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わがままな作戦

 僕、アレクはルージュと共にとある作戦を考えていた。

 彼女の提案では自分自身が魔族側の情報を仕入れてくると言う内容だ。その方法に関しては幻影結界術を応用したもので、自身の分身のようなものを作り出してそれを通じて情報を得ると言うものらしい。

 もちろん、それができるのはルージュがスパイではないと言う状態でなければいけない。

 彼女がスパイだと相手に気付かれてからは自分たちの思うように情報を得られないことだろう。

 それに、今後このような方法を使いたい場合は最後まで自分が人類側に付いていると言うことを隠し通す必要がある。

 早い段階でスパイ行為をしていると相手がわかってしまっては、魔族界全体にその情報が広まってしまうからだ。


「……この方法なら私も十分に動けると思うわ」

「本当にできるのか?」

「できるわよ。そもそも私はそれなりに有能だったからね」


 その話をまともに受け止めていいものなのかは自分では判断できないのだけれど、上位種の中でもそれなりの地位を持っていると言うのはエレインや横に立っているアイリスからも聞いていることだ。

 それならある程度は信用していいのかもしれない。


「私的な感想になるかもしれませんが、ルージュさんを完全には信用できません」

「いいのよ。少なくともこの作戦であなたたちに何か危害があるわけでもないでしょ」

「敵に情報が漏れるということはありません。ルージュさんが相手に助けを求めようにも本体はここに居るわけですから」


 そう、今回のスパイ活動において重要なのは魔族の情報を集めるのはルージュの幻影であると言うことだ。

 彼女がもし助けて欲しいと思っていても、本体がこの牢屋から出られないのであれば魔族としても助け出すのは困難だ。

 加えて、彼女が魔族側に戻ったとしてもずっとこの地下牢にいたことから有用な情報は魔族に知られる心配もない。

 この関係が破綻したとしても僕たちの損失はそこまで大きくはない。

 強いて言うなら敵にルージュと言う厄介な能力持ちが一人増えたと言うことぐらいだ。


「それでもアイリスは懸念していることがあるのかな?」

「はい。ルージュさん、あなたの本当の目的が知りたいのです。わざわざこのようなスパイ行為を自ら提案するのは普通では考えられません」

「本当の目的なんてそんなものはないわ」

「それこそ信じられません。何か裏がなければこのようなことはしないでしょう」


 確かに彼女がそこまで僕たちに協力する理由はどこにもない。このまま地下牢で捕虜として生活する方がよっぽど楽だ。

 幻影を使うと言っても確実に安全が保障されていると言うわけでもない。

 もし作戦が大失敗すれば、彼女は確実に人類側に寝返ったと言うことで魔族によって殺されてしまうことだってあるだろう。

 それなら最後まで捕虜であり続ける方が、ルージュにとっても得なのではないだろうか。


「……別に私も魔族に対して恨みのようなものがないわけじゃないからね」

「どう言うことですか?」

「魔族のやり方は不愉快なのよ、私にとってね。だけど、私が魔族の味方をするのならそれでも受け入れてこなければいけないでしょ」

「もともと魔族の方針に嫌気があったと言うことですか」

「ええ、そうよ。あの方法では世界は変えられないし、むしろ悪い方向に向かっているわ。人間を無闇矢鱈に搾取するのは間違っている」


 どうやら魔族のやり方に元から不満があったと言うことなのだろう。

 彼女からエレインの過去について一通り話を聞き終えた時にほんの少しだけ話してくれたのだが、彼女はどうやらこの世界に新たな秩序を生み出したいと言っていた。

 つまりは革命に近いことだ。

 どこまでのことを考えているのかはわからないが、人類と魔族の均衡を安定させると言っていた。

 今は明らかに魔族の方が強者の部類に当たる。それでは弱者側である人類は自然と淘汰されていくものだと彼女は言う。

 確かに自然の摂理では弱者がやがて滅びゆくのは当然のことだ。

 彼女の言うように人類と魔族とのバランスが均等になれば、僕たち人類は滅びることもない。当然、魔族も自然に滅びることはない。


「……それだけですか?」

「それだけよ。私は魔族のやり方が気に入らない。それに人類の味方をして均衡を生み出さなければいけないわ」

「均衡、ですか。互いに利害は一致しているのですね?」

「もちろん、私は人類に協力する。まぁ私一人では今の構造を壊すことは難しいけれど、人間が協力し合えばある程度はできるはずよ」


 魔族側の、それも戦闘によく参加していたらしいルージュがそう実感しているのなら、間違いなく人類にも勝算があることだろう。

 僕自身、全く勝算がないとも言い切れない。

 ルージュが協力してくれるのなら魔族の圧制に十分抵抗できるはずだ。

 ただ、僕には彼女にもう一つ理由があると考えている。


「それだけではないように思えるけどね」

「……どう言うこと?」

「君はまだ利害しか言っていない。そこに感情的になる要素が一つもないからね」

「感情的に?」

