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想いは共に同じ

 影縫(かげぬい)流剣術の二人に勝利した後、俺はセシルとリーリアと一緒に帰路についていた。


「セシル、本当にエレイン様の家に行くのですか?」

「そうよ。パートナーとして当然でしょ」


 セシルはそう胸を張って言った。

 別にパートナーだからといって家にまで来る必要はないとは思うのだが、まぁ彼女にとっては必要なことらしい。


「家に来る分には問題ないだろう」

「エレイン様……」

「ふふん、そう言ってることだからいいわよね」


 そう言ってセシルは何かに勝ち誇ったかのような得意げな表情をしたのであった。




 それから俺の家に着くとユレイナがいつものように出迎えてくれた。


「エレイン様、そのお方は?」

「ああ、学院でパートナーになったセシルだ」

「そのお方がセシルさん、ですね」


 どうやらユレイナは彼女と会うのは初めてのようだ。


「はじめまして、パートナーのセシル・サートリンデよ」


 そういうと彼女は丁寧に頭を下げて自己紹介をした。

 すると、それに合わせるかのようにユレイナも軽く頭を下げる。


「私はアレイシア様のメイドを務めていますユレイナ・アンデレードと言います」

「え、あのアンデレード家の?」

「はい。一応本家の生まれではありますが、後を継いでいるわけではありません」


 セシルが知っていると言うことはどうやらアンデレードと呼ばれる家柄は有名らしい。

 その辺りは全く知らされていないからな。今後調べてみてもいいのかも知れないな。

 そんな会話をしていると、奥からアレイシアが杖を突きながら歩いてきた。


「うそ……」

「アレイシア、お久しぶりね」

「何よ、その言い方……一体何をしにきたのかしら」


 アレイシアはどこか警戒するように目を細めた。

 そこまで警戒する必要はないと思うのだが、どうやらアレイシアとセシルは昔からなんらかの関わりがあったのは確かだからな。


「エレインのパートナーとしてここに来たの。別に何か嫌味を言いに来た訳じゃないわ」

「そう、エレイン。セシルが迷惑かけてごめんね」

「迷惑なんてかけてないわよ。ね?」


 セシルとアレイシアの二人に見つめられる俺であるが、これにはどう返事をしたらいいのだろうか。

 生憎だが、回答できる言葉を俺は持ち合わせていないのだが。


「……セシル、もう挨拶はできたことですし、私たちもこれから夕食の準備を始めますから」

「じゃ私も夕食を食べるわ」


 俺がしばらく無言でいると、リーリアがそう代わりに答えてくれた。

 帰ってほしいという意味で言ったことなのだが、セシルはどうやら夕食を一緒に食べると言い出してきた。


「そ、それは……」

「別に構いません。食材には余裕がありますから。リーリア、準備を始めましょう」

「っ! ……わかりました」


 少し困惑した様子でリーリアがユレイナの後を追うように厨房へと向かっていった。

 セシルを帰すのは難しいだろうな。

 直球で言うしか方法がないように思える。

 しかし、アレイシアとセシルの間にいる俺はどうも居心地が悪いものだ。


「俺は服を着替えてくる」

「エレインの部屋、見てみたいわ」

「ちょっと、セシル。エレインはゆっくり着替えたいのよ」

「そうなのかしら?」


 セシルはそう聞いてくるが、アレイシアは不安そうな表情をしてこちらを見つめていた。

 いや、これはどう考えても嫌な予感しかしないな。


「まぁ別に部屋に入るぐらいなら問題ないだろう」

「だったら、私も部屋に行くわ」


 すると、アレイシアが杖を軽く突いて俺の方を向く。


「アレイシアはいつでもみれるでしょ? ってかあなたの家だし」

「エレインの部屋はまだ一度も行ってないわよ。思春期の男の部屋は勝手に入ってはいけないの」


 配慮をしてくれているのはありがたいのだが、そこまで妙なことをしているわけではないからな。

 それに普段は鍵を閉めているから入ろうにも入れないと言ったところだろう。


「そうだったな。最初は入ると言っていたのにな。まぁとりあえず、行くとするか」


 俺は靴を脱ぐとセシルも靴を脱ぎはじめて、一緒に家に上がった。

 アレイシアはそれを嫌そうな目で見つめながらも俺の言葉に返事をした。


「うんうん、でもエレインは思春期だし。やっぱりプライベートな空間は必要、よね?」

「エレインに限ってそんないやらしいことなんてしないわよ」


 俺が答える前にセシルがそう断言するかのように言い放った。


「セシルに何がわかるの?」

「私は彼のパートナーよ。だから全てを知ってるわ。抱きつかれたことだってあるんだから」


 いや、それは誤解を生む言い方だ。

 確かに魔族防衛の時に抱きついた覚えはあるが、あれはゴースト型の魔族から身を隠すためだ。

 それにあれは口を抑えるのが目的であって、それ以外の意味はなかった。


「っ! わ、私だってエレインと一緒にお風呂に入ったのよ!」

「……お風呂?」

「そうよ。いわゆる裸の付き合いっていうのかな? 私たちはただの義姉義弟関係じゃないのよ」


 すると、アレイシアは顔を真っ赤に染めてそう言い放つ。

 恥ずかしいのならそこで対抗しなければいいのだが、どうやらそう言うわけにはいかないようだ。

 これには彼女の義姉としての威信がかかっているのかも知れない。

 俺はセシルに顔を向けると、ジト目で俺の方を見つめた。


