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謁見の牢屋へ

 背後から声をかけられた私たちはすぐに警戒態勢に入る。

 とは言え、私たちが侵入者なのには代わりない。ここは冷静な対処が求められるだろう。

 それに彼女から妙な力すらも感じる。おそらくそれは聖剣を持っているためだとも言える。

 ただ、それとはまた違った特別な力のようなものも感じるが、人間である私にはその判別は難しい。


「森に迷っただけ」


 すると、テラネアがそう彼女の問いに返した。

 彼女の言うようにただ単に森に迷い込んだだけなのだとしたら、見逃してくれるかもしれない。

 そこで一つ問題なのが、彼女が一体どこから私たちのことを見ていたのかだ。

 この森に入る直前から見ていたのならその言い訳は通用しない。


「……道を調べた上でここに入ったと言うことは知っています」


 どうやら黒髪の彼女は私たちがここに入ってくる直前から私たちを見ていたことになる。

 とは言え、それはおかしな話だ。

 私たちは周囲を警戒しながら藪を進んできた。微かな物音すらも聞き逃さないよう慎重に進んできた。


「物音を立てずに私たちを追うことはできないはず」

「音を立てずともあなたたちの動きは把握することができます」


 聖剣の力を使っていたとすれば、そのことは可能なのかもしれない。さらには魔剣と呼ばれるものを持っているとも考えられる。

 エルラトラムはその魔剣のリストを公表しようとはしていないが、今までの歴史を考えると非常に多くの魔剣を持っているのだろう。

 そもそもあの国は聖剣などに関することは帝国にも匹敵するほどの秘密主義を今まで貫き通している。帝国を欺くほど巧妙に隠されていると聞いたことがある。


「テラネア、ここは下手に動かない方がいいと思う」

「……ええ、武器を捨てて降伏する?」

「一旦はその方がいいかも」

「何を話しているのですか?」


 そんな私たちの会話を不審に思ったのか黒髪の彼女がそう質問してきた。


「武器を捨てるわ。それでいい?」

「何が目的なのですか」

「え?」

「あなたたちはこの場で抵抗するだけの力を持っているはずです。あえてこの場で捕まると言う作戦でしょうか」


 この黒髪の彼女は非常に鋭い目をしている。

 私たちが一瞬見せた警戒態勢から実力を見抜いたのだろう。

 そもそもここに入る前、戦闘が起きてもいいようにと武器の留め具を外していた。そこまで見ていたのだとしたら、自然と私たちが抵抗すると彼女は考えていたはずだ。


「そんなことは特に考えていない。それでも不審に思うのなら見逃してくれる?」

「……」

「そもそも私たちは危害を与えるつもりなんてないの」


 そう言ってみるが、黒髪の彼女はそう簡単に説得できそうにない。

 当然と言えば当然だ。私たちが侵入者であって、彼女はこの先にある何かを守るための人間なのだから。


「どうしたのかな。アイリス」


 すると、少し離れたところから男の人の声が聞こえてきた。

 その声の方を向くとどこか落ち着いた様子の男性が一人歩いてきた。


「アレクさん、不審な人を見かけたので呼んだのです」

「不審な人、ね」

「っ!」


 そうアレクと呼ばれている人が私たちの方を向いた瞬間、一気に体が硬直する感覚に見舞われる。

 それは彼の力というわけではなく、単純に彼がエレイン様の仲間であるからだ。

 そして、アイリスと言う名前も聞いたことがある。

 セルバン帝国の次期皇帝の名前だ。女帝だと言われていたが、その詳細は明かされていなかった。

 それもそのはず、その次期皇帝が即位する前に魔族が攻撃してきたからだ。

 次期皇帝の名前を公表したはいいものの、彼女が女帝として即位する前に別の国へと非難されたと聞いている。

 黒髪の彼女から漂う妙な力というのはその皇帝の血筋とも考えられるのだろうか。まだ確信しているわけではないが、本当に生きているとは未だ信じ難い。


「あ、あの人が?」


 すると、テラネアがそう小さく私に話しかけてくる。


「アレク様で間違いないね」

「……どうすればいい?」

「わからないわよ」


 私たちの方から接触しに行くつもりではあったが、まさかアレク様の方から来るとは思ってもいなかった。