「うん。寝返ってまで人類の味方をするのなら、そこに強い想いがあるはずなんだ。まぁこれは人間だけに言えることなのかもしれないけれど」


 魔族にどれほどの感情があるのかはわからないが、ルクラリズを見てみると全く感情がないわけではなさそうだ。

 おそらく能力持ちであったり、上位種である魔族は少なくとも感情やそれに近いものがあるのだろう。

 そうでなければ、リーリアの精神干渉が有効である理由がないからだ。


「……つまりは個人的な私のメリットを話せ、ってこと?」

「そうだね。その内容次第では君の提案は受け入れられないけれどね」

「はぁ、さすが小さき盾ってだけあるわね」

「どう言うことですか?」

「気にしないで。利害だけで説得はできない、と思っただけよ」

「それで、話してくれるのかな。個人的なことをね」

「……もしこの世界が滅びに向かっているとしたら、それまでの余生を生きたいか考えたことある?」


 いきなり死生観について質問してきた。

 もちろん、僕もそれは考えたことのある内容だ。むしろ、このような生死を分ける戦いを繰り返している身としてそのようなことは常に考えているようなものだ。

 個人的にはこの世界に何か大きな傷跡でも残せたらと思う。

 滅びに向かうのなら、それに抗い続けたと言う痕跡か何かを残したい。

 そうでなければ、僕は何のために抗ったのか、戦ったのかわからなくなるからだ。


「私は信頼できる人と一緒に過ごしたいわ。多分、愛している人でもいいと思うけれどね」

「最後の時ぐらい自分の想いを大切にしたいと言うことですか」

「そうね。殺されるぐらいなら信頼できる人がいい」

「その信頼できる人と言うのは誰なのかな?」

「わかってると思うけれど、エレインよ。彼なら私は全てを委ねることができる気がするの」

「魔族ではないのですね」

「魔族の連中は信用できないわ。帝位の連中があの体たらくだから……」


 そこまで言うとルージュは一瞬怯えたような表情をした。

 彼女らしくないと言えばそうなのだが、彼女でも怯えてしまうほどに帝位と呼ばれる魔族は強くて恐ろしいものなのだろう。

 同種からも恐れられる存在と言うのは強力な存在だ。

 巨大な組織を統括するには恐れられる存在で居続ける方が楽だ。

 特に知能が高くない下位の存在も率いるのなら恐怖と言うわかりやすい上下関係で支配的になれるのだから。


「ここには他の魔族はいません」

「……まぁ上が腐っていたら下も腐っているってことよ。私はあんな誰かを無用に搾取する世界は間違っていると思ってる」


 彼女が魔族の世界で何を見てきたのかは全くわからない。

 僕たちの知らないこともたくさん見てきたのだろう。そんな彼女だからこそ、同種の魔族はあまり信用できない。

 思い入れがなければ、彼ら魔族に味方する理由もないか。


「私も似たようなことを考えたことがあります」

「そうなの?」

「上に命令されたからと言って何でも言うことを聞くのは間違いです。何事もそうですが、自分の意志が必要なのです。それがわがままであっても主張しなければいけません」


 アイリスももともといた国では反抗的な意思を見せたことがあるそうだ。

 詳しい話まではまだ聞いていないのだけど、彼女にとってもそれが重要なのだとわかっていたようだ。

 ただ、それでも自分の想いに純粋になると言うのはなかなかに難しいことだろう。

 なぜなら、そうして生きる方が辛いのだから。


「……まぁそうよね。その点、人間社会はいいわよね。自由がある程度認められているわけだから」

「それが人間であり続ける力だよ」

「多様性が社会を生み出し、自主性が革命を生み出す、そう言いたいわけ?」

「それは大袈裟です」

「ふーん、そっか」


 とはいえ、あながち間違いではないのかもしれない。

 社会にはさまざまな人がいる。それに何かを変えるには自分の意志がなければいけない。

 それこそが人間が常に進化し続けることができた理由なのだろう。


「とにかく、私が言いたいのは最後ぐらいわがままに生きたいってこと。そのわがままって言うのは信頼できる人と一緒にいたいなってだけよ」

「……思った以上に人間らしいわがままだね」

「魔族らしくありません」

「悪いかしら?」

「いいよ。さっきの言葉に嘘はないみたいだしね」

「はい。感情的に話してくれた方が私たちとしても理解しやすいです」

「うん。その方が魅力的だよ」

「……口説いても無駄よ」


 そう言ってルージュはため息を交えつつ、僕から視線を逸らした。

 別に口説いたつもりはないのだけれど、彼女にとってはそう聞こえてしまったのだろうか。

 言葉と言うのは時に誤解を生みかねないものだ。

 僕も気をつけているとはいえ完璧ではないようだ。

こんにちは、結坂有です。


自分の意思をはっきりさせると言うのは重要なようです。

自分らしく生きると言うのはどう言うことなのでしょうか。難しいですね。

それはさておき、ルージュはこれから人類の味方をするそうです。

今後、人類が魔族と対等に戦うことができるようになるでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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