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思わぬ憶測

 俺、エレインはラフィンとアイリスと共に隠れ城の調査へと向かっていた。隠れ場には想定していたよりも魔族の数が多く、すぐに制圧できる状態ではなかった。もちろん俺とアイリスだけで先攻めすることもできなくもないが、ここはラフィンの安全を第一に考えて行動するべきだ。

 彼女が怪我をしてしまってはそれこそ作戦が台無しになってしまうからだ。まぁ必要であればそのような強引な方法で解決してみるのも一つの手なのかもしれないが。

 とは言え、最悪とも言えないため俺たちは一旦聖騎士団の駐屯地へと戻ることにした。

 駐屯地へと市民の目から隠れながら戻り、俺たち専用のテントの中へと入るとアイリスが俺の方を向いた。


「お兄様、あの隠れ城の様子はどのように見ていますか?」

「あそこで魔族が隠れているのだろうな」

「……具体的に彼らの目的はなんなのでしょうか。あれほどの数の魔族です。この国を制圧しようと思えば簡単にできるはずですが」


 確かにアイリスの言う通りだ。あの施設は確かに城と呼ぶには少し物足りないような建物ではあったが、それでも普通の家とは呼べないしっかりとした建物をしていた。ラフィンの話によるとあの建物の中には武具なども多く取り揃えており、多くの人が生活できる空間があるらしい。

 見えている部分以外にも地下室などを含めるとかなりの人を住まわせることができるのだろう。

 王家が戦禍から逃れるために作られた施設だ。あの場所で数ヶ月以上生活できるだけの施設や資源があるのだそうだ。当然ながら、それらは人間同士の戦いでは有効的なのかもしれないが、魔族相手では全く意味はないだろうがな。

 ただ、そんな施設を魔族が使う利点はどこにあるのだろうか。少なくともあの城にいる魔族全員が街に出向けばそれだけでこの国は滅亡するはずだ。たった数体の魔族で一つの帝国が滅んだように。


「何も人間を滅ぼそうとするだけが魔族の目的ではないのだろう。俺の持論ではあるが、魔族が滅ぼうそうと思えば人類はとうの昔に滅んでいたはずだ」

「何か根拠でもあるのですか?」

「考えてみればわかることだ。人類が聖剣というものを手にする以前であれば簡単に滅ぼせるからな。だが、人類に精霊と手を組む猶予を与えた」

「つまり、滅ぼすことが魔族の目的ではないということですか」

「具体的に何を考えているのかはわからないがな。家畜のように支配するのか、それとも他の理由があるのかは知りようがない」


 魔族が一体何を考えているのかは俺たち人類が知ることはできないだろう。少なくとも魔族にはゼイガイアやグランデローディアのように最上位種と呼ばれる連中がいて、そいつらが魔族の行動を牛耳っているのだそうだ。

 そのことに関してはルクラリズから話を聞いている。ただ、彼女もその最上位種の話し合いには参加したことがないらしい。まぁ人類への攻撃に消極的だった彼女からすればそのような話は聞きたくないことだろうからな。

