スティパトール部隊の本領
私は実力を証明するために全力で目の前に立っているエレイン様のメイド、リーリアと戦わなければいけない。
当然ながら、彼女は聖騎士団の制服を着ている。
エレイン様は聖騎士団の人間をメイドにできるほどの立場にいるのだろうか。
そのことに関しては後から聞けばいいだけの話、今集中すべきはリーリアを倒すことだけだ。
見たところ、彼女は双剣使いのようだ。
それに加えて彼女は魔剣の能力を最大限活用して私に挑んでくることだろう。無論、私はその能力について詳しいことは知らない。
ただ、それでも訓練期の機動訓練よりかは過酷なものにはならない。ましてや感覚遮断なんて訓練ほどに困難なものはないのだから。
「メフィナ、いけるな?」
「はいっ、いつでも大丈夫です」
エレイン様にそう返事をするとリーリアの表情はより真剣なものへと変わる。
訓練とはいえ、実戦形式の訓練をするのだ。そうなるのは当然と言える。
だからと言っていつもと違ったことをする必要は何もない。
ただただ私はいつものように、訓練と同じように戦いに挑むだけなのだ。
大きく息を吐き、心を落ち着かせて私は剣先を彼女へと向ける。
「では、始め」
エレイン様の合図と同時にリーリアが一気に駆け出してくる。
彼女の持つ魔剣は少しばかり特殊なようだ。
剣の輪郭に沿ってラインが引かれており、それが光っているように見える。
それが一体なんなのかはわからないが、あのように目立つような剣ではどのような攻撃をしてくるのかよくわかる。
奇襲向けではないように感じる。
「ふっ」
私は彼女の攻撃に対して斬り上げることで対応する。
一本の剣に対して相手は二本の剣を使用している。手数という点で言えば、彼女に軍配が上がることだろうが、何も勝負の行方は手数だけで判断はできない。
私の反撃に対して、当然のように彼女は体を捻ることで対応しすぐに私へと攻撃を仕掛けてくる。
これほどに素早い動きができるのかと疑問に思うところではあるが、そこは聖騎士団という実力と言えるのだろう。
私自身、彼女がここまで動けるとは想像もしていなかった。
「っ!」
その素早い切り返しに私が対応したことに彼女は若干驚いた様子ではあったが、すぐに体勢を整えて私との間合いを取る。
再度攻撃しようものなら私は別の攻撃を仕掛けるつもりだったため、彼女はいい判断を取ったことになる。
とは言え、どの段階で私に攻撃の意思があると見抜いたのかはわからないが、そんなことは考えるべきことではないか。
「やはり一筋縄では行きませんね」
「……どう言う意味ですか?」
「私もそろそろ本気で行かせてもらいます」
先ほどまでは本気ではなかったと言うことなのだろうか。
そう言って、リーリアは左手に持つ剣を逆手に持ち替えるとすぐに私へと構え直す。
その構えは私の見たことのないもので、どのような攻撃をしてくるのかは全く予想ができない。
ただ、それでも予想を立てることができないわけではない。
いくつかの予想の中から最も可能性の高いものに絞り込む。
「はっ」
リーリアがそう声を張り上げると、力強く地面を強く蹴って私の方へと一気に攻撃を仕掛けてくる。
その時の彼女の目が光っているように見える。それでもそんな余計なことを考えている暇はなさそうだ。
彼女はとてつもない勢いで私の方へと迫ってくる。
私としてもそれに対処しなければいけない。
私は防御の構えを取り、その攻撃へと対応することにした。
先ほどどのような攻撃を仕掛けてくるのか予想していたのだ。ある程度の攻撃なら対処できる。
「うそっ」
彼女は一気に飛び上がり、私の予想に反して上方から攻撃を仕掛けてくる。
この動きは無駄が多いと私が判断して予想していなかったことだ。どうしてこの技を仕掛けようと思ったのだろうか。
いや、私の動きな考えなど見えているかのような感覚すら感じてしまう。
そもそも私は彼女の持つ魔剣の能力など知らないのだ。
相手の思考を読み取るような能力でも持っているのかもしれない。
そんなものが本当にあるのかは置いておいて、私はそう仮説を立てながらその攻撃へと対処する。
「くっ」
下段に構えていたために私はほんの少しばかり反応が遅れるも、なんとかその攻撃を防ぐことができた。
しかし、それでも彼女の攻撃を止めることはできない。
受け止めたかと思うと、彼女はその華奢な体を巧みに操り次は下段から私の膝へと攻撃を仕掛ける。
ガギャンッ!
