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力なくその光へ

 私、ミリシアは心地よい温もりに目が覚めた。

 どうやら私は毛布をかけられベッドの上にいるようだ。近くにはろうそくが灯されており、寝室をその暖かいオレンジ色に照らしている。


「……」


 首を動かして、周囲を見渡してみる。

 しかし、この部屋は私の知っている部屋ではない。少なくとも聖騎士団の駐屯地ではないはずだ。


「いっ!」


 起きあがろうと腹部に力を入れると強烈な痛みに襲われる。

筋肉痛なのだろうが、切り裂かれたかのように痛むのは初めてだ。地下訓練施設を出てから体を酷使してこなかったからだろう。


「……ミリシアさん、起きましたか?」


 私の声に気付いたのか、リーリアが扉を開いた。

 彼女は水の入った容器を片手に私のすぐ横へと歩いてくる。


「熱が出ていましたので、換えの水を持ってきました」

「ありがとう」


 横を見てみると確かに濡れたタオルが置かれていた。

 きっと体を酷使したが故に体力が尽きてしまったのだろう。思い返せばあの技は何度も使えるようなものではない。

 地下にいた時ですら歩けなくなるぐらいまで限界だったのを覚えている。

 あの時はよくエレインやアレクの肩を借りていた。


「……それより、あの隊長って言ってた人は?」

「あの方はミリシアさんの攻撃で崩壊してしまいました」

「つまり、死んだってこと?」

「まぁそうですね」


 どうして彼女が崩壊という単語を使ったのだろうか。私のあの攻撃はそこまで強力なものではないはずなのだが。


「それで、ここはどこなの?」

「ここは隠れ城になります。今は聖騎士団が占拠しており、アレクさんが聖騎士団を引き連れて王城の方の制圧に向かっています」


 ということは、ジェビリー王女の救出には成功したということのようだ。

 それに隊長の言っていることが正しければ、今回の首謀者と思われる魔族はすでに脱出してしまっているようだ。

 王城に残っている魔族も多くは下位の魔族で間違いない。それなら彼ら聖騎士団は難なく制圧することができるだろう。


「そう、それならよかったわ」

「今のところ緊急の連絡もありませんし、順調に進んでいることでしょう」


 そう言ってリーリアはカーテンを開ける。

 闇夜だった外の景色はなく、すでに朝日が差し込んできている。

 時間にして朝の六時ごろだろうか。


「でも、不安ね。この様子だと」

「……どうしてですか?」

「魔族が撤退したのよ。おそらく戦略的な意図でね」

「それはまだわかりません。少なくとも王国周辺には魔族の気配はありませんし」


 彼女の情報は間違いないのかもしれない。私が眠っている間に誰かが調べてくれたのかもしれない。それがエレインやアレクの情報なのだとしたらより信憑性のあるものだ。

 ただ、今はそんなことよりもアギスのことが気になる。


「そういえば、アギスはどうしたの?」

「彼ならここにミリシアさんを運んでからクラーナの元に向かいました。情報を共有するために戻ったみたいです」

「じゃ、ここに戻ってくるのね」

「そうだと思います」


 情報を共有する目的なら後で戻ってくることだろう。

 それにクラーナたちにも協力してもらうことでラフィンの復権をより広く告知してもらうことができるはずだ。

 少なくともまだいなくなられてはこちらとしても困ると言ったところだ。


「エレインは?」

「先ほど、森の方へと向かわれました。アイリス様と一緒ですので安心してください」


 確かに二人一緒なら私としても安心できる。今の私だともし何かがあったときではエレインの足手まといになるからだ。

 私は腹部にあまり力を加えないようゆっくりとベッドから起き上がる。それでも切り裂かれたかのような激痛は残っているのだが。


「……大丈夫なのですか?」

「少し痛むだけよ」


 起き上がってすぐに脱力する。その瞬間から痛みが抜けていくのを感じる。

 流石に張り切りすぎたと言ったところだろう。ともかく今は体を少しでも休めて痛みが取れるのを祈ることにしよう。


「その、朝食は食べられますか?」

「そうね。いただけるかしら」

「はい。そろそろエレイン様も戻ってこられるはずですから」


 そういうと、彼女は垂れた自分の髪を優しく撫でる。

 彼女としても不安なことがあるようだ。今まで彼のそばから離れることがなかったのだから仕方のないことなのかもしれない。

 それに加えて彼は特に狙われやすいはずだ。魔族の間でも彼の情報は出回っているようだし、要注意人物として警戒されていることだろう。それならその不安要素をいち早く排除しようと策を練ってくるとも考えられる。

