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小さな嫉妬

 私、ミリシアはリーリアと一緒にドルタナ王国の街を散策することにした。その目的はエレインたちの援護をするためだ。もちろん、普通の戦いであれば彼なら難なく突破して生き抜くことができる。それだけの力と技術があるのだから。しかし、そんな彼でもこと情報戦においては私やリーリアの方が向いている。

 レイを連れてきて力技でどうにかすると言う方法もあったのだが、そんなことをしてはいつの日かラフィンが復権した際に復興が難しくなることだろう。もちろん、最終的にはその方法を取らざるを得ない場合だってある。ただしそれは最終手段であって最善ではない。

 以前、私がこの国に来た時に感じたことは数人ではあるものの王権に対して疑問を抱いている人がいると言うことだ。私とレイがこの国を脱出する時に手助けしてもらったアギスと言う人物もその一人だった。この国の人たちは確かに王家に対して強い忠誠心のようなものを抱いているのは街を歩いていてすぐにわかるほどだ。しかし、その裏で王家に対して不信感を抱いている人も一定数はいるらしい。


「……以前と変わらずこの国は不気味ですね」


 街を歩いているとリーリアがそう話しかけてきた。


「そうね。まぁ国民性ってものはそんなにすぐ変わるようなものでもないし」

「裏で何かが動いていると言うのに、平和なものです」

「知らぬが仏、仮に彼らが現実を知ったとしてもただただ混乱するだけよ」

「それもそうですね」


 多くの国民がこの国がどのような状況に陥っているのか理解していないことだろう。それゆえに信頼するし、その逆もまたそうだ。知らないから曖昧なものに縋るしかない。

 多分私も彼らと同じ立場なのだとしたらきっとそうなのかもしれない。私だって何もかもを理解できるほど頭は良くないのだから。


「その仮面、直したのですね」


 しばらく街中を歩いているとリーリアがそう話しかけてきた。今の私は最初に彼女に会った時と同じ鉄製の仮面で顔を隠している。これはブラドがわざわざ私のために特別に作ってくれたものだ。

 その時はブラドと共に行動することが多かった。だからエレインと接触する機会も増えるとの理由でこれを身につけていた。同じくユウナも私と同じような立場ではあったのだが、彼女は議会の人と個人的に接触して情報を得ると言う役目があった。当然ながら、議会に向かうことのないエレインに素顔を見られることなんて全くないわけで彼女には仮面をつけることはなかった。

 まぁ単純に私のわがままをブラドが配慮してくれたのだろうと思っている。あの人はあんな冷酷そうな人ではあるが、本当は人に優しい人なのだ。優しいからこそ、冷静かつ残酷な決断の責任を自分が背負っている。何かあった時は自分が罪人となるために。


「ええ、あれだと素顔を隠せないからね」


 そんなことを考えながら私はリーリアに答えることにした。本当はと言えば直したいわけではなかった。あの傷はエレインと正式に再会した時の証、簡単に消えて欲しいわけではなかったのだから。

 とはいえ、そんな自分勝手なことでは果たせる任務も果たせない。思い出は記憶に留める程度にしておくのが一番いい。


「……その様子だと本当は直したくなかったのですね」

「当たり前よ」

「あの時は本当に驚きました。鉄仮面のミリシアさんとユウナさんが二人で押しかけてくるなんて」

「思い出したのよ。フラドレッド家が不正をしているって話をね。それでその家に向えって命令が出ればその不正を本人に突きつけエレインを取り戻そうとした」


 自分のことながら性急過ぎる決断だったのかもしれない。ただ、あの時ブラドの本当の意図はフラドレッド家に普通に向かえと言う命令だったのだろう。私の完全な早とちりだったと言える。

 向かう道中でユウナが言っていたように少し冷静になってみるべきだったのだろう。


「はい。かなり強引でしたから」

「反省してるわよ。今でもね」

「ミリシアさんも必死だったのですから無理もありません。私も少々感情に身を任せたくなる時がありますので」


 そう言う彼女は微笑みながら口元を手で隠した。

 思い返してみれば彼女が感情に身を任せる瞬間というものを見たことがない。確かに人間である以上、感情が全くないということはあり得ない。それは彼女の持つ魔剣の能力を使ったとしても完全に抑制できるものではないのだ。

