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内なる反感

 私、ミリシアはラフィンの発表会の後、アレクとラクアとでドルタナ本城周辺の警戒にあたっていた。

 当然ながら、私の素顔は見られてはいけないため仮面を付けたままだ。

 それから一通り警備を終えた後、私たちは再び隠れ城近くまで戻っていた。


「……魔族の気配は今のところないようね」

「そうだね。魔族の方も準備か何かしているのかな」


 正直なところ、そう考えるのが自然だろう。

 エレインが外にいる魔族の大隊を削ってからは国外のことに関しては調査していない。

 もちろん、周辺の警備は聖騎士団とこの国の兵士たちと協力しているため問題はないのだろう。

 ただ、エレインとアイリスが戦ったと言われる渓谷の方までは今のところ調査に出ていない。エレインが帰ってきてからはあの地下通路は封鎖しているため、入ってくることはできないだろうが、警戒を緩めてはいけない状況なのには変わりない。


「準備って何が考えられるの?」


 すると、ラクアがアレクの言葉にそう質問する。


「考えられるのは失った戦力の増強、かな」

「まぁ普通ならそうでしょうね。だけど、他にも考えられるわ」

「うん。今回の魔族はかなり賢い方法でこの国を支配しようと考えていたよね。次なる一手を考えているか、すでに実行しているのかもしれない」

「……またこの国の幹部やらと接触している可能性があるってこと?」

「可能性があるってだけで本当にそれをやっているかはわからないわ。今回の発表会で国民の考えも大きく変わってきているみたいだし」


 王政下では国民の自主性と言うものが徐々に失われていくものだ。

 加えて、それを自ら良しとして委ねることはさらに危険なのだ。

 私たち小さき盾も発足直後は議会の命令に絶対服従のようなものだった。しかし、後の事件で議長であるアレイシアが受ける命令を自分たちで判断できるようになった。

 私たちに自決権をある程度持たせることで公正さを保てる。

 したがって、以前のこの国では全てを執り仕切っている王政が腐敗してはそれを止める者は誰もいなくなる。

 それが魔族にこの国を売ることになっても止めることはできない。


「でも、まだ初日よ? そんなすぐにみんな受け入れるかしら」

「無理ね。だから、しばらくはエルラトラムが面倒を見なければいけないわ」

「少なくとも、この国が自立していけるまでは僕たちが守るべきだね」

「……エルラトラムの負担にはならないの?」

「負担にはなるけれど、将来への必要投資でもあるんだ。守れる資源はできる限り守るべきだからね」


 人的資源だけでなく、食糧や生活物資なども貿易などを通じて各国に配分する。

 そうすることで経済が成長し、次第に人類の力もより強大なものになっていく。

 エルラトラム議会もそのようなことを考えているのかはわからないけれど、私たちの狙いはそうなのだ。

 いくら大国だと言っても無尽蔵に人がいるわけではない。土地にも制限があるとなれば、他国に頼る部分があると言うことだ。


「必要なことなの?」

「必要よ。言い方は悪いけれど、依存先は複数あった方が便利なのよ」

「そうだね。僕たちの社会は一つでも大きく欠けてしまえば崩れてしまうような脆いものだからね」


 人が安全に生活するには衣食住すべてが満たされている必要がある。

 その三つのどれかでも欠けては人は安全に生活することはできないのだから。


「じゃ、また攻撃してくる魔族の大群を迎え撃たないといけないわけね」

「あのルージュって魔族の話を信じるのなら、戦力の増強のほか、能力持ちが覚醒状態になっているみたいだね」

「今まで以上に危険な戦闘になる上に、強力な能力持ちの魔族とも戦わなければいけないわ」

「相手の目的さえわかれば、そこから逆算してこちらも対策できるけれど……そう簡単にはわからないわよね?」


 隠れ城に捕らえているルージュが何か知っているのだとしたら、もう一度話を聞いてみるべきなのかもしれない。

 だけど、相手が嘘を言っていた場合は最悪な結果を迎えることになる。

 まだ彼女を信頼するにはもう少し慎重にならざるを得ないだろう。


「……もう一度ルージュに話を聞いてみるのもいいかもしれないね」

「え?」

「彼女は僕たちに協力しようとしているんだよね。それなら話ぐらいは聞いてみるべきだと思うよ」

「本当に信用するつもりなの?」

「それはやってみなければわからないよ。少なくともルージュと一緒に来たジティーラはエレインと話したがっている」


 ジティーラと言う女性は魔の気配こそないものの、エレインの意識をどこかへと飛ばした張本人だ。

 気安く彼と話せるようにはしたくない。

 彼女曰く、無意識でのことだったらしいが、その話も本当かどうかわからない。

 彼女たちの話をそう信用すべきではないだろう。

 しかし、私たちとしても手詰まりなのは確かだ。


「手分けして話すのはどうかな。リーリアならジティーラが嘘をついているかわかる上に、実力も確かなものだ」

「じゃ、ルージュから話を聞くのは?」

「それは僕とアイリスとで話を聞くよ。彼女なら影を操る力があるからね。僕としても頼もしいよ」

「……私たちは引き続き、国内の調査。それで決まりでいいかしら?」

「うん。今日はそれで行こうか」


 アレクはそう言うと私たちに軽く手を振って、隠れ城の中へと入っていった。


「私たちはもう一度市場の方に行きましょうか」

「そうね。あそこならまだ人も多そうだし」


 ここからそう遠くない市場へと私とラクアが進んでいく。

 時間も午後を過ぎたばかりとまだ人が多く通りかかる。

 通り過ぎる人の話を聞いてみてもどうやら今日の婚約発表の話題で盛り上がっているようだ。


