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まだ見えぬ未来への階段

 エレインと話を終えた私は自室へと戻って発表会に向けての身支度をしていた。

 基本的に王族というのは使用人などが身支度をしてくれるのだが、今のこの状況では使用人を使うのはできない。

 その理由としては、まだ本城の復旧が不完全な場所があるからだ。当然ながら、その部分を復旧したり、直したりする方が急務である。

 それに服を着替えたりするぐらい、自分で出来る。


「……楽しそうね」


 そんな私の身支度を遠目で見ていた姉、ジェビリーがそう話しかけてきた。

 私と姉とではこの部屋で寝泊まりをしている。聖騎士団としても二人が同じ部屋にいると警護もしやすいからだ。

 もちろん、部屋の大きさはかなりある。二人で生活するには十分過ぎるほどだ。


「そう見えますか?」

「ええ、最初に会った時とは大違い」

「どこか、変ですか?」

「変というか、ちょっと羨ましいわね」


 姉はそう一瞬だけ目を逸らして言った。

 私のどう言ったところが羨ましいのだろうか。私だって才能のある姉に対して羨望の眼差しを向けたことは一度だけではない。


「どういうところが、ですか?」

「そこまで好きになれる人ができるなんて素晴らしいことよ? 王族なんて制限されることが多いでしょ?」

「……恋愛的な話ですか?」

「ええ、私だって普通の女の子よ」


 そういう彼女ではあるが、私から見た姉は理想の王にも感じていた。私は姉の才能に惹かれていた。ただ、それだけだったのかもしれない。

 私は姉を個人としてあまり見れていないのだろう。


「そう、ですか。ではお姉様も剣聖とお会いになられるといいです」

「え?」


 私がそう提案すると彼女は私の聞いたことのない声色を上げた。


「……ごめんなさい。変な声が出たわね」

「そこまで驚くことですか?」

「そんな、男の人と関わりなんて持ったことなかったから驚いただけよ」


 剣聖本人と接しているわけでもないのにそこまで動揺するとは意外だった。

 そんな姉の姿は今まで見たことがなかったのだ。姉の意外な一面が見れて少しだけ嬉しい。

 もしかしたら、本人とあわせるともっと動揺するのだろうか。


「剣の鍛錬では男の人としていたと記憶していますが、その方々とはどうなのですか?」

「た、ただの訓練相手よ。それに特級剣士の人たちはなんだから、私の嫌な人ばかりなのよ」


 そういえば、そんな話をしていたような気がする。特級剣士は剣術競技にばかり集中しすぎて本来の目的を見失っている、なんて話を彼女から何度も聞かされた。

 技術を学ぶために接していただけで、友好関係を築こうだとかは一切考えていなかったのかもしれない。

 それに、相手の方も王族だからと言って必要以上に近づこうとはしなかっただろう。

 なら、必要以上に親密になるなんてことは起きないか。


「確かに親密になるのは難しいのかもしれませんね」

「……そういうラフィンはどうやって親しくなれたのよ」


 すると、彼女は前のめりになって私の表情を覗き込むようにしてそう質問してきた。

 私と彼とが出会ったのは本当に偶然だったのだろう。

 私が亡命したあと、聞いた話ではその時たまたま剣聖が議会にいたらしい。

 ちょうどそこへ私が議会へと到着し、そのままアレイシア議長と面会するという流れになったのだ。

 エレインは基本的に議会へと顔を出さないようだ。本当に運が良かったのかもしれない。


「その場の流れと言いますか、本当に運が良かったのでしょう」

「じゃ私にはそういう男運がなかったということね」

「いえ、そういうわけではないと思いますが……」


 そもそも今回の婚約に関しては政略的な意味での決定が多い。本当の意味でお付き合いをするわけでもないのだ。


「今回の婚約発表は政略的な意味合いが大きいのです。それは前にも言ったと思います」

「それでもよ。婚約しようと言えるような関係だったのでしょ?」

「そんな、私も少々強引な手段だと思っていましたよ」

「強引、ね。疎そうなのに意外ね」


 彼女の言うように私は恋愛的に疎いのかもしれない。少々常識外れなことをしているのかもしれない。

 それでも事をうまく運べるよう努力しているつもりだ。

