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暗い森を抜けて

 俺、エレインは妹として俺に付き添っているアイリスと今潜入しているドルタナ王国の元王女のラフィンと共に薄暗い森を周囲を警戒しながら歩いていた。

 そう俺たちが向かっている場所は王家やそれに親しい人間しか知らない隠れ城だ。ラフィンの話によると親衛隊などが駐屯していることがあるらしい。当然ながら、王家に近い人間と言うことでそれなりに高い実力者が集まっているようだ。ただ、ラフィンが脱出したことで事情が大きく変わっていることだってあるだろう。


「お兄様、嫌な予感がします」


 しばらく森の中を歩いていると確かに妙な気配が漂ってきた。この気配はもう何度も感じてきたが、そう慣れそうにないもの。そう、魔の気配だ。


「……近くではないが、この森のどこかにいるのは間違いないようだな」

「魔族でしょうか」

「ああ、上位種の魔族ではないがな」

「どういたしましょうか」


 長時間森に滞在するのであれば邪魔になるだろう。ただ、今回は別に城を攻め落とそうとしているわけではない。流石にラフィンを連れて城攻めを行うのは少々無理があるだろう。

 まぁアイリスの能力を使って上手く立ち回ることができれば今の状態でも城攻めは成功するかもしれないが、強行手段に出るのは早計と見るべきだ。


「荒事は避けたいところだな。気付かれなければ大した問題にはならないだろう」

「そうですね。このまま進みますか?」

「隠れ城の場所は確認したいからな」

「わかりました」

「ラフィン、引き続き案内を頼む」


 俺がそう言うとラフィンは小さく「はい」とだけ言って前を向いた。魔族がいると聞いて少しばかり緊張でもしているのだろうか。確かに荒事は避けると言ったが、攻撃を仕掛けてくるようならこちらも対処する必要がある。


「肩の力を抜いた方がいい。俺とアイリスがしっかりと護衛するからな」

「はい。私たちを信じてください」


 アイリスの言葉を聞いた彼女は大きく深呼吸した。そうすることで少しでも緊張を和らげようとしているのだろう。その様子からして緊張している原因は魔族だけではないようだ。


「魔族もそうですが、私としては王家であるジェビリー王女がどうなったのかが気になります」

「どう言うことだ?」

「王家には親衛隊と呼ばれる特殊部隊が配属されます。剣術競技で優秀な成績を残したもの、実戦で多大な貢献をした人を中心に選ばれる精鋭部隊です」


 前を向いた彼女は一度立ち止まり、振り返って俺の目を見る。その目は若干の戸惑いや恐怖が混じっているように感じる。今まで見せなかった彼女の心中が少しだけ垣間見えた気がした。


「今から向かう城は王家の最後の砦として機能する場所。こんな場所に魔族なんていてはいけないのです。もう王国内には魔族が蔓延っているのでしょうか?」

「……馬車に乗っている時は魔の気配は感じませんでした。おそらく魔族はその城に集結しているのでしょう。聖騎士団の調査が終わるまでは」


 アイリスの推測は確かに納得のいくものだ。すでに魔族が王国内に大量に存在しているのなら隠れられる場所はその隠れ城なる場所しかない。そんな城があると言うことは聖騎士団が知るわけがないからだ。

 しかし、今回の場合は少し事情が異なる。

 ドルタナ王国第二王女ラフィンが聖騎士団のいるエルラトラムへと亡命したからだ。彼女が今から向かおうとしている隠れ城のことを彼ら聖騎士団に話していることもあるだろう。

 もしそうなれば魔族がその城に隠れたところで無意味というわけだ。


「そうだろうが、ラフィンが亡命していることもある。王国を乗っ取ろうと企む連中だ。もう一つの城に魔族を隠れさせるなんてことはしないだろう」

「確かにそれもそうですね」

「……どちらにしろ、この森に魔族がいると言うことが私にとって一番恐ろしいのです」

「すでに親衛隊はなくなっているのかもな」

「お姉……ジェビリーは本当にそんなことをするのでしょうか」


 俺たちからすればラフィンの姉のことは全く知らない。どのような人柄なのか、性格なのかは想像もつかない。知っている情報といえば軍事の面で活躍していたと言うことぐらいだ。

