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学院での対立

 俺はいつも通り学院に登校していた。

 特に景色的には代わり映えしないのだが、横にいるリーリアはいつにも増して頬を赤く染めている。

 まぁ気になっているだけでは何もわからないので聞いてみることにした。


「リーリア、今日はどうしたんだ?」

「あ、いえ。なんでも……」


 俺の言葉を聞いた途端、肩を震わせて驚くと顔を逸らしてそう言った。

 これは昨日の一件に何か関係あるのだろうか。

 とはいえ、昨日のことに関しては彼女が行ったことだ。今更何を恥ずかしがると言うのだろうか。


「昨日の風呂場での出来事を引きずっているのか?」

「っ! ……昨日は少しやり過ぎてしまいましたね」

「別に気にしていない」


 たまにはあんなことがあってもいいのかもしれない。

 ただ、俺の理性がどこまで耐えられるかが問題なだけだ。


「昨日の夜は、その……エレイン様のお体が頭から離れなくてあまり眠れなかったです」

「俺の体は変だったか?」

「違いますよ。そのたくましいというか、すごくかっこよかったです。あんな姿見せられては見惚れてしまいます」


 そうやって直球で言われるとなんとも恥ずかしいものだな。


「そうか、リーリアも剣の腕によらず可愛らしい体をしていた」

「は、恥ずかしいから言わないでくださいっ」


 彼女は真っ赤にした頬を手で冷ますように仰ぎ、顔を逸らした。

 それにしてもあの家の風呂は見た目よりも大きなものなのだな。三人が入ったとしても窮屈なのには変わりないが、何とか入れる大きさだ。

 まさかこれを想定して作られているのか。

 風呂とは一人で入るものという認識を改める必要がありそうだ。


「おはよう、エレイン」


 学院の敷地内にある商店街に入るとすぐにセシルが声をかけてきた。


「ああ、奇遇だな」

「……それ、私のセリフだけど」

「悪いな」


 いつもの流れを崩すべく俺はそう言った。

 彼女とも気がついたら学院の中で一番長く付き合っている人物となった。

 ミーナとはしばらくは朝練と放課後の練習だけで、リンネとは席が隣である以外はそこまで交流がない。

 セシルとは魔族防衛の応援で土日を共にした仲である上に、こうして学院に入る前から登校しているわけだ。

 当然、総合的な時間で見れば彼女と長く過ごしていることになっている。


「ちょっと、リーリアいつもより顔赤いけど大丈夫なの?」


 すると、セシルは耳元に顔を近づけてそう小声で言ってきた。


「顔は赤いが別に熱があるわけでもないからな」

「あんなに赤くなるんだから、お風呂とか一緒に入ったりしていないわよね?」

「っ!」


 セシルが小声で話していたのだが、リーリアは耳が良かったらしく聞こえていたようだ。

 その反応を見た彼女はジト目で俺を見つめてきた。


「お風呂に入ったんだ……」

「成り行きだ」

「ふーん」

「エレイン様、これ以上は嫌な予感がします」


 まだ赤みを帯びた頬でリーリアは俺にそう忠告を入れる。

 だが、俺が返事をする前にセシルが口を開いた。


「今度エレインの家に行くわ」

「何?」

「パートナーの家に行くのは当然でしょ?」


 あたかもそれが当たり前であるかのようにいうセシルだが、本当なのだろうか。

 その言葉を聞いたリーリアは目を細めてセシルを見つめた。


「パートナーの家に行くのはよくあることだと思いますが、セシルはただ交流を深めるだけではないはずです」

「あら、一緒にお風呂に入るのは交流を深めることではないの?」


 確かに裸の付き合いというのは古くから交流を深めると言われているが、今の時代ではそんなことはしないのではないか?

