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隠された歴史

 聖騎士団本部を襲撃し見事に失敗した僕は一度議会軍の基地へと戻っていた。

 一日も早くエレインと会って事情を聞きたい。

 そして、共に議会軍で魔族と戦いたいのだ。

 だが、それはあの鉄仮面の女に阻止された。

 それに彼女の横にいたのは何者かの分身のはず、剣に重みが感じられなかった。

 質量的な重みではないが、あれは人間の振るう剣ではないのは確かだ。


「しかし、素晴らしい功績ではないか」


 作戦は失敗したのだが、横にいるエルラトラム議員の一人は歓喜に溢れているようだ。


「失敗は失敗、それ以上もそれ以下もないよ」

「作戦の是非を言っているのではない。その義肢についてだ」


 ああ、そのことか。

 確かにこの義肢は強力なものだ。

 失った手足よりもこれの方が腕力的な意味では優れているのかもしれないな。


「扱い慣れていたつもりだったけど、これの力をうまく発揮できなかった。まだ精進が足りないみたいだよ」

「それについてはゆっくりと時間をかけていけばいいだけだ」

「時間、そんな悠長にしている場合じゃないよ」


 僕がこの義肢を扱いこなすにはまだ時間がかかるかもしれない。だけど、そんなことをしている場合ではない。

 なんとしても聖騎士団を壊滅させて、邪魔者を排除しなければいけないのだから。

 エレインとはお互いに切磋琢磨し合った仲だ。こんな為体(ていたらく)では彼に顔を合わせられない。


「……お前にどんな事情があるのか知らないがな。もう少し自分のことだけを考えた方がいいぞ」

「自分のことだけ?」

「ああ、周りに目を向けている場合ではないんじゃないか」


 確かにこの議員の言っていることは正しい。

 でも、そんな正論は僕には不要だ。

 知っている上でこうしたことをしているのだから。


「わかっているよ。そんな正論でどうにかなる次元の話じゃないからね」

「そうか、俺はこれから会議があるのでな。失礼する」


 そう言って議員は歩き出して部屋を出て行った。

 それと同時に僕はため息を吐いた。

 なんでだろう。僕の実力であればあんなの敵じゃないはずなのに、なぜ剣を躊躇(ためら)った。

 僕とエレイン以外生きているなんて考えてはいけない。

 確証がない以上、僕には何も判断できないのだから。

 それなら確実な情報にだけ目を向ければいいだけ、ただそれだけなのに……


 そんなことに思考を巡らせて何分経っただろうか。

 時間などすぐに過ぎるものだ。気にするだけ無駄、か。

 僕は時計をそろそろ朝食を食べる時間かと意識を切り替えて立ち上がる。

 すると、警報が基地内に鳴り響いた。


「なんだろう……」


 別段僕は焦ることはなかった。

 僕はこれ以上に過酷な現場を経験している。


 ゆっくりと扉を開けて、廊下の窓から様子を見ることにした。

 議会軍、またの名を討伐軍が慌ただしく防衛体制を築いている。

 その先を見てみると二人の男が立っていた。

 大きな大剣を持った大柄な男に鎖鎌のようなものを持った男だ。


「あの陣形ではすぐに瓦解するね。僕も加勢しないと」


 横一列に並んだ討伐軍は防衛体制としては一般的だ。

 しかし、相手は間合いの外から攻撃できる鎖鎌。あの武器は非常に厄介なもので、簡単に武器を無力化する。

 そしてあの大剣で無防備となった剣士にとどめを刺す。

 各個撃破されれば横一列になったところで意味を成さない。

 それなら僕が加勢することで時間を稼ぐ必要があるだろう。

 ある程度だが、自分の立ち回りを考えた後僕は聖剣を持って階段を駆け下りた。


 僕が現場にたどり着いた頃にはすでに戦闘が始まっており、現場は混乱状態であった。


「これは、いい訓練になりそうだね」


 僕は聖剣を引き抜いて駆け出した。


「お? なんだお前」

「悪いけどその大剣、いただくよ」

「なっ!」


 僕の剣撃は増幅され、強烈な一撃を繰り出すことができる。

 とても強力な能力だけど、ただそれだけではない。

 この武器の利点は剣撃の広さも変えることができるというところにある。


「はっ!」


 完全の間合い外からの攻撃に大柄な男は完全に斬られた。


「まさか……」

「もう知ってんだよ。お前の剣筋はよ」


 斬られたはずの胸部は無傷であった。

 魔族なのか、いや僕の持っている剣は聖剣だ。魔族が回復することはないはず。

 それならあの聖剣の能力なのか。

 そして、あの大柄の男は僕の剣筋に見覚えがあると言った。議会軍の人たちと何度か戦ったことがあるが、僕に近い動きをする人は誰一人見なかった。それも当然で、僕の剣術は完全に独自で編み出したものだ。

