怪しい森へ
翌朝、私は宿の中で準備を整えていた。
その準備と言うのは私の主人となるエレイン様に会うためのものだ。
もちろんだが、そのための準備は今までずっとしてきた。そもそも私が帝国で将来エレイン様に従くための訓練や教育も受けてきたのだ。
私の知識や技術で少しでも彼の手助けとなれるのならそれは本望だ。
とはいえ、彼らに従く際に少しでも容姿を整えておきたかったのだが、服装だけはどうしてもできなかった。
どのような好みがあるのかすらもわかっていなかったのだから仕方ないといえばそうだ。
ただ、それでも完全な状態で彼の前に立ちたいと思うのは誰もが思うことだろう。
それは隣の部屋にいるテラネアやエレイン様の力に少し懐疑的な視点を向けているレナリスも同じような思いだ。
彼や彼の仲間の成績や情報を知っているだけでも彼らがどれだけ異常な存在なのかは誰もがわかる。そんな彼らと共に世界を歩みたいと思うのは自然とも言える。
幸い私たちにはそれぞれ才がある。
もちろん、私自身もそうだ。単純な剣技だけでなら部隊の誰にも負けない自信があるのだから。
「メフィア、そろそろ行くの?」
準備を整えていると部屋をノックしてそう話しかけてきた。
声の主はどうやらテラネアのようだ。
「そのつもりよ。もう少し明るくなってから出発しようと思ってて」
「そう、私も一緒に行きたい」
「え? ……ちょっと待ってて、すぐと開けるから」
彼女のその言葉に私は少しだけ驚いた。
とりあえず、私は扉を開いて彼女を部屋に入れることにした。
「行きたいの?」
「準備は私もしてたこと。いつでも大丈夫だから」
彼女も私と同じくエレイン様の従者として教育を受けてきた人だ。そして、彼女の持つ剣術はエレイン様との相性も非常に良いとも言える。
何よりも技術的にも素晴らしいものだ。
様々な点で考えても彼女とエレイン様との相性は良好だ。
ただ、そんな彼女でも彼に関しての教育はそこまで受けていない。そのことは彼女もよくわかっていることだ。
「……私としてはパルルの計画も支援したい考えなの。それはわかってる?」
「ええ、彼女はエレイン様のために様々なことをしてきました。おそらく宝剣のことに関しても彼のためなのだろうと思ってる」
「なら、そっちの方に集中してほしいなって」
「私はあなたとは違って彼の新しい情報を知っている。だから私も一緒に行くことができれば助けになれるはず」
確かに私の知らない情報を知っているのならすぐにでもエレイン様にお会いできるかもしれない。
ただ、私もそれなりに彼の情報は知っているつもりだ。
「どんなことを知ってるの?」
「この国に一番早く来たのは私だから」
「つまりどう言うこと?」
「彼を連れてきたのは聖騎士団、その聖騎士団の動きを調べてた。そしたら、森の方に集団で向かうのを見たの」
その情報に関しては後からきた私たちが知りようのないものだ。
森の方へ向かったと言うのならおそらくそこに何かがあると言うことなのだろう。
エレイン様が聖騎士団と行動していると言うのなら同じくその森に何かがあるとも言える。
仮に彼本人がいなくとも、聖騎士団から彼の情報を得られる可能性もある。
「……森に向かったのは確かなの?」
「私がエレイン様を探すとすればまず森に向かう」
「わかった。じゃ一緒に行こっか」
「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」
「もう、わがままじゃないでしょ? 二人なら効率がいいと思って提案してきた、それでいいじゃん」
彼女がエレイン様のことになると性格が変わるのは昔から何も変わっていない。
もちろん、彼のところに行きたいと言うのは彼女のわがままから来ているのだろう。私自身もそうわかっている。
だけど、そんなことは小さなことだ。
私も彼女となんら変わりないのだから。
「そのことは他の人にも伝えておかないとね」
「ええ、そうね」
それからしばらくして、私の支度を終えるとすぐに他の人にテラネアも一緒に行くことを伝えた。
サリネは私たちのことをよく知っているため、彼女自身のわがままだと気付いた様子ではあったがそれでも許してくれた。
今回に関してはテラネア自身のわがままだけと言うわけではなく、森への案内役として必要なのだ。
「みんな、許してくれたね」
「……少し悪いことをした気分」
「何も悪くないでしょ? だって森への案内役なんだもん」
「それなら森を案内するだけで、私まで探す必要はなかったと思う」
