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狂いし継承

 ジティーラとの提案はすぐには乗ることができないものだった。

 しかし、検討してみる価値はあるだろう。俺が神の力を扱える素質があるのだとしたら、力を受け止めることぐらいはできるはずだ。

 それに暴走した場合の対策も考えてくれた。

 もちろん、対策したとしてもそのすべてが安全に機能するかと言われればそういうわけではない。

 システムと言うものに完璧はなく、常に正誤を繰り返しているものだからだ。

 そんなものに何もかも依存することは危険だ。

 結局のところ、人の作るようなものに純粋な完璧というものはない。


「それで、俺と話したかったのはそのことだけか?」

「はい。私からはこれ以上話すことはありません」


 ということは本当に死ぬ気でここに来たのだろうな。

 俺にエルラディスの思念を届けるために生きているようなものだと彼女は思っているのかもしれないが、こうして生きている上に自身に心があると言うことは何か意図して作られた存在だと言える。

 俺が創造神だったとしたら、ただの器にわざわざ人情を付け加えることはしない。

 むしろ、人である必要はなかった。何かの物にして残していたことだろうな。

 それでも創造神が人である存在に創り、情を加えてその中にあの滅神の思念を封印したのだ。

 わざわざそこまでする必要はどこにあったと言うのだろうか。

 これは俺の推測だが、彼女は生きた状態で活用しなければいけないはずだ。


「……自分のなぜ生まれたのか考えたことはあるか?」

「なぜ生まれたのか、ですか」

「ああ、初めから俺に力を与えるために創造されたのだとしたら、自我が必要なかっただろう。だが、創造神はそうした」

「その理由ですか。確かに考えたことはありません。ですが、私は私のやるべきことがあると理解しています」


 それがおそらく俺に力を与えると言うことなのだろう。

 俺に殺されるかもしれないと分かっていても彼女は俺に力を与えないといけない。

 ある種の使命のようなものだと彼女は考えているようだ。


「別に自分が死ぬ必要ないと思うがな。俺が思うに、滅神の力が強大だからこそ二人で制御しろと言うことなのかもしれない」

「二人で制御、ですか」

「そうだな。かつての滅神は一人でその強大な力を扱っていた。それ故に間違ったことが起きた」

「はい」

「であるのなら、暴走しないようにするのが普通だろう」


 創造神がそのようにして対策しろと言っているようなものだ。

 滅神の暴走によって混沌の時代が訪れたのなら、二度と起きないよう対策するのは当然のこと。

 ましてや世界を創った神だと言うのならそれぐらいの責任はあるはずだからな。

 自身の過ちを拭うのは当然と言える。


「……つまり、もともとそのような方法で力を与えるのが正しかったと言うことですか」

「おそらくな。太古の話を持ち出したところで今の俺らには推測することぐらいしかできない」

「そう、ですね。私も以前の滅神がどのような想いだったのか、それはエレインに会えばわかると思っていました。しかし、それはどうやら違ったようです」

「どう言うことだ?」

「エレイン様に最初に出会った時、あれの時はおそらく私ではなかったのです。滅神の強い思いが私を意思を押し退け、あのような行動に出たと思います。私自身記憶がなかったのですから」


 そういえば、あの時ジティーラの目が変わっていたように思える。

 どう言った理由でそのように目の色が変わるのかはわからないが、間違いなく目の前にいるジティーラではなかったのは確かだろう。

 彼女は続けて口を開く。


「おそらく私は私であって、前身にあたる滅神とは全くの別の存在なのかもしれません。エレイン様にお会いすれば何か理解できると思ったのですが、それは私の思い違いだったようですね」

