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魔族の裏話

 私、ルージュは幻影の中を走っていた。

 あのアイリスという女には少しうんざりしている。彼女の持つ魔剣はどうやら影の世界を操ることができるそうだ。

 一度は幻影結界に閉じ込めることに成功したが、あの精霊が腹立たしいドヤ顔を決めながらその結界を破壊した。

 思い出したくもないあの表情を振り払い、一気に駆け出す。


 幻影を抜けた先はドルタナ王国の外に繋がっていた。

 この幻影結界の中は私以外に入ってこられない。

 もちろん、あのドヤ顔精霊なら無理やり入ってくるのだろうが、主人であるアイリスから遠く離れられないためにその危険性はないはずだ。


「ほんと、妙な精霊を使役してるものね」


 そんな誰に訊かせるでもない愚痴が溢れる。


「あら、ルージュちゃんじゃない」


 ドルタナ王国の外に出てすぐに私がこの世のクズを寄せ集めたかのような存在と出会う。

 もう逃げてしまいたいと思うものの、今は作戦中だ。指導者層に気付かれたらそれこそ裏切り者とばかりに処刑されてしまう。

 魔族の世界というのは案外に生きづらいものだ。


「何?」

「その突き刺さる言い方、少しはやめてほしいものね。ただの挨拶でしょ」

「そう? じゃあ聞くけど、王城内でそんな風に喋ってたわけ?」

「何か問題?」


 いつ見てもクズを体現したかのような表情でアロットは上から目線で言ってくる。もうこんなやつとは関わりたくないものだ。

 この作戦が終われば遠くに逃げよう。バルゲスのところに行けばいいだろうか。いや、あんな楽園に私がいては問題か。あそこの魔族らは人に飢えているから。

 そんなことよりも今の状況をどうにかしなければいけない。なるべくここは彼女を避けて通りたいところだ。長く付き合ってると私までクズが移ってしまいそうになる。


「嫌な王女らしいってこのことを言うのね。いやねぇ」

「……っ。嫌な王女らしい? 非覚醒者の分際で生意気ね」

「悪かったわね。それはあんたに流れる穢れた人間の血のおかげでしょ?」


 私が覚醒できていないのは単に人間を吸収していないからだ。もちろん、ただ普通の人間を吸収するだけでは意味がない。

 もっと酷いことをしてから、穢してから喰らい続け貪る必要がある。そう、あのバルゲスの元で穢された人間を。


「私には私の血が流れているわ。人間なんてただの素材よ」

「あーあ、聞きたいくない」

「所詮、魔族として欠陥体のルージュには非覚醒者がふさわしいわ」

「……くだらないことを言ってないで、さっさと次の計画を始めたらどうなの? 時間はもうないのでしょ」


 こんなどうでもいい話で時間を無駄にはしたくない。

 さっさとこの戦いを終わらせて、私を自由へと解放してほしいものだ。当然ながら、この任務が成功すれば報酬は全部いただくつもりだけど。

 ただ、その報酬が手に入るかどうかは次の作戦が成功するかどうかだ。


「そうね。夜も明けてきたところね」


 彼女は空を見上げながら、つぶやくようにそういった。なかなか様になっていると思ったのは私の深くではあるが、この景色はなかなかに綺麗なものだ。

 なるほど、人間界にある芸術というのはこれに近いものなのだろうか。


「あの鍵の行方に関してはわからないままだったけれど、どうでも良くなったわ。あの聖騎士団を、滅ぼしなさい」


 そうアロットがいうと地面が大きく揺れ始める。

 魔族の大行進が今始まったのだ。この調子ならすぐに到着する。昼間には全軍到着する頃だろう。

 果たしてこの軍勢をあのエレインとか言う剣聖は防ぐことができるのだろうか。

それとも、滅神の力を解放してこの軍勢を全滅させるのか。どちらにしろ、気にはなる。

 もう少しだけクズと付き合うことになりそうだが、辛抱するしかないか。


   ◆◆◆


 俺、ゼイガイアは血液の海に浸っていた。

 俺はあいつと戦った。そして、その時の傷を今もなお癒やし続けている。あいつの力は尋常ではない。

 おそらくあいつは今も自分の力に侵食されて続けているのだ。何としてもこの連鎖を断ち切らなければいけない。


「ゼイガイア様、怪我の方は治りましたか?」

「……いや、完全には治っていない」


 胸元に大きく開いた傷口は今も痛み続けている。正直なところ、これほどの傷を受けたのは初めてだ。俺が喰らった神ですら、ここまでの傷を負うことはなかったのだから。

 それほどにあいつは強大で、恐ろしい存在なのだ。


「その、会議の方には出席いたしますか?」

「……また呼んでいるのか」

「はい。何度も断っているのですが」


 そう彼女は言っているが、どうも妙な感じがする。俺とあいつとの戦いでやっと目が覚めたと言うべきだろうか。

 それならそれでもっと早く連絡してほしいものなのだがな。


「俺の怪我を思って断ってくれていたのか?」

「迷惑でしたか?」

「いや、おかげで治療に集中できた。少しは会議とやらに出てみるか」


 あいつが暴れる前までの会議は情報交換だけの意味のないものだった。

 何時間も椅子に座るのは俺の性に合わない。早く抜け出したかったと言うのもあるか。

 まぁともかく俺としてはあいつとの戦いの報告をしなければいけない。あれほどの被害が出たのだ。注意の一つや二つあるかもしれない。


「私もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」

「構わん。お前は鍵だからな」

「いえ、私は鍵などではありません」


 彼女はジティーラ・クラナリウスと言う魔族だ。厳密に言えば魔族ではないのだが、今は魔族として生きている。

 とある事情で俺の秘書的な存在となっているが、ほとんど対等な関係を築きたいと思っている。