 そもそも男女が裸で触れ合うことそのものが普通ではないのだ。

 まだ知り合って間もない相手にすることではないような気がするが、とは言ってもリーリアとそこまで変わりはないのかもしれないな。


「まぁ家に来る分には問題ない」

「エレイン様までそういうのですか?」

「じゃあ、決まりね。今日の放課後に一緒に帰りましょう?」


 彼女の即断即決は素晴らしいところなのだが、こうも展開が早いと俺もどう対応していいのかわからない。

 彼女がそう言った時、微かにだが腰後方にあるアンドレイアが微かに震えたのであった。




 学院に着くとやはり入学時学院評価一位のセシルといることで俺は注目の的となっていた。

 羨望の眼差しと嫉妬の眼差しの混じった居心地の悪い視線だ。

 しかし、セシルはそれを気にも留めていないようで、完全に無視を決め込んでいた。

 俺もそれに対して過剰に反応することはなく、彼女と同じように無視することにした。


「そろそろ授業が始まるから私は席に着くわ」

「わかった。俺も席に着く」


 そういうとセシルは自分の席に向かった。


「私は後ろから見ていますね」


 リーリアも俺から離れて教室後方に置かれている椅子に座る。

 俺も席に着くことにした。

 席に着くと隣に座っているリンネがこちらに話しかけてきた。


「本当に有名人よね」

「嫌味か?」

「そうじゃないわよ。ただそう思っただけだから」


 そう言ってリンネは視線を逸らした。

 彼女もよくわからない人だ。

 すると、俺の席の前に男が二人立ち並んだ。


「エレインだったな。お前、養子なんだろ? 養子の分際でセシル様と並ぶなどあってはいけない」

「確かに養子だが、セシルと組むことにはなんら問題はないだろう。それに俺を認めたのは彼女だ。俺を否定するということは彼女の判断を否定することになるのではないか?」


 すると、男の一人が目を見開いて怒りをあらわにした。

 そこまでして俺に怒りを向ける理由がわからないのだが、やはり可愛い人を守りたいというのは男性であれば一緒なのだろうな。

 だが、俺とてそう簡単にセシルを渡すわけにはいかない。

 彼女は非常に強い剣士だ。その潜在能力を開花させるまでは俺以外にパートナーを組ませることはさせない。


「っ! いい気になりやがって……」

「俺たちがお前より強いことを証明してやるよ。俺たちが勝ったらセシルとのパートナー関係は破棄しろよっ」


 男たちがそういうと後ろからリーリアがやってきた。


「先ほどから聞いていますけど、エレイン様はただセシルとの勝負に勝ったのです。セシルは彼の能力を知っているからこそパートナーになっているのです」

「あんなの能力でもなんでもねぇよ」


 さらに男は激昂し、リーリアにまで怒りを向けた。


「メイド風情が剣士の話に口を突っ込むんじゃねぇよ」


 すると、セシル本人が立ち上がりこちらに歩いてきた。


「あなたたち、影縫(かげぬい)流剣術の二人よね」

「せ、セシル様……そうですよ」

「確かに影縫流剣術は強いと聞くわ。でしたら、二人でエレインと勝負してみなさい」

「ふ、二人で?」


 セシルがそういうと二人の男は驚いた。

 すると、一人が控えめに口を開いた。


「セシル様、それはいくらなんでも不公平では……」

「エレインを相手にするのならそれぐらいハンデがあってもいいでしょう。と言っても彼にとってはハンデの一つにも入らないでしょうけど」


 セシルが俺に挑戦的な目を向けてきた。

 彼女のその目は「当然、できるわよね?」と一方的だが、尋ねられている気がした。

 俺はそれに軽く頷いて肯定した。

 影縫流というのは知らないが、彼女曰く強い剣術らしい。


「そ、そこまでいうのなら受けてやってもいいですけど……」

「私はエレインが勝つと確信してるわ。もちろん、あなたたちが勝てばそれなりに評価してあげるから」


 彼女のその一言で男二人はやる気に溢れた目をした。

 なんとも単純な男たちだな。


「エレイン、それでいいわね?」

「好きにしろ」

「そこまでいって負けた時に言い訳なんかするなよ?」

「言い訳をするのはどっちだろうな」

「っ! 放課後だ。放課後に決闘場を借りておく。遅れるなよ!」


