無敗と言われたリーリアと互角の戦いをしたのだから。
それだけでなく、彼女はエレインの得意とする技を模倣した技術を持っている。
どう言う訓練をしたらあのような技を手に入れられるのかは全くわからないが、少なくともエレインの従者となるべく訓練をしてきたと言うのは事実なようだ。
「……ミリシア、彼女たちの様子を見てどう思った?」
「強力な剣士なのには間違いないわ。少なくとも聖騎士団でもトップクラスの実力を持ってるはず」
メフィナとテラネアだけしか見ていないのだが、彼女たちが特別強いと言うわけでもないのだろう。
あの帝国のことだ。
部隊として成り立たせるためには個人の実力だけでは意味がない。
総合的に実力を引き上げるためにも部隊全体の質を高めていることだろう。
他の仲間の彼女たちに近い力を持っているはずだ。
「全く、帝国ってのはどんな国なのよ」
ラクアがそう呟くように言った。
それは私にもわからないが、これだけは言える。
このようなことをしている国に対してエルラトラムが聖剣を渡したくないと思うのは当然だと思う。
議会の資料に関しては私も見たことがある。
エルラトラム側としてもあの国の動向に関しては調査していたみたいだ。
まぁ私たちの情報やスティパトールに関する情報は全くなかったのだけど、とんでもない計画を立てているとは考えていたらしい。
「消えてしまった以上は調べようがないね。ただ、帝国は悪いことを企んでいたわけではなさそうだね」
「私もそう思うわ。まぁそれが倫理的に正しいかどうかは別としてね」
「少なくとも帝国には納得できる大義があったってことかしら?」
「そう言ったところだね」
もはや魔族に蹂躙されてしまったこの世界で正攻法な生き方はできないと考えた方がいい。
聖剣を持っていない帝国からすれば、異常な手段で国家を守る必要があったのかもしれない。
「とにかく、帝国のことは別で考えるとして、彼女たちをこれからどうするべきかが問題ね」
「まだ他の仲間とも話せていないけれどね。大体の方針は考えておいた方がよさそうだ」
メフィナやテラネアはエレインに任せるとして、どこかにいるであろうアレクの従者や私の従者となる人たちをどうするかが問題だ。
小さき盾として迎え入れるは容易いことだが、それでは今までとほとんど変わりのないことだ。彼女たちの能力を最大限に引き出すにはどうするべきかを考える必要があるだろう。
それに、エルラトラムの今後の活動方針も考えていくべきだろう。
「私としては小さき盾に迎え入れるべきだと思う」
「そうなのかい?」
「もちろん、聖剣はまだ持っていないけれど十分な実力は持っているわけだしね」
「確かに僕たちの脅威は魔族だけじゃないからね」
「それに帝国の剣術もエルラトラムに吸収させるべきだとも思っているわ」
小さき盾に迎え入れるもう一つの目的はそれだ。
私たちは不定期ではあるが、学院生の人に剣術に関することを指導している。
元々は臨時の講師として呼ばれた。それがどう言うわけか、続けて欲しいという学院生の声が多いようだ。
もちろん、学院生が強くなってくれればエルラトラムとしての国力も上がることだろうし、私たちだけでは対処できない問題も彼らがいれば容易くなることだってある。
それなら、私たちと協力して学院生の指導をより広く展開できないだろうか。
剣術を指導している場所はあの高度剣術学院だけではない。
まだ聖剣を持っていない候補生も多くいることだ。今後、その方面での指導にも広げていければと私は考えている。
「帝国の技がエルラトラムと融合できるかどうか、か」
「事実、セシルがそれに近いことをしているわけだからね。できないわけではないわ」
「ミリシアは剣術指導に重点を置いているんだね」
「ええ、アレクは別のことを考えているの?」
「僕は小さき盾の諜報役として運用したいと考えてるんだ」
私たち自身の諜報役は確かに存在しない。
ブラドが隊長を務めている議会の諜報部隊も信頼はできるが、全ての情報を開示してくれるとは限らない。
それなら、私たち自身でもある程度の情報を手に入れることができれば問題はないだろう。
彼女たちは帝国が滅んだ後も自分たちで情報を集めて、鬼石と呼ばれるもののことに関して調べ上げていたのだから。
「……ともかく、私たちもそろそろ魔族にやられっぱなしと言うわけにはいかないわね」
「そうだね。彼女たちをどう使うかが重要になってくるだろうね」
アレクがそう考えるのは当然のことだ。
彼女たちの実力は相当なもので、使い方によってはさまざまな作戦が取れることだろう。
議会で大量の資料から敵情を把握しようとしていたように、彼女たちを駆使して情報を手に入れるのも容易いことだ。
議会の承認でほぼ全ての権限が委ねられる超法規部隊小さき盾は今後も大いに活躍することだろう。
◆◆◆
私、メフィナは戦いの後、エレイン様に連れられてとある部屋に向かっていた。
そこでは私たちに食事や十分な休憩を取らせてくれた。
そのことに関しては非常に嬉しいことなのだけど、こんなにも贅沢をしていていいのだろうか。
今の他の部隊は活動中で、今はこの国の宝剣とやらの調査を始めている頃だろう。
「……どうした?」
そんな私の様子を見てエレイン様が声をかけてくれた。
このことは私たちの問題だ。エレイン様を巻き込むわけにはいかない。
それにいくら剣聖といえど、この国の王族と言うわけではない。婚約関係ではあるらしいが、それもまだ確定したわけでもない。
「いえ、私たちの問題なのです。エレイン様は気になさらなくて大丈夫です」
「俺の命令でも聞けないことか?」
「……」
私はエレイン様の従者だ。
彼の命令には絶対服従だと誓った。だけど、彼に迷惑をかけたくないとも思っている。
やはり私の思っていたように彼は私たちの存在を知れば手助けしようとするのだ。
接触を試みた時点でそのことも考えるべきだった。
「私が代わりにお答えします」
すると、テラネアが代わりに答えようとする。
私は視線を送り、それを止める。
これは私の引き起こした問題なのだ。私が答えるのが筋と言うものだ。
「……今、私たちの仲間がこの国の宝剣に関する調査を行なっています」
「宝剣か。噂程度なら聞いたことがある」
「どのような噂ですか?」
「いや、大したことではない。この国の伝説なのだろう?」
確かにこの国の伝説に出てくる聖剣ではあるようだ。
私たちもその伝説とやらはほとんど知らないのだが、魔族が逃げ出すほどのものであるとパルルから聞いている。
「はい、その宝剣がこの国に本当にあるそうなのです。何か知っていることはありませんか?」
「なら、その伝説とやらに詳しい人に聞けばいいだけの話だ」
「え?」
「ちょうど、王女姉妹もここにいることだ。何かの情報ぐらいは持っているだろう」
「ですが……」
「呼んでくる。ここで待っていろ」
そう言ってエレイン様は私たちの制止を無視するようにして部屋を出ていった。
先ほどの模擬戦で疲れているとはいえ、本来であれば、私たちが向かうべきことなのではある。
エレイン様だけでなく、この国の王女様にも迷惑や失礼をお掛けすることになるとは、従者として失格なのではないかと思ったのであった。
こんにちは、結坂有です。
ついにドルタナ王国に伝わる宝剣の真実へと迫るようですね。
それにしても、スティパトール部隊は一体どのような存在になっていくのでしょうか。
エルラトラムをより強固なものにする礎となるのでしょうか。気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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