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不滅の対象

 俺、エレインは無数の魔族と戦っている。もちろん、ここに集まっている魔族は有限だが、無数と言っても過言ではない。

 俺とアイリスだけでは流石に数万もの魔族を対処するのは難しいからだ。

 ただ、ここである程度の数を削っておく必要がある。このまま魔族が侵攻を続けてドルタナ王国へと向かえば確実に大きな被害が出てしまう。


「ふっ」


 俺がイレイラで斬撃を増やし、数十体の魔族を斬り倒す。続けてアイリスも魔剣の能力である影操を使って何体もの魔族を継続的に討伐している。

 先ほどアロットと見られる魔族を見つけたが、すぐに下位の魔族の群れの中へと消えていった。

 あの赤い髪は遠くから見てもわかりやすいのだが、俺の視界には彼女の姿はない。


『本当にこの軍勢を殲滅できるとでも思っているのかしら?』


 俺が魔族を何体も倒していくと脳内に何者かが話しかけてきた。堕精霊であるアンドレイアやクロノスの声とも全く違う。

 おそらくはアロットの声なのだろう。


「このまま攻撃を進ませるわけにはいかないからな」

『勝てるとでも?』

「わからないが、可能性は高いと思っている」


 下位の魔族だけであれば数はそこまで問題ではない。問題なのは能力持ちの魔族の方だ。

 ルクラリズによると能力持ちの魔族は何十万といるわけではないらしい。魔族全体で見れば下位が七割近くを占めているとのことだ。

 それならここに集まっている魔族も能力持ちはそこまで多くはないのだろうと予想できるが、幻影結界の中に姿を隠しているということもある。

 当然ながら、油断は許されない状況だ。


『やはりここで始末しなければいけない存在なのね』

「始末できるとでも?」

「…………」


 そう聞いてみるも脳内に語りかけてくる彼女は答えてくれることはなかった。

 彼女と話し始めてかなりの数を倒してきているが、無論魔族の勢いは衰えることを知らない。

 このまま数で押し潰す作戦なのか、それとも別の作戦へと移行するのか。どちらにしろ、危険な状態であるのには変わりない。

 彼女にはあのように言ったものの、どこまで俺のことを脅威だと考えているのかは想像がつかない。


「お兄様、第二陣は全滅したようです」


 そう俺の背後からアイリスが声をかける。

 先ほど左後ろの木陰に隠れていた魔族を彼女は影操で倒したので最後だったようだ。

 しかし、視界の奥にはまだ多くの魔族がいる。これから第三、第四と襲いかかってくることだろう。


「……その、どういたしますか?」

「疲れたのか?」

「いえ、そう言うわけではございませんが、このままだと私たちも危険ではないでしょうか?」


 確かに彼女の言う通りだ。

 今はまだ大丈夫だとしてもいずれ俺もアイリスも体力の限界を迎えるはずだ。正確に相手の数が把握できない以上、そう言った無理は避けるべきだ。

 ただ、今視界にいる魔族だけでもかなりの数がいる。

 それらが王国へと向かえば大被害は避けられない。

 加えて、彼らを指揮している上位種の魔族は倒せていない。

 間違いなくあのアロットという魔族が指導者なのだろう。これほどの軍勢を動かすことができるということは魔族の中でも最上位に近いはずだ。

 能力持ちの、それもルージュ以上にその能力を扱える存在なのだから。


「だが、王国への被害は抑えたいところだ」

「それは、そうですが——」


 彼女としてもこのまま続けるのは困難を極めるとそう思っていることだろう。

 当然ながら、俺もそうだ。


「続けるというのなら私は付き合います」


 しばらく考えた彼女だがそう結論付けたらしい。


「無理はするな」

「お兄様だけに負担をかけさせるわけにはいきませんので」


 俺も彼女もまだ全力を出し切っているというわけではない。

 体力もそれなりには残っている。温存しながら、戦い続けるのは不可能ということでもない。

 それならこのまま続けても問題はないか。


「お兄様、第三陣が動き出したようです」

「そのようだな」


 地面が揺れるようにして砂埃が立ち上がる。

 どうやら進軍の全貌をそれで隠しているようだ。密度を高くし、足音での判別も難しくしている。


「……少しは考えたようですね」

「姿や足音がなくとも戦えるだろ」

「もちろんです」


 それ以外の情報から相手の位置は把握できる。それができるよう訓練も受けているのだから何ら問題はない。

 それは彼女だって同じことだ。俺と同じく最高成績者なのだから。


   ◆◆◆


 私、ジティーラ・クラナリウスはゼイガイアの元で暮らしている。

 午前中に会議とやらが終わり、私とゼイガイアは自分たちの住んでいる場所へと戻っている最中だ。

 元々ここは人間の都市だったようだが、今となってはその生活の面影はなく禍々しいもので覆われている。

 この赤黒いもの、気味の悪い緑色の物体は魔の力による汚染によってできたものだ。

 もちろん、これらに害はないものの何百年とここで魔族が生活している、つまり支配域であるという証でもある。

 私は道にある水たまりを何気なく見てみる。

