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幻影は闇から逃れられない

 俺、エレインは闇の中に囚われていた。厳密にいえば別の空間へと飛ばされたと言うのが正しいだろう。

 それに俺のことを剣聖と呼ぶ魔族らしき存在もいる。

 真っ暗な視界の中ではあるが、その声だけははっきりと聞こえる。


「……まんまと私たちの罠にかかるとは驚きだわ」

「最初から罠だとわかっていた。だから二人だけで突撃した」


 女性の声ではあるものの、この空間には俺と強烈な魔の力を放つ声の主以外いない。

 つまりは女の声をした魔族だと言うことだ。そして、この闇の空間へと転送したのもこの魔族に違いない。それに能力持ちでもある。

 どう言った能力なのかはわからないが、神を喰らって奪った能力ということで聖剣や魔剣などの能力と比べるとはるかに強力なのには変わりないはずだ。

 ただ、今のところ彼女の声から攻撃の意志というものが感じられない。揺さぶりを掛けるつもりで俺は話に乗ってみることにした。


「ふふっ、この状況で余裕なのね。死ぬかもしれないと言うのに」

「こうした状況は慣れているからな。それに攻撃の意志が見えないからな」

「……声だけで判断するのね。私が怖くないのかしら」

「悪いがこの程度のことでは恐怖は覚えない。むしろ慣れている」


 正直なところ、視界が奪われている状態の方が気が楽ではある。無駄な情報が入らないからだ。

 真っ白な訓練施設とは違い、現実の世界にはさまざまな情報が入ってくる。

 街の看板であったり人や物の色や形などはもちろん、地面の状態や空気は澄んでいるのか空の色はどうなのか……挙げれば視界から得られる情報はさまざまだ。

 とはいえ、そうした情報と言うのは重要なものではあるものの、戦闘という状況においてはそこまで重要ではない。


「そう、だけどいつまで平静を保てるかしら。私の知る限り、一時間もその状態でいれば苦痛になるものよ?」

「普通の人であればな」

「……只者ではないっていうことはわかっていたけれど、まさかここまでとはね」


 特に俺は何もしていないのだが、この闇の空間を作り出している魔族は俺に対して強く警戒しているようだ。

 かつてゼイガイアが俺のことを知っていたように、おそらく魔族側で情報が出回っているのかもしれない。


「俺のことを知っているようだが、どこまで知っているんだ?」

「エレルラトラムの剣聖、それも私たちと同じ能力持ちだと言うこともね」

「能力持ちか、そのように言われているのか」

「ふふっ、あなたのことはよく知っているわ。何年も前からね。だからこうしているだけで私も怖いのよ」


 俺のことを能力持ちだと言っている。とはいえ、そのことについては何も知らない。

 確かに人以上に五感が優れているのは実感しているものの、それが能力かと言われればおそらく違うのだろう。

 そもそも魔族の話す情報だ。そこまで信用できるものでもないのかもしれないがな。


「特に滅神のことは私たち魔族としても興味深いのよ。そのための鍵になる聖剣も探しているのだけどね」

「聖剣?」

「妙な聖剣なのよね。まだ実在するのかは知らないし、そもそも私はその剣にあまり興味はないわけだけど」


 ルクラリズ以外の魔族と長く会話する機会などなかったが、こうして声だけで話している分には普通の人間と何ら変わりはない。

 知能的にも人間と大差はないと言うことだ。

 しかし、その言葉のところどころに俺たちの知っている知識と違うと言うのがわかる。

 彼ら魔族には魔族の知識があるのだろう。そして、それらの知識はどこまで信じていいのかもわからない。

 まぁ互いに半信半疑なのは同じなのだろうが。


「どうせ、あなたに聞いたってわからないことだろうしね。もう何百年も前の話だし」

「……どうしてそのことを俺に話すんだ?」

「どうしてって? ただの時間稼ぎよ。まぁ私だって暇じゃないし? 好きで付き合ってるわけでもない」

「俺を殺さないのか?」


 この空間に閉じ込めた意味がわからない。もちろん、攻撃の意志があるのなら俺とて手段を考える必要があるが、どうも彼女の言葉からは敵意を感じられない。


「殺せるのなら殺したいところよ? だけど、そうさせてくれないじゃない」

「この暗闇の中、俺が取れる行動なんて限られているはずだが?」

「挑発しても無駄よ。私たちは学習したの。あいつと戦ってね」


 彼女は一体誰のことを言っているのだろうか。先ほど口にしていた”滅神”のことだろうか。

 そのような呼び名のある神を俺は知らないし、以前天界に行った時もそのような名前は出てこなかった。

 魔族の出現に関しては詳しく聞いていないが、それと何か関係があるのだろうか。どちらにしろ、俺たち人間が知りようのない情報だ。


「どうだろうな。あんたが思っているほど、俺は強くないかもしれない」

「そんなわけないわ。誤魔化そうとしても無駄よ」


 どこまでも警戒心の強い魔族だ。どちらにしろ、向こうに攻撃の意志がない以上、俺としても無駄に動くことはできない。

 それに彼女は時間稼ぎが目的だと言った。本当にそれだけが目的なのだとしたら、俺一人をこうして拘束する意味がない。アレクやミリシアなら事態の急変にも柔軟に対応できるだろうし、アイリスのことも面倒を見てくれるはずだ。

