発表はシンプルに……
明るい空に照らされた城内へと目を向けるとすでに何十人もの人が集まっていた。緊急の発表会であるのにここまで集まってくれたのはやはり反乱組織の方々のおかげなのかもしれない。
ここまでの人が集まってくれたのなら、私たちの話はすぐにでも広まることだろう。
もちろん、今日来れなかった人のためにも各地に御触れを出してもらうつもりだ。
私が前に出ると一気に視線が集まるのを感じる。その視線は心配や混乱の感情がこもっているようにも感じる。
ここに立つのはいつぶりだろうか。
そして、それらの視線に晒されること一分弱、私はゆっくりと口を開き、まず謝罪しなければいけないことを話す。
「皆さん、この度混乱を招いてしまい、本当に申し訳ございません。私が逃亡した県について、色々と混乱が起きていたのが承知しております」
そう私が話すと一気に国民がざわめき始める。
「そうだぞっ。俺たちを置いてどこに行っていたんだっ」
「叛逆行為だって聞いた!」
当然ながら、私のことをよく知らない人は今回の混乱により、私に対する信頼は落ちたと言える。
だが、それは仕方のないことだ。
「叛逆行為は確かにありました。ただ、それは私と姉であるジェビリー王女には必要なことだったのです。詳しいことはまだ話せませんが、それだけは理解していただきたいのです」
そう言ってみるが、国民の動揺はすぐに鎮まるわけもなく、次第にあらぬ噂までも私の耳に届く。
「やっぱり俺たち国民のことなんて何にも考えてねぇんじゃねぇのかっ」
「王族なんて言ったってなんにもしてないだろっ」
「私は王女を信じるわ」
「あいつなんかの肩を持つって言うのか?」
誰しもが私に対して反感を抱いているわけではない。特に私は国民と会話する事が多かったために私をよく知る人は多いものだ。
ただ、今回の件でその築き上げられた信頼もかなり崩れてきているのは確かだ。
それでも私は大きな嘘をこれから言わなければいけない。魔族がこの国を支配していたなんてことは悟られてはいけないのだから。
「……私は考えたのです。それで、いつまでも私たち王族が全てを決定するこの国のあり方は間違っていると考えたのです」
「王政が間違ってる?」
「はい。間違っているのです。そのことをお姉様に相談したところ、叛逆行為だと見做されたのです」
私がそう言うと次第に国民は静かになり始めた。
何を言っているのか、彼らは考えているのだろう。王族である私がそれまで続けてきた王政を否定するなんて普通ではあり得ないからだ。
「ですが、今回改めてジェビリー王女と会談し、私の本意を全て話しました。そこで、私たちは決めたのです。この国を作り変えると」
そこまで言うとまたざわめき始める。
今までの体制が大きく変わると理解した彼らの中にはその変革を望まない人も多いことだろう。
しかし、この流れは変えられない。人々が本当の意味で自由を手に入れるには、自分たちでその道を切り開かなければいけないのだから。
私たち王族が決めるのではなく、国民の総意によって決定されるべきなのだ。
「ここに、私は宣言します。私はエルラトラムの剣聖であられるエレイン・フラドレッドと婚約を結びます」
そう私が言うとエレインが前に出る。
そして、国民の視線が一気に彼へと向けられる。不信のこもったその視線は彼にとってとても辛いもののはずだ。
彼にばかり注目させてはいけない。私はすかさず言葉を続ける。
「この婚約により、この国はエルラトラムと従属関係を結ぶことになります」
その最後の言葉を発すると国民達は一気に黙り始めた。
国民に考える隙を与えない。これこそが、私の最初で最後の圧政行為となるのだろう。
すでに決定された、大きく変革を迎えたと言うのは国民にとって大きな不安になる。それは私自身も覚悟していたことだ。
一部の人は強く拒絶することだろう。
しかし、そのことは私自身も彼ら自身もいつかは受け止めなければいけない。
一度は魔族の手によって破滅へと向かっていたこの国をもう一度立て直すにはこの方法しか思い浮かばない。
「言っただろっ。この国はもうダメなんだって」
「そうだっ! だから俺たちが建て直すんだよ」
すると、反乱組織のメンバーがそう大きな声をあげて国民を扇り立てる。
「エルラトラムはこの腐った王政を壊すために来たんだ。もう王族の言いなりになんてならなくていいんだっ」
「でも、どうすればいいのよ」
「これから考えればいいだろ。それよりも魔族によって腐り始めたこの王国が滅びなかったことを喜べよっ」
話には聞いていた。
この国が崩壊し始めていると彼ら反乱組織はずっと伝えていた。そのことを薄々気付き始める人も多かったことだろう。
その原因が魔族であり、その根源を断ち切るために彼らエルラトラム聖騎士団が来たのだと。
「そうです。私は王族である身です。この魔族による負の連鎖を剣聖含め、聖騎士団の手で断ち切ったのです。それが私の、王族のすべき最後の使命でした」
そう言って私は自分の聖剣を突き上げる。
「私はこの国の王であると同時に、この国に生きる人間です。この国の未来はこの国に生きる人間みんなで決めるべきこと。よって、これからはエルラトラムの支援を受け入れ、新たに自立する未来を共に作りましょうっ」
私の伝えたいことを最後に伝えると反乱組織のメンバーが大きな声で歓声を上げる。
それに釣られるようにして他の人たちも歓声を上げた。