 幼少の頃から特殊な精神的な訓練を受けてきたために感情のコントロールは人一倍得意なのかもしれないが、全てを制御できるはずもない。

 仮に魔剣の能力を使って無理やりやったところでいつかその反動が出てくることだ。

 ただ、彼女は私の前でそのような素振りを一切見せたことはない。ましてや感情的になって私のように前が見えなくなるようなことなど、彼女にはないように見える。


「……私たちの前では見せないようにしているってことかしら?」

「そうですね。あまり多くの人には見られたくないものですから」

「そんなに感情を隠したいの?」


 別に感情の全てを否定しているわけでもないだろう。それでも彼女があまり見られたくないと考えるのはどうしてなのだろうか。そこまで秘密にすべきことではないように思えるのだが。


「私はエレイン様のメイドです。従者たる私が彼の邪魔になってはいけない。ましてや感情を見せたことでエレイン様の弱点となるのなら、それは大問題です」

「多くの人は人の感情なんて深く汲み取ることなんてしないわよ」

「それでも全くないとは言い切れません。万が一のことを考え、私は感情を人前で隠すようにしているのです」


 確かに場合によっては感情が仇となり、隠すべき実情というものが相手に知られることだってある。それは交渉の場でも、もちろん戦闘の場でも言えることだ。相手の感情を見極めることで行動を先読みする。エレインの場合は少し違う方法なのかもしれないが、感情から察することもできるものだ。

 ただ、そんなことを毎日どんな時でも続けていれば人として壊れてくるはずだ。

 となればつまり……


「その感情を吐き出す時間を作っている、ってことになるわよね」

「そうなりますね。私も一人の人間ですから」

「じゃ、どういう時に吐き出しているの?」

「それは、エレイン様と二人っきりになる時間ですね。例えば夜、エレイン様が眠られる時間とか……」

「そ、そんな時間に何しているのよ」

「ただの息抜きですよ。普通のことではないですか」


 彼女の言うただの息抜きと言うのがどうしてか今の私にはいかがわしい言葉のように聞こえてしまった。これは私がおかしいのだろうか。それとも彼女の方がおかしいのだろうか。自分一人では判断することができない。

 とは言え、エレインと二人きりで、それも夜にそのような状況になることは少しばかり嫉妬してしまう。


「ふふっ、冗談ですよ?」

「……その言葉は嘘かしら」

「さぁどうでしょう」


 少なくとも今の彼女は感情をコントロールしている状態だ。今の私にその言葉が嘘かどうか見破ることなど到底できることではない。おそらく彼女は私たち小さき盾でも見破ることのできない、ある意味で最強の剣士の一人なのではないだろうかとすら思えてくる。

 底の知れないと言うのはこのことを指すのだろう。


「あなたにだけはあまり敵対したくないものね」

「実力で言えばミリシアさんには到底敵いません。魔剣の力を駆使したとしても技術の差で負けてしまうのは目に見えていますから」

「どうだかね」


 私とリーリアとでは一度も勝負をしたことがない。訓練の様子を遠くから見ていることはあったが、それだけでは彼女の実力なんてわかるはずもない。

 おそらく実際に勝負することになったらその時は技術力で押し切ることになるのだろう。そうしなければ勝つことなんてできないのだから。


「それにしても、どうして街中なのでしょうか?」

「この国に戻ってきたのだからある人と話さないといけないと思ってね」

「脱出する際に手伝ってくれた人、ですか?」

「ええ、そうね。ちょうど西側の防壁を担当しているらしいのだけれど」


 そう思いわざわざ国の西側へときたのだ。いるとすれば防壁から近いこの辺りで出会うことになるだろう。ここへは脱出する際にもきたことがあるため、ある程度は地形も把握している。


「あの人よ」


 そう街の人たちを眺めていると目的の人を見つけることができた。

 彼も誰かを探しているようだが、私は気にすることなく彼の方へと向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


今月からは頑張って毎日更新していこうかと思っています。今はまだまばらな時間になりますが……

きっかけがありましたので少しは頑張ってみようと思います。

これからも応援の程、よろしくお願いします。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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