「……まぁいい。そろそろ行くか」


 俺はこの血の海から出てマントに身を包み、その会議のある場所へと向かうことにした。

 今の俺たちはエルラトラムからだいぶ離れた場所、つまり魔族の指導者層のみが集まる地区へと戻っている。

 ここなら治療に専念できる上に、あらゆる方面の情報を得ることもできる。

 それに少しはゆっくりとした時間が欲しかったのだ。


「私は、いつまでここにいればいいのでしょうか」

「不満なのか?」

「レベルの低い魔族がいないのは嬉しいです。人が弄ばれて死んでいくのは気分が悪いですから」

「見ていないだけで、どこかでお前の想像していることが起きている」

「……気分は悪いですが、直接見るのはもっと嫌です」

「なるほどな」


 俺としてはもう慣れたものなのだが、それでも彼女はまだ完全に魔族になったわけではない。

 彼女にも彼女としての考えがあり、それを俺は少なくとも尊重しなければいけない。鍵なのだからな。


 それからしばらく歩いて議場へと入っていく。ここはかつて人間が使っていたと言われている巨大な城だったのだそうだ。それを俺たちが占領して自分たちの使いやすいように改築してある。

 まぁ壁を取り壊しただけなのだが。

 大きな城門を通って城の中へと入っていく。

 悪趣味な金と銀でできた議場へと進む。


「いつ来ても慣れねぇな」


 俺はそう愚痴を言いながらも金と銀で装飾され尽くされた椅子の一つへと座る。見渡してみるとすでに何体かの魔族が来ている。

 ここに出席するとはなんとも暇な奴らだ。

 すると、大きな鐘が鳴り響き、会議の始まりを合図する。


「……ふむ、意外なやつが来ておるな」


 帝位を与えられている三体の魔族のうちの一体が、俺を見下ろしながらそういった。彼はゲレアモス・トーデティヌスだ。

 神の中でも時間と空間を創造したとされている神を喰らった。そのため、時空を強制的に操作することが可能だ。もちろん、時間転移と言ったことはできないが、止めたり、短い距離を移動したりは簡単にできる。

 俺としてもあまり敵対したくない相手だ。


「悪かったな。怪我の治療が遅くなった」

「……報告は雑魚どもから聞いた。あいつが復活したのだそうだな」

「知ってるならなぜ手を打たない」

「どこ口が言う。お前が邪魔をしているのだろう?」

「なんのことだか」


 事実、俺はこいつの作戦を阻止している。当然だ。彼は滅神の復活を望んでいるのだから。

 そいつが復活すればどうなるか、俺たち諸共完全に消滅させられてしまうのだからな。

 なんのために俺たちがこんな下界まで来たのか、こいつは知ってて言っているのだろうか。


「まぁ良い。過ぎたことだ」

「ちょっと待ってほしい」


 そういって声を上げたのは別の指導者層の魔族だ。こいつらは妙に知識を持っているために扱いづらい。


「その、エレインって男はただの人間ではないのか? たった一匹の人間にどうしてそこまで執着している」


 どうやらこいつはまだ理解していないようだ。ここで流される彼の情報を聞いてもそんな軽口が言えるとは逆に驚きだ。


「この私が負けた相手、と言えばバカなお前にも理解できよう」


 すると、ゲレアモスが重い口を開いた。あまり自分の敗北話を話すことはしないやつだとは思っていたが、案外にもそれを口にした。

 隠していても得することはないからな。


「バカな。帝位の能力は創造神の力。そんな理すら味方にする最上の能力持ち相手に?」

「あいつがもしまたこの世に蘇ったのだとしたら、本気であいつを殺す。今度こそ、時空の狭間に閉じ込めてでもな」

「無駄だ」


 あいつはその程度のことで死ぬような男ではない。ましてや今は聖剣と魔剣を持っている。やつが戦った時よりも厄介だと言うことだ。


「て、帝位が負けると言うのかっ。この無礼者めが」

「ゼイガイアが正しい。これではあいつは死ぬことはない。簡単に掻い潜ることだろうな」

「……そんなことはありえない」

「なぜそう言い切れる?」

「人間風情が、神の力に匹敵するなどあり得ないと言っている」


 こいつはまだ理解していない。帝国のやつらが一体何を再現したかったのか本当にわかっていないのだろう。

 このようなバカは指導者層にたくさんいる。ここに出席していない連中も似たようなものだ。何もわかちゃいない。


「あいつは超えたんだ。一度でなく何度も」

「ただのおとぎ話が、現実になるとでも言うのか?」

「一度は封印したが、帝国によって呼び覚まされた。あいつの潜在能力を引き出してな」


 ただ封印から醒めるだけなら問題はなかった。

 しかし、奴ら帝国は始祖の発言計画などとほざいて潜在能力を目覚めさせた。それに付随する厄介な連中も作り出しやがった。

 あいつは何度封印しても蘇る。ならば殺さなければいけない。どんな手を使ってでも。


「……単騎で俺たちが全滅することだってあるだろう。あいつが本当の力に目覚めたのならな」

「それほどの人間が、本当にいるのか?」

「信じろ。でなければ死ぬだけだ」


 俺は強くそういった。

 こいつはまだ若い能力持ちだ。俺たちの歴史などまだ知らないことが多いのだろうな。

 まぁどちらにしろ、慢心したやつから死んでいく。世の中というのはそういう摂理で動いているのだから。

こんにちは、結坂有です。


エレインの情報が徐々に明らかになってきていますが、またしても謎が多くなってきましたね。

果たして彼は一体何者なのでしょうか、そしてそれは本当に人類のためにあるものなのでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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