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逃げて追いかける

 私の足もそろそろ治ってきたところで、私たち二人は洞窟の外へと出ることにした。

 いずれこの場所が敵に見つかるのも時間の問題と言える。早い段階で脱出し、ここから離れた場所へと移動することが先決だ。


「本当に大丈夫なのか?」

「問題ありません。先ほどの血で何とか治療できましたから」

「あの程度の量で十分とはな」


 小さなコップ一杯程度の血液ではあったが、それでも今の私には必要十分なものだった。

 私の体もそこまで大きいわけでもなく、むしろ一般的な人と何ら変わりないぐらいの大きさなのだ。

 巨躯を持つような魔族と違って私はそこまで大量の血を必要としない。


「……にしても、どこを歩いても同じ景色だな。方向はこれであってるのか?」

「以前私が通った時も同じようなものでした」

「ということは間違っていてもわからないってことか」

「そうとも言えますね」


 そのことに関しては最初から懸念していたことではある。

 私としても方向感覚はそこまで悪いわけではないのだが、ここまで同じ景色が続くとどうもわからなくなってしまう。

 ただ、どちらにしろ、先ほどまでいた洞窟にずっと滞在するのは危険だった。


「……とりあえずは歩き続けるしかねぇか」


 そう言うとレメネスは草木を掻き分けて私のために道を作ってくれる。

 今私たちが歩いている場所は山道というわけではない。もちろん、そのような場所を歩いていてはすぐに見つかってしまうからだ。

 私たちは静かに草木を掻き分け、移動していく。


 エルラトラムに向かう前に私たちはまずドルタナ王国に向かわなければいけない。

 私が求めているのはあの場所にあると言われている宝剣ラヴォルラだ。正確には魔剣だが、あの国ではどうやら宝剣として伝説的な逸話が残されているのだそうだ。

 そのことは先ほどまで私たちが潜伏していた国の旅人から聞いた話だ。

 魔族もその宝剣を探していると聞いていたが、どうやらそのドルタナ王国と言う国は滅んではいないようでおそらくその魔剣も残っていることだろう。


 しばらく歩いていくと、レメネスが歩くのを止め静かにするよう指を立てる。


「……どうかしましたか?」


 私が小声で静かに話しかけると彼は周囲を見渡す。


「気のせいかも知れないが、誰かに見られている気がしてな。それもそれなりの人数で」

「わかりました。私も警戒します」


 私も周囲を見渡してみるが、人影のようなものが見えるわけもなく、何か小さな物音が聞こえるわけでもない。

 もちろん、私には大した戦闘能力などはなく持っているのは守護の力のみ。死ぬことを防ぐだけでそれ以上のことは今の私にはできない。

 それに先の脱走で私は能力をかなり消費してしまった。もう一度あのような状況になれば、脱出することは難しいだろう。

 ただ、幸いなことに私たちの周囲からは魔の気配は感じられない。

 どうやら魔族が追いかけているわけではなさそうだ。


「相手は魔族ではなさそうです」

「俺としては魔族じゃない方が厄介なんだがな」


 彼の言うように相手が人間だった場合、聖剣などを持っている可能性があるからだ。

 魔族なら私の力を使ってうまく戦うことはできなくはないが、聖剣相手ではそう簡単にはいかない。

 当然ながら、聖剣を持っていないのならそこまでの脅威ではないのだけど、それでも気を緩めてはいけないのだろう。

 聖剣を持っていないのにも関わらず高い実力を発揮する人もいる。事実、目の前のレメネスと言う人物がそうだから。

 彼との出会いは偶然だったのだが、それでも何かの運命すら感じる。

 そもそも運命などと言う曖昧な言葉をあまり信じない私とはいえ、それでもそう感じてしまうほどだ。


「まぁ今は無視して歩くか」

「大丈夫なのですか?」

「攻撃の意思は見えないからな。それに気にしたところで今の俺たちが取れる手段はあまりない」


 確かに手段は少ないのかもしれないが、彼の実力であればどんな相手でもけちらせるのではないだろうか。

 私が下級魔族の軍勢に襲われている時だって彼が助け出してくれたのだ。


「……あの時のように蹴散らしてはくれないのでしょうか」

「できればそうしたいところだがな。体力は無尽蔵と言うわけではない」

「今の状態ではそうですか」

「逃げ出してから休みなしだ。これ以上体力は使いたくない」


 彼の言うように追われ始めてずっと休んでいない。

 加えて血液をもらったばかりだ。

 相当な負担を彼に掛けてしまっているのは言うまでもないだろう。


「何があってもお前をエレインのところに連れていく。それは保証する」

「大丈夫なのですか?」

「帝国の言いなりじゃねぇが、俺がやらなければいけないことだからな」

「では、その言葉を信じます」


 魔族である私の言葉を信じ、セルバン帝国との橋渡しをしてくれた彼は私と共に帝国から脱走した。

 それらは宰相から命じられたことだ。

 帝国から抜け出し、再びエレインと合流する予定だったのだが、途中でゼイガイアらに見つかってしまった。

 当然ながら、彼らを相手にしながら逃げ回るのは非常に難しいことだ。

 事実、私も力を大きく使ってしまった。それに彼にも無理をさせてしまったのは確かだ。

 ただそれでも宝剣の情報を手に入れることができた。

 その王国はどのような場所なのかは全くわからないが、それでも滅亡していないところを見るにある程度は安定しているのだろう。


「……お前は余計なことは考えるな。王国の連中との話し合いのことだけを考えるべきだ」

「そうですね。いまだに私はどう話せばいいのかわかりません」

「魔族の情報をちらつかせればいいんじゃねぇか? 帝国の時はそうやっただろ」


 その方法が何度も通用するとは私も考えていないし、そもそも私の持っている魔族の情報は少し古いものだ。

 私の持っているどこにどのような部隊が配置されているかと言った重要情報はほとんど意味のないものになってしまった。


「それもどこまで通用するかわかりません。それに王国の人々は対外的な交流がほとんどないと聞いています。エルラトラムとの貿易も必要最低限のものぐらいだとも聞いています」


 そのことは宝剣の情報を聞き出した時点で分かっていたことだ。

 どう言った理由で交流をしないのかはわからないのだが、少なくともそんな彼らがどこの人間かわからない私たちのことをすぐに信用するはずもない。


「……いっそのこと盗み出すか」

「そんな、宝剣なのですよ?」

「少し大胆なことをすりゃ問題ねぇだろ」

「それだけの体力は残っているのですか?」

「まぁなんとかな」


 それなりに付き合いは長いはずなのだが、彼の話をどこまで信用すればいいのか全くわからないでいる。

 とは言っても今の私に頼れる人と言うのは彼しかいない。

 帝国副騎士長を務めていたという彼の経歴と実力を信じるべきだろう。


「盗み出すと言う作戦は最終手段として考えましょう。今は宝剣の貸していただけるかどうかです」

「当てにはしてねぇが話ぐらいはしねぇとな」

「もちろんです」


 たまに野蛮なことを言う彼ではあるものの、しっかりとするところはしっかりしてくれる。

 私もそれには何度か助けられたことがあるのも事実。

 今までのようにうまく立ち回れば宝剣も手に入れることができるかもしれない。

こんにちは、結坂有です。


少し書くのが遅くなってしまいましたが、これからは徐々に投稿頻度も上がっていく予定です。


エレインたちの知らないところでいろんなことがあったようですね。

これからどう物語が交わっていくのでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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