「……もし、あの城にいた魔族が攻撃を開始したらこの国はどうなりますか?」

 すると、俺たちの会話を横から聞いていたラフィンがそっと話しかけてきた。この国の未来を考える彼女からすればあの状況で恐怖や不安を覚えるのも無理はない。


「正直に言えば大混乱は避けられません」

「だろうな」

「それは聖騎士団がいても同じでしょうか」

「いくら最強の部隊だと言ってもたったの三十人だからな。なんとか魔族を排除することはできたとしてもその被害はどれほどのものなのかは想像に難しくないだろう」

「そうですね。あの隠れ城と街を隔てるのは深い森一つ、一斉に魔族が飛び出せば街に大きな被害が出ますね」


 そのあたりのことはラフィンでも容易に想像できることだ。

 つまりこの状況で魔族を刺激するのはあまり得策とは言えない。もちろん、何も対策しないでいてはもしもの状況に対処できない。

 あの城から魔族が飛び出し、攻撃が始まったとしてもすぐに対処できるよう聖騎士団の警戒を強める方がいいだろうな。


「お兄様、そのことはどう説明しますか?」

「魔族側の考えてとしては気付かれたくないのが本音だろう。刺激さえしなければ攻撃に出ることはない」

「それでも不安なのには変わりありません」

「ミリシアとアレクが戻ってから話し合うとするか」


 少なくとも彼らの持ち帰ってくる情報を聞いてからでも遅くはない。魔族がすぐ近くにいると言うのはラフィンからすれば寒心に堪えないことだろう。

 それでも俺たちが今持っている情報だけで行動するのは危険だからな。


 しばらくすると、アレクとラクアが戻ってきた。

 彼らはジェビリー王女と面会してきたようだ。


「エレイン、まずは君たちの調査のことを教えてくれないか?」


 テントに入ってくるとすぐにアレクがそう話しかけてくる。彼らからしても俺たちの持っている情報に関しては重要な意味を持っているのだろう。


「ああ、簡単に言えば隠れ城には魔族が潜んでいる。それも大量にだ」

「そのことは私も確認しました」


 俺に続いてアイリスもそう言うとアレクは少しだけ考え込む。彼もそれが意味することがある程度わかっているのだろう。


「よくない状況だね」

「それより、ジェビリーとの話はどうだ?」

「そうだね。少なくとも僕の見立てでは彼女は魔族ではないね。正真正銘人間だったよ」

「本当、ですか?」


 ラフィンはアレクの話に驚いている様子だ。彼女はジェビリーがすでに魔族に乗っ取られていると推測していたからな。王家がこのような状況になっているのだ。そう考えるのも無理はない。


「魔族特有の嫌な気配も、成り代わっている様子も、無理やり洗脳させられている様子でもなかった。ごく普通の王女様って感じだったよ」

「ラフィン、何か気になることでもあるのか?」

「いいえ、アレクさんの情報に異議を唱えることはしません。ですが、それでもジェビリー自身がこのような状況を作っているとは到底思えなくて……」

「最初は魔族と結託しているのだろうと言っていたようだが?」


 彼女と最初に出会った時、魔族と結託して自分を追い出したと推測していた。もちろん、その時と意見が変わっていたとしてもなんら違和感はないのだが、彼女の感じる違和感というものはどうやら俺たちとは少し違うような気がする。

 と言ってもそれがどのようなものなのか、今の彼女の心情から具体的に説明するのは難しいか。


「あの時は可能性の一つを挙げただけに過ぎません。ただ、今考えているのは……姉様が死んでいるということです」

「なるほど。アレク、彼女が本人だとなぜわかったんだ?」

「一つ昔話をしていたからね。中央庭園の像にラフィンが落書きをしたという話を聞かされたよ」

「……中央庭園、ですか?」

「君たちの先祖にあたる銅像に落書きをした、そう僕は聞いたのだけど」


 そのアレクの話にラフィンは昔を思い出すかのように考え込む。何か心当たりでもあるのだろうか。

 確かに先祖にあたる人物の銅像に落書きをしようとはなかなか大胆な出来事ではあるはずだ。当然ながら、彼女がやったと言うのなら記憶に残っていても不思議ではないが。


「あの時、落書きをしようと言ったのは父の提案です」

「そうなのかい?」

「はい。父はとても陽気な方だったようです。病魔に冒される前、彼は王家の悪しき風習を壊そうとしました。その流れで銅像に落書きをしようなどと言ったのです」

「そうだとしたらジェビリーは嘘をついたことになるね」

「……私の考えなんだけど、何かを伝えようとしてるのかしら」


 すると、話を聞いていたラクアがそう呟くように言った。

 確かにジェビリーには嘘をつく理由がない。それなのに本人に聞けばすぐに嘘だとわかるようなことを言ったのだろうか。


「そういえば僕にラフィンの様子を聞いてきた直後だったね」

「アレクが彼女のことを知っているとわかった上でそのようなことを言ったのなら理由がきっとあるはずだ」

「ラフィンさん、その悪しき風習というのはどう言ったものなのですか?」


 彼女の父は風習を破壊する目的で動いていたらしい。それならその悪しき風習とやらに意味が隠されているのだろうか。


「政に関わることでした。父の時代では貴族が内政を牛耳っていました。彼らの発言力は王家を凌駕するもので、いつしか王家はお飾りのような状態になっていたのです」

「どこにでもあるような話ね」


 確かに貴族というのは王家よりも市民にかなり近い位置にいる存在だ。商いをして儲けた人、人々を集め指揮できる人がやがて貴族となる。そうした人たちは市民の声をいち早く聞くことができ、そして王家に進言することができる。

