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知らせるべき事象

 それからしばらくクラーナとアギスに今までの経緯を話すことにした。

 当然ながら、私がエルラトラムでどのようなことがあったのかも彼らに説明することにした。

 ただ、アレクはリーリアとエレインたちを探しに行く相談をするため別の部屋に行った。

 エレインたちがまだ戻ってきていないと言うことは彼らには言わないでおこう。


「……エナデルトがエルラトラムに攻撃を?」

「はい。今は向こうの議会によって拘束されています」

「信じられないわ。他国に送り込むなんて……」

「そうよ。私たちはそこまで被害はなかったけれど、流石に驚いわ」


 ミリシアたちにそのことを伝えたときも驚いていた。

 それも当然で、このような戦争行為を簡単に実行するような人だとは私も思っていなかった。

 王家への忠誠心が強いと言うのはいいことなのかもしれないが、行き過ぎた忠誠も考えものだ。下手をすればエルラトラムとの全面戦争になりかねない。

 まぁ事情に関しては議会も目を瞑ってくれるのだが。


「それほどにラフィンを捕らえたかったのかしら」

「どうでしょうか。ただ、こうして聖騎士団をここに連れてくることができました」

「……さっき言ってた政略結婚ってやつ?」

「この件は違います。もちろん、最初は政略的な取引を持ち込もうとしましたが、それは杞憂に終わりました」


 私がエルラトラムへと向かった時、ドルタナ王国との統治権併合を条件に手助けをして欲しいと言うつもりだった。それが売国行為であると言うことは知っている。国民の中には私を恨む人も出てくるだろうとも覚悟していた。

 しかし、そんなことを考えたところでもう意味はない。

 私のことを信用していないのなら無理に信用させることはしたくない。

 神話めいた話で国民を騙すようなことはあまりしたくないからだ。


「というと?」

「単純にエルラトラムが善意によって成り立っていたと言うことです」

「そうよね。聖剣取引も今考えてみたらエルラトラムにとって不利益だよね」


 すると、クラーナがそう呟くようにして納得した。

 作られる聖剣の数は限られている。それを毎年のように提供しているのは直接国益になるわけではない。

 そもそも利益なんて求めていないのかもしれない。

 彼らエルラトラムは本気を出せば国の一つや二つ簡単に滅ぼすことができるのだろう。

 剣聖の圧倒的な力や四大騎士と呼ばれるような自然の摂理すらも捻じ曲げるような大聖剣を扱う者……。私たちのような小国が敵対すればどうなるかはもう言うまでもない。


「最近まではエルラトラムは自衛を優先していたけれどね。魔族領を制圧してからは今まで以上に余裕が出たのよ」

「余裕ができたって、ただでさえ生きるか死ぬかの時代なのよ?」

「私たちエルラトラムを甘く見ないでほしいわ」


 ミリシアのその言葉が非常に重く感じた。彼女がこれまで経験してきたことは私たちの想像を絶するほどのものなのだろう。

 加えて彼らがどのようにして魔族領を制圧したのかも、私たちが理解の及ばないものなのかもしれない。

 どれだけの力を持って、どれだけの技術があって、そのすべてがあの国に結集しているのだ。


「……それはそうと、ラフィンの婚約を発表することは何か意味があるの?」

「あります。私たちは変わらなければいけません。それはこの国に必要なことなのです」

「それって私たちの活動のことを言ってるの?」

「はい。国民の自主性が国を維持する鍵だと私は思っています」


 少なくともエルラトラムでは国民の自主性が担保されていた。それは平和がある程度確保されているからできることなのかもしれないが、人として自立して生きていくにはそうする他ないだろう。

 それにこの国を縛るあの伝説でこのままずっと国民を騙し続けるのは間違っている。

 国王だなどと気にせず、国民には自分たちの意思を大切に生きてほしいものだ。


「その点でも意思は一致しているようね」

「それに、私が剣聖と婚約するという衝撃的な告知とエルラトラムの考えを受け入れるという告知の両方を広めることが目的です」

「……確かにそれだとうまく広がりそうだね」


 少し考え込んだアギスは頷きながらそういった。

 私の計画は妥当だと思っている。剣聖との婚約でどれだけの国民に衝撃が広まるのか、それ自体未知数だ。

 うまくことを運ぶことができれば、先ほど言っていた国民の中での意識改革もできることだろう。


「だから、あなたたちの力が必要なのです」

「そう言う考えなら、やってみる価値はあるわね」

「じゃ私たちに協力してくれるってことかしら?」

「ええ、でも条件があるわ」


 最初からうまく実行してくれるとは思ってもいない。その条件が可能なのだとしたら何でも受け入れるべきだ。


「その条件とは何でしょうか?」

「王城の自由開放、それでどうかしら」


 そうクラーナが真剣な目で言った。

 今まで王城は王家に関係する人でしか入ることができなかった。一般人が入るには正当な理由があって事前に許可を得る必要があるのだ。

 そのことは元々考えていたことだ。エルラトラムも以前王城だった場所が議会となっているらしい。

 この国もそれに倣って開放してもいいのかもしれない。


「……構いません。ただ、どう言った理由で開放したいのですか?」

「単純よ。王城で何が行われているのか、国民は知る権利があるはずだから」

「そうですね。それなら開放しても良いでしょう。ですが、すぐにとは難しいです。そのことは後々日程を決めることにします」


 流石に王家である私やジェビリーだけでは結論づけることはできない。

 王家に仕えてきた人たちにも連絡しなければいけないからだ。


「わかったわ。それで進めましょう」

「……二人の意見は決まったようね。正式発表は王城のバルコニーで行うつもりよ」

「ええ、そのことも加えて広めるわ。アギス、行きましょう」

「そうだね」


 そう言って彼女たちはこの寝室を出た。

 うまくことを進めてくれることを祈るばかりだ。それにエレインたちも早く戻ってきてもらう必要がある。

 いつまでも戻ってこないままでは私の正式な発表ができないままだ。


「はぁ、うまく行くといいわね」

「そうですね。そればかりは祈るぐらいしかできません」

「ええ、ジェビリーにも伝えた方がいいわ」

「お姉様には私から伝えておきます」

「……助かるわ」


 それから私も一礼して寝室を後にした。

 本当はと言うと私の表情をあまり見られたくなかったのだ。だから、早くこの部屋を出たかった。

 彼女には政略的な意味での婚約とだけ伝えている。これが私の願望の一つであるとは気付かれてはいけない気がする。

 剣聖と結婚することは不可能なのかもしれないが、最初の婚約者にはなれたのだ。

 少しは自分を誇ってもいいのだろうか。

 ふと廊下にある鏡に視線を向ける。


「——っ」


 自分の表情は顔だけでなく耳まで赤くなっている。

 早めに彼女の部屋から出れてよかったと言えるだろう。

 それより早くお姉様に相談しなければ……

 私は頬を軽く叩いてお姉様のいるところへと向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


ついにエレインとラフィンとの婚約発表ですね。

しかし、肝心のエレインは今どうしているのでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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