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解けた緊張

 ドルタナ王城にてラフィンの婚約発表会を終えた俺たちはバルコニーを降り、そのまま隠れ城の方へと移動していた。


「エレイン様、お疲れ様でした」


 隠れ城へと到着するとラフィンが振り返ってそう呟くように労ってくれる。

 もちろんだが、俺は発表会で何かをしたと言うことはなく、ただただ彼女の横に立ってそれらしい振る舞いをした程度だ。


「別に疲れるようなことは何もしていない」

「ですが、民衆の面前に晒すようなことをしました」

「あの程度のことで疲れはしない。それに、この国の在り方を変えようと提言したラフィンがよくやっていると思う」


 この国は長らく絶対王政で統治されてきた。

 それを王女でもあるラフィンが自ら王政に異議を唱え、民主化へと変革しようと提言した。

 その決断とその勇気には驚くことばかりだ。

 反乱組織の煽り立てもあってあの発表会はこの国の未来にとって非常に有意義なものになったのには違いない。

 エルラトラムのことを信用するかどうかの問題だが、その辺りのことはあの反乱組織の人たちがうまく説明してくれることだろう。

 この国が崩壊しそうだと感じたラフィンがエルラトラムの聖騎士団を引き連れて戻ってきた。

 そして、魔族を追い払い、見事崩壊が起きるのを防いだ。

 続けて彼女は俺と婚約することを条件にエルラトラムとの友好関係を築き上げた。

 今後、エルラトラムは聖剣だけでなく、聖騎士団の支援なども十分に受けられるものとなった。

 それでも聖騎士団に対して疑問視する声はあるだろうが、聖剣が多く支援されると言う特権的な条件は国民にとっても利益になる。

 特にこの国では剣士になりたいと言う声は多いようだからな。


「私はそこまでのことはしておりません。ただ大きな嘘を吐いただけですよ」

「その大きな嘘は変革への第一歩になる。それに実益があるのなら、嘘を言っていようが大した問題にはならない」

「エレイン様の言うとおりです。時に嘘を吐いて皆を納得させるのも政治の手段でもあります」

「嘘で皆を従わせるのはダメと言いながら、私は大きな嘘で国民を騙しました。矛盾だらけのダメな王女です」


 確かに嘘を言ったと言う点で言えばダメな王女なのかもしれない。

 しかし、この国のために嘘を吐いて変革への契機を作ったと言うのは評価できる。

 誰しも正しい理想の政治をしたいと思っているが、現実問題そうはならない。時には嘘を吐く以上の非道なことをしなければいけないこともあるだろう。

 その時、強い決断力を持って自分の理想に近づけようと実行する力はまさしく一国の王であるとも言えるだろう。

 歴史を見ても嫌われることを承知で、それでも正しいことをした王と言うのは何人もいることだ。


「それでも自分は正しいことをした、そう思えることが大事だ」

「……正しいことなのかはまだわかりません。ですが、私のできる最善は尽くせたと思います」

「なら、大丈夫だ。ダメな王女だなどと卑下することはない」


 このことが原因で自己不信に陥ってしまってはいけない。例えそれが冗談だとしてもあまり言わない方がいいだろう。

 それにしても、この国のためならなんでもしてみせると言う彼女の強い意志は見ることができた。

 王女と言うのはこれほどまでに強くなければいけないのだな。


「ところで、エレイン様。お姉様とお話ししてみてはどうでしょうか」

「ジェビリーと話すのか?」

「はい。ちょうどお姉様も話してみたいなどと言っておりましたので」


 確かに顔を少しだけ見た程度でまともな会話は一度もしていないな。

 アレクがその担当をしてくれているようだったが、その辺りはどうなのだろうか。


「俺と会話して何かあるのか?」

「いえ、そのお姉様は男の人と普通に話したことがないそうなのです。せっかくの機会なので、できればお付き合いしていただければと思いました」

「剣士の訓練をしていたと聞いていたが、話したことがないのか?」

「話したことはありますが、私的な会話は一度もないそうです」


 王女となれば確かに普通の会話は難しいか。

 王族への忠誠が根強いこの国では、相手の方も無礼を働きたくないと必死だろうからな。

 その点、俺は他国の人間であり、ラフィンの婚約者でもある。それなら私的な会話をしたとしても不自然ではないか。


「つまりは俺がちょうどいいと言うことか」

「そうです。婚約者と言うことですから」

「わかった。いつ話せばいい?」

「今からでも大丈夫です」


 俺は一度リーリアの方へと視線を送ると、特に問題ないのか彼女は小さく頷く。


「問題はない。ただ、今はまだ魔族と戦争中だ。いつ……」

「それは承知の上です。では、すぐにでも向かいましょう。こちらです」


 すると、彼女は少し嬉しそうに俺の袖を引っ張ると彼女の隠居していた部屋へと案内される。

 その様子にリーリアは若干ムッとした表情をしたが、こればかりは仕方ない。


「ただいま戻りました」

「意外と早かっ——っ!」


 資料へと目を通していたジェビリーが俺を見るなり息を詰まらせた。

 すると、彼女はぎこちない動作で椅子から立ち上がると俺の方をまっすぐ見ながら口を開く。


「えっ、えっと。ご、ご機嫌麗しゅう……」

「お姉様。それは違うと思います」

「ど、どう挨拶をすればいいの」

「まずは息を整えて、ゆっくりと普通に挨拶をすればいいと思います」


 ジェビリーは目を泳がせながらも深呼吸をして、ゆっくりとまた口を開いた。


「こんにちはっ ——っ!」


 思っていた以上に大きな声で挨拶が出た。

