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議会の役割

 議会の襲撃の後、俺は自分の家へと帰ることにした。

 早めに帰ることで何も聞かれずに済む上に、公正騎士であるリーリアがいないからだ。


 家の玄関を開けるとユレイナとアレイシアが心配そうに待っていてくれた。

 そして、玄関に足を踏み入れると同時にアレイシアが飛び付いてきた。


「エレイン!」

「どうした?」

「どうしたって、心配してたのよ」


 そういって俺の胸に顔を擦りつけるように抱きつく。


「そこまで心配されるとは思ってもいなかった。悪かったな」

「だって凄い闘気を漂わせながら走って行ったのよ? 怖かったんだからね」


 彼女は上目遣いで涙を浮かべながらそう言った。

 どうやら知らず知らずのうちに闘気を発していたようだ。


「そうよ。ただ事じゃないと思ったから私も同行したの」


 付け加えるように横に立っているセシルもそう言った。


「悪いな」

「とりあえず、朝食食べよ?」

「まだ食べていなかったのか」

「そうよ。やっぱりエレインと食べたいからね」


 そう言ってアレイシアは俺の腕を引っ張りながらリビングへと誘導した。

 その様子を見てユレイナは愉快そうに笑うのであった。


 リビングにはすでにリーリアが皿を並べているようで、俺が帰ってくるのを窓の外で確認していたようだな。


「ささ、早く食べよ」


 そう言ってアレイシアは俺が座りやすいように椅子を引いてくれた。

 嬉しいのだが、彼女は足が不自由だ。


「別にそこまでしなくていい」

「いいの。朝から疲れたでしょ? 遠慮しないの」


 お姉さんのように彼女は人差し指を立てた。


「……すまないな」

「アレイシア様、私もお手伝いします」

「エレイン様、どうぞお座りください」


 俺の背後にアレイシア、ユレイナ、リーリアの三人が背もたれを持ちながらそう言った。

 ここまでされては逆に座りにくい。


 俺は若干の座りにくさを感じつつもゆっくりと椅子に腰をかけ、テーブルに並べられた料理を見る。

 どうやら野菜が主体となっており、俺の疲れを癒すためか甘いものまで添えられている。


「エレイン様のお体のことを考えて、スタミナの回復する料理にいたしました」


 俺が料理を見ていると後ろから椅子を押してくれた一人のリーリアがそう説明を加えてくれた。

 見ているだけでほうれん草や人参などと言った緑黄色野菜が多く、疲労を軽減してくれるビタミンが取れる朝食となっているようだ。

 本来であれば、一日の終わりに食べると良いそうなのだが、まぁ別に問題ないだろう。


「ありがとう」

「いいじゃない。それだけ慕われてるってことなんだから」


 三人に椅子を押される俺をセシルはムスッとした表情で見つめている。


「怒っているのか?」

「エレイン様、セシルのような牝狐に構っている場合ではありませんよ」

「なっ、私だってパートナーなんだからいいでしょ?」


 セシルがそう反論すると、リーリアは鋭い目で彼女を見つめた。


「そうやってパートナーだからと言って、本当はエレインと一緒にいたいだけではありませんか」

「そ、そんなことないわよ。そういうリーリアだってエレインと一緒にいたいだけだよね?」

「ええ、そうです」


 セシルの質問に包み隠さず正直に答えたリーリアはどこか勝ち誇ったかのような表情を彼女に向ける。

 そして、セシルは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


「リーリア、正直過ぎよ」


 すると、アレイシアがそう言いながらユレイナに椅子を押してもらって座る。

 その仕草はどこかの王女のように気品に溢れているが、表情だけが頬を膨らませているためいつものアレイシアであった。


「エレイン様は正直なお方がお好きなようですから」

「「そうなの?」」


 セシルとアレイシアが同時に俺の方へと向く。


「全く、仲がいいのか悪いのか……」


 俺がそういうと二人はお互いに睨み合っていた。

 犬猿の仲と言うが、喧嘩するほど仲がいいとも言う。

 まぁ人間の関係というのは色々あるからな。別に気にする必要はないだろう。

 それから俺たちは栄養の多い緑黄色野菜が主体の朝食を食べるのであった。


   ◆◆◆


 私、クロノスは襲撃があった議会軍の基地の様子を見に来ていた。

 もちろん姿を消しながらである。

 エレインの防衛によって大事には至らなかったようで、死者はいない。


 今の議会軍にもう一度あのような襲撃があればすぐにでも陥落しそうだが、その心配はなさそうだ。