「それで、ここに来た目的は何かな?」

「そ、それは……」


 エレイン様と会うつもりでここまで来たのだが、その予定も大きく崩れてしまった。

 とはいえ、アレク様がいるのならエレイン様も同じく一緒にいる可能性が高い。

 あれから長い年月が経っている。

 一度は離れてしまったものの、今は合流しているとも考える。


「正直に言いましょう。私たちはセルバン帝国の生き残りの部隊です」


 すると、横に立っていたテラネアがそう言うと帝国式の敬礼をする。

 私もそれに釣られるようにして敬礼する。


「……生き残り、あの帝国の」

「はい」

「にわかには信じ難いね。あの帝国が滅亡してからかなりの時間が経っているんだよ? 今更生き残りが現れるとも考えられない」

「それには事情がありました」

「事情?」

「私たちは始祖の発現計画の当事者であるあなた方の従者となるべく特別に訓練された部隊です。帝国の消失後、私たちはすぐにでもあなた方を追うためにエルラトラムに向かったのです」

「ただ、そこで大きな問題があって……その問題を解決するために今までお会いすることができませんでした」


 私がテラネアに続いてそのことを簡単に説明すると、アレクは少しばかり考え込む。

 もし彼の立場なのだとしたら、私でも不審に思ってしまう。

 帝国が消えてからかなりの時間が経ってしまった。それは私たちの落ち度でもあり、予想外の問題があったから。

 それによる不審な点はどうあがいても払拭することはできないのかもしれない。


「始祖の発現計画って言葉はどこかで聞いたことがあるね」

「アレク様は流然派の能力を引き継いだ特異検体です。そして、その力はエレイン様のものと同じ”抵抗なき防御”を会得しています」

「……どこでそのことを知ったのかな? それは僕とエレインの秘密の技術だよ」

「私はあなたたちの情報を多く知っています。それは訓練の情報を一部聞かされていたからです」


 私たちがそこまで彼の情報を言うと彼も流石に驚いた様子で考え始める。

 ここまで行ってしまったのだから今さから隠す必要もない。次はエレイン様に会いたいと直接行ってみることにしよう。


「アレクさん、どうしましたか?」

「彼女たちの言っていることは事実だね。あの国の人間なのだとしたら……」

「私たちは目的があってここに来ました。エレイン様と会うためです」

「エレインと?」

「はい」


 そう私とテラネアがまっすぐにアレクの目を見る。

 そこに大いなる決意と覚悟があると言うことを示すためだ。

 彼から漂う妙な力は流然派特有のものなのかもしれないが、そもそもその力は私たちでもよくわからないことが多い。

 そして、最も理解が難しいのが神の力を直接引き継いでいると言われているエレイン様のことだ。

 何年も勉強してきた私ですら、理解できていないのだから。


「君たちを信じたいけれどね。君たちが来る直前にちょっとしたことがあって、直接会うのは避けてほしいと言われているんだ」

「……」

「だから、牢屋で隔離した状態でなら会えるよ。僕がそう説得しよう」

「アレクさん、よろしいのですか?」

「あの帝国の生き残りなのは間違いなさそうだよ。だからこそ、エレインに会わせてみないといけない。前の時とは違うからね」


 私たちが来る前に何があったのかはわからないが、どうやら会えるようアレク様が計らってくれるそうだ。


「じゃ、このまま僕が案内するよ」

「私は後ろから見張っておきます」


 そう言ってアレク様が先導して、私たちの背後をアイリス様が監視すると言った形で森の奥へと進んでいくこととなった。

 牢屋に向かうと言うのに、なぜか私の心は高揚していた。

 それはおそらく横を歩いているテラネアもきっと同じなのだろう。

こんにちは、結坂有です。


エレインに会うために森にやってきたメフィスたちですが、どうやらアレクの案内で彼と会うことができそうですね。

果たしてどのような展開になるのでしょうか。

そして隠された真実が少しでも明かされるのでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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