まだ完全に理解していない人も多い中、この流れを止めてはいけないのだ。
そして、この国は新たな未来へと歩み始める。これが私の王族としての最後の務めなのだから。
国民たちの歓声は徐々に大きくなっていく。
その声を背に私たちは城の中に入っていくことにした。
あとはあの反乱組織の人たちがうまく広めてくれることだろう。それにミリシアたちも妙な連中がいないかも見張ってくれている。
主に魔族による監視がないかを見てくれているのだ。
彼らがいなければ安全に私が自由に発言できなかった。
「……かなりの盛り上がりだな」
「そうですね。反乱組織の方々は剣聖含め聖騎士団の活躍を直で見ているのですから」
「それもあるでしょうが、やはりラフィン王女自身の人気も高いのだと思います」
確かにそれも一つの要因なのかもしれない。
ここに参加していた人の中には私のことを不信に思っていた人もいたのだろう。しかし、それでも多くの人は私のことを信じてくれていた。
そのこともあり私の発言が多くの人に受け入れてくれたのかもしれない。
そう思うと私のやっていたことは国民の心を一つにする礎のようなものにでもなっていたのかもしれない。
「ただ、問題はこれからです。この国の民主化は難しいのでしょう。そのためにはエルラトラムの制度を取り入れるしかありません」
「そのためならアレイシアも全力を尽くすだろう。協力し合える国が増えると言うのは俺たち人類にとっても有利でしかない」
「はい。私たちは応援させていただきます」
「本当に頼もしい限りです。さすがは私のフィアンセです」
そう言うとリーリアは頬を少し膨らませムッとした表情を私に見せるが、それ以上のことは言わない。
なぜなら婚約者というのは事実なのだから。
この場ぐらいは悪戯をしてもいいだろう。
◆◆◆
私、ルージュはまだ牢屋へと閉じ込められていた。
外ではどうやら婚約発表会なるものを行なっているらしい。魔族と戦争状態にあるのになんとも悠長なものだ。
ただ、それをすることで何かが変わるのなら、おそらくはそれが狙いなのだろう。
私の腕に付けられた包帯はもう取れている。回復にはだいぶ時間が掛かったが、聖騎士団の人が傷口をある程度治療してくれたためにもう包帯はいらない。
もちろん、痛みはまだあるのだけど。
「ルージュ、でしたね」
そんな痛みに鬱陶しさを感じながら、天井を見上げていると牢屋へとアイリスがやってきた。
彼女は剣聖の妹として今は生活しているようだ。
「あら、エレインの横にはいないのね」
「私もずっとお兄様の近くにいるわけではございません。それよりも少しお話ししましょう」
「……もう話すことなんてないわ」
「私にはあります。本当にお兄様は神の子なのですか?」
「言ったでしょ。混沌の時代に生まれたのよ。あなたは少し違うようだけど」
「そこです。私は一体何者なのですか」
そう言って彼女は私へと強く視線を向けて問いかける。
誰しも自分の正体について知りたいものなのだろうか。
ただ、私も彼女についてはそこまで詳しいわけではない。ただ、一つ言えるとしたら、彼女はエレインが形成される際の副産物だ。
「エレイン自身が生まれるとき、あなたも少し遅れて形成されたの。主に副産物ね」
「それは一体どういうことなのですか?」
神話の世界をほとんど知らない彼女からすると、そのような疑問を思い浮かべるのは自然なことだ。
エレインの暴走を防ぐために創造神が彼の能力の一部を複製して作り上げた存在だ。
「彼を制御するために作られたのよ。もちろん、あなた自身にその能力の自覚はないみたいだけどね」
「……私がお兄様を制御する、ですか?」
「ええ、まぁ母体となった存在は私もよくは知らないわ」
正直なところ知っている。
ただ、そのことを今彼女に伝えるべきではないだろう。
知るべき時期がきっと訪れる。その時に彼女は理解するはずだ。
わざわざ私から情報を得なくとも、運命と言うのはすでに決まっているのだから。
「とは言ってもあなたがエレインの妹だと言うのならそれでいいんじゃないかしら。大体は兄妹みたいなものだし」
「……そうなのですね。それはよかったです」
「だけど、注意してほしいことがあるの。あなたはエレインにはなれないし、エレインに近づくこともできないの」
「理解しています。ですが、一歩でも近づけるのなら、私はこのまま妹を続けるつもりです」
「ならせいぜい頑張ることね。一度は死にかけることになるかもしれないけど」
「覚悟の上です」
どうやら彼女は本当に死ぬ気でエレインに近づこうとしているようだ。
人間が神になるなど、普通であれば難しいものだ。不可能というわけではないのだろうが、それを目指すこと自体異常と言ってもいいだろう。
それでも彼女なら成し遂げられるのかもしれない。現状、最も神に近い人間なのだから。
こんにちは、結坂有です。
ついにラフィンの婚約発表を通じて、ドルタナ王国のあるべき未来を国民に伝えることができましたね。
エルラトラムの支援を受け、これからこの国が良い方向へと向かうといいですね。
そして、今回にてこの章は終わりとなります。
次章は『人ではない力』です。
人間と魔族とが入り混じる複雑な回ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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