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打ち砕かれた力

 聖騎士団本部で寝泊りをしている私、ミリシアとユウナは朝起きるといつも朝食のことで話し合いが行われる。


「ミリシアさん、これを使ってください!」


 そう言ってユウナはごまだれと唐辛子ソースを持ってきた。

 今から作るのはサラダでごまだれを使う分には問題ないのだが、唐辛子ソースを使うのは少し変な気がする。


「辛いサラダにするの?」

「違いますよ。唐辛子の辛い成分をごまだれのあの甘さで補うんです!」

「……唐辛子ソースの意味あるのかしら」

「あります!」


 彼女の選ぶ調味料には少し変わっているところがあるのは確かだが、私も冒険心があるために完全に断り切れないでいた。

 もちろん、今回の調味料についても私は受け入れるつもりだ。

 今日はどんな味になるのだろう。


 それからしばらくして朝食が完成すると、ユウナは真っ先に食べ始めた。


「美味しいです〜」

「それならよかった」


 目の前で美味しそうに唐辛子ソースとごまだれを和えたサラダを一口だけ食べてみた。

 口に入れた瞬間、ゴマの香りが口の中に広がる。

 そして、咀嚼すると唐辛子ソースのピリッとした辛さがいいアクセントとして調和していた。

 今日も新しい味を感じることができて楽しい。


 ユウナは毎日美味しそうに食べるのだが、たまに不味いものも作ることがある。

 ふと、過去のレシピを思い返してみると料理というものはかなり奥が深いのがわかる。

 施設の中ではほとんど決まった料理しか食べてこなかった。

 こうして自分で好きなように作ってみると案外楽しいものだ。エレインもこのように料理などをしているのだろうか。

 彼の料理も食べてみたい、そう思ったのであった。


 朝食を食べ終えた頃には聖騎士団の本部に駐在する剣士たちが集まってくる。

 もちろん聖騎士の人も何人かいるのだが、ほとんどの聖騎士は国内ではなく国外の魔族の対応をしている。

 しかし、今回はいつもと違って慌ただしい様子であった。


「何かあったのかしら」

「わかりません。事件とかですかね」


 すると、私たちのいる部屋に一人の男性が入ってきた。

 彼はブラド団長で、私たちを保護している人でもある。

 私たちはセルバン帝国で死ぬ運命であったが、彼が助けてくれたのだ。

 それから私は彼の護衛騎士、そしてユウナは聖騎士補佐としてこのエルラトラムという国で居場所を得ることができた。


「おはよう。早速なんだが、仕事にかかる」

「えっと、何かあったの?」

「ああ、明朝に議会軍の基地が何者かに襲撃された」


 思ってもいなかった内容に私は驚いてしまった。

 ユウナも同じようで口元を手で覆ってる。


「何者かがってどういうことよ」

「人間なのかどうかすら分からないということだ。現場はエレインが撃退したことでなんとかなったようだが、俺たちも警戒しなければいけないということだ」


 議会の次は私たち聖騎士団の可能性だってある。だからこうして慌ただしく剣士たちが外で警戒態勢を築いているのだろう。


「状況はある程度分かったわ。私たちはどうすればいいの」

「この機に議会軍を襲撃する」

「え?」


 ブラド団長の一言に私は一瞬戸惑ってしまった。


「朝食を済ませたのだろう? 早く準備をしろ」

「ミリシアさん、いきましょう」

「……分かったわ」


 私はユウナに対してそう生返事を送った。

 いまだに思考が追いつかない。

 団長は議会軍を壊滅させたいのだろうか。

 彼らは今後戦力になるはずの軍勢だ。それに先ほど何者かに襲撃があったということから今は弱っている時期、そんなところに私たちが襲撃すれば一瞬にして壊滅してしまうだろう。


