神をも超える力
神話の時代、俺は神の力を元に作られた存在のようだ。
もちろん、その話が本当なのかどうか自分の目で確かめることは不可能ではあるが、目の前の神はそうだと言っている。それも二人は俺の親となるような存在のようだ。
「神の力から作られたと言うことは俺もそのような力を持っていると言うことなのか?」
「はい。私たち天界の言葉で言えば、”滅却”に相当する力を持っています」
「そうなんだが、その力はこの下界ではほとんど使い物にならねぇだろうな」
「神の力は下界で扱えないと言うことか」
とある例外を除けば、神の力は俺たちがいる下界ではまともに扱えないようだ。ただ、大きな制限があるものの、全く使い物にならないと言うこともないだろう。
精霊の持つ能力も神から譲り受けたもの、彼ら精霊と同じように制約の中でなら扱えるのかもしれない。
「全く使えないと言うこともないだろう。すでにお前はその能力を扱えているわけだからな」
「そのような自覚はないんだが」
「貴方は経験があるはずです。滅びゆく対象を見つけ出すと言うことは幾度となくできていることでしょう」
「どう言う意味なんだ?」
「要するに、倒す相手を見つけられるってことだ。目の前にいなくとも感じることができるのだろう?」
剣神の言うように俺は相手を目視しなくとも気配などで感じ取ることができる。
もちろん、音や空気の流れといった他の方法でもできるが、俺の場合はほとんど気配と言った感覚で見つけ出していることが多い。
その力が神譲りの力の片鱗なのだろうか。
「……なら、魔族が消し飛んだのもその力が原因なのか?」
「内にある滅却の因子を放つことで相手を消し去る攻撃ですね。非常に強力なものではございますが、今の貴方には難しいのかもしれません」
あの大軍勢と戦っている時に聞いた声とおそらく関係があるのだろう。
我が身を宿す者、それは俺の内にある滅却と言う神に匹敵する能力のことなのだろう。
と言うことはあの時、俺はその滅却の力と言うものに飲み込まれていたと言うことになる。
「その力を制御することはできるのか?』
「人間である以上は難しいだろうな」
「暴走は私たち神にでもあることです」
「ああ、邪神の暴走ならお前も見たことがあるだろう」
確かに天界での悲劇は邪神の暴走によるものが原因だったようだ。無数の魔族が放出され、パワーバランスが崩壊したことが天界の危機を招くことに繋がった。
おそらくは俺もそれに飲み込まれそうになっていたのだろう。
それをアイリスが身を挺して戻してくれたのだろう。あのまま俺が暴走してしまっていたら一体どうなっていたことか。
「その暴走は防ぐことはできるのか?」
「……ありますが、それは原因がはっきりとわかっている場合に限ります」
「そうだな。ほとんどの場合、原因がわからないから暴走するもんだ」
確かに制御するには原因がはっきりとわかっていなければいけない。
俺の場合は明確な原因というものが今のところわかっていないのだ。当然ながら、その状況で対処法を探るのは難しい。
「大抵、暴走には予兆があるものです。その時は気を付けて行動するようにしてください」
「まぁそうとしか言えねぇな」
明確な原因がわからないのだとしたら、そうとしか答えられないか。そもそもそのような暴走が止められるのだとしたら、天界での悲劇は起こらなかったはずだ。
「ただ、これだけは言える。お前のその力は神をも超える力となり得る。混沌から生まれたお前は俺たち神ですら未知数なんだからな」
「本来であれば、私が側にいればいいのですが……」
「別の女に封印されている状況では何もできねぇだろ」
思い返してみれば、ルージュの連れてきた女性に触れてこの空間に飛ばされた。
おそらくは彼女にこのエルラディスの思念が宿っているのだろうか。今は神の力を発揮することはできないが、その思いや記憶と言ったものはまだ残っているらしい。
存在の力と言うのはそれほどに強力なようだ。
「とまぁ、話し込んでしまったが、そろそろ時間だな」
「もう少し話していたいところです。あの時のように平穏な世界で二人一緒に過ごしたいです」
「思い出話はまた今度にしろ。長く話していたら拒絶反応が起きるだろう」
どう言うわけか、長時間の接触は制限されているらしい。
俺としても詳しい話が聞きたいところではあるが、それは神々の制約とやらでできないのだろう。
「残念です。ただ、これだけは伝えておきます。私は貴方の味方です。貴方の器が完成し、融合することができれば、私は貴方に最大の力を与えます」
滅神エルラディスがそう言うと俺の視界が白くなり、再び意識が朦朧とし始める。
真っ白になった視界が次第に色を取り戻し、気がつくと俺はアイリスの部屋で寝ていた。
俺の横にはアイリスが椅子に腰をかけ、俺の手を握りながら眠っている。窓を見てみるともうすでに深夜になっているのだろうか。全く光が見えない。
「……んっ、お兄、さま?」
「起こしたか」
「っ! お体に異常はありませんか? どこか痛いところとか?」
「今のところ大丈夫だ。心配かけたな」
「よかったです」
周りを見渡してみると俺とアイリス以外に誰もいないようだ。そもそもここは小さな一室であるため、何人も人が集まるような場所ではない。
俺に触れたジティーラも同じく倒れたと思うのだが、彼女は別のところにいるのだろうか。
「あの女性はどうしたんだ?」
「ルージュと一緒に監禁しております。あの魔族は幻影を扱えるために私の魔剣で影を固定しています。加えて聖騎士団と小さき盾とで見張りしてくれています」
「なるほど、それで剣を持っていないんだな」
部屋を見渡した時に気づいたのだが、今のアイリスは魔剣を所持していない様子だ。
「お兄様の魔剣ですが、同じく魔族を監禁している場所に置いています」
「脱走を防ぐにはその方がいいだろうな」
「……ただ、彼女は本当に私たちの味方なのでしょうか」
「今の時点ではなんとも言えない。詳しく話を聞いてみたいところだ」
話を聞きに向かってもいいのだが、もうこんな時間だ。
今日は一旦休むとして、明日の朝にでも話を聞けばいいだろう。ルージュに関してはおそらく俺たちに協力するはずだ。それなら焦る必要もない。
そのことよりも、暴走しないよう気を付ける必要がある。
具体的にどうするのかは全く考えていないが、無理をしないと言うのは大前提だろう。
今はゆっくりと体を休めておく方がいい。
「その、まだ体を休めるべきだと思います」
「ああ、そのつもりだ」
「でしたら、その……一緒に寝てもよろしいでしょうか」
「構わない。いつもそうだっただろ?」
「はいっ」
俺がそういうと彼女は表情を明るくして大きく頷いた。
その時の彼女は子どものように可愛らしい仕草をしていた。彼女の見せるそのあどけない言動はまさしく妹らしいと言える。
もちろん、彼女は意図してそのようなことをしているわけではない。自然とそのような仕草をしてしまうのだろう。
彼女はゆっくりと椅子から立ち上がると、そのまま俺の横へと潜り込むようにしてベッドに入る。
「温かいです」
そう言って彼女は俺の腕を軽く抱きしめるようにして密着してくる。
このベッドは一人用と言うことで二人で入ると少しばかり窮屈ではある。ただ、こうして密着して寝れば問題はない。
俺もそのアイリスの温もりを感じながら、再び瞼を閉じることにした。
こんにちは、結坂有です。
エレインの内に秘められた力はどうやら神をも超えるもののようです。
あの剣神が言うぐらいですから、とても強いものなのでしょうか。
そして、エレインのこれからについても気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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