 それに僕は彼を知らない。


「不思議だね」

「オラァ!」


 大きく振りかぶった大剣はその膨大な質量に刀身を任せて振り下ろされる。


「くっ!」


 予想外な能力に僕がまさかの苦戦を強いられる。

 せめてあの聖剣の能力さえ、わかればいいのだが生憎僕にはそんな知識を持っているわけではない。

 ここは相手を変えることに……っ!

 そんなことを考えていると鎖が聖剣に纏わり付いた。


「せい!」


 鎖鎌の男がそう言うと僕の聖剣が奪われそうになる。

 力を入れている方向とは全く別の方向に力が加わる。そうすることで簡単に武器を奪うことができるのだ。

 しかし、そんなわかりやすい攻撃で僕の剣を奪うことなどできない。

 僕は聖剣の能力である”増幅”を利用して、なんとか引き止める。


「僕からそう簡単に剣は奪えない」

「おう、そうかよ。にしてもお前は動けねぇ。どうするんだ?」

「そんなの、決まってるよ」


 そう言って僕は聖剣の増幅をまた利用した。


   ◆◆◆


「おはよ。エレイン……もしかして朝練?」


 訓練場まで俺の血が付着していたため、訓練場を掃除しているとアレイシアが声をかけてきた。

 時計を見るともう朝食の時間が迫っていた。


「いや、少し汚れていたから掃除をしていただけだ」


 まだ血が付着している場所がある。アレイシアをこれ以上中に入れては気付かれてしまうな。


「朝から掃除なんて、学院に入って少し変わった?」


 早朝から大怪我を負ったなどと知れば余計な心配をかけることになる。

 彼女には俺のことで心配をかけたくないのだ。

 だから、俺は揺さぶりを含めた発言をすることにした。


「そうではない。アレイシアが快適に訓練ができるようにしているだけだ」

「っ! べ、別に訓練なんてしてないからね?」

「そうなのか。まぁ訓練はしてもいいが。無理はするな」


 するとアレイシアは顔を赤くして顔を背けた。

 そんな反応をしては嘘だと言っているようなものではないか。

 まぁいい。筋肉の緊張具合からわかっていたことだからな。


「そんなことしてないからね。朝食の準備始めてるからすぐに来てね」


 そう言って彼女は杖を突きながらリビングの方へと向かって行った。

 これで奥にある血溜まりが見つからずに済んだ。

 すぐに汚れを落として、朝食に向かおうと踵を返した瞬間そこに精霊族族長のクロノスが立っていた。


「エレイン、話す時が来たようですね」

「俺から出向こうと思っていたのだが、まさかまたこうして現れるとはな」

「……少し状況が変わったのです」


 そう言ってクロノスは顔を赤くして俯いた。

 時間を操る精霊と言っていたな。自分の予測が間違っていたことを恥じているのだろう。

 間違うと言うことは人間も精霊も同じようだ。


「気にするな。事態が急変するなどよくあることだ」

「そうですね。脅威の正体ですが、あなたに接触してきた者で間違いないです」

「なるほど、あれほどの実力を持った奴は見たことがないからな」


 すると、腰後方に携えているアンドレイアが震え出し、姿を現した。

 どうやら以前のように時間を止めてはいないようだ。


「なんじゃクロノス。また厄介ごとを人間に押し付けるのか!」

「アンドレイアさん……私たちは精霊の掟に縛られている存在です。精霊樹が決めたことは守るべきなのです」

「わかっておるがの。力あるものが精霊族を守らねばならん。クロノスじゃて掟を破ったところで消滅はせんじゃろ」


 飛び出してきたアンドレイアは饒舌になり、クロノスを責め立てている。

 どうやら彼女らは昔からなんらかの因縁があるのだろうか。


「その通りですが、私には族長としての立場があります」

「わしを追放しておいてよく言うわい。自分の地位を守りたいだけなんじゃろ?」

「いいえ、全くそのつもりは……」


 クロノスがまた俯いて顔を背ける。

 すると、間髪入れずにアンドレイアが言葉で責め立てる。


「なんじゃ、族長の立場がそんなにも快適なのかの? それでいてまたわしや主に頼みごとか? 極めて不愉快じゃ」