 私の容姿は輝くような金色の髪をしている。神秘的とも言えるこの髪色はどうも私は好きになれない。理由はわからないが、この髪は私のものではないような気がするからだ。

 ただ、容姿として見た時はそれなりに整っている方なのだろう。瞳の色は晴天を思わせるような青色をしている。おそらく私の髪もこのような色だったのだろうか。


「……何を考えている」

「何でもございません」

「また髪の色か?」


 ゼイガイアとはもう何年も一緒にいる。正確な数字なんてもう忘れてしまった。

 とにかく、忘れてしまうほどは付き合っている。

 彼にとっては私の考えることはある程度予想が付くのだろう。


「……いつ見ても妙な気分になります」

「思い出すのか?」

「彼との、エレインとの記憶はもうありません。ただ、それがあまりいいものだったとは思っていませんが」


 私の一番古い記憶、それはエレインとの日常だった。

 あの時代としては私たちはそれなりに平和に過ごせていた。私が危険に陥っていたとしても彼がすぐに助けてくれたからだ。

 それでもそれが単なる平和な生活であって幸せとは程遠いものだった。

 おそらく私はあの時、彼に恋をしていた。しかし、それをあの神が打ち砕いた。

 あの時に聞いた神の言葉を私は忘れない。


『その憚りに触れ、今もなおその身を焦がしている。いんを持するはの理なり』


 そんなことはわかっている。だから私が、過去の私が天界を乱した。


「気にすることはないだろう。何もお前の責任という訳ではない」

「何が原因かは今となってはわかりません。ただ、私の一件は無関係ではないでしょう」

「……今のお前は神か? 母体の話をしても意味はない。今を生きろ」


 確かにその通りだ。

 私の過去がどのようなものか、それは今考えたとしても意味のないことだ。

 それに正確には私ではない。母体となった滅神の記憶だ。

 ただ、そうだとして私は一体何のために今を生きているのだろうか。

 昔のことを思い出すとふとそんなことを考えてしまう。


「やっぱりここにいた」


 そんな悩みを打ち明けれずにいると横道から誰かが話しかけてきた。


「……ルージュ、こんなところでまた散歩か? 作戦行動中だろう」

「私があんな奴の下で大人しく従うとでも?」

「ふっ、立場がどうなってもいいのか」

「この程度、ちょっと怒られるぐらいよ。それより……」


 すると、ルージュは私の方へと視線を向けた。

 彼女とは何度か話したことがあるが、それでも彼女とはそこまで親しいという訳ではない。

 そもそもここ魔族の世界では個々の関わりなんて非常に薄いものだ。


「ジティーラ、エレインと会ったことはないのよね?」

「ありません」

「いい機会じゃない。今から会いに行く?」

「……それはどういう意味ですか」

「そのままの意味よ。あなたも気になっているのでしょ」


 彼女の言うように気にはなっている。私の持っている古い記憶の彼が本当の実在するのかどうか。

 そして、その彼が今どのような生活をしているのかも気になる。

 私の前身ではあるものの、一度あのような歪な関係を持っていたのだから。


「……やめておけ、ルージュ。お前の望み通りにはならない」

「どうかしら? 一度彼に敗北した割には大口叩くのね」

「黙れ」

「ここでゼイガイア様を怒らせるのはやめておいた方がいいと思います」

「別に私は死なないし?」


 そういえば、彼女は幻影結界の使い手だと聞いている。非覚醒者ではあるものの、その能力をうまく使い熟せている印象だ。

 もしかすると彼女のの力は幻影結界ではないのだろうか。


「ふっ、好きなようにすればいい」

「……ですが、私はここでやるべきことがあります」

「秘書的な存在、か? 気にするな。そもそもそんなものはないのだからな」


 確かに言われてみればそうだった。

 彼の苦手な連絡などを行う、それが私が彼の住処に依存する条件だった。


「それに、俺はお前に何かを強制した覚えはない。俺とお前とでは似ている」

「そう、ですか」

「それより、だ。何度も言うが、ルージュの望む世界にはならない。いいな?」

「やってみなきゃわからない」

「今ここで貴様の首をへし折ってもいいんだぞ」

「うわぁ痛そ」


 ルージュは嫌そうに苦笑いを浮かべるとすぐに私の方へと向いた。


「来るの?」

「……行きます」

「そ、結界は繋がってるから。付いてきて」


 そう言った彼女はどこか嬉しそうな表情をしていた。

 振り返ってゼイガイアの方へと見てみるが、彼は何を考えているのかわからない。

 これから起きる未来を想像しているのだろうか。いや、そんなことはないか。

 ただ、そんなことよりも目の前を歩くルージュの願望とやらが何なのか、気になるのであった。

こんにちは、結坂有です。


ジティーラですが、彼女がエレインの内なる能力を目覚めさせる鍵なのでしょうか。

色々と気になるところですね。

そして、エレインの内なる能力とは一体……


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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