実力を証明して
俺の従者となるべくして教育、訓練をしてきた二人を隔離している牢屋から一度離れてリーリアとアイリスを踏まえて話し合うことにした。
もちろん、彼女たちスティパトール部隊に関することだ。
俺の考えとしては彼女たちの意思を尊重し、俺や小さき盾の補佐として取り入れたいところではある。
そのことに関してはアレイシアも認めてくれることだろうし、聖騎士団のアドリスもそうしたいと考えることだろう。彼女たちを俺たちの戦力に加えることはエルラトラムにとって重要なことだからな。
ただ、それでも問題が完全に片付くと言うわけではない。
彼女はエルラトラム議会に従うわけではなく、俺や帝国に従う存在だ。
そのことを踏まえた上でもう一度考えるとしよう。
「私も部隊としてエルラトラムに迎え入れると言うのは賛成です。それでもエレイン様の補佐としては少々危険に思います」
「どうしてそう思うんだ?」
「私はエレイン様のメイドとして生活しております。エレイン様のことであれば、私はなんでも答えられる自信があります。ですが、彼女たちはどうでしょうか」
「急に補佐として受け入れるのは難しいと言うことか」
「その通りです」
確かに彼女の言う通りだ。
俺たちをサポートするために影から支援していたと言うのは認めるが、それ以前に俺と一緒に生活していたわけではない。
当然ながら、俺は彼女たちのことを何も知らないし、彼女たちも俺の個人的なことまでは知らないことだろう。
俺の個人としての補佐を務めたいのなら、戦闘の支援だけではないのだからな。
それなら部隊を一度エルラトラムに迎え入れると言う形なら誰もが納得することだろう。
「ですが、彼女たちは私たちよりもお兄様のことを知っていると思います」
すると、リーリアの言葉にアイリスがそう反論した。
彼女たちは帝国の時に俺やアレクたちの情報を読み込んでいたと言っていた。
「それはあくまで訓練期の話です」
「私はその時の情報だけでも構わないと思います」
「……その根拠はなんですか?」
「今の私がそうだからです。お兄様と過ごした時間はリーリアさんとは全く違いますが、私はお兄様をよく知っています」
俺の個人的な情報などと言うものは共に過ごしていくうちに自然と身に付くものだ。
アイリスの言うようにそこまで気にする必要ではないのかもしれない。それに、俺自身そこまで従者に仕事を押し付けることはしないわけだからな。
自分のことはある程度自分でできる。
「わかりました。個人的なことは時間が解決すると考えます。ですが大きな問題があります」
「なんですか?」
「彼女たちが本当に戦闘の補佐になるのかと言う問題です」
「十分に実力はあると思うがな」
「戦闘技術と言うものは実際に戦ってみなければわかりません」
「……では、私が相手をしましょう」
そう言ってアイリスが彼女たちの実力を確かめようとする。
彼女なら十分に相手の実力を測ることができるだろう。
ただ、彼女たちの言動からアイリスのことを知っている様子でもあった。それでは公平な戦いができないのではないだろうか。
俺としては十分に戦闘の補佐ができるほどの実力はあると思っているが、俺だけの意見ではリーリアも納得できないか。
「いや、リーリアが直接戦って確かめるべきだろう」
「私がですか?」
「ああ、その方が公平な勝負ができるはずだ」
「わかりました」
俺の考えでは、一対一の場合だとリーリアが負けると考えている。
それは魔剣の能力を使ったとしてもだ。
リーリアの能力がうまく働いたとしても互角ぐらいだろう。
それほどにあのスティパトール部隊と言うのは高い実力を持っているのだ。
聖剣などを持たずに魔族に匹敵する力を持つと言われているような人を倒したのだからな。
石を体内に宿している人間としてナリアが挙げられるが、彼女も相当な実力を発揮し始めている。
ただ、彼女の場合は心石なのだろう。
その上位種とも言える鬼石を持つものとなればかなりの能力を持っていることになる。
犠牲はあったのかもしれないが、それでもこうして生き残り俺と会うことができているのだ。
「お兄様、本当に宜しいのでしょうか?」
当然ながら、アイリスもそのことについて危惧しているのだろう。
リーリアが負けるようであればまともに実力を測ることができない。ただ、俺としてはそれ以外のことを考えている。
スティパトール部隊がどのような訓練を受けてきたのか、それをこの目で確かめることができるからな。
「少なくとも彼女たちの戦い方には興味があるからな。少しでも確認できれば十分だ」
「リーリアさんと戦わせることでその戦い方を確かめるのですか」
「そうだな。リーリアには少し悪いと思うのだが……」
「私は構いません。少しでもエレイン様のお役に立てるのならなんでもします」
リーリアがもし勝ち負けに固執するような人であれば、この作戦は受け付けなかったのかもしれないが、どうやらその心配はいらないようだ。
ともかく、俺としてはメフィナたちの実力がどの程度のものなのか知りたいからな。
◆◆◆
私、メフィナは牢屋の中でエレイン様たちが戻ってくるのを待っていた。