 無論、王家が実際の決定権を持っているのなら王家が情報を精査し、判断しなければいけない。しかし、いつしかそれらの調査は面倒だとして、貴族の有利に働くよう王家が忖度してしまう。こうした貴族と王家の逆転現象はいつの時代も起きることのようだ。


「そこで父はその貴族に媚を売るような風習はやめるべきだと言ったのです。最初は煙たがられたようですが、次第に王家の信頼は取り戻せました」


 そう一言で言っているものの、実際にそうさせた彼女の父は優秀な王だったのだと言える。


「頑張り過ぎたのでしょう。王家の信頼がかつての状態に戻った十年後、父は病に

倒れたのです。私が物心つく頃にはすでにベッドから出られない状態でしたから」

「そう聞くと、なかなか変な話よね」

「その、今の状態がその時と同じなのだとしたら……」

「姉様は私に助けて欲しいと言っている、のでしょうか」


 かつて貴族に操られていた王家はただのお飾りだった。そのことを今回の状況に照らし合わせると王家は魔族に操られていると言い換えることができる。

 そして、その状態を打破できるのはラフィンであるとそうジェビリーが訴えているのだろうか。


「ただ、それはただの憶測に過ぎません。本人なのかどうかも怪しいことです」

「あくまで仮定の話、ですね。理解はしていますが」

「……僕としてはジェビリーが本人であるのなら助け出したいと思っている」

「理想としてはいつだ?」

「今夜にでも。彼女は今や用済みの存在だからね。どのような扱いを受けているかわからない」


 確かに聖騎士団との対談を終えた今、彼女がどうなっているかはわからない。まだ生きている可能性があるのならすぐにでも助け出したいところだろう。

 しかし、助け出したとしてもそれは本人ではなく魔族の手下である可能性だってまだある。何か本人であることが確認することができれば、それこそ解決への糸口になるのかもしれない。


「なら、すぐにでも準備した方がいい。聖騎士団の方へは俺から伝えておこう。ただ、本人だと確認できる方法があればの話だが……」


 そう俺がラフィンの方へと振り向くと彼女は何か思い出したかのような顔をしてアレクの方を向く。


「王家に歴史に関係する言葉でしたら、合言葉として使えるかもしれません」

「ジェビリー王女にもわかることかしら?」

「はい。このことは王家である私たちにしか伝えられていないものです」

「それなら十分だな。その言葉というのはなんだ?」

「英雄は何を使って船を壊したか、その答えは梯子です。秘伝とされている『英雄の詩』から引用しました」


 どうやら王家に伝わる詩からその問いかけを持ち出したようだ。他に思い当たる話がないためおそらく秘伝なのだろう。

 梯子を使って船を壊した、その言葉だけだと全く意味がわからないのだが、おそらくそれも何かを伝えるために残したものなのだろう。少しだけ内容が気になるところだ。


「秘伝なのだとしたら使えそうだね」

「ええ、きっとすぐに答えれると思います」


 そう小さく微笑んだラフィンはどこか緊張が解けたような印象がした。きっと今まで姉であるジェビリーのことが心配で仕方がなかったのかもしれない。ただ、生きているかもしれないとわかった今、その不安が少しでも解消したようだ。

 そろそろミリシアたちも戻ってくる頃だろう。さて、俺たちも動き出す時間だ。

こんにちは、結坂有です。


ついにジェビリー王女の正体を突き止める時が来ましたね。今回の救出作戦にはアレクとラクアになりようです。

彼らならきっと無事に助け出すことができることでしょう。

それにしても英雄の詩、一体どう言ったものなのでしょうか。その辺り話も気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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