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従者との出会い

 それから俺はアイリスに案内され、牢屋の方へと向かった。

 城の地下にある牢とはまた別の場所で、かつては奴隷などがここで監禁されていたらしい。

 ただ、その制度に関しては今の王国になってからはないとラフィンは言っていた。

 俺としても奴隷として人を使うと言うのはどうも古いように感じる。

 エルラトラムに親しい国であればそのような奴隷制度はないらしい。そもそも聖剣取引の条件の一つとして挙げられているからだ。

 確かに聖剣を人殺しの道具として扱わないようにするにはそのような制度がある国に聖剣を送らないと言うのは納得できる理由だろう。

 そんなことを考えていると目の前を歩いているアイリスが話しかけてくる。


「お兄様、アレクさんはミリシアさんと相談しに向かいました」

「なるほど、確かにセルバン帝国の生き残りだからな」

「はい。私も帝国の話は何度か聞いたことがあります」


 関係の薄い帝国ではあったが、マリセル共和国とは古くから交流があったそうだ。

 その多くは技術的な交流が主だったらしいが、その詳しいことまでは今となってはわからない。

 それに共和国議会もかなりの秘密主義らしい。国交に関わる情報に関しては必要最低限度だけでそれ以上のことは全くの不透明だ。

 それでも共和国が一つの国として成り立っているのはやはり安定した政治と自由な生活が保障されているからだ。

 そういえば、アイリスたちを指導していたファデリードと言う人物が帝国と少しは関わりがあったらしい。


「ファデリードだったな。何か知っていたのかもしれないが、今となってはわからない」

「そうですね。私ももっと知るべきだったのでしょう」


 帝国と関係のない彼女がそこまで知る必要はないとはいえ、今後の鍵となるのであれば知りたいと思うのは自然なことか。


「……この先にいます」


 そう言って鉄扉を開けると、じめっとした空気が一気に流れ込んでくる。

 この空気感は地下牢とはまた違った嫌なものだ。

 安全のためとはいえ、このような場所に長時間閉じ込めておくのはあまり良くはないだろうな。

 それから通路をしばらく歩いて一番奥の方へと進んでいく。

 道中、どれも牢は開けられていたが、一つだけ閉じられているところへと歩いていく。

 そこには二人の少女がいた。

 年齢は十八歳程度だろうか。ミリシアやアレクと同じ年齢なのだろう。


「……っ!」


 俺を見るなり二人は目を見開いて驚いた。


「俺がエレインだ。セルバン帝国の生き残りだと聞いた」

「はいっ、私たちは帝国により特殊な訓練を積んだ特務部隊、スティパトールのメフィナ・クルベスタントと言います」

「同じく、スティパトール部隊のテラネア・レニアニスと言います」


 くすんだ前下がりの銀髪に東雲色の美しい瞳を持つ少女がメフィナ、薄い淡紫の髪に透き通る碧眼の少女がテラネアと言うらしい。

 訓練期のことを覚えているが、このような女性は見たことがない。

 おそらくは俺とは違った場所で訓練をしていたのだろう。

 もしくは、全く別の施設なのかもしれないが。

 とにかく、彼女たちがセルバン帝国の人間で、俺たちのことを詳しく知っているのならその情報を一つ一つ聞いていくべきだろうな。


「……特殊な訓練を積んだと言ったな。具体的にはどのような訓練なんだ?」

「戦闘訓練はもちろんですが、基本的にはエレイン様と同じようなことをしてきました。一番厳しかったと記憶しているのは機動人形との戦闘です」


 メフィナがそう思い出すように戦闘訓練のことを話す。

 そういえば、そのような訓練もあったな。

 俺の場合は持久戦を強いられたが、ミリシアとアレクは十五体程度の訓練だった気がする。

 そもそもあの訓練は特殊な環境でなければできないようなものだ。

 ユウナの話にもそう何体も相手はしなかったと言っていた。

 十数体以上の人形を同時に飛び回らせる環境と言うのはあの帝国ですら多く作れなかったのだ。

 当然ながら、彼女たちも俺たちと同じように貴重な人材として育成されたに違いない。


「……テラネアの方は何かあるか?」

「私は、やはり感覚遮断の訓練だと思います。あとは敵情把握の訓練ですね」

「思い返せば、私も感覚遮断の訓練は難しかったと思います。体がなくなったような感覚ですよね」

「感覚遮断か。あのような訓練ができるのは帝国だけだそうだ」

「私たちもそのように聞いています」


 アイリスも似たようなことをしたと聞いたが、詳しく聞いてみると俺たちのそれとはまた違ったものだ。

 彼女の場合、麻痺毒を応用したものを使って訓練をしたようだ。

 ただ、俺たちの場合はそのような麻痺とは全く違う感覚だ。いや、体そのものが失ったかのような感覚ですらある。

 メフィナの言ったように首から下が一瞬にしてなくなったような、それでも実際に体が動いている。

 奇妙な感覚ではあったが、慣れればそう難しいものではない。

 もちろん、その訓練では最終的に視覚や聴覚すらも完全に塞いで一対一の戦闘訓練をすると言ったものだ。

 相手の攻撃を完全に予測して戦う必要がある。

 俺の場合、その状態で機動人形との戦闘を行ったことがあるが、最高成績を出せたものの人形を全滅させることはできなかった。


「他にはなかったか?」

「私たちは戦闘訓練ももちろん高い成績を残す必要がありましたが、それだけではありません。私たちはエレイン様の従者になるべく教育も受けました」

「教育?」

「はい。エレイン様は神の力を内に宿しているため、それに起因する弱点があります。それを補佐するのが私たちの役目でございます」


 メフィナに続いて、テラネアがそう説明する。

 そんな彼女たちの発言を聞いて横に立っていたリーリアが一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに緩めて平静を装う。