「……あの酒屋、妙に人が集まってるわね」

「男の人ばっかり、入りづらいね」


 居酒屋とは言ってもここは大衆的な場所と言うよりかは兵士が集まるような場所のようだ。

 剣士になりたいと言う人が多いこの国ではこのような場所がいくつかある。


「これでも一応私は剣士よ。入れるわ」

「……ここ、剣士しか入れないの?」

「ええ、兵士がよく集まる場所みたいよ。でも、一般の人でも入っているのも見るわ」


 まぁ一般の人とは言っても戦いなんかで怪我を負って剣を置いた人だけどね。


「情報が得られそうなら入ってみる?」

「ここまで人が集まってるならなんらかの情報はあるわ」

「絡まれたらどうするのよ」

「その時は……」


 私はそう言って腰に携えている剣を揺らして見せる。

 それを見た彼女は一瞬だけ驚いた表情をしたものの「そうなるよね」とだけ言った。

 当然ながら、力には力で返すのが筋だろう。まぁそうなる前に脱出するべきなのだろうが。


 それから私たちは兵士が集まっている居酒屋へと入っていく。

 中はそれほど広くはないものの数十人は集まっている様子で、どうやら先ほどの発表会の話題で盛り上がっている様子だ。

 私たちは彼らから少し離れた場所へと席につき、水を手に彼らの声に耳を傾けることにした。

 当然ながら、私たちの服が聖騎士団だと言うことで兵士たちも一瞬警戒したものの、すぐに話の続きが行われた。


「にしてもよ。あのエレインって男の腕みたか?」

「見たぜ? あんな細い腕で剣なんて振るえんのかよ」


 そんなことを話していると、まだ昼間だと言うのにかなり酔っている様子の兵士が話し始める。


「エルラトラムの連中なんざ、聖剣の力に頼ってるだけで何も技術なんてねぇんだって」

「ま、そうだよなっ。俺たちと剣術競技なんかすればすぐに卒倒するだろうぜ?」

「あまりの迫力に戦う前から逃げ出すかもなっ」


 以前ここに来た時彼らの剣術競技は一度だけ見たことがある。それもこの国では有名な人同士の戦いだ。

 確かに迫力だけで言うなら、凄まじいものだった。しかし、あれは魅せるだけの技だ。実際の殺し合いにはあまり使えないことだろう。

 それに聖剣の力も無駄に使用してるだけで効率よく攻撃できている様子ではない。

 聖剣を手にするだけの実力があると言うのに、間違った方向へと努力していては本末転倒だ。


「……そんなにすごいの?」


 彼らの話から疑問に思ったのかラクアがそう質問してくる。

 ここであまり挑発するようなことは言いたくないために私は周りに聞こえないよう小声で話すことにした。


「迫力だけで技と言うにはあまりにも貧弱なものだったわ」

「表面だけの技ってこと?」

「そう言うこと」


 もちろん、派手な技で演武をするのは剣術を広めるにはちょうどいいのかもしれない。しかし、それには本質が伴っていなければいけない。

 ただ魅せるための技では全く意味がないと言えるのだから。

 再び集団の方へと耳を傾ける。


「ははっ、それにしてもよ。あいつら聖騎士団の剣を見たって奴いるか?」

「見たことねぇよ。俺らが来る前にほとんどの魔族は死んでたんだから」

「ってことは聖剣の能力が強いってだけじゃねぇか?」

「そうかもしれねぇな。あんな数、普通に剣だけで斬るのも難しいだろうぜ?」

「確か、十数人だったよな? 城の混乱に対処したのは」

「無理無理、確認した死体だけでも百体以上は城の中にあったんだぜ」

「要するにだ。聖剣の力に物を言わせるような男なんかと婚約したってことになるな」


 そこまで言うと酔いの回っているであろう男の人がいきなり立ち上がり、叫び始める。


「ラフィンちゃん、騙されてるんだってっ!」

「そうだそうだっ。騙されてんだ」

「俺たちのラフィンちゃんを返さないとっ」

「しかしよ。どう返してもらうんだ?」

「決まってんだろ。あいつの前で恥でもかかせてやればいいんだ」

「模擬戦か何かすればすぐだろうぜ。誰か名乗り出たらいいんじゃねぇか?」

「そういえば、お前。競技で連勝中だろ? その実力ならいけるだろ」


 そう一人が言うと、周りの人もその人へと視線を向ける。

 その視線の先にいる男がどうやら競技で連勝していると言われている剣士のようだ。

 見るからに大きな巨体を持っている。持っている聖剣もその巨躯を体現しているかのように大きな剣だ。


「あんま騒ぎ立てんな。俺は自分に見合った相手としか戦わねぇ。あんな弱そうな体とは戦いたくはない」

「そう言うなって、あんたに叩きのめされたらあの剣聖って奴も澄ました顔ができねぇって」

「ならルールを決めなければいけねぇ。剣聖って言うぐらいなら強力な剣を持っているんだろ? 俺らの剣とじゃ張り合わねぇはずだ」

「じゃ、練習用の鉄剣で戦うってのはどうだ?」

「はっ、それなら平等だな」

「力ってもんを見せつけてやるんだ。俺たちのラフィンちゃん……」


 どうやらラフィン王女のことを気に入っている兵士がエレインに対して一方的な嫌悪を向けているようだ。

 確かにあのように急に登場されては反感も生まれやすいと言うものだ。


「……これ以上聞く意味ある?」

「なさそうね。行きましょうか」


 何か得られると思って入った居酒屋ではあったが、私の想像以上に無意味な時間であったのは言うまでもない。

こんにちは、結坂有です。


どうやらエレインとアレクと二手に分かれてルージュたちの話を聞きに向かうようですね。

何か情報が聞き出せればいいですが、どうでしょうか。気になりますね。

それにしても、居酒屋での話はなかなか面白いことになりそうです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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