 まぁ撤退したすぐに行動を起こしてくることはないはずだ。少なくとも魔族は下位の魔族を失った直後なのだから。


「心配なのはわかるけれど、攻撃はまだないと思うわ」

「……そうですか?」

「確証はないけれどね。逃げたって言う上位魔族も戦力がない状態で戦おうなんて思ってないはずよ」

「確かにそうですが、不安なのには変わりありません」


 彼女の言うように不穏な空気が流れているのは確かだ。

 それは私が感じるよりもリーリアの方がより強く感じているのだろう。


「とりあえず、数時間は攻撃はないはずよ。朝食を食べて少しでも体を癒したいわ」

「……わかりました。では、こちらにご用意いたします」


 そう言って彼女は寝室から出ていった。

 不安なのは私も変わらない。でも、私にはやれることがある。今はこの痛みを少しでも和らげるためにも食事を取る必要がある。

 それからのことはまた後で考えればいいことだ。

 まだエレインも戻ってきていないのなら、彼と相談してからでも遅くはないはずだ。


「はぁ」


 そんな風に考えてみたって不安なものはどうしようもない。

 地下訓練施設ではある程度予想されることが多かったが、現実というのはこうも不確定要素の方が多い。

 すぐに魔族が襲ってこないという推測は立てられるものの、確証と言えるものではない。あくまでそれらは状況証拠に基づいたものでしかない。

 私の知らないところで何かが起きていたのならそれはもはや把握のしようがない。

 向かう宛のない愚痴を、だらしないため息と共に吐き出して私は窓の外をもう一度見る。


「……」


 朝日が私の部屋を差し込んできている。それらは私の意図に関係なく堂々と入ってきている。

 私がどう思おうと彼ら光は意味も当てもなく、ただただそこに存在しているだけ。

 痛みで力を振るえない私は影のままなのだろうか。


「……お持ちしました」


 そう言って静寂を破ったのは朝食を持ってきたリーリアであった。


「もうできたの?」

「すでに用意しておりました。ラフィン様やジェビリー様のために用意したものです」

「そう、あまりものってことね」

「エレイン様の分も含め、全員分用意しております。ジェビリー様が使用人を呼んでくださったので」


 ここは隠れ城と言っていた。それなら確かに応援を呼ぶことはできるか。

 ただこの国内情勢でよくそれほどの指示が出せるものだ。やはりこの国の王権に対する忠誠というものが非常に強いという証でもある。


「……王権が分断したとはいえ、まだ権力は健在ということのようね」

「私も驚きました」

「それじゃ、いただくわ」


 そうサイドテーブルに並べてくれた料理へと手を伸ばそうとする。


「……っ!」

「大丈夫ですかっ」


 ちょうど腹斜筋の辺りに強烈な痛みが出る。


「ええ、だけど手を伸ばせないのは辛いわね」

「そうですか。わかりました」


 すると、リーリアは並べられた料理をスプーンで程よくとりわけ、私の口元へと運んでくる。


「そこまでしなくていいのに」

「まだ痛むのでしょう。食べてください」

「……わかったわ」


 介助されるという気分は今までなかった。

 しかし、誰かにこう優しくされるというのはどこか心地よくて、どこか愛おしいものを感じるのはなぜなのだろうか。

 所作、容姿含め美しく可愛らしい彼女を見ていると心も体も癒される。

 どうやらこの感覚は男女関係なくそうなのだろうと私は強く実感する。


「……どうかしましたか?」

「なんでもないわ」

「そうですか。次はお野菜です」


 スープの方へと料理を移して、程よく冷ましてからまた口元へと運んでくる。

 体を動かせないため仕方なくしているのだろうが、私としてももう少しだけ甘えていたい気分になったのであった。

こんにちは、結坂有です。


魔族に成り果ててしまった隊長を倒したミリシアですが、どうやら隠れ城の方へと運ばれていたようですね。

それにしても、これから魔族はどう攻勢に乗り出すのでしょうか、気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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