「それ、本当なのかしら」

「事実だ」


 俺はアレイシアの支援に回るためにも嘘は吐かずにそう答えた。


「いいわ。夕食の後、私もエレインと一緒にお風呂に入るから」

「どうしてそうなる?」


 逆にセシルの対抗心を燃やす結果となってしまったらしい。

 なぜこうなってしまったのか、彼女を理解するのはまだまだ時間がかかることなのだろう。

 すると、セシルがムッとした表情で口を開く。


「当たり前でしょ? アレイシアばかりにそんなことをさせていてはダメよ」


 すると、セシルは人差し指をピンと立てて何か忠告するようにそう言った。


「アレイシアを甘やかしたら危ない目を見るわよ?」

「一体なんのことかわからない……」

「家族でもないのにそんなことさせないわよ?」

「エレインはもう大人よ。そろそろ義姉離れをさせないといけないわ」

「なっ、そんなことないわよね?」


 ただ俺の部屋に向かうだけなのにどうしてこんなにも道のりが長く感じるのだろうか。

 そして、俺の部屋についてもなお彼女たちはお風呂の論争で死闘を繰り広げていた。


 論争の結果、アレイシアが羞恥心で完全敗北してしまいどうやら俺とセシルが一緒にお風呂に入ることになってしまった。

 彼女なら勝つと思っていたのだが、思いの外セシルの言葉責めが効いたようですぐに顔を真っ赤にして口を閉ざしたのであった。

 俺の部屋で散々言い合った後、しばらく沈黙が続いたがすぐにユレイナが夕食ができたのか扉をノックした。


「三人ともそこにおられるのですね。そろそろ夕食の準備が整います」

「……わかったわ。今行くから」


 そう言ってとぼとぼと歩き出したアレイシアは恥ずかしさのあまり疲れてしまっているようだ。

 その姿を見てセシルはドヤ顔を決め込んでいる。

 彼女たちは以前にもこのようなやり取りをしていたのだろうか。まぁ見ていて飽きはしないし、楽しいものではあるからな。

 別にこのままでも問題はない。


 そんなアレイシアに続くように俺とセシルも歩き出そうとしたその時であった。

 体の自由がなくなり、完全に固定されてしまう。

 まるで時間が止まったかのような感覚だ。


「っ!」


 全く体が動かない。

 声を出そうにも口が開かなければ無理だ。

 それにアレイシアの方を見ると、片足を上げたまま止まっていることから完全に時間が止まっているのかも知れないな。

 俺はこの超常的な現象に戸惑いを隠せないでいると、目の前に白い光の柱のようなものが見えた。

 そして、そこから美しい水色の髪に銀色の目をした精霊が現れた。


「……」

「驚かせてしまいましたね。私は精霊族族長のクロノスと言います」


 そう言って礼儀正しく頭を下げたクロノスはさらに言葉を続けた。


「もう話せると思います」

「……これは一体?」

「一時的にですが、時間を止めています」


 なぜだ。精霊が単独で力を発揮し、俺たち人間や魔族に直接関与することは嫌うはず。それなのに目の前のクロノスは俺たちに干渉してきたのだろうか。


「精霊の掟はどうしたんだ? 精霊単独ではこうしたことは重罪なんだろ」

「いいえ、精霊の掟とは一方的な干渉にのみ適用されるものです。今回はお互いに利得があるからこそお声をかけたまでです」


 精霊の掟とは精霊が暴走しないために作られた約束事だ。

 そのため精霊の身勝手な行動を制限している。しかし、それが精霊族全体であったり同盟相手の人間にも関わることであれば、問題ないようだ。


「そうか。それで本題はなんだ?」


 すると、クロノスは少し俯いてから答えた。


「魔族ではない脅威が迫っています。お気をつけてください」

「魔族以外の脅威? どう言うことだ」

「詳しくはお答えできませんが、これは精霊と人間の未来に関わる問題です。どうか、議会をお守りください」

「そう言われてもよくわからないのだが……」


 俺がそう言ってみると、精霊族族長のクロノスは顔を上げた。


「本来なら聖騎士団の団長に相談することなのですが、彼は別のことにご執心になられています。それでもう少し期を見てから接触しようとしていたエレインに相談することにしました」


 どうやら俺は団長の次の相談相手だったようだ。

 彼女が何を目的としているのか、わからない上にその脅威について詳しく教えてくれない

 動こうにも情報が少なすぎると言ったところだ。


「あなたの考えていることはよくわかります。ですが、今は言えません。その魔剣アンドレイアさんと大聖剣イレイラを駆使し、脅威を排除してください。私たちの未来のために……」


 クロノスはそう言い残し、姿を消した。

 すると、時間が動き出したかのようにアレイシアとセシルが歩きはじめた。


「エレイン?」

「なんでもない。夕食を食べようか」


 足を止めていた俺にセシルが声をかけてくれた。

 精霊の族長が俺に伝えたいこととはなんだ。

 そんな疑問が夕食の時にも続いたのであった。

こんにちは、結坂有です。


どうやらセシルはアレイシアと同じぐらいエレインのことが気になっているようです。

ですが、エレインはそのことにはまだ気付いていません。今はまだパートナーとばかり思っている様子です。

それに族長のクロノスは一体何を警告したかったのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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