打ち破ったその力は
それから俺たちは魔族の軍勢を崩壊させていく。俺はイレイラの”追加”と言う能力を使って斬撃を増やし、魔族へと攻撃していく。
アイリスは変わらず閃滅剣舞で無数の魔族を相手している。俺はというと彼女の剣舞の邪魔になるような場所から攻撃してくる魔族を排除している。
無論、彼女の繰り出している閃滅剣舞は何も無敵というわけではない。剣舞の想定されていない部分というのは遠距離からの攻撃だ。
よってあれは基礎形を域を越えたものではない。つまりは未完成だということだ。
十分程度は続けている剣舞ではあるが、彼女の攻撃は非常に流線的で全てを薙ぎ倒す勢いではある。
「グウァアガアァアッ!」
その咆哮とともに空気の流れが大きく変わる。
「っ!」
アイリスも気付いたのだろう。
魔族はあの剣舞に対して石や槍のようなものまで投げ込んでいる。
「アイリス、流れを止めるな」
「……っ!」
彼女に対して忠告してみたが、遅かったようだ。剣舞の流れがその魔族の投石を見てしまったが故に乱れてしまった。
仕方ない。俺が一旦引き受けるしかないようだ。
俺は一気にイレイラを振り上げ、目を閉じ周囲にいる魔族や投げられた投石や投槍もろとも瞬時に把握する。
「ふっ!」
そして、その振り上げた刀を一気に振り下ろすと目の前の魔族だけでなく、周囲にいた数十体もの魔族に強烈な剣閃が走る。
一閃轟裂と呼ばれるこの技は把握した魔族にイレイラの能力で増やした斬撃を与えると言った技だ。
もちろん、目に見えている魔族を斬るだけなら問題ないのだが、聴覚や触覚などで音や空気の流れを感じ取ることでも魔族を把握している。
隠れている相手であったり、距離の離れた相手ですらも正確に把握し、攻撃を与える。
「……油断してしまいました」
「援護は信用できないか?」
「すみません。そんなつもりではございません」
大きく首を振ってそれを否定する。
まぁ仕方のないことだろうな。ものを投げてくる想定はそもそもあの閃滅剣舞には含まれていない。
未完成な技であるためそう言った問題が出てくるのは仕方がないことだ。それに完璧に繰り出せるアイリスだからこその欠点でもあるだろう。
「息が乱れている。さすがに数万もの相手は辛いようだな」
「……そのようです」
少しだけ肩を上下させて呼吸している。息切れと言うほどではないが、このまま彼女ばかりに負担をかけていてはいけないようだ。
「交代しようか。前衛に出よう」
「わかりました。無理はなさらないでください」
彼女はそう返事をすると、すぐに俺の背後へと移動する。
それと同時に周囲からまた魔族が湧き上がるようにして襲いかかってくる。
「実戦だと訓練通りにいかないことがあるからな。それに魔族との戦いは慣れだ」
「そのようですね。お兄様の戦い、背後から見ておきます」
「それなら俺も少しギアを上げるとするか」
まだ能力持ちの魔族が現れているわけでもない。今後現れることを考え、今の戦いはそこまで脳に負担のかからないような戦い方をするべきだな。
ゼイガイアやグランデローディアとの戦いよりかは肩の力を抜く方がいいか。
ただ、少しでも手を抜いていると圧倒的な魔族の数でアイリスと同じように足を掬われることだってあるだろう。
「隠れている魔族は私の影にお任せください。お兄様は思う存分、自身の力を振るってください」
「ああ、頼む」
木々を引き抜き、俺の方へと投げ飛ばしてくる。それを俺はイレイラで木っ端微塵に斬り裂き、その勢いを殺さず魔族の方へと突撃する。
その動きに張り付くようにしてアイリスも駆け出す。
大型の魔族をその勢いのまま横半分に斬る。続けて左右から攻撃してくる魔族を後腰部に携えている魔剣を引き抜き、二刀流の構えで対処する。
「グウウゥアガアァ」
「ふっ」
聖剣の斬撃で手足を斬り落とし、魔剣を使って魔族の胴体を完全に破壊する。
今のところ精霊の能力を一切使っていない。当然ながら、俺の脳に必要以上の負荷がかかることはない。
まだ溢れかえるようにして魔族は俺たちへと群がってくる。
全てを把握している暇はないが、ざっと千体以上はいるだろう。このまま勢いを落とさずに続ければあと二時間ほどで全滅させることができる。
ただ、そうなる前に能力持ちの魔族が手を打ってくることだろう。
ならば相手の出方を見るためにもここは大技の一つや二つ繰り出した方がいいのかもしれない。
幻影結界とやらはまだ展開されていない。それなら先手を打つのもいいか。
「グアアッ!」
鉄板を打ち付けただけの簡単な鎧を身に付けた下位の魔族が出てきた。
中枢に向かっているのだろうと思われるが、まだこいつらを率いている上位種はまだのようだ。
鎧を着た魔族が壁のようにして進んでいる。隊列のようにも見えるが、俺たち二人に対してそこまでするとはな。向こうも脅威に思っているのだろう。
「……厄介な隊列ですね」
それを見たアイリスも面倒そうな表情をして呟く。
確かにあのように隊列を組まれては厄介だ。
ただ、幸いにも俺には対複数戦を視野に入れた技を多く会得している。
「アイリス、少し離れてほしい」
すると、彼女は小さく頷いて少しだけ後ろへと下がる。
それを見た俺は魔剣を納め、イレイラを逆手で構える。
上位種を誘うためにはこちらから手を打つ方がいい。この誘いに乗ってくるといいのだが、やってみないことにはわからない。
「はっ」
後ろ足で蹴るようにして前へと、その隊列へと進む。
左手に逆手で持ったイレイラを伸ばし、そのまま腰を大きく捻る。そうすることで大きな円を描くような形になる。
久しぶりではあるが、感覚はどうやら衰えていないようだ。
ジュギィインッ!