 何が彼女を警戒させたのかはわからないが、とりあえず話の続きを聞いてみることにしよう。


「弱点か。それはなんだ」

「エレイン様の大きな欠点は疲弊です。特殊な能力で人より多くの体力を消耗してしまうのです」

「なるほど、だがそれは今のところ問題はない」

「いいえ、あるのですよ。疲弊した分、エレイン様は技術で補おうとする。その際、脳に大きな負荷が掛かっているのですっ」


 メフィナがそう言葉を強めて言った。

 確かにそれは事実でもある。

 もちろん、俺も限度はわかっているから加減はできているつもりだ。

 ただ、そう全てが想定通りに物事が動くわけでもない。

 意図的に残していた余力を全て使い切ってしまうことだってこの先あるかもしれない。

 その時に彼女たちスティパトール部隊がサポートしてくれるそうだ。


「他にも仲間がいるのか?」

「はい。今は作戦行動中なので全員が王国に来ているわけではありません」

「そうか」


 すると、リーリアが一歩踏み出して先ほどまで疑問に思っていたであろうことを質問する。


「エレイン様がエルラトラムに保護された時、どうしてあなたたちも来なかったのでしょうか」

「……」

「俺のメイドだ。その質問に答えてほしい」

「わかりました。エルラトラムには一度侵入しました。ただ、そこで問題があったのです」

「鬼石と呼ばれる体内で生成される特殊な石を持つ人がいたので、それの対処をしていました」


 体内で生成される石か。

 確かにそれと同じものを見たことがある。

 体内に石を持っているナリアやリルフィと言った存在がそうなのだろうか。

 すると、リーリアが続けて質問をする。


「そのような石を持っている人間がいることも私たちは把握しています。ですが、大きな問題となるような存在ではありませんでした」

「あなたたちの言っている石は心石ではありませんか? 心石と鬼石は違います」

「元来、鬼石を持つ者が心石を持つ者を使役していました。ごく稀に心石が進化して鬼石になることもありますが」

「……その鬼石だと何が問題なのですか?」

「鬼石や心石は神の力によって生成されたのです。そして、鬼石はより強力な力を持っています。なので、同じく神の力を持っているエレイン様と共鳴してしまうと考えたのです」


 力と力の共鳴、にわかには信じられないことだが、神の力自体超常的なものなのだ。今更不思議がることでもない。

 共鳴と言えば、俺と剣神とが戦った時はそのようなものは感じなかった。

 そもそも、剣神は俺に対して神の力をほとんど使わなかった。

 いや、リーリアやミリシアの話からして俺は一度神の攻撃を受けた。

 とは言え、その時の記憶はない。

 それにリーリアの話では、天界に向かったあと俺はすぐに起きなかったと言っていた。

 そのことが共鳴による影響なのかどうかはわからないが、気を失うと言うのなら少なくとも悪いことではある。彼女たちの判断は間違っていなかったのかもしれない。


「それに、エレイン様には正しい方法で力を発現するべきだと帝国は考えていました。私たちはそのためのサポートをしていたのです」

「それで主人である本人に接触をしなかったのですか」

「私たちの存在を知ってしまっては私たちの問題を解決するためにその力をお使いになられるはずです」

「そこでエレイン様が力に目覚めるまでの間、自分たちの問題は自分たちで解決することにしたのです」


 確かに彼女たちの存在を知っていたのなら、彼女たちの抱える問題を解決するために動いていたのかもしれないな。

 その鬼石と言うものは俺も知らないもののため何も言えないのだが、少なくとも俺のために影で動いていたと言うのは事実だろう。

 今までの経緯からして妙なことはいくつもあったのだからな。


「俺が神の力を使ったと言うのはどこで知ったんだ? 俺を監視していたようには思えないが」

「私は一度滅神の力を体感したことがあるのです。それと同じ力を感じたので力に目覚めたと判断しました」


 そう自信満々にメフィナがそう言う。

 彼女の言うように神の力と言うのは独特な気配と言うものがある。

 それは天界に言った時に感じた妙な感覚と同じものだろう。

 どうやら彼女はそのような力に関して敏感なようだ。それなら俺たちを直接見ていなくとも感じ取れる。

 すると、リーリアが彼女たちに聞こえないよう耳打ちしてくる


「エレイン様、どう判断されるのですか?」

「……受け入れたいところだがな。敵意はないようだからな」

「確かにそうですが、危険ではございませんか」

「見たところ聖剣は持っていないようだ。警戒するほどの存在ではないだろう」


 彼女の存在を知った今、対面での勝負で彼女たちに負けることはない。

 そのことは彼女たちの体の動かし方を観察してわかったことだ。

 それに、敵意を見せていない時点で本気で俺の従者になろうとしているのは明白だ。

 帝国での話も間違ったことは言っていない。


「なら、俺と一緒に行動するか?」

「え?」

「従者になるべく訓練をしてきたのだろう。一緒に行動するのはおかしいか?」

「……私たちはエレイン様のために尽力する所存です。私たちにできることならたとえ殿備(しんがりぞな)えであろうとも構いません」


 流石にそのような役目を彼女たちに背負わせることはないだろうが、今後の様子を見てそのあたりのことは判断した方がいいか。

 少なくとも俺のために命をかけて動くと言うのは本当のようだ。

 ただ、それでも俺は疑問に思うことがある。

 彼女が俺のために動こうとするのは帝国の命令だからではないかと。

こんにちは、結坂有です。


ついにエレインと合流することのできたメフィナたちですが、パルルたちの動きも気になるところですね。

それにしても、彼女たちとエレインとの今後の関係にも期待です。

少しずつ広がっていく剣聖の仲間はどのようなものになっていくのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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