表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
631/675

禁じられた出会い

 それから私とジティーラはアレクたちに身体を調べられた後、いわゆる隠れ城なる場所へと連れて行かれた。

 どうやらここが彼らの本拠地としている場所らしい。

 見たところ、重厚な城壁などがあるわけでもないが、ここまでの数の聖騎士団が警備していれば簡単に突破することは不可能だ。正直、このような場所があること自体私は知らなかったわけだし、あったとしてもここまで支配されていたとなればもはや奪還は容易くできない。

 ただ、一つ可能性があるとすれば、あのアロットとか言うクズが計画的に撤退したと言っていたために何らかの策があるのだろうか。

 何も考えていないということもあるが、あの女がそのような無策をすることはないか。


「アレクさん、その方は……」


 その隠れ城の城門を超えたあたりで控えめではあるが、可愛らしいメイド服に身を包んだ女性が話しかけてきた。


「彼女は魔族だよ」

「捕虜、と言うことですね」

「今はそのような状況で捉えてくれていいよ。とりあえず、彼女は僕たちに協力したいと言ってくれているからね」

「はい。あなたたちが生き残る道を私たちも一緒に考えようと、そう考えています」

「……まぁ生き残る道で正しいかな」


 私もジティーラの話に同意する形でそう話してみる。

 すると、目の前のメイドは鋭い目で私の方を一瞬見たものの、すぐにその視線はアレクの方へと移る。


「嘘は言っている様子ではありません。ですが、油断はしないでください」

「わかっているよ。それよりエレインはどこに?」

「エレイン様はアイリス様の介抱をされています」

「そうか。とりあえず、彼と話し合ってみるよ」

「わかりました。私はこの報告書をアドリス団長のところへと持って行かなければいけませんから」


 どうやら彼女の携えている報告書というものは今回の作戦の被害報告のようだ。一瞬だけ見えた数字が想像していたよりも少ないことは驚きだったが、気のせいかもしれない。


「後で戻ってくるのね?」

「そうする予定です」

「じゃ、先に私たちはエレインと話しておくわ」

「はい。なるべくすぐ向かいます」


 そう言ってそのメイドは奥の離れへと向かった。

 どうやら団長と呼ばれる人は城の中央にいるわけではなく、別の場所にいるようだ。ただ、私たちは彼らの敵というわけではない。そのようなことを考えるのは野暮と言えるか。

 それより、ここにいるとどうしても緊張してしまう。今私たちが妙な動きでもしようものなら、命はないと言えるだろう。

 私だけならともかくジティーラまでも危険に晒すことになる。それでは私の計画は台無しだ。

 少なくとも私は私自身の危険ではなく、ジティーラの身の危険の方を危惧している。私はここで間違っても怪しい行動は避けなければいけない。


「……エレインと話したいらしいけれど、一体何を話すの?」


 そんなことを考えながら、城の中を歩いているとミリシアがそう話しかけてきた。

 彼女は私が思っている以上に賢い頭脳をしている。そのことは道中話を聞いていてわかっていることだ。ここで変な答えをしては怪しまれてしまう。

 それなら正直に答えた方がいいだろう。


「用があるのは正確には私じゃないの。横にいるジティーラ、彼女が話したいのよ」

「ふーん、どんなようなの?」


 そう答えるとジティーラは一瞬戸惑った表情をしたが、彼女自身何も考えていなかったというわけではなく、すぐに真っ直ぐとミリシアの方を向いて話し始めた。


「私は彼と会わないといけません。前身の話ですが、私は彼に触れなければいけないのです」

「というわけ」

「どういうわけよ」

「人間は前世を信じないなんて聞くけど、ジティーラとエレインとではその前世とやらでとある関係にあったのよ」


 そう、少なくともジティーラの前身はエレインと大きく関係のある神だった。

 そんな彼女が長い年月で甦ったエレインと再会したいと思うのは当然の摂理と言える。そして、それは新たな時代の幕開けとも言える。

 世界の均衡は保たなければいけないのだから。


「……怪しい話ね。そもそも私たちと魔族とでは生きてる年数も違うわけだし」

「信じなくてもいいわよ。出会って何もなかったらそれまでよ」

「いいえ、私は感じています。エレインがここにいて、次第にそれが強くなっているのが」

「あの奥の部屋がアイリスの部屋だったね」

「ええ、意外と早いものね」


 城の中に入ってまだ十数分しか経っていない。

 もう少し奥の部屋にいるのかと思ったが、どうやらそうでもなかったらしい。

 ともかく、あの部屋に入ってエレインと話をするだけで私の目的の一つは達成される。

 そして、その部屋が近づくにつれ、私の心拍数も次第に上がっていく。おそらくそれは横を歩いているジティーラも同じことだろう。

 何が起きるのかはわからない。きっとゼイガイアも何かは起きるだろうと考えている。それがいいことなのか、悪いことなのかは今の段階ではわからない。

 しかし、今の腐ったこの均衡を崩壊させなければ、変革は生まれない。


「エレイン、入っていいかしら」


 すると、ミリシアがそう扉をノックしながら言った。


「ああ、構わない」


 部屋の中から返事をしたのはエレインの声で間違いない。彼の声は何度か聞いた。

 ミリシアがゆっくりと扉を開けると、そこには幻影の中で見た彼が座っていた。そして、ベッドにはアイリスがいた。


「……魔族か?」

「うん。そうだよ。だけど、彼女がどうしても話がしたいらしくてね」

「ルージュ、間違いありませんか?」


 ベッドの中からアイリスがそう私に話しかけてきた。どうやら私の名前を覚えていたようだ。確かにとてつもない実力を持っているのは間違いない。なぜなら、母体がとてつもなく強かったから。