 もしかすると、魔族側はすでに目的を果たしたとでも言うのだろうか。頭でどれだけ考えたところで魔族の考えていることなど知り得ないわけで、無意味な推測に過ぎないか。


「…………暇だ」

「ほっんとに余裕ぶってるわね」

「あんたが何もしてこないからな」

「したら殺されるからね」

「意味がわからない」


 何度も言っているが、この状況下で俺の取れる行動は限られている。どうやら相手はただ俺を拘束するだけが目的ということのようだ。

 とはいえ、何十分もこうして暗闇の中というのはどうも退屈で仕方がない。

 加えて今はイレイラやアンドレイアたちも話しかけてこない。おそらく俺だけがこの空間へと閉じ込められているようだ。


「はぁ、いつまでも退屈そうにされるとこちらとしても苛立つんだけど」


 何も言わないで沈黙しているといきなり彼女は大きなため息を吐いて話しかけてきた。

 俺としては何も行動しているつもりはなかったのだが。


「何も言っていないが?」

「態度の出てるのよ。まぁあなたには見えていないのかもしれないけれど……いや、見えているのか」


 一人で何をぶつぶつ言っているのかは知らないが、結局のところ俺が退屈なことには変わりない。


「イライラするわ。いいわよ。話し相手ぐらいなるわ。不本意だけど」


 最後の言葉だけなぜか強い口調になりながらもどうやら話し相手にはなってくれるそうだ。

 そこまで嫌なら付き合う必要などないはずなのだがな。

 どうもこの魔族は変だ。

 まぁ俺としても聖剣がない状態で戦うのは不利だ。こちらとしても攻撃の意志や明確な敵意を見せるのはやめておこう。


「……話と言っても、世間話でもするつもりなのか?」

「世間話? あなたたち人間とは分かり合えない世界に生きているのだからね。無理に決まってるわ」


 当然のようにそう返事が来た。確かに魔族の生活はルクラリズの話を聞いているだけで違いがあるものだ。

 世間話といった話題など双方にとって何の得にもならないのかもしれない。


「では、何を話題にするんだ?」

「そこはあなたが決めなさいよ。こういう時は男が話題を振るものでしょ」


 そう言った話はあいにくと俺には聞いたことがないのだが、どちらにしろ俺が話題を持ち出す必要があるようだ。


「なるほど、単純に疑問に思っているんだが、魔族には能力持ちがどれぐらいいるんだ?」

「ふふっ、そう簡単に私たちの情報を聞き出せるなんて思わないことね」

「何か条件が必要か?」

「そうね。勝負に勝ったら数ぐらい教えてあげるわよ?」

「厳しそうだ」


 相手は俺の状態を完全に把握している状態なのだろう。

 対する俺は視界が全く使えない状態だ。

 それに相手の声は俺の脳内に直接響いているのか、どこにいるのか見当もつかない。

 少なくとも五感で得られる情報だけでは相手がどこにいるのか判断はできない。


「いいのかしら。あなたたちからすればリスクもなく敵対勢力が得られる機会なのに」

「どう言った勝負なんだ? 先ほどは殺さないと言っていたが……」

「……殺したいの? 殺されたいの?」

「少なくとも、どちらもできないと思うがな」

「まぁいいわ。私の立っている場所を答えてくれたら教えてあげるわ」


 そんな簡単なことでいいのだろうか。まぁ俺としては死闘を演じる必要もなく済むのなら楽でいい。

 流石にこんな状態で戦いたくはないからな。


「ふむ、ちょうど俺から五歩左前に立っている。間違いないか?」

「どうしてそんな即答できるのよ」

「できないと思ったのか?」


 彼女の今までの口振りからすると俺なら答えられるはずだと思っていたはずだ。

 この状態でまともに俺とやりあえば彼女は負けると判断していたようだからな。


「そ、そんなわけないじゃない。あくまで予行よ。予行」


 ふんっと鼻を鳴らして彼女は何かを始めた。布の擦れる音がしばらく続く。どうやら走って移動しているようだ。


「まぁあれぐらいは余裕でしょうね。次はどうかしら」


 そういって彼女は自信満々に言葉を続けた。

 どういうわけだか、わかりやすい場所に立っているようだ。


「……そんな場所でいいのか?」

「ええ、絶対にわからない場所だから」

「俺から五四七歩、左後ろに本体が立っている」

「…………」


 そう答えてみるが、彼女は一向に答えを言おうとはしない。間違いはないと思うのだがな。


「違うか?」

「か、数えてただけよ。よくそんな数字が出てくるわね」

「感覚の問題だ」

「何だか、この勝負、アホらしいわね」

「同感だ」


 敵対する魔族と意気投合することなど一生ないと思っていたが、なぜか今の彼女の言葉に同感してしまった。


「もういいわ。とりあえず、私の負けね。教えてあげるわよ。仕方なくね」


 どうしても言いたくないのなら言わなくていいのだがな。こんなくだらない茶番のようなゲームに意味などなかったのだからな。

 とはいえ、一度約束してしまったことはやり遂げたいらしく、彼女は自勢力のことを話してくれた。

 どうやらその内容的には今後特に役に立ちそうなものはなかった。

 能力持ちの魔族数はどうやら把握できていないらしく、最上位のリーダー格、彼女たちの言う主導者層の魔族は五十九体いるそうだ。

 それぐらいは存在していてもおかしくはない計算だった上に、新しいと思える情報でもなかったのは最初からわかっていたことだが。

こんにちは、結坂有です。


エレインを捕えた魔族ですが、どうも変な感じがしますね。王女に擬態した魔族にしては少し印象が違います。

それにしても、エレインの実力、いったいどれほどのものなのでしょうか。気になりますね。

ただ、その本気を見るのは今後あるのでしょうか……


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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