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焦燥する好奇心

 私、ルージュは幻影結界を解いて外へと出る。

 結界の中の空気と外の空気は全く違う。外の空気は私にとっては少しだけ息の詰まる感覚がする。その理由はただ一つ、光が多すぎるのだ。

 私は影や闇を司る神から能力を奪った。そもそも影は光を嫌う、光もまた影を嫌う。

 だから私はこの朝日が苦手で、光に息苦しさを感じる。


「さてと」


 私は薄明かりの広がる空を見上げながら、ある老人の昔話を思い出した。

 滅神はある人に恋をした。その恋は叶わぬ恋、滅びゆく運命さだめの恋。そう、滅神である自分でその恋を終わらせる必要があったのだ。

 だから、滅神はその結末が来る前にこの世を、世界を滅ぼそうとした。それは一時の迷いだった。人間に恋をしてしまった彼女が悪いのだから。

 彼女はそれから神としての責務を放棄した。神として人間性を失い、神として感情を失った。壊れてしまった神は存在するだけで不安定だ。よって、創造神は自ら混沌バグを生み出し封印した。

 その混沌はやがて、世界を狂わすものだとわかっていたからだ。それは苦渋の決断だったに違いない。

 結果として、今がある。滅びを知らない魔族が大量に発生し、天界を覆い尽くした。

 滅神のいない天界はもはや機能を失い、やがて魔族も下界へと歩みを進める。

 自分たちを完全体にするために、新たな神へと生まれ変わるために。


「……時代も、変わっていくのね」


 今、天界には古き神と新しき神がいる。創造神から作られた古き神は新しき魔族という存在に能力を奪われ、やがて置換されていく。

 もはや創造神のいないこの世など無法地帯となっているのだから。

 古き神も自ら魔族に能力を捧げ、新生の世へと期待する者もいたようだ。新生の世はそう遠くない未来にやってくる。

 しかし、その未来はきっと滅びへと向かっていく。恋を望んだ滅神の呪いかのように。

 私はその時まで生きているのだろうか。覚醒していない私は誰かに殺されてしまうのだろうか。

 どうせ殺されるのなら、信頼できる人間に殺されたい。どうせ生きるのなら、信頼できる人間と生きたい。

 滅神の気持ちもこれと同じだったのかはわからない。でも、少しでも彼女の気持ちが知れたらいいなと私は思う。

 そんな何千年も前の、忘れ去られた遠い遠い過去の物語に自分を重ねる。別に愚かなことだとは思わない。

 時代は変わっても感情と言うものはそう大きくは変わらないはずなのだから。


 そんなことを考えながら、赤や青が複雑に混ざり合い、紫色へと変わっていく空を私は見つめていた。


   ◆◆◆


 僕、アレクは王城へと向かっていた。

 ジェビリーに改めて許可をもらい、僕とラクアは聖騎士団を半分ほど引き連れて王城へと向かっていた。

 人数もいると言うことで城に立てこもっていた魔族もすぐに制圧することもできた。それにラクアも徐々にだが、魔族との戦闘に慣れ始めているようだ。日々、レイと訓練をしている彼女の成長も見ることができたのは個人的には良かったと思っている。

 小さき盾として彼女を受け入れるのも時間の問題だろう。


「それにしても、城にいた魔族はそこまで強くはなかったわね」

「まぁ多くが下位の魔族だったからね」

「あれで下位なのね」


 下位の魔族だからと侮っていてはいけない。彼らだけでも人間の能力値を大きく上回った存在だ。

 聖剣がない状態で彼らに真っ向で挑んだとしても勝ち目はほとんどない。エレインやレイならなんとかやり切れるのかもしれないが、少なくとも僕には難しいかもしれない。

 そもそもそう言った状況にならないよう気を付けるべきなのだ。


「上位種って言うのは想像よりももっと強い存在だからね。これからもう少し訓練を共にすればラクアはもっと強くなれるよ」

「……レイがとんでもなく強いからね。私も少しは追いつけるようにならないと」


 そういえば、彼女は体に宿している精霊をまだうまく駆使できていないと言っていた。

 まず、体内に精霊がいるなんて事例は今までにあったのかすらわからない。前例がないのだから僕たちも教えることができない。

 技術的なことなら大丈夫なのだが、精霊の力に関しては僕たちは全くもってわかっていないことだ。少なくとも彼女にはこれからの訓練でその独自の技術を身につける必要がある。