「そんなことない。堂々としてればいいのに」
まだ控えめな性格は変わっていないらしい。
その辺りも今後は変わってくるのだろうか。もしかすると、エレイン様と会えば私も彼女も少しは変わるのだろうか。
変わるとすれば、どう変わるのだろうか。
今の性格が大きく変わってしまうのかもしれない。
ただ、それらの変化はいずれ起きることだし、人生と言う大きな目で見ればそこまで気にする必要のないことだ。
そんな小さな心配は気にするだけ無駄なのだ。
それからしばらく市場を歩き回り、目的地である森の方へと向かっていく。
道中聖騎士団の人とすれ違うことがあったが、やはり近くの森に彼らが集まっていると言うのは本当のようだ。
「道があるけれど、ここを通っていく?」
「ええ、どこかに繋がっているといいけれど」
とは言っても、市場に設置されていた地図にはこの先にあるのはただの空き地のようだ。その地図通りなのだとしたら、何もないことになるのだが、テラネアの情報では聖騎士団が拠点にしているらしい。
集団でここの森に来るのは普通に考えて不自然なことだ。それもこの国の関係者ではない聖騎士団ともなれば尚更だ。
しばらく森に敷かれた道を通ってみるが、普通のハイキングコースといった感じの林道となっている。
道中、走り込んでいる人が何人かいた。
この国では剣術競技が盛んだと言われている。そのためかトレーニングのためにこの林道を利用している人も多くいるのだろう。
道から外れた方へと視線を向けてみるが、特に変わった様子もない。
「……何か施設がある様子もないね」
「気のせい、だったのかしら」
「そんなことないと思うけど。だって集団でこの森に向かったんでしょ?」
「うん。変な動きをしてるから追ってみた」
であるのならこの森に何かがあるのは間違いない。
改めて地図を思い返してみる。
歩いてきた道と不自然な点がないか探してみることにした。
「あれ、距離が合わない?」
「え?」
「私たちがこの森に入ってから十五分ほど経ったよね? だけど、地図上では徒歩二十分ほどかかる予想なの」
私たちが森に入ってからこの地点に辿り着くまで十五分経っている。しかし、地図ではもう少し時間がかかる予定だった。
つまりはどこかで道が外れているか、道が変わっているかだ。
「あの地図が精確ではなかったと言うのは?」
「それを言っては意味ないじゃん。とりあえず、もう少し調べてみよっか」
「ええ、今度は道に注意しながら行きましょう」
彼女の言うように道を重点的に調べながら、注意して森を進んでいく。
ただ、不自然さはないもののやはり地図に書かれている様子と少しだけ違う。
偽装でもされているのだろうか。
「……この薮の向こうに道が進んでいないとおかしいよね」
「そうね。ここで不自然に道が曲がっているのは変だし」
道中、不自然に道が曲がっているところがあった。
もちろん、注意しなければ無視してしまいそうなものだ。
ただ、明らかにこの森に何かがあると言うのは間違いなさそうだ。
「この先に進んでみる?」
「ええ、念の為すぐに武器を出せるようにしてからね」
それから私たちは装備の留め具を外して、すぐに戦闘できるよう準備をしてからその薮の方へと進んでいく。
そして、しばらく歩いていくと何やら人工的に手入れされたような森林地帯となる。
「やっぱり何かあるね」
「じゃ、この先に……」
そう私たちが踏み出そうとした瞬間、視線の端で何やら影が揺れるような気がした。
それと同時に強烈な殺意が私の方へと向けられる。
「っ!」
咄嗟に剣を取り出し、振り返る。
「不審な人、何者ですか」
そこに立っていたのは黒髪の可愛らしい美少女がいた。
そんなことを考えている場合ではない。
テラネアもすぐに剣を取り出して、臨戦態勢になる。
やはりこの森には何かがあったようだ。
こんにちは、結坂有です。
ついにメフィアたちがエレインのいるところへと近づいてきたようですね。
しかし、その直前に何者かに止められてしまったようです。
彼女たちを止めたのは一体誰なのでしょうか。
そして彼女たちはどうなってしまうのでしょうか、気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。
TwitterやThreadsではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu
Threads→yuisakayu




