生き残りの部隊
私たちが出発してしばらく時間が経った。
レメネスとしては状況は全く変わっていないようで、いまだに誰かに見られながら私たちは目的地へと進んでいる。
この辺りは魔族がいないと聞いているが、私の感覚ではどこかに大軍が潜んでいると考えている。とはいえ、私たちに気付いている様子もなく、それほど気にする必要もなさそうだ。
ただ、私たちを監視している人間のことが気がかりだ。
このままドルタナ王国へと進んで行けば後々厄介なことになるのは間違いない。
早い段階で振り払う必要があるだろう。
そんなことを考えていると、不意に私の横でレメネスが大きなため息を吐いた。
「はぁ」
「どうかしましたか?」
「……いい加減に出てこいよ。その歩き方、忘れてねぇからよ」
そう大きな声で誰かに向けて言った。
その誰かと言うのはおそらくだが、今まで私たちを監視していた人に向けてだろう。
「さすがは撃天無双流の最終後継者です。いい耳をしていますね」
そう言って木陰から出てきたのは晴天を思わせるような髪を結った少女だ。
よく見てみると彼女は非常に独特な瞳をしている。一瞬光っているのかとも思ったが、どうやら違うようで明るい金色のようだ。
そんな彼女がゆっくりと、そして堂々と私たちの前に出てきた。
「サリネ、あんたは確か……」
「帝国の特務部隊として各地を転々としている者です」
どうやらレメネスとは知り合いのようだ。
と言うことはセルバン帝国の人間なのだろうか。
「あの時の女子部隊か。そんなあんたらが俺に何のようだ?」
「帝国が姿を消してから随分と時間が経ちました。私たちがするべきことは始祖たちの補佐です」
「……そんなことはわかってる。さっさと用件を言え」
彼の反応からして彼女とはそこまで長く話したいとは思っていないようだ。
その理由はよくわからないが、帝国では剣の流派が多くあったらしい。エルラトラムと違い、極少数の人間だけがその流派の技術を得ると言った形が主流のようだ。一子相伝とまでは言わないが、ほとんどそれに近い状態だったらしい。
そんな数ある中でも格の高い流派は互いに交流することもあるのだが、その関係性は良好なものもあれば険悪なものもあるそうだ。
「覚えていますよね。この石のことを」
そう言って彼女は小さなネックレスをぶら下げて彼に見せた。
それに埋め込まれた赤い宝石はどこかで見たことがあるものだ。
「そんな遺物のそれをどこで手に入れた?」
「これを探すために私たちは世界中を回っていたのです。これのために多くの仲間が犠牲になりましたが……」
「結局それをどうするつもりなんだ。今更全てを無かったことにでもするのか?」
「そんなことはしません。私たちの主人であるエレイン様に消していただくのです」
思い出した。
あの石は魔族の最上位が身に付けているものと同じだ。私よりも位が高い一部の魔族が持っている。領主となっている魔族がそうだ。
もともと天界で作られていたとされる石のようだが、神の力と同等の何かがあるようでその詳細は私も知らない。
そもそも私の知らないものを帝国がなぜ知っているのだろうか。どちらにしろ、あの帝国には底知れない何かがあるらしい。
「見たところ聖剣すら持っていないようだ。そんな石のために命をかけるとは無謀な作戦だ」
「いえ、これは魔族が持っていたわけではございません。とある人間が持っていたのです」
「……人間が?」
「あなたも気付いていたのではないですか? 人間にもこの石を持つものがいることを」
「完全体がいると言うことか」
「ええ、時が来たと言うことです。私たちの手ではもうどうすることもできません」
帝国は魔族によって滅ぼされる前に何かをしたとレメネスは言っていたが、そのことも秘密のままだった。
結局、何も知らないままに帝国を追い出されて今に至るわけだ。
もちろん、私も魔族のことに関しては詳しい方だ。実際に私は魔族の中でもかなり上位に位置していた。
機密の情報もいくつか持っていた。
ただ、そんな私でも神話の時代を生きていたと言うわけではない。
多くの魔族と同じく、私も神理崩壊後の存在だからだ。
私は神話時代のエレインに親しい存在だった神を喰らったわけだが、そのすべての記憶を引き継いでいるわけではない。
「予想はもっと遅かっただろう」
「私たちの主人であるエレイン様がエルラトラムに剣聖と認められたことで魔族も躍起になっているのでしょうね」