 自分の声に驚いたのか、肩を震わせたかと思うとサッと振り返って俺から視線を外した。

 流石にこの状況では気まずいままなので俺から声をかけてみるべきか。


「ジェビリー、だったな。ラフィンの姉の」

「はいっ、そ、そうですっ」

「そこまで緊張はしなくていい。一応、初めまして、だな」

「はい、初めまして」


 俺がそこまで言うと彼女は真っ赤になった顔のまま俺の方へと向き直ると、そのまま椅子に座る。

 俺もそれに続くようにして座る。


「お姉様、聞きたいことでもあったのではないですか?」

「あっ、その、ラフィンのことはどう思っている、のですか」

「そこまで改まらなくていい。楽に話してくれて構わない」


 いつまでも背筋を伸ばして堅い言葉で話されてはこちらとしても話しづらい。

 ここはもう少し楽に話してほしいところだ。


「失礼じゃないかしら?」

「俺としてはその方が楽だ」

「そう、なのね」


 そう言って彼女はまた大きく深呼吸をする。


「もう一度聞くのだけど妹の、ラフィンのことはどう思っているのかしら」

「そんな、改まって聞くようなことでもないと思いますが」

「大事な妹なのよ? 私が気にかけるのは当然よ」


 と言われても俺としてはどう答えていいのかわからない。ただ、今まで彼女と付き合ってきて悪いと思った印象は一度もない。

 それなら別に正直に話したところで失礼に当たることはないか。


「正直に言えば、行動力のある女性だと思っている。その謙虚な性格とは裏腹に大胆な言動を取ることがある」

「行動力?」

「……」

「ああ、最初に政略結婚の話を持ち込んできたのはラフィンの方だった。エルラトラムとしてはこのような方法ではなく、少しばかり強引な方法を考えていたぐらいだからな」


 そのことに関しては事実だ。

 エルラトラムとしては強引な方法で王城を制圧し、事実上軍事支配を企んでいたほどだ。

 もちろん、魔族がドルタナ王族を乗っ取っているという確実な証拠があればの話だがな。

 しかし、それは目の前にいるジェビリー本人が生き残っていること、そしてただの魔族の言いなりになるのではなく、抵抗の意志があること。

 それらの状況が重なったことで今回のような作戦を取ることができた。

 他にも方法があったのだろうが、ラフィンの電撃婚約と言う衝撃的で大きな話題と付随することで多くの人に広まっていくことだろう。

 強制的に支配するのはできないわけでもないものの、それでは魔族が人類を支配するのとなんら変わりはない。この国は今後もさらに強くなっていくのだから。


「……エルラトラムの考えた強引な方法とはなんだったのでしょうか」

「ドルタナ王族を聖騎士団と議会軍で取り押さえる。つまりは全面戦争を行うと言うことだ」

「ただ、それはこの国を魔族の手から退けるという一時的な支配です」


 リーリアが付け加えるようにそう補足する。

 その辺りは目の前のジェビリーもよくわかっているだろう。敵意があってこの国を攻撃することはない。

 魔族による被害をこれ以上増やさないための必要悪なのだから。


「いつの時代の話かと一瞬思ったけれど、もしラフィンがいなければそうなっていた可能性が高いと言うことね?」

「まぁそうなるな。エルラトラムのことをあまり信用していない国民性なのだとしたら、俺たちが急に乗り込んだところで誰も言うことは聞かないだろうからな」

「本当に恐ろしい国ね。ただ、その信念は妹とそっくり。いい旦那さんを見つけたのね」


 そう彼女が言うと頬を赤くして聞いていたラフィンが勢いよく口を開いた。


「お姉様、まだ夫になると決まったわけでは……」

「そう? じゃ私がもらってもいいのかしら?」

「それはなんだか、世間に醜聞が立つような気がします」

「別にいいじゃない。歴史上、王族同士の寝取りはよくあったことだし」


 ジェビリーの言うように王族同士の寝取り合いはあったらしいが、姉妹で一人を奪い合うというのはあったのだろうか。

 俺の記憶ではなかったような気がするがな。

 ただ、今回の婚約はあくまで予定だ。途中でそれを破棄することだって考えられる。


「……水を差すようですが、今回の婚約はあくまで政略的なものです。状況次第では破棄することも考えられます」

 そう冷静にリーリアが話すとジェビリーもラフィンも静かになる。

「とはいえ、二人には今後もこの国でしばらくは統治を続けるのだろう」

「そうね。私は軍事を、ラフィンは今まで通り内政かしら」

「はい。ですが、私の仕事は日々楽になっていくと思います。民主化が進めば、国民は自分たちの意思で国を建てていくでしょうから」


 順調に進めば、ラフィンの決定で物事を決める必要はなくなってくる。

 国民の自主性を何よりも重要視している彼女にとって、その流れは嬉しいことだろう。


「……剣聖の人となりが少し知れて嬉しいわ。もう少しお話ししてもいいのかしら?」

「なんでも構わない」

「でしたら、普段はどのように過ごしているのかしら」


 それからジェビリーと休日などの過ごし方を共有しながら、共にお茶を飲むことにした。

 一度緊張が解けてからの彼女はラフィンとは違い、活発な女性だと感じた。今まで家族以外と私的な関わりを持ったことのないのだ。

 おそらく、今の彼女が素の性格なのだろうな。

こんにちは、結坂有です。


ジェビリーとの会話、今後もエレインと仲良くなることができるのでしょうか。

それにしても、エレインに執着している魔族は今頃何をしているのか……気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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