「思い違いか。だが、記憶は俺よりも鮮明なのだろう?」

「ある程度は知っているだけです。全ては知りません。ただ、それでも私の意志が以前の滅神ではないことは確かです」


 彼女がそう自覚しているのならそれは間違いないのだろう。

 今俺たちができることは創造神がそうしたのだと信じることだけだ。


「……リーリアはそれでいいのか?」

「まだ危険ではないと信じれていません。ですが、エレイン様がそうされたいのなら応援させていただきます」

「そうか」


 まだ俺の安全が決まったわけではないのは確かだ。

 どちらにしろ魔族と対峙することが多くなるのだからどのみち危険は同じだと言えるがな。

 ただ、俺とジティーラの問題であるこれに関しては彼女は何も介入できない。それが彼女にとっての大きな不安なのだろう。


「試すにしてもルージュとまた話し合わないといけないな」

「……そうですね。エレイン様との相性も確かめる必要がありますから」

「なら、今ある問題を片付けないとな」

「今ある問題、ですか?」

「アロットを撃退しないといけないのだろう」

「そうですね。この国の問題ですからね」


 この国を攻撃しようとしているアロットをどうにかして撃退しなければいけない。

 ルージュの話によれば、この国に総攻撃を仕掛けようとしているらしいからな。降りかかる火の粉は振り払う必要がある。


「話は終わりか?」

「はい。今のところはそうですね」

「アロットのことはまた分かり次第伝えよう」

「ありがとうございます」


 アレクがルージュをうまく使った作戦を考えてくれているのなら問題なくアロットの調査ができることだろう。

 初めから信用はしていなかったが、今まで何もしてこなかった時点で敵対の意志はないのは間違いない。

 それに俺が死ぬようなことになれば、ルージュとしても不本意だろう。

 彼女ならアレクの考える提案に乗るか、自ら代替となる作戦を考えるはずだ。

 俺は椅子から立ち上がり、扉の外にいる聖騎士団に話は終わったと伝える。


「……エレイン様。最後によろしいですか?」


 すると、後ろからジティーラが話しかけてきた。


「なんだ」

「アロットの件ですが、彼女はエレイン様を狙っています。この国のことなど眼中にない様子でした」

「そこまで俺に執着する理由はあるのか?」

「ルージュによると過去に因縁があるそうです。詳しくは知りませんが、何かの参考になればと思いまして」


 そこまで執着しているのなら、俺がもう一度出向いてやることで何か変わるかもしれないな。

 ただ、相手がどれほどの力を持っているのかわからない以上無闇に近づくのは危険か。

 ルージュの話によると今までの能力持ちよりもよっぽど強力らしいからな。

 それにアロット一体だけならいいのだが、周囲に大量の魔族もいるとなれば対処も難しい。

 まずは相手の情報を知ってから行動すべきだな。


「ああ、助かった」


 思い切った作戦は今はまだ取れないが、これからの参考になればいいだろう。

 執着しているとわかっただけでも情報としては十分な意味があるからな。


 それから、俺たちはラフィンたちのいる部屋へと戻ることにした。


「おかえり」


 部屋に戻るとすぐにジェビリーがどこか嬉しそうに迎えてくれる。

 王女である彼女がそこまでする必要はないのだが、今は私的な時間だ。それにこうした友人に近い人がいなかったと言うこともある。

 今ぐらいは楽にしてあげてもいいか。


「おかえりなさい。ジティーラとの話はどうでしたか?」

「重要な話ができた。アロットに対抗するための作戦のようなものも考えることができたからな」

「それはよかったです。この国の一番の問題はそれら魔族ですから」

「……倒すことができるの?」

「できないこともないだろうが、相手もかなりの実力者らしいからな。討伐と言うよりかは撃退させると言った方が正しいだろう」

「また、攻撃される可能性があると言うことね」


 確かにジェビリーの言うように再度この国を攻撃すると言う可能性がないわけではない。ただ、俺はそうなる前に手を打つつもりだ。

 具体的にはエルラトラムにいる人員をうまく使ってアロットを討つと言う作戦だ。細い作戦はまだ決めていないものの、ジティーラの作戦がうまくいけば倒すことは容易なはずだ。


「そうなる前に俺たちエルラトラムが責任を持って撃破する。まずは相手の標的を変えることが目標だな」

「危険ではないの?」

「危険だが、エルラトラムはかなり強いからな。問題はない」

「はい。私たちは魔族領を取り戻すほどの力があるのです」

「お姉様、彼らは頼もしい人たちです。信じましょう」

「……信じたいけれど、友人が危険な目に遭うのは複雑な気分よ」


 確かにジェビリーの言う通りだ。

 俺もミリシアやアレク、アレイシアであっても危険な目にあってほしくはないものだ。

 しかし、現実問題魔族と戦うと決めた時点で危険なことには変わりない。

 時には死ぬことだってあり得る話だ。

 それは受け止めなければいけない現実であり、抗い続けなければいけない現状でもある。


「俺も同じ想いだ。ただ、その先には希望があるとも考えている。そうじゃないのか?」


 危険な目に遭うのはこうなってしまった以上仕方のないことだ。

 彼女も現状に抗うため、危険を承知で思い切った行動をした。その結果、こうして王国を奪還し、妹のラフィンとまた一緒になることができたわけだ。

 目を背けたくなる現実だったとしても、自分の正しいと思う道を信じ抗い続ければ希望はきっとその先にあるはずなのだから。


「ええ、間違いないわね」

「あらゆる苦難も希望があるからこそ、乗り越えることができます」

「綺麗事かもしれないが、それも事実だからな」

「ふふっ、エルラトラムの人たちは逞しいのですね」


 そう彼女は小さく笑いながら言った。

 きっと彼女にも見えたのかもしれない。この先にある小さい希望の光が。

こんにちは、結坂有です。


混沌の時代を作り出し、もう一度秩序ある世界にしようと考えた創造神ですが、一体何を思ってエレインとジティーラを創り出したのでしょうか。

ただ、その創造神はもういません。真実はわかることはあるのかは分かりませんね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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