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牢屋にて主人を待つ

 敬愛すべき始祖を継ぐ一人、アレク様に案内され、私とテラネアは森の奥へと進んでいく。

 しばらくすると木々がなくなり、大きな建物が見えてきた。その建物はどこか宮殿のような印象すらもある。

 しかし、よく見てみるとそれは宮殿ではない。

 街の通りで見かけた王家の紋章が所々に彫られていることからここが王城であると言える。

 このような森の奥に隠すようにして建てられているため、ここがいわゆる隠れ城のような存在となっているのだろう。

 歴史を遡ってみても本城とは違った別の城を建てると言うのはよくある話のようだ。おそらくここもその一つと言える。


 その本城とは違うもう一つの城へと歩いていき、少し奥まった位置にある小さな建物へと向かう。

 どうやらここが牢屋となっている場所のようで、私たちはここで監禁された状態でエレイン様と謁見することになりそうだ。

 もちろんだが、そのような形であっても私はそれでもいい。テラネアは少し不満そうな表情をしているものの、彼の安全を第一に考えれば正しい判断とも言える。

 どこの誰かもわからないような私たちが自らを証明できるわけでもない。


「とりあえず、ここにしばらく滞在してほしいんだ」

「……わかりました」


 人生で初めての牢屋に入ったわけだが、別に何か悪いことをして捕まったわけでもない。

 ただエレイン様との謁見を安全なものにするための処置だとはわかっている。

 ただ、それでもこうした場所に閉じ込められると言うのは、どこか自分が悪いことをしたのだと錯覚させるものがある。

 牢屋で自分がたとえ冤罪だったとしても長期間このような場所にいては罪の意識も自然と芽生え始めてしまうのも頷ける。

 私たちを牢屋に入れ、念の為鍵を閉めたあとアレク様とアイリス様は牢屋を離れた。


「本当に会えるのかな」

「不安になったところで仕方ない。でも、ここにエレイン様がおられるのは間違いなさそう」

「まぁそうだけどね」

「それにしても、アレク様から妙な力を感じたわね」


 すると、テラネアは近くのベンチへと腰掛けるとそう小さく漏らすように彼の印象を話し始めた。

 そのことに関しては私も思っていたことだ。

 彼女もその妙な力は感じていたようで、私の勘違いや錯覚ではなかったようだ。


「うん。始祖を継ぐ者の力はすごいみたい」

「帝国には何人もその始祖を継ぐ者はいたけれど、中でも特異検体であるあの人たちはやっぱり違うのね」

「資料の文面だけだとわからないことばかりだね」


 始祖の発現計画に関しては私も知らないことが多い。

 そもそも、アレク様やミリシア様は他の候補生と変わらない訓練方法で幼少を過ごしてきた。

 それにも関わらずなぜ力の片鱗を発現させたのか、そしてどのような方法でその力が変化したのかも私は知らない。

 当然ながら、他の部隊の人も詳しいことはわからない。

 私たちの愚推ではあるものの、おそらくは彼らの力は自然発生的なものではなくて長い時代を経てその能力が濃縮していったものだと考えている。

 始祖の血筋として、世代を何度も越えていくにあたりその濃さと言う者は薄れていくものだ。

 しかし、彼らはそうならなかったのだろう。

 エレイン様やレイ様は特殊なため除くものの、アレク様、ミリシア様に関してはその始祖としての血が再び蘇ったのだろうと考えているのだ。

 実際のところ、私たちがその真相を知ることはできないし、知ったところで今の現状が大きく変わることでもない。


「ミリシア様と会うことができればそれも変わるのかな」

「おそらくだけどね」

「ただ、このまま私たちどうなっちゃうんだろう」

「どうなるって?」

「そのままの意味、仕方ないとは言え牢屋に閉じ込められちゃったわけだし」


 正直なところ、無事にエレイン様と会うことができたとしてもそこからの展開がどのようなものになるのかは全くわからないままだ。

 そうは言っても現状は変わることはない。結局のところ成り行きに身を任せることになるのは明白のようだ。


「成り行きに任せるしかなさそう。だってこの城、変な気配するから」

「え? 何も感じないけれど」

「重たい気配とでも言うのかしら。ちょっと近寄りたくない感じの」

「うーん、この城があまりにも厳ついから?」

「そうじゃないわよ。なんて言うのかな。生物とは違うような何か?」


 テラネアがそう言うのならきっとそうなのかもしれない。

 私は気配にそこまで敏感と言うわけでもないし、彼女の感じるそれが何なのかはわからない。

 それでも彼女が嘘を吐いている感じでもないため、おそらく何かの気配を感じているのは事実のようだ。

 牢屋に閉じ込められている以上、それを確認することはできない。


「まぁここで考えたところで仕方ないし、とりあえず私たちは待つしかなさそう」

「ええ、そうね」


 そんな妙な気配のことを私たちは考えることはせず、そのままエレイン様がここに来るのを待つことにした。


   ◆◆◆


 俺、エレインは自室でリーリアと今後の話をしていた。

 魔族の大軍がドルタナ王国に攻撃を仕掛けようとしているのは事実だが、その大軍と言うものが周りから見つかったと言う報告は今のところない。

 加えて、エルラトラム議会からこの国に対しての援軍はできないそうだ。

 それもそのはずで、魔族から奪還した領土の安全確保に手間取っているからだ。

 そのことに関してはアドリスもわかっていたことのようだが、アレイシアからの返答としてはなるべく援軍を送りたいとのことだ。

 すぐには難しいものの、検討してくれるだけでも俺たちとしては十分だ。

 もし緊急事態となれば、議会はすぐにでも動いてくれることだろう。