 それはともかく、今はエレインが重要だ。

 彼は不滅の対象と出会っていないようだ。それなら力もまだ覚醒していないだろうし、本当の意味で彼は自分を取り戻すことができないだろう。


「ええ、そうよ。だけど、勘違いしないで欲しいの。私は何もあなたたちを……」


 そう言いかけた途端、横に立っていたジティーラが急に歩き始めた。


「……エレイン、やっと会えました」

「やっと会えたと言うのはどういう意味だ?」


 歩き出したジティーラの目は青空を思わせる色だったものが、今は暗い紫色に輝いている。今までの彼女ではない。

 そして、次第に強まるその気配は魔族のそれではなく、滅神のそれに等しい。

 そう、彼女は前身に戻りつつある。


「お忘れになられたのですか? でしたら、一緒に戻りましょう。あの楽園に」

「ちょっと、勝手に近づくなんて……」


 ミリシアが止めに入ろうとするが、それを私が影を操り止める。


「あれ……」


 動かない足に戸惑いを見せる彼女、そして、それにいち早く察知したアイリスが私の方へと飛びかかる。

 しかし、もう遅い。

 エレインとジティーラは今、出会ってしまったのだから。


 ジュンッ!


 私の右腕がアイリスの黒い刀によって貫かれ、そのまま地面へと突き刺さる。私は跪くようにして地面に倒れる。

 その時のアイリスの目は何度も見た真紅に燃えているようだった。

 そして、それと同時にエレインとジティーラが倒れる。彼女がエレインに触れたからだ。そうなってはもうすでに対話は始まっているのだろう。

 その邪魔をさせてはならない。


「っ! 何があったのですかっ」


 すると、背後からメイドの女性も戻ってきた。


「エレインっ! 起きてよっ」


 視線を移すとミリシアという女性が必死な形相でエレインを揺り動かしている。時折、心臓マッサージをしている。


「……暗殺が目的、そうかな?」


 私の真横に立っているアレクが鋒を私の頸に向けて話しかけてくる。


「エレイン、様?」

「なんで、どうして……」

「何が、あったのですか」


 感情を失ったかのような淡々とした口調で、私の背後からメイドの女性が話しかける。


「そこに倒れている女がエレインに触れた瞬間に……っ!」


 そうアレクが言った途端、地面を力強く蹴る音が聞こえる。


「はぁああっ!」


 先ほどのメイドの女性が倒れているジティーラの元へと剣先を向ける。それを私は左腕を使って同じようにして動きを止める。


「っ! このっ、どうしてですかっ!」

「リーリア、今は力任せに動いてはダメだ」

「この、この女がいけないのです。そうなんですよねっ」

「それはわからない。だけど今は落ち着くべきだ」


 アレクの制止に表情を崩したメイドの女性が大きく深呼吸を始める。その手にした剣の輝きもより一層薄い黄色へと変化していく。


「彼と彼女の対話を邪魔してはいけない」

「黙ってくれませんか。これでも私は本気です」


 真紅に輝く瞳のアイリスが私の目を覗き込む。余計なことを話せば次こそ首が跳ね飛ばされる。

 しかし、それでも私はやらなければいけない。これ以上邪魔されては目的が、計画が崩れてしまう。


「……」

「やめるんじゃ。エレインは死んでおらん」


 すると、エレインの腰に携えてある魔剣から一体の精霊が飛び出してきた。


「っ! 心臓も呼吸もないのよっ。それのどこが死んでないっていうのよっ」

「このわしの言葉が信じられんのか」


 そう言ってその精霊は漆黒の時計仕掛けが組み込まれた異質な剣をミリシアへと向ける。


「……」


 その精霊は涙と悲しみで崩れたミリシアをその圧で黙らせると次に私の方へとその剣先を向ける。


「お前には話を聞かんとならんようじゃな。神話の時代とやらを」

「はぁ、私がこの状況でも逃げられないとでも思っているの?」

「あまり余裕ぶるなよ、魔族。わしを怒らせるとどうなるか、わからぬとは言わせんぞ」

「精霊は自ら力を使わない、そういう掟だったでしょ」


 確か精霊の掟と呼ばれるものがあった。それによれば彼ら精霊は自ら行動することができない。

 その掟に反する場合、自らの存在力が徐々に失われていく。


「怒らせるなと言った。わしがどうなろうと知ったことではない。わしの存在が消えようとも」

「……本気なの?」

「アンドレイアさん、いけません」


 続けて、剣からもう一体の精霊が飛び出してきた。


「話すわ。話すわよ。あまり言いたくはないけれどね」


 別にこれ以上長引かせる必要もない。エレインとジティーラが傷付かなければいいだけだ。

 彼らは今対話していることだろう。それにより何が生まれるのかはわからない。

 ただ、少なくとも人類と魔族の均衡は大きく崩れるのは明白だ。


「で、何から話せばいいの?」

「まずお前の望み、目的から聞かせてもらおうかの」


 そう言ってアンドレイアという精霊が問いかける。

 私はそれら質問に知り得ることだけを話すことにした。

こんにちは、結坂有です。


ついにジティーラとエレインとが出会ってしまいましたね。

二人とも気を失ってしまっているようですが、これからどうなってしまうのでしょうか。

それにしてもエレインに隠された能力というものは一体どのようなものなのか、その辺りも気になりますね。



現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