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未知の理想郷

 私、ルージュは両腕に包帯を巻かれた状態で牢屋に入れられていた。

 ジティーラがエレインと接触したことで彼ら二人とも気を失ってしまった。その接触を阻止しようとミリシアと言う女性が間に入ろうとしたのを私が止めたために私とジティーラが牢屋に入れられたのだ。

 当然のことだと私は思っている。彼ら人類からすれば私たちが何か悪いことをしたのではないかと考えているからだ。

 牢屋の外へと視線を向けると二人の聖騎士団、私を見張るようにして一本の魔剣が立てかけられている。

 それらに加えて、私の影には魔剣が突き刺さっている。

 この魔剣のせいで私は自由に幻影結界術を使うことはできない。

 私と共に付いてきたジティーラは無傷の状態ですぐ近くのベッドで眠っている。

 それにしてもあのような形で気を失ってしまうとは想像もしていなかった。

 二人が倒れた後、私の知っているエレインの情報を人類側に教えることにした。小さき盾と名乗る三人はずっと疑ったままであったが、メイド服のリーリアと妹だと名乗るアイリスは納得している様子だった。

 ともかく、エレインのことに関しては聖騎士団でも極秘扱いにするつもりらしい。おそらくエルラトラムに戻っても彼の本性は伏せられることだろう。


「……ここは?」


 そんなことを考えているとジティーラが目を覚ましたようだ。

 動けない私は顔だけ彼女の方へと向ける。

 無傷だとはいえ、硬い床に倒れたのだ。どこか痛むところがないか確認しなければいけない。


「目が覚めたのね」

「はい。何か、夢でも見ていたような感覚です」

「でしょうね。ところで、痛いところとかない?」

「今のところは、大丈夫みたいです」


 勢いよく倒れ込んだためにどこか痛めていると思っていたが、その華奢な見た目とは裏腹に丈夫な体をしているらしい。

 ただ、そんなことよりもエレインとの接触で何か変わったことがないのだろうか。


「そう、エレインと触れてどうだった?」

「よくわかりません。ですが、うまく話すことができたように思います」

「自分が話したわけじゃないの?」

「どうでしょうか。私にもわからないのです。それでもうまく話せたと自信を持って言えます」


 まぁ私としてもどのようなことが起きたのか全くわからない。

 そもそも滅神の思念が封印されているジティーラが触れることで何が起きるかも想像できないのだ。

 彼女が上手くいったと思うのなら、その言葉を信じるしかないか。

 深掘りしたところでこれ以上詳しい話ができるとは思えない。


「それにしても、これからどうする?」

「え? 何も考えていないのですか?」


 私がそう質問すると、彼女は若干ながら呆れたような表情で返してきた。

 あのようなことをしたために捕まると言うのは自然な話なのだが、それにしてもここまで厳重に捉えられては抜け出すのも難しい。

 それに運よく抜け出せたとしても小さき盾を振り払えるほどの体力は今の私には残っていない。

 あのアイリスも非常に厄介と言える。無論、エレインに目を付けられては生きて魔族領に戻ることは不可能に近い。

 となると、私たちはこのまま捕虜として人類側に居座り続けることになるのだろう。


「どう考えても抜け出せそうにないし、このまま捕虜になるのかもしれないわね」

「捕虜、ですか。命の保証はあるのでしょうか」

「命は保証するよ」


 そうジティーラが言うと鉄格子の奥から爽やかな男の声が聞こえた。

 彼は私たちに話しかけてきたアレクという男の人だ。小さき盾の一員のようで、とてつもなく実力が高いと言える。

 ただ、彼からは少し違った雰囲気を感じる。どこか懐かしい風格さえあるのだが、詳しいことはよくわからないし、覚えていない。


「魔族を領地の中に入れておくのは危険だと思うけれど?」


 私たちの命を保証すると彼は言った。そんな彼の言葉に対して、私は少し疑問を持った。

 当然ではあるが、私たちは相手からすれば敵である。それも能力をある程度使える能力持ちだと言うことも理解していることだろう。

 であるのなら、そんな危険因子は早々に排除しておくに越したことはないはずだ。

 ドルタナ王国の安全を確保したいのなら尚更だろう。


「今の状況で君たちが脱走できるとは思えないけれどね」


 私の得意とする幻影結界術はアイリスの持つ魔剣によって封じられている。ジティーラはそもそも戦えるほどの力がない。

 となれば私たちが無事に脱出する方法なんて一つもないわけだ。