 まぁ軍事面を担当していたとすればそんな親衛隊を排除するようなことはしないか。


「ここに来て状況が少し変わってきた。隠れ城周辺の森には魔族がいる。そのことを聖騎士団に報告するべきだろうな。アレクとも少し話をしたい」

「一度戻ると言うことでしょうか」

「ああ、隠れ城の場所だけ確認してからすぐに戻るとしよう。ラフィン、隠れ城はどこにある?」

「もうすぐです。あの丘を越えれば見えるはずです」

「では急ぎましょう。気配も少し強まってきましたし」


 アイリスの声と共に俺たちは少し急足で、周囲を警戒しながらその丘を越える。

 少し開けた場所だったために近くの草むらに潜んで隠れ城の様子を伺うことにした。

 先ほどまでの森とは思えないほどに美しい庭園が広がっている。そしてその庭園の奥には石造りの立派な城が建っている。


「小ぶりな城ですが、非常に堅牢なつくりで防衛のために様々な工夫がされています。籠城するには最適な場所です」

「魔族の攻撃を想定しているのか?」

「いえ、この城は魔族が侵攻する前に建てられたものです。つまり、ドルタナ王国の前身の国王が持っていたものとされています」


 エルラトラム議会も城だったものを改築しているらしい。大きく改築してしまっている上に古い記録は残っていないため、まだわかっていない場所があったりするらしい。地下通路がいい例だろう。

 ただ、ドルタナ王国ではそのような記録はしっかりと残っていたのか、そこまで大きな変革がなかったからなのかは知らないが、過去の建造物もうまく活用しているのだろう。


「見た感じだとそこまで攻めるのに難しいと言うことはなさそうですね」

「聖剣を使えばな。昔の人間からすれば攻め落とすのは難しいだろう」

「それもそうですね」


 まぁアイリスほどの実力があれば聖剣がなくてもこの程度の防衛設備は突破できそうなものだがな。そのことは今考えたところで意味はない。

 重要なのは魔族があの城でどう籠城するかが問題だ。


「基本的に籠城している相手を攻め落とすのは困難なもの、相手に地の利があるために攻撃側は非常に不利となります」

「そうだな。魔族の正確な数さえわかれば対策も組めるのだが、外からの観察ではわからないか」


 窓の方を注視してみるも鉄板で施錠されているために内部の様子までは見ることができない。足音や心音などで判断しようにもこの距離からでは難しい。

 近づいてみるのも一つの手だが、ここで気付かれてしまっては俺たちの取れる作戦が制限される。そんなリスクは今の段階で背負いたくないものだ。


「魔族の割にはしっかりとしてるようですね」

「まぁ気付かれたくないようだからな。とにかく一旦戻るか」

「ある程度の様子はわかりました。それに国内に魔族がいることも確認できましたし、収穫は大きいですね」


 確かにその点ではここに来てよかったと言える。潜入できたのはいいとして、これからどう立ち回るかが重要だ。下手に動けば王国民全員を人質に取られることだってあるだろう。被害を最小限に、それでいて確実に魔族を排除していくことが重要だ。

 まだ俺たちの存在に彼らが気付かれていないうちに先手を打ちたいところだ。


「想定していたよりかは少し違っていたが、最悪な状況というわけでもない。やれることは全部やろう」

「はい」


 最後に庭園の状況を観察してから俺たちは来た道を戻り、聖騎士団のいる駐屯地へと向かう。

 その時ラフィンはフードを深く被り、人に見られないよう細心の注意を払って移動した。

こんにちは、結坂有です。


薄暗い森を抜けてエレインたちはその隠れ城に魔族が集まっていることを発見しました。魔族側にも何らかの意図があってそこに集まっているようですが、彼らは何を考えているのでしょうか。その点も気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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