 アンドレイアは怒りに満ちた表情でクロノスを見つめる。

 どうやら過去に同じようなことがあったようだ。


「はい。アンドレイアさんの言う通りです。私は保身に走ってしまいました。そのことは深く謝罪します」


 そう言ってクロノスは深く頭を下げた。


「謝罪されても困る。掟を破った以上精霊族に戻ることなどできんからの」

「では、どうすればいいのでしょうか」

「……分からんのかの? もうわしらには関わらんで欲しいだけじゃ!」


 アンドレイアはそう言って剣を引き抜いてクロノスを威嚇するように切っ先を突きつけた。


「そう、ですか。関わらないで欲しいのですね……」


 そう言って振り返ったクロノスは目元に涙を溜めていた。

 あの頃のミリシアのような表情に俺はすぐに声を出した。


「待て」

「我が主よ、引き止めるでない」

「話だけは聞こう。その表情から困っているのは確かだろうからな」


 すると、アンドレイアは切っ先を俺に向ける。


「お主、何を!」


 俺はその切っ先を左手で握り込むことで止めた。


「主人の言うことが聞けないのか」

「っ! ……じゃが此奴はっ」

「俺に逆らうのか?」


 俺の手から滲み出た血が剣に滴り、アンドレイアの手を汚した。


「わかった。主に従う」


 目を背けながらそう言うと、彼女は剣を下ろした。


「なら、奥の部屋を掃除しろ」

「……仰せのままに」


 かなり萎縮させてしまったが、話を混乱させるのはよくないからな。

 ここは一旦別のことをさせることにした。


「アンドレイアが悪いことをしたな。泣くのをやめてくれ」


 すると、クロノスは手のひらで涙を拭った。


「ぞ、族長は泣きませんっ」

「強がるな。それで、どうしたんだ」


 まるでまだ幼い少女のように涙を拭いているクロノスに近づいてそう聞いた。


「精霊の力を持った人間が議会を攻撃しようとしているのです」

「そうか。それが精霊族にとっても都合が悪いのか?」

「はい。彼らは言わば掟を全て破った重罪の精霊です」


 なるほど、確かにそれは危険なのかも知れない。だが、それはアンドレイアだって同じではないだろうか。


「ほう、だが彼女も同じではないのか?」


 するとクロノスは大きく首を振ってそれを否定する。


「いいえ、アンドレイアさんは掟を破れないでいた私のために動いてくれたのです。だから自らの意思で掟を破ったあの二人とは違います」

「そう言うことか。あいつらは何を企んでいる」

「私たちと共存関係にあるエルラトラムの滅亡です。そのために議会へ攻撃を仕掛けているのです」


 そう言って鋭い目で俺を見つめる。

 先ほどの少女のような潤んだ目ではなく、族長としての威厳のある目をしている。

 それほどにあいつらを意識しているのだろうな。

 その覚悟が分かっただけでも十分だ。

 今俺が生活しているエルラトラムが滅亡するのは非常に困るからな。


「そうか、ならその協力を受けよう」

「本当、ですか?」

「この国に滅亡してもらっては困るからな」


 俺がそう言うとクロノスは深く頭を下げた。


「ありがとうございます。この御恩はいつか必ず……」

「それならアンドレイアと仲直りしろ」


 彼女は一瞬首を傾げたが、すぐに意図と汲み取ったのかすぐにまっすぐ俺の目を見据えた。


「……仲直りしてみせます」


 そう言って頭をまた下げる。

 まぁあんな口喧嘩を始めたんだ。これぐらいはしてもらわないとアンドレイアとの今後に支障が出るからな。


「それと、もう一つ。あの二体の能力について聞かせてくれ」

「ええ、お教えします」


 それから俺はクロノスからあの二体の精霊について情報を聞くことにした。

こんにちは、結坂有です。


どうやら議会軍の基地に二体の何者かが襲撃を開始したようです。

そして、アンドレイアと族長であるクロノスの関係はなんだったのでしょうか。気になるところです。

果たしてエレインは議会を守ることができるのか。


それでは次回もお楽しみに。



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