「リーリア、もし今の状況で俺を倒すとすればどうする?」

「私の考えですか?」

「ああ、俺一人の推測では限界があるからな。他の人の意見も聞いてみたい」

「私としてはエレイン様を倒すなどとあまり考えたくありませんが……そうですね」


 そう言って彼女は少しだけ考え始める。

 俺たちは今、どうするべきなのかと言った選択を迫られているのだろうと考えている。

 魔族の状況など俺たちからすれば知りようのないことではあるが、得られた断片的な情報で推測することはできる。

 今考えられる可能性として、魔族自身の戦力の増強が挙げられるだろう。

 先の戦い、俺とアイリスだけでかなりの魔族を倒すことができた。

 もちろん、上位種の魔族にそこまで大きな被害を与えられなかったのはいいとして、頭数としてはかなり減らすことができたのは事実だ。

 そのことからも彼ら魔族は戦力を増強するためにも下位種の魔族を補給しに向かったのではないだろうか。

 それに、ルージュの話からして下位種の魔族は壁としての役割の他、上位種の力の糧にもなるそうだ。

 俺に対して執着しているアロットからすれば、今持てる最大の力で俺に挑もうとするはず。

 それなら考えられるは戦力の増強と言える。


「……私の意見ですが、エレイン様を直接攻撃するのは避けると思います」

「戦力の増強をしてもか?」

「はい。私であれば正面衝突はなるべく避けます。魔族側の能力がどのようなものかはわかりませんが、ルージュさんの話から推測するに、おそらく幻影などを使った攻撃となるのでしょう」

「なるほど」


 リーリアなら魔族自身の持つ能力の一つ幻影を使って上手く戦術を立てて俺を倒そうとするようだ。

 その考えも別に間違いではないのだろう。

 俺としては正面衝突を仕掛けてくると考えていた。

 俺を倒すことができなくとも、王国に甚大な被害を与えることができるからだ。

 そもそも彼女の目的が俺を倒すことなのか、王国を乗っ取ることなのかわからない。

 たとえその両方だったとしても優先すべきものがあるはずだ。

 被害を与えることに視点を置いた俺の考えでは正面衝突を、俺を倒すことだけに視点を置いたのなら集中的に攻撃することになる。

 どちらも考えられる事態ではあるものの、どちらも対処しようとすれば魔族側に見抜かれてしまうだろう。


「私としては、そう考えます。ただ、これでも欠点があります」

「なんだ」

「やはりエレイン様へと攻撃を集中させたとしてもいずれは負けてしまうと言うことです」

「そうかもしれないな」


 結局のところ、この国には中隊規模の聖騎士団が存在している。加えて小さき盾のアレクやミリシアもいることだ。

 その状況で俺を仮に倒せたとしても、俺との戦いで消耗した彼ら魔族はその聖騎士団の手によって駆逐される。

 少なくともミリシアならそのための戦略を立てることも可能だろう。


「アロットと言う魔族がどのような存在なのか、その性格も加味しなければいけません。対策を考えるのはもう少し情報を引き出す必要があります」


 そう冷静に彼女が自分の意見を締め括ると小さく息を吐いて、テーブルに置かれた紅茶を口にする。

 今の状況で俺たちができることは限られるわけだ。

 それよりも考えるべきはジティーラの力をどうにかして俺と同期させることだ。

 可能なのであれば、今の状況を打破することに繋がるのかもしれないが、しばらくは状況の確認に時間をかけるべきだ。

 そんなことを話していると、扉をノックする音が聞こえた。


「お兄様、少しよろしいでしょうか」

「ああ、どうした」


 そう言って扉を開けたのはアイリスだった。

 彼女は確か、妙な動きがあると言って城の周りを警戒していたのだが、何かあったのだろうか。


「城の周りを警戒していたところ、二人の女性を発見しました。彼女たちはセルバン帝国の生き残りだと言ってお兄様と会いたいのだそうです」

「帝国の生き残り、本当なのですか?」

「はい。アレク様も確認されましたが、どうやら事実のようです」


 アレクが納得するほどの情報を持っていたと言うことなのだろうか。

 それにしても、あのような状況で生き残りがいたとは到底考えられないが、会ってみる価値はありそうだ。


「会ってみようか。どのようなことを言っていたんだ?」

「始祖の発現計画について知っている様子でした。私は知らないですが……」


 アイリスの言葉にリーリアが口を隠して驚く。

 その計画に関しては俺も聞いたことがあるものだ。

 最近の話では、ブラドが帝国の資料から解読した書類に書かれていたようだ。

 当然ながら、計画を知っているのは帝国の人間でもそれなりの地位にいた人物であると言えるだろう。

 あの帝国の人間であっても俺たちの訓練を知る人はそこまで多くはいないはずだ。


「そのことは事実なのでしょうか」

「はい。一度会ってみるべきだと私は思います」

「……わかった。行ってみようか」


 俺を知る人物がどのような人なのかは全くわからないが、少しでも俺たちの知らない情報を知っているのだとすればそれは聞くべきことだろう。

 あの帝国がどこまで俺の力を調べていたのか、もし神の力を知っているのだとすれば何かのヒントになるかもしれない。

 ジティーラの力を上手く扱えるようになる可能性もある。

 その帝国の生き残りとやらに期待してみるか。

こんにちは、結坂有です。


メフィナたちは牢屋とはなりますが、エレインと話をするそうです。

彼女たちの正体が気になるところですね。一体何者なのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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