 元精霊の一体を無力化したため、しばらくの間は襲撃されることはない。

 この様子なら明後日にも戦力は回復することだろう。

 そう思いながら私は部屋の外に出ようとする。


「アレクの調子はどうだ」


 ある議員の一言で私は足を止めた。


「肋骨がかなり損傷を受けています。ですが、一週間もすれば完治するはずです」


 回復系の精霊を使えば問題なく治療できるに違いない。

 あのアレクという人間の男はエレインの知り合いのようだ。

 過去を遡って確認してみたが、どうやら彼と同じ施設で育ったそうだ。


「なるほど、彼だけが頼りなんだ。なんとしてもエレインを殺さなければいけないからな」

「……エレインですか。彼はこの基地を守ってくださったのですよ」

「そんなこと、俺の知ったことではない。討伐軍であるお前らは議会の決定に従うだけだ」

「っ! 確かに仰るとおりです」


 なんて恩知らずな人たちなのでしょうか。

 少なくともあの医師の方は反対しているようだ。その他の剣士たちもエレインとセシルに対して感謝の気持ちを示している。

 私は過去の窓を開いてあの議員について調べてみることにした。


「ふむ、それでいいのだ。議会はすでに最終段階に移行しているのだからな。ここで邪魔されては困るんだ」

「……」


 そうだった。私が議会に対して信頼を置けなくなったのはあの議案のことだ。


「精霊統合化計画、こうすることでエルラトラム議会はさらなる力を得ることができる。そのために二〇年以上も計画を進めている」

「あなたは一体何を……」

「すべては魔族を滅ぼすため、人間がもう一度世界の中心になるために必要なことなのだ」


 人間と精霊は今は共存しているわけだが、お互いに生活面では干渉しないことが条件だ。

 精霊の掟に従うにはそうするしかない。

 しかし、あの統合化計画はそういうわけではない。人間の力として精霊を使役すると言った計画なのだ。

 強い精霊は掟に従わなくても自分の存在力だけで生き続けることができる。そんな強い精霊に掟を破らせ、人間のために働かせる。


 その計画が実行されれば、人間と精霊との関係が崩れてしまう。

 つまり、あの議員の言っている人間が中心となった世界になってしまうのだ。

 私は誰かが頂点に立つのではなく、皆が協力し合い生きていくことが大事だと思っている。

 精霊族のためにも、そして人間のためにもあの計画は阻止しなければいけない。

 だから、一五年前にアンドレイア、当時の名でヘンゼリッシュに依頼したのだ。


「そうですか」


 医師はどこか諦めたかのようにその場を立ち去った。


「アレク、君の力に期待しているよ」


 議員は眠っている彼にそう呟いて部屋から出た。

 やはり今の議会は信用できない。

 すべては革命派の議員にかかっているわけだが、彼らに協力している聖騎士団も最近は不穏な動きを見せている。

 色々と考えたが、エレインにまた協力してもらうことになるのかもしれない。

 それに、私とアンドレイアの関係も回復させなければいけない。



 そんなことを考えていると過去の情景が目の前に映し出される。


『クロノス! わしがそんなこと引き受けると思うのか!』

『ですからこうして頭を下げているのです』


 あの頃の怒号が今も私の脳裏に焼き付いている。


『わしとお前とで精霊族を治めてきたつもりだが、こうして外されるとはの。お前には失望した』

『私はなんと言われても構いません』

『まぁいいわい。わしとて最愛の主と一緒に過ごせるのは嬉しいことじゃからな!』


 そう言ってヘンゼリッシュは姿を消した。



『……こんな私でも好きな人間ができるのですよ』


 決して届かぬ未来に向けての言葉。

 でもそれでよかった。ちょうど今の私はそのお方と出会うことができたのだから。

こんにちは、結坂有です。


どうやら議会が考えていることは恐ろしいことなのかもしれません。

権力が一つに集中した時、そしてそれが制御できなくなった時、一体何が起きるかはわかりませんね。

歴史から学ぶに、それが大規模な戦争であったり国民への迫害であったり色々あります。

果たしてエルラトラム議会の暴走は止めることができるのでしょうか。気になるところです。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

感想などもTwitter等でコメントしてくれると励みになります。

Twitterではここで紹介しない情報やアンケート機能を使った企画も考えていますのでフォローしてくれると助かります!

Twitter→@YuisakaYu

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