 その点では、私よりも彼女の方が上手に立ち回れるはずだ。今までの彼女の言動や性格からは間違いない。


「境遇が反対でしたら、私よりも動けていたと思いますよ」

「わ、私なんて男の人と私的なお付き合いなんてした事ないし、無理よ」

「私も初めてでした。きっと大丈夫ですよ」


 私がそう言うと彼女は次第に頬を赤く染め始める。

 何に緊張しているのだろうか。ただ、やってみると案外簡単なことは多い。

 案ずるより産むが易しと古くから言う。


「そんなことないわ」

「では、今度一緒に食事でもしましょう。彼なら来てくれると思いますよ?」

「……急に言われても」

「後で伝えておきます」

「え?」

「大丈夫です」


 私がそういうと彼女はほんの少しだけ頬を膨らませて抗議の意を示すものの、言葉が出ないのか、それ以上は何もなかった。

 時計を見てみるとそろそろ発表会の時間が迫っている。

 私は上着を羽織り、最後の身支度を始める。


「もう行くのかしら?」

「はい。そろそろ時間です。聖騎士団が地下の通路を確保してくれていますので、そこから本城へと戻ります」

「そう、私はここでお留守番ってわけね」

「発表が終わりましたらすぐに戻ります。その時は剣聖とお話ししましょう」

「……本気なのね。じゃ私はここで心の準備でもしておくわ」


 心の準備と言ってもそこまで気負うほどのことでもないだろう。


「それでは、行ってきます」

「気をつけてね」


 それから私は地下の通路を聖騎士団の方々に案内されながら、本城へと向かう。

 道中、私は国民のみんなに伝えることをまとめたメモへと目を通していた。

 そんなことをしているとすぐに本城へと辿り着く。


「ラフィン王女殿下、本当に生きていらしたのですね」


 本城へと入ると、すぐに私のことをよく知る使用人と再開した。

 彼とは何度か会話した事がある。そういえば、私のこの衣装を作っていたはずだ。


「お久しぶりです。この素晴らしい衣装を作っていただいた方ですね」

「よく覚えていますね。もう何ヶ月も前の話ですのに」

「皆さんのことは忘れません。私はこの国の王族なのですから」

「その誠実さには驚かされます。噂が流れた時はどうなることかと思いました。ご無事で何よりです」


 今着ているこの衣装はこの国の古くからある正装で、さまざまな生地を複雑に編み込むようにして作られている。そうすることで立体的に色が重なり、美しくも丈夫な服が完成する。

 もちろん、高度な技術力を要する上に美的センスも求められる。

 仕立て職人である彼にはこれからも精進していただきたいものだ。


「そろそろお時間です。こちらへ」


 そんな使用人との会話も束の間、すぐにバルコニーの方へと案内される。

 そこまでの廊下は綺麗に整備されている。しかし、少し奥へと目を向けるとまだ瓦礫が残っている部分もあり、激しい戦闘があったことを物語っている。


「ラフィンか」


 バルコニーへの階段の手前でエレインと出会った。彼のメイドのリーリアもどうやら来ているようだ。

 彼女は私をみるなり小さく礼をする。


「早かったのですね」

「俺もさっき来たばかりだ」

「そうなのですね。あの地下通路は使わなかったのですか?」

「ああ、俺たちは地上の道を使ってきた」


 どう言う理由かはわからないが、私が自室に戻った後、何かしていたのだろうか。

 詳しく説明しないところを見るに、何をしていたのかはおそらく昨日のことと同じで秘密のようだ。


「わかりました。では、行きましょうか」


 私がそう言って階段へと足をかけると彼も同じように付いてくる。

 これから国民に向けて婚約発表をするのだ。

 次第に高まる鼓動に負けないよう、大きく深呼吸をしてバルコニーへと上がる。

こんにちは、結坂有です。


ついにラフィンとエレインとの婚約発表(政略的ですが)となります。

ラフィンと国民とは無事打ち解ける事ができるのでしょうか。

ドルタナ王国は徐々に変革への道を辿っていますね。


そして、次回にてこの章は終わりとなります。

次章は人と人、魔族と魔族との戦い……そしてそれらが入り混じるような複雑な章となりそうです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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