金属がはち切れる鋭い音が響くと同時に血飛沫で周囲が真っ赤に染まる。
「ギャアアガアアァア!」
魔族の悲鳴が轟く。
多くは即死させることもできたのだが、斬撃の範囲外の魔族にはそこまでのダメージを負わせることはできなかった。
当然と言えば当然だがな。
イレイラの追加を使えばよかったのだが、ここにはアイリスがいる。彼女に攻撃が届かないよう調整するのは難しい。
それに脳へあまり負担をかけたくなかったのもある。
とはいえ、この一刀裂陣円斬で隊列を大きく乱すことには成功した。
「何を手こずって……っ!」
隊列の奥から女性の声が聞こえてくる。
その声の方へと視線を向けるとルージュのような真っ赤な髪をした人型の魔族がいた。
ただ、その髪はルージュのように毛先にかけて薄くなっているわけではなく、どこまでも真紅のままだ。
あの魔族がアロットというのだろうか。
「エレインっ、こんなところに単騎で……」
彼女はどうやら俺の名前を知っているようだ。まぁ魔族の中で情報が出回っているというのは覚悟していた。
秘技とまでは言わないが、彼ら魔族にはまだ見せていない技や術を持っている。
有名になったからと言って今はそこまで問題というわけではない。
「あの女魔族が指導者ですか」
「らしいな」
後ろから追いかけてきたアイリスがそう小さく話しかけてくる。
辺りの魔族は一掃したが、まだ彼女の周辺には大量の魔族がいる。数万の魔族がいるわけだ。すぐ全滅とまでは難しい。
「あの力、エレインで違いないでしょう」
「……対策は?」
「ええ、できていますとも。この私が始末いたします」
すると、その横に立っていたローブを纏った魔族がこちらへと駆け出してくる。
「アイリス、離れて下位の魔族の相手をしろ」
「……わかりました」
そういうと彼女はすぐに離れた。
あのローブの魔族はどうやら俺を標的としている。それなら関係のないアイリスは他の魔族と戦わせる方がいい。
「……一人になるとは、愚か」
「どうだか」
間合に入ったかと思うとその魔族はローブを広げ、視界が漆黒に染まる。自分の体すら見えない。
「光を奪うこの力、貴様でも対処できないでしょうっ」
どうやら俺の視界を奪ったのだろう。方法に関してはよくわからないが、知ったところで意味はない。
彼らは神の力を一部宿している能力持ちの魔族なのだから。
「うぐぁっ!」
俺の左肩近くから先ほどの魔族の声が聞こえる。
「対策、その程度でか?」
次第に光が戻り、俺の視界が戻る。
それと同時に相手の傷へと視線を向ける。
予想していたよりも浅いが、かなりの出血だ。即死させることができなかったのは咄嗟に彼が避けようとしたのだろう。
瞬間的に引き抜く迅斬を避けるとはそれなりの実力者なのだろうな。
「……その速さで、正確に急所を狙うとは。それも視界を失った状態で」
「だが、策が尽きたというわけでもないだろう」
「魔族を舐めるとは、やはり愚かっ」
その直後、また漆黒の闇が俺へと襲いかかってくる。
しかし、それは光を奪うのではなく、俺の体へと直接向けられる。
速度はそこまで速くはない。この程度なら……
「っ!」
左腕に大きな裂傷を受ける。垂れるほど出血しているものの、行動に支障が出るほどではない。
ただ、避けたつもりではあったが、攻撃を受けてしまったものは仕方ない。
次からは気をつけるとしよう。
「人間、こいつは人間だ。何も恐れることはない。この私にかかればっ!」
さらに右足、側背部と次々と裂傷を負う。
確実に俺の機動を狙って攻撃してきているようだ。一度受けた攻撃、避けるのは簡単だが、それでは意味がない。
ここで彼を確実に倒すべきだ。
「これで、とどめっ!」
興奮し切ったその声で俺へと闇を放つ。
だが、もう遅い。
所詮彼の能力はその程度だったということだ。
『愚者は時の流れを知らぬ……。時の剪断』
ジュザァンッ!
アンドレイアの声と同時に轟音と衝撃が響き渡る。
彼女の持つ能力で極限までに加速させた剣閃は時空の摂理をも瞬間的に破壊する。
そして、その壊れた摂理が戻るその時、強烈な時空の歪みが生じる。如何なるものも、その攻撃を防ぐことは不可能だ。
「な、なぜ……」
「俺が対策できていないと油断したのが敗因だ」
一撃目はともかく、それ以外はわざとその技を受けていた。
相手は俺が術中に嵌っていると思い油断した。その一瞬の隙を俺は魔剣を使って攻撃したのだ。何も難しいことはしていない。
若干脳内がピリピリと痛むが、この程度の負荷ならまだ大丈夫だろう。
「……グゥウウア」
悶えることもなく、そのまま力が抜けたかのようにそのローブと人間が一体化したような魔族は倒れた。
こんにちは、結坂有です。
エレインの大技、流石に強力ですね。
アイリスは一つでも真似できるのでしょうか。気になるところですが、さすがの数万もの軍勢はたった二人にはきびそうですね。
これからの展開も気になるところです。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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