「チッ、どれだけの人間が殺されたんだかな」
「帝国の消滅後、私たちはすぐにエレイン様の元に向かう予定でしたが、この石を持った人間を見過ごすわけにはいかないと私たちは別行動しました」
この人も後にエレインと合流する予定だったようだ。
「早い段階でエレインと合流していれば、もっと楽だっただろう。あいつなら聖剣も持っていることだしな」
「それではいけなかったのです。共鳴の存在、忘れたとは言わせません」
「……あの小僧が覚醒するまではその石に近づくことができないってことか」
「同じ神の力、そもそも下界で存在するはずのないものです。私たちは帝国はエレイン様が覚醒するまでの間、彼に近づく石を持つ存在を近づけさせないことにしました」
「それで、守護の力を持つこの魔族を利用しようってか?」
と言うことは、共鳴によりエレインが暴走してしまわないよう私を利用すると言うことだろうか。
もちろん、私の力が万全であればそうしたいところではあるが、今の私は力をほとんど失ってしまっている状態だ。
そんな私に能力を全力で引き出すことはできない。
「違います。私たちはあなた方がエレイン様を探していると言うことで付いていけば次第に主人と会えると思ったからです」
「はっ、それはあんたらの勘違いだな。俺たちも別任務中だ」
「それはどう言う……」
「そんなはずないよっ」
すると、別の木陰からくすんだ銀色の髪をした少女が飛び出してきた。
「エレイン様に、エレイン様に会うためにドルタナ王国へ向かっているんでしょ?」
「宝剣を探しに向かう予定だ。勘違いすんな」
「いいえ、勘違いではありません。私たちの情報ではエレイン様はドルタナ王国に向かわれているようです」
「だってそのことは仲間の調査でわかってることだし」
「……そういや、お前ら他の仲間はどうした? 何十人もいたんじゃねぇのか?」
「半数近くが犠牲となってしまいました。ですが、私たちはエレイン様に知られるわけにもいかず、秘密裏に動いていました」
彼女たちの部隊はエレインに気づかれないように動かないといけなかったようだ。その理由としてはやはり、彼の性格を考えての行動なのだろう。
エレインであれば、帝国の人間の生き残りがまだ存在していて、そんな人たちが危機的な状況にあると知ればすぐにでも行動するからだ。
そうなっては彼は暴走してしまう可能性がある。ましてや神の力に目覚めていない状況であの石に近づくのは危険過ぎる。
「帝国の秘密主義の悪いところだな。あの小僧、今頃何も知らないで過ごしてるぞ」
「そうなのだと思います。ただ、それは悪いことではありません」
「だって、彼は彼の道があるの。正しい手順で力を得ないと意味がないから」
「神の力に目覚めているのかはともかく、エレインに会いに行くんだな?」
「……このような石を持つ人間はまだ他にもいるようです。魔族も含め、帝国の想定していた危険水準を大きく上回っていると予想されます」
このことは流石の帝国でも予想していなかったことのようだ。
それでどうすることもできなくなったために彼女たちは石を奪取し、エレインと合流することにしたのだろう。
想定外のことが起きたのだからそうせざるを得なかったようだ。
「じゃ俺たちと一緒に来るか?」
「はい。他の仲間は先にドルタナ王国へと向かっています」
「二人だけで行動してたのか?」
「石の損失は避けたかったのです」
「それを守るためにまた何人か犠牲にしたのか?」
「……仕方のない選択だったと思っています」
そういったサリネの表情は非常に険しいものだった。
どのような戦いがあったのかはわからないが、聖剣を持っていない彼女たちからすると魔族との戦いは壮絶なものだったに違いない。
こんにちは、結坂有です。
以前、レメネスが話していた女性だけの部隊がどうやら存続していたようですね。
それに今まで秘密裏に活動していたと言うのも驚きです。
帝国はエレインが神の力に覚醒すると踏んでいたようですが、一体彼らはどこまで計画していたのでしょうか。
セルバン帝国に関してはまだまだ謎が多いままですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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