「ミリシア、お前はお前の仕事がある。それを成し遂げろ」

「ええ、分かってる」

「なら、剣を取れ」


 団長に言われるがまま、私は手に入れたばかりの聖剣を腰に携えた。

 今は思考を整理している場合ではない。上官の指示は従わなければいけないのだ。

 自分の地位を守るためでもあるが、私は彼をそれなりに信頼しているからでもある。


「ミリシアさん、大丈夫ですか?」

「ええ、迷っている場合ではないわね」


 私は意識を切り替えるために頬を軽く叩いた。




 それから団長とユウナ、私の三人で襲撃のあったとされている議会軍の基地へと向かった。

 聖騎士団ということで快く中に入れてくれた。

 団長は確かに襲撃と言った。

 それにしてはなんとも段取りがしっかりしているように見えるが、一体何が目的なのだろうか。


「救護所の様子を見たい」

「ええ、こちらへ」


 警備の人は頭を下げながらそう道を案内してくれた。

 しばらく歩いていると数十人が怪我を治療している救護所へとたどり着いた。


「かなり酷いものだな」

「なにぶん急な襲撃だったものでしてね。剣士たちの対応が少し遅れたのも原因でしょう」


 そう警備の人は詳しく襲撃のことを話す。

 どうやら二人の男性と思われる人が議会軍の基地の中に侵入し、そこで暴れたことが原因だそうだ。


 一見無謀と思える作戦だが、焦らせるという意味では効果的だったのかもしれない。

 いや、規格外に強い人であれば本気で陥落させるつもりだったのか。

 考えるだけ今は無駄だ。

 そんなことは当の本人でなければ分からないのだから。

 すると、ブラド団長は剣を静かに引き抜いた。


「ちょっと、団長?」

「ある程度は推測していたのだがな。こうもわかりやすいと放ってはおけないな」

「一体なんのことを……」

「ふっ!」


 団長は警備の人を斬り裂いた。

 周りの議会軍の人も一気に緊張状態となったが、その矛先は団長にむくことはなかった。


「え、どうして?」

「かなり古い精霊のアリクデベス、能力は”模倣”だな」


 警備の人は胸元を大きく斬り裂かれているが、人間のように血液が飛び散らない。

 魔族でもないこの男は精霊のほかありえない。


「まさか、これでもバレてしまうとな」

「俺は聖騎士団団長だ。お前のような落ちぶれた精霊のことなどよく知っている」

「あのクソババアが、余計なことを吹きこみやがって」

「本来は議会軍の被害を広げるつもりだったのだが、この様子ではその必要はない。今はお前を倒すだけだ」


 そう言って団長は二つの聖剣を引き抜いた。


「ミリシアとユウナは後ろの警備員を相手しろ」

「後ろの人も敵なの?」

「ああ、そいつはゲストミア、能力は”衝撃”だ。うまく力を分散するように受け流せ」


 すると、後ろの警備も剣を引き抜いた。


「議会軍の剣士どもは怪我人を運び出せ。こいつらは俺たちが相手する」


 団長が議会軍に指示を飛ばすなど考えたこともなかったが、彼らは団長の指示に従い負傷者を奥の安全そうな部屋へと移送を始めた。


「へっ、どうしてバレたんだ?」

「その模倣している相手が問題だ。そいつはただの警備員、剣の筋など見切るほどの実力もない奴だった」

「なるほど、こいつはそんなにも弱い奴だったのかよ」


 どうやらあの精霊の模倣という能力は目に見える部分だけを真似するようだ。

 技であったり外見であったりそう言った部分だけしか使えないらしい。


「まぁな。お前の剣も奪ってやるぜ」

「ふむ、できるものならな」


 警備の人、いや落ちぶれた精霊は落ちている剣の一つを拾い上げ、団長と同じ二刀の構えを取った。

 筋肉の動かし方や角度まで綺麗に模倣されている。


「ミリシアさん!」

「っ!」


 団長の戦いを見ている場合ではない。

 私たちには戦う相手がいるのだ。

 私は後ろからの攻撃を寸前で避けることで、ユウナが攻撃しやすいようにした。


「ユウナ!」

「はいっ」


 ユウナの強烈な一撃が男を襲う。

 しかし、敵である精霊ゲストミアは剣を地面につくことで衝撃波を発生させた。


「うそっ!」


 その衝撃波でユウナの一撃は彼に届くことはなく、寸前で止まってしまった。


「代わるわよ!」


 私はそんなユウナの剣の下を潜るように走り込み、ゲストミアの懐まで接近する。

 ここまで近づければっ


「はっ!」


 彼がそんな掛け声を上げると同時にドンッと肺を圧迫するような衝撃波が襲う。

 しかし、私はそのようなことで息ができなくなるような柔な訓練を受けていない。

 当然ながら後ろにいるユウナも同じだ。


「せいっ!」


 私は魔剣の力である分散の力を利用して、広範囲に重い一撃をゲストミアに浴びせた。


「ユウナ」

「はい!」


 私の合図にユウナはすぐに反応し、剣をゲストミアの胸部へと突き刺した。

 私の防ぐことのできない広範囲に分散した攻撃で怯んだところを彼女がとどめを刺したのだ。


「なかなかの連携、素晴らしいぞ」

「っ!」


 明らかな心臓部分への刺突、それでも精霊ゲストミアは死ぬことはなく私たちを評価した。

 精霊なのはわかるが、まさか不死だというのだろうか。


「ユウナ、そのままよ!」


 私は振り返り、再度ゲストミアの頭部へと狙いを付け斬りかかる。


「せい!」


 頭部を完全に捉えた一撃は確かに斬ったという感触があった。

 しかし、それでも彼は倒れることはなかった。


「……どうして?」

「ミリシア、よくやった」


 私がそう疑問の言葉を発したと同時に、団長が二刀流の剣術でゲストミアの鎖骨あたりを突き刺した。


「はっがぁ!」


 そんな断末魔を上げて精霊は光と共に消えていった。


「ごめんなさい。私、倒せなくて」

「いや、むしろ何も知らない状態でよく戦えたものだ」

「……」


 団長は褒めてくれたのだが、私とユウナは無力感に溢れた。

 倒せると思っていた相手が倒せないと分かった時、その時の絶望は計り知れいないのだから。

こんにちは、結坂有です。


団長は議会軍を襲撃する予定だったのですが、古い精霊たちのせいで予定が変わってしまいました。

一体何が目的なのでしょうか。気になるところですね。

そして、ミリシアやユウナは精霊の倒し方を知ることができるのでしょうか。


次でこの章は終わりとなります。

それではお楽しみに。



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