「予想外だったかな? こんなにあっさり捕まるとは思っていなかったみたいだけど」

「ええ、当然でしょ? 私は魔の力をある程度消すことができるのよ。まさか気配で気付かれるとは考えていなかったわ」

「……そのジティーラと言う女性は魔族ではないかい?」


 すると、彼はベッドに座っている彼女へと視線を向けてそう質問した。


「はい。私は魔族とも人間とも言えない存在です。分類的には精霊に当たるのですが、それも正確とは言えません」

「まぁ要するに過去に暴走した神を封印するために作られた器のようなものよ」

「なるほど、君の言っていた滅神と言うのが実在していたのなら、僕も少し気になるよ」


 彼や他の人たちにはエレインの過去に纏わる話を聞かせた。

 その内容というのは、彼は剣神と滅神の存在力の一部を基にして作られた存在であり、当時は神に近い存在であったが、創造神によって人間へと作り変えられてしまった。

 それでもエレインの力を完全に抑制することはできず、封印させたと言うのがこと神話の時代の話だ。

 これ以上のことは私にも知らない。

 エレインの持つ正確な能力も私にはまだ理解できていない。

 それで、彼からは滅神窟と言う言葉が出てきた。

 そのようないわやがあるとは初めて聞いたが、どうやら帝国が滅びるまでは存在していたのだろう。

 どうやら帝国の人間はその滅神窟と言うのを管理していたようだ。


「……悪いけれど、私もその滅神窟は知らないのよ」

「うん。わかってるよ。だけど、その窟からエレインが発見されたのだとしたらどうかな」

「どう言うこと?」

「封印されたと言っていたね。エレインはそこから発見されたとしたら自然じゃないかな?」


 そういえば、ジティーラも洞窟の中に眠っていたとゼイガイアが言っていた。

 それならエレインも似たような場所に封印されていたと言うのはそうなのかもしれない。

 ただ、そうなってくると魔族界を牛耳っている帝位の連中が何も知らないと言うことはあり得ない話だ。

 そのようなエレインという存在を彼ら帝位が放っておくはずがない。封印されているのならその場所を見つけ出すのに必死になっていたはず。


「……帝国を狙ったのはそのせい?」

「何の話かな?」

「何でもないわ。まだ確定したわけでもないし、ただ、その滅神窟には私も興味があるわね」

「エレインが眠っていたのだとしたら、私も興味があります」


 すると、話を聞いていたジティーラもそう小さくだが言った。

 彼女はエレインに対してどう思っているのかはまだわからないが、興味のある対象であるのには間違いない。

 それに滅神の思念が宿っているのだとしたら、興味以上の感情を抱いているのはずだ。

 少なくともジティーラはもう一度彼に会うべきだ。


「その窟がまだ残っていればの話だけどね」

「ま、そうよね」


 彼が言うように帝国が証拠の隠滅を図ったのだとしたら、もう残っているわけもないだろう。

 あの帝国がそんな証拠を残すようなことをするとは考えられないからだ。


「その、またエレインとお話しできるのでしょうか」

「エレインとかい?」

「はい。まだ私自身まともに会話できていませんので」

「……それは難しいね。安全が保証できるのなら話ぐらいはさせてあげるよ」

「おそらく、大丈夫だとは思います」

「信じてあげたいけれど、あんなことがあった後だからね」


 それは仕方ないと言える。あのように二人とも倒れるとは考えていなかったからだ。

 とはいえ、近い内には話ができるようになるだろう。


「とりあえずラフィン王女の婚約発表が終わるまではここに監禁させてもらうよ」

「そう、魔族を匿いながら婚約発表ってね。悠長なものね」


 私がそうため息混じりに言うと、彼は小さく微笑みながら口を開いた。


「それもこの国のためなんだよ」


 その優しい表情を残して彼は牢屋から出ていった。

 私の理想とする世界を作るにはまだ少し時間がかかりそうだ。

こんにちは、結坂有です。


果たしてルージュの思い浮かべる理想郷というのは一体どう言ったものなのでしょうか。そして、それは実現するのでしょうか。

気になるところですね。

それにしても、エレインという存在がどういうものなのかも気になりますね。セルバン帝国に眠る謎は解明されるのか、期待ですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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