「精霊と対話することができればいいんだけどね」

「そうね。でも、エルラトラムに来てから一度も話してないわね」

「その辺りについてはまた戻ってから考えようか」

「ええ、会話できる方法も探したいところだし」


 僕自身も全く当てがないと言うわけではない。エレインから聞いた話なのだが、精霊の泉と言われる場所があるらしく、そこでなら精霊と簡単に会話することができるそうだ。

 とはいえ、彼女の体内に宿っていると言うことで精霊の中でも堕精霊と言うことだ。

 いつでも話ができると思うのだけど、精霊にも事情があるのだろうか。


「それで、これからどうするの?」


 聖騎士団は王城内を警備してくれている。もちろん、ジェビリーが手配してくれたドルタナ王国軍の人たちも参加している。

 王女の一声でここまで動くとは僕も驚きだ。

 エルラトラム議長も非常に強力な権限を持っているものの、さすがにこの国ほどのものではない。


「とりあえずは安全な場所を作る必要があるね。まぁ魔族が攻めて来ないという保証はないのだけど」

「王城内は制圧できたのでしょ? 残党も聖騎士団がうまくやってるようだし」

「それでも安全が確保できたと言うわけではないよ。王国外ならまだ魔族がいる可能性があるからね」


 国内に魔族がいることはもうないのかもしれない。いたとしても十数体程度だろう。

 それよりも気になるのが、魔族が次の一手を考えているかもしれないと言うことだ。

 もちろん、すぐに行動を起こすとは限らないが、それでも警戒するに越したことはない。

 それに今回の魔族は非常に知的な戦い方をしているようだ。それなら何か対策を考えていることだってあり得る話だ。


「……すぐに攻撃が来るかもしれないってこと?」

「可能性の話だよ」

「今回は厳しい戦いになりそうって言うのはそう言うことなの?」

「魔族はジェビリーを戦略的に乗っ取ろうとしていた。この国を完全支配するためにね」


 別に大量の軍勢で攻め落としても良かったのだろう。しかし、そうしなかったのは何か理由があってのことだろう。

 魔族の考えることだ。僕たち人類がそれを理解できることができるのかはわからないが、何かの意図があって滅ぼさなかったはずだ。


「国内に潜伏していた魔族を排除したからといって安全ではないのね」

「そう言うことだね」


 どちらにしろ、僕たちがすることは何も変わらない。

 王城を再び取り戻し、安全を確保する。何をするにも地盤がしっかりしていないと防衛もできないのだから。


「ここにいましたか」


 そんなことを話していると聖騎士団の一人が僕に話しかけてきた。


「何かな?」

「隠れ城にてミリシアさんの目が覚めたようです」

「うん。わかった」

「……戻るの?」

「そうだね。彼女とも話をしておきたいところだしね。悪いけれど、王城の制圧は任せても大丈夫かな?」

「わかりましたっ」


 僕たちと共に行動すると言うことでこの国に来ている聖騎士団は小さき盾に対して嫌悪感を示さない人たちだけだ。

 もちろん、エルラトラムに戻れば小さき盾に邪険に扱う聖騎士の人は多くいるが、ここではそうではない。

 比較的僕としても過ごしやすい。

 それに今は団長にアドリスがいる。彼は僕たちに対してかなり味方してくれているから安心でもある。


「ラクア、急いで戻ろうか。少しでも時間を失いたくないからね」

「走るのね?」

「ああ、今回は隠し通路を使って行こうか」


 それから僕たちはあらかじめラフィンから教えてもらった隠し通路を使って隠れ城へと向かうことにした。

 エレインも戻ってきているかもしれない。

 今後の作戦について細かく話し合いをしたいところだ。

こんにちは、結坂有です。


ルージュと話すことでエレインたちの本当の正体について知ることができそうですね。

それにしても、魔族の軍勢はどうなるのでしょうか。気になるところです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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