すぐに解放されるかと思ったが、少しばかり話し合いをしてからのようだ。確かに得体の知れない私たちがそう簡単に剣聖の側に立てるわけもない。
もし立てるのだとしても、自分たちの実力を証明できなければいけないはずだ。
ただ、そのような瞬間があるのかどうかはわからない。
「エレイン様、遅いわね」
「私たちのことを考えてくれてるからね」
「……私としてはこのまますぐに受け入れてくれるとは思えない」
すると、そうテラネアが呟くように言った。
そのことに関しては私も同じような意見ではある。ただ、少しでもことがうまく運べるのだとしたら、可能性は全くないわけではない。
とはいえ、自分たちの実力を証明できない限りは困難を極めることになりそうだ。
それからしばらくすると、再び鉄扉が開く音が聞こえた。
どうやらエレイン様たちが戻ってきたようだ。
「待たせてしまって悪い」
「いえ、私たちはいつまでも待ちます」
「メフィナだったな。俺の補佐として側にいたいのは本心なのか?」
「はいっ、私はそのために今まで生きてきたのです。そして、それが私の使命であると認識しています」
「……テラネアも同じ意見なのか?」
「私も同じです」
私の意見と同じく、テラネアもそう強く言った。
エレイン様やアレク様の従者となるべく私たちは訓練されてきた。そのための教育も受けてきた。
それは私たちが帝国の教育によって洗脳されているわけではない。
私はこの魔族が蔓延り、人間が虐げられるだけの今の世界が大きく変わると確信している。
だからこそ、私の力がエレイン様や彼の仲間のためになるのなら全力でそれを捧げたい。
この世界が魔族と言う恐怖から解放したいのだ。
「なら、リーリアと戦ってもらおうか」
「その人と、ですか?」
すると、エレイン様からそのように指示された。
私としてはそれを拒否する権利などないわけだけれど、少し気になる点がある。
「ああ、問題はあるか?」
「私たちとしては特にありません。ですが、見たところ聖剣などを持っている様子です」
「そうだな。彼女の場合は魔剣だが、それを相手に戦ってもらう」
「……わかりました。それなら問題ありません」
エレイン様がどのような意図でこの指示をしたのかは詳しくはわからないが、おそらく私たちの実力を測るためにそう言ったのだろう。
私としても実力を証明したいために思ってもいない機会ではある。
と言うことは、エレイン様も私たちが従事することに賛成なのだろうか。
「一対一の対面戦闘形式だ。相手を無力化することだけを考えろ」
「「はいっ」」
私たちがそう返事をすると、エレイン様が牢屋の鍵を開けてくれた。
それから私たちはエレイン様たちに案内され、城の中庭へと連れて行かれる。
少し離れたところからアレク様も見てくれているようだ。
そして、彼の横に立っているのがおそらくミリシア様なのだろう。他にも聖騎士団の制服を着た人が何人かいるが、そのすべてが私たちの力を知るために来ているようだ。
ここで力を証明できなければ、エレイン様の従くことはできない。
私たちの相手となるのはリーリアと言うエレイン様のメイドだ。
体の動きからして、剣の心得があるのはわかるがどの程度の実力なのかは今のところわからない。
それに彼女は魔剣を使って攻撃してくるようだ。
対して私は渡された訓練用の鉄剣だけだ。
普通の勝負であれば、負けてしまうのは目に見えている。
「誰から始めようか」
エレイン様が誰から先にするのかを聞いてきた。
すると、テラネアが小さく私に耳打ちする。
「メフィナはこう言うの得意でしょ」
「……じゃ私から行くね」
そう私が小さく言うと彼女は頷いてそれを承諾した。
確かに対面戦闘は私の得意な分野のものではある。
ただ、それを言ってはテラネアも似たようなものだ。相手の癖を見抜く能力は使えるはずだろう。
とはいえ、私が先に戦うことでリーリアの癖がわかるのならそれに越したことはないか。
「私が行きます」
「メフィナだな。直剣でよかったか?」
「はい。私の好きな形状です」
とは言うものの、それはエレイン様の影響であって、私自身が訓練を続けて得意となったわけではないのだけれど。
私は刃のない鉄剣を手に取り、中庭の中央へと歩いていく。
それに続くようにして後ろからリーリアも歩いてくる。
その様子は非常に美しく、洗練された動きのように見える。
しかし、なぜだろうか。
彼女からは私の動きと似た印象を受ける。
もしかすると、彼女もまたエレイン様の技を真似ているのだろうか。
おそらくその答えは彼女と戦うことで見えてくるはずだ。
「では、始めましょうか」
「はい」
そう言ってリーリアは双剣を構えて私の方を向く。
私もそれに合わせて構えることにした。
こんにちは、結坂有です。
ついにスティパトールとしての実力を発揮する場面が来ましたね。
これで彼女たちがどのような実力を持っているのか、そしてエレインの横に立てるだけの器があるのかわかります。
彼女たちの戦い、気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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