 遅れるも何も、同じクラスなのだから遅刻などあり得ないだろう。

 それに逃げることも不利だろうからな。

 男たちはそう言い残して自分の席に戻った。


「エレイン様、本当に大丈夫ですか?」

「議会には俺の実力が知られている。聖騎士団とも敵対関係だ。今更何も隠すつもりなどない」

「……エレイン様がそうおっしゃるのなら」


 そう言って不安そうな顔をしてリーリアは席に着いた。


「まぁ私も見届けてあげるし、応援してるから。頑張ってね」


 セシルもそう言い残して自分の席に着いた。

 全く、彼女が大きくした事態なんだがな。

 それはともかく学院に入った時から妙な視線が向けられている。

 人間のそれとは違い、俺の中身を覗いているかのような不思議な視線を向けている。

 アンドレイアが何も忠告してこないことから、敵ではないようだ。

 にしても気になるのは確かであった。

 そんなことを考えていると隣のリンネが口を開いた


「エレインも大変ね」

「他人事みたいにいうな……」


 リンネは軽く舌を出して、ウィンクをした。

 その悪戯顔は彼女の性格をそのまま映し出しているようであった。




 そして、放課後。

 男二人は授業が終わるとすぐに決闘場を借りてくれた。

 すぐに準備が整ったようで、ギャラリーにも何人かの生徒が集まっていた。


「影縫流とあのフラドレット家の養子が戦うってよ」「あいつって確かセシルのパートナーだよな。羨ましいぜ」「セシル様にはあの最強の龍雲剣術がお似合いだ」「何言ってんだ。最強は無心一刀流だろ?」


 ギャラリーでは何やら論争が繰り広げられているようだが、特に気にする必要もなさそうだ。

 知らない剣術の話をされたところで、俺には全く関係のないことだからな。


「じゃ、始めるぜ?」

「いつでもいい」


 俺がそう返事するとモニターにカウントダウンが表示された。

 俺はイレイラを引き抜き、構えのない構えを取る。


「影縫流、幻影の構え!」


 そういうと二人は絶妙な間合いで立った。

 なるほど、あのように並ぶことでお互いに剣を合わせると言ったところだろうな。

 横一列に並んでいるのだが、その二人の間隔が計算されている。


『始め!』


 カウントダウンが終わると、男二人は突撃してきた。

 一糸乱れぬその動きは簡単に避けることができないものだろう。

 それなら受け止めてやるとするか。


「「奥義! 二芯一刀!」」


 二つの剣を一つの大きな剣に見立てた攻撃だ。

 双方の息が合っていないと成功しないであろう剣撃だ。

 あれが強いと言われる所以だろうな。

 俺はイレイラを突き出した。


「なっ!」


 二人の剣の間にできたわずかな隙間に俺は剣を突き入れた。


 キャリィィン!


 心地よい金属音が決闘場を響かせると、二人の男はその反動で左右に分断された。

 この剣術の弱いところは二人が分断されたところにある。

 あのように立ち並ぶなど、自分の弱点を見せびらかしているのと同義だ。


「しまっ!」


 左側に外れた男の剣をイレイラで絡めとり、地面に落とす。

 すると、右側に外れて行った男が走り込んでくる。


「隙あり!」

「隙を見せたつもりはないのだがな……」


 男の首元にイレイラを添えた。

 セシルに行った攻撃と同じだ。

 認識の隙間、その間を狙った攻撃は意識外からの攻撃と同じく防ぐのが難しい。


『勝負あり!』


 そうモニターに表示されると、ギャラリーが立ち上がった。


「「おおっ!」」


 わずか五秒程度の短い決闘であったが、この決闘場が大盛り上がりしたのは体で実感したのであった。

こんにちは、結坂有です。


エレインは入学時評価一位のセシルとパートナーになったせいでいろんな人に敵対的な視線を向けられることになりました。

しかし、彼はそれでも自分の実力を徐々に発揮していくことで認めていくそうです。

そしてエレインに向けられた妙な視線とはなんだったのでしょうか。気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



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