金属と金属とが激しく交わる音を立てる。
私の持つ鉄剣が悲鳴を上げているようにも聞こえる。
無理な扱いは武器の寿命を縮めると言われている。今がまさにそうだとも言える。
当然ながら、私がこの剣を受け取った時に剣の状態は確認した。
新品同様の綺麗なものだったと記憶している。それでもこれ以上激しい攻撃をこの剣だけで受け止めるのは厳しい。
なんとかしてうまく避ける方法を見つけたいところだが、相手は私の予想に反して的確に私の弱点へと攻撃を仕掛けてくる。
彼女は体を大きく回転させ、私の方へと大きく攻撃を仕掛けてくる。
私はそれを剣で受け止めようとするも、剣の状態を考慮すればそれは得策ではない。この大ぶりの攻撃で剣が破壊される可能性があるからだ。
ただ、その一瞬の逡巡を彼女は見逃さない。
大きく踏み出した彼女は私の首へと目掛けてその双剣の切先を向ける。
「ふっ!」
私は一瞬にして剣を逆手へと持ち替えるとすぐにその攻撃へと剣を向ける。
ただ、これは防御のためではない。
この双影破刃烈撃は向かってくる刃を破壊しつつ、さらには相手と自分の動きを合わせるようにして動くことで相手に強力な攻撃を与えることができる。
そして、相手の刃を破壊するのに使うのは迅斬だ。エレイン様に関する報告書に何度もその言葉を見た。
文面のため、その様子を直接見たわけではないが、事細かに書かれた報告書を見て私が独自で真似をしたものだ。
バギンッ!
光る剣閃で向かってくる剣を弾くと、私はすぐに相手の動きに合わせるようにして攻撃を仕掛ける。
「っ!」
双剣の片方を破壊することはできなかったものの、彼女の手からは大きく離れたところへと飛ばすことはできた。
しかし、彼女はまたしても私の攻撃を寸前で避けると一気に間合いを取られる。
とはいえ、これで相手の手数が少なくなるのなら、これは大きな一手となったに違いない。
「さすがですね。それがエレイン様の従者の実力と言うことですか」
「私たちは特殊な訓練を受けてきましたからね。当然ですよ」
「……いいでしょう。その実力を見込んで私も思い切ったことをしますっ」
そう言って、彼女は大きく踏み出すと光る剣閃が走る。
それを見て私は防御の体制を取り、それに合わせるようにまた剣を交えようとする。
しかし、その剣閃は私の剣へと直撃することはなく、私の剣はただただ空振りする。
「え?」
ただ、そう思った瞬間にはもう遅かった。
私の真横にリーリアが立っていたのだ。
受け止めるには遅いが、私は自分の剣を盾にする。
「終わりですっ」
その彼女の言葉と同時に私は剣を通じて強烈な衝撃を受けることになる。
ガゴォンッ!
私の剣は半分に折れ、さらには私自身も吹き飛ばされる。
これはあの報告書にもあった技だ。
偽閃礙斬、偽の剣閃を生み出し、真の強烈な斬撃で相手を無力化する。
もちろんだが、私にはその技がどのようなものなのか、どう言った技術が必要なのかわからなかった。
目の前に起きたことが正しくその技なのだろうと私はただただ確信した。
だが、それでも私はこの勝負には勝てたのだ。いや、相討ちと言った感じだろうか。
どちらにしろ、完全な負けと言うわけではなさそうだ。
キャリィン!
心地いい金属音が鳴り響くと共に私の体が地面へと強く叩き付けられる。
リーリアの方へと向いてみると、エレイン様が私と彼女の間に立っていた。
エレイン様の足元には私の折れた切先が落ちている。
どうやら私が意図的に飛ばした折れた剣先を彼が弾き落としたようだ。
「なるほど、いい腕だ」
「……申し訳ございません。護っていただいて」
「気にするな。この勝負は相討ち、両者の実力は互角と言ったところだ」
「いいえ、私は魔剣を駆使して戦ったのです。本当の実力で言えば、私は負けていました」
リーリアの言うように魔剣を駆使した上で互角なのだとしたら、本当の実力は私よりも下と言うこともできなくはない。
彼女は確かに魔剣を使って、私と互角の勝負をした。
しかし、私にはどうもそれが納得できなかった。
「それは違うと思います。先ほどの技はエレイン様の奥義、偽閃礙斬ですよね」
「そのつもりです」
「あの技は魔剣の能力ではなく、リーリアさん自身の実力だと思います。私にはその技を再現することはできなかったのですから、実力が下だとは思いません」
「……」
「どちらにしろ、これでメフィナの実力はわかった。仲間として引き入れるには十分なものだ」
エレイン様はそう言うと私の腕を引き上げ、立ち上がらせてくれる。
その時の彼の表情はどこか優しいような、そんな気がした。
ともかく、私は実力を証明することができ、彼の仲間として認められた。
いや、これは私だけのものではない。
スティパトール部隊がエレイン様に認められたと言うことでもある。
この身はエレイン様や彼の仲間のためにある。そのための実力はすでに私たちにはあると言うことだ。
今までの苦難は決して無駄ではなかった。
そう思うと私は次第に気分が、心臓が高鳴るのを感じた。
こんにちは、結坂有です。
メフィナの実力、とんでもない能力なようですね。
他の部隊も同じ程度の実力があるとすれば、今後の彼女たちの活躍も期待できそうです。
それにしても、リーリアの偽閃礙斬はどこで覚えたのでしょうか。気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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