王女との対談
僕、アレクは聖騎士団と共にドルタナ王国へと向かっていた。メイドのリーリアや聖騎士団団長のアドリスの交渉によってエレインたちの存在を気付かれずに国内へと侵入させることもできた。
そして、駐屯地に到着した。
ここからはリーリアとミリシア、エレインたちとは別行動になる。僕とラクアに任された任務はジェビリー王女との対談だ。ドルタナ王国に来たと言う報告とどのようは調査をするのかと言った話をするのだそうだ。形式上のこととはいえ、顔合わせせずに勝手に調査するのはいけない。
「ラクア、準備はできたかな?」
「ええ、いつでもいいわよ」
そう話しかけると彼女は服装を整えてからそう返事をした。いつでもいいと言っているものの内心は少し緊張しているのだろう。
相手は魔族と結託しているかもしれない王女、そして僕たち二人で向かわないといけないと言う状況。緊張しないと言うのは無理な話だろう。
「大丈夫そうかい?」
「問題ないわ。自分でやるって決めたことだし」
「それならいいんだけどね。無理はしないって約束できるかな?」
「……わかったわ」
僕がそう言うと彼女は何故か少しだけ安心したような表情をした。声をかけられるだけでも緊張はほぐれるとはよく聞くがどうやらその話は本当のようだ。僕は訓練の時からあまり緊張したことがない。いやそもそも緊張というのがどのようなものなのか本当の意味で理解できていないのかもしれない。
ただ、相手が緊張しているかどうかは見分けることができる。相手の心情を読み取り、行動を先読みするというのは僕も得意な方だ。流石にエレインには一段劣るけれど。
「では行こうか」
「そうね。遅くなったらいけないし」
それからラクアは大きく息を吐いて歩き始める。
僕も彼女に続いて王国が用意してくれた駐屯地を後にしようとすると、背後からミリシアが話しかけてきた。
「ちょっと待ってっ」
「どうしたのかな?」
「王女との面談なんだけど、相手に警戒されないようにだけ気をつけてほしいの」
「そうするつもりだよ」
当たり前のことではあるが、こうしてミリシアが声をかけてきたということはそれに加えて何か忠告しておきたいことがあるのだろう。
「それとね。王女に関してだけど……敵対したくないってことを伝えてほしいの。表向きだけでもいいから」
「そうする理由があるんだね」
「うん。ここまですんなり来れたのも変な感じがするから」
「君の直感を信じるよ」
「……じゃ、私は私のやることをするわ。気をつけてね」
「ああ、お互いにね」
ミリシアはそう言うとすぐに駆け足でリーリアの方へと向かった。どうやらエレインたちの監視を続けるのだろう。
聖騎士団の人たちも王国内を歩いて地道に魔族の痕跡を調査するようだ。皆それぞれ魔族に勝つために様々な作戦を実行している。僕も魔族によって国が崩壊していくのを見たくはない。
「僕たちも早く行こうか」
「そうね」
まだ少し緊張しているのか彼女は小さく呟くようにそういった。
駐屯地から一時間近く歩いて王城の方へとたどり着く。
王城の門はしっかりしており、両端にある塔から矢を撃ち下ろせるようになっている。城壁もかなり高く頑丈なものだ。ただ、魔族が攻めてくると仮定すれば少々物足りない壁だ。
おそらくこの城は対人を想定した作りなのだろう。
エルラトラムの周囲を囲っている壁と比べれば幾分か劣る作りとなっている。まぁ威厳を保つには十分なのかもしれないが。
「いよいよね」
そういって深呼吸したラクアを横目に僕は門へと歩き出す。
周囲を見てみると王城に入ろうと色々と聞き込みを受けている市民の姿がある。彼らの後を続くと思えば少しばかり遅くなってしまうだろう。
そんなことを考えていると一人の門番が僕の方へと近寄ってきた。
「聖騎士団の方ですね。要件は……」
「到着と調査の開始を報告しに来たんだけど、王女との面会はできそうかな」
「わかりました。すぐにご案内します」
要件を伝えて書類を手渡すと彼らは快く門を開いてくれた。王家と無関係の人間が王城へと入るには色々と手順が必要らしい。ただ、僕たちは聖騎士団で事前に通達していたことだ。他の人たちとは違ってすぐに入ることができた。
「……この感じ、どこも似たようなものね」
「そうだね。だけどエルラトラム議会とは少し違うね」
王城の廊下を歩きながら周囲の様子を観察する。王城内では比較的普通な印象を受けた。特に魔族の気配が強いと言うわけでもなく、特段注意すべき点はあまりない。
「なんだろう。少しピリついてるわね。私たちが来てるからかしら」
「あの様子だとそうじゃなさそうだね。おそらく国内の混乱がまだ収まっていないのかもしれないね」
第二王女であるラフィンが国外へと逃亡したなのだ。あれ以降もまだ混乱がおさまっていないことが彼らの様子からわかる。
それよりも魔族に支配されていると警戒していたが、魔の気配はなく広場では王家関係者が談笑しているところも見られた。絶対的強者に支配されている状況ではなさそうに見える。
「……なんか妙な感じね」
「気を抜くこともできない。この先で待っている王女との面談はかなり重要になってくるだろうね」
「王女ってだけあるし、威厳ある感じなのかしら」
そう彼女は気の抜けたようなことを言う。おそらく自分の緊張を誤魔化そうとしているのだろう。この王城に入った時点で僕たちは孤立してしまっている状況だ。この国に聖騎士団がいる上に相手が何かしてくることはないのはわかっている。ただ、それでも怖いと感じるのは自然のことだ。この国を乗っ取ろうとしている魔族がどのようなことを考えているのかはわからないが、今の状況で攻撃を仕掛けてくることはないだろう。
そのことも気がかりではあるものの、僕としてはこの対談を重要なものだと思っている。
「そうだね。どんな相手でも平静を保たないといけないよ。この対談、僕は気になることがあるからね」
「気になること?」
「王城の様子を見て確信したよ。ここには魔族がいない。少なくとも実体のあるものはいないってことをね。つまりは……」
「こちらです」
そういって僕たちを案内してくれた門番の人が一礼してからその重々しい扉を開いた。
扉の向こうではジェビリー王女と思われる人が玉座に座っていた。その威厳ある服装からして彼女が王女に違いない。それにどこかラフィンの面影が残っている感じたした。目立ちや鼻の形が似ている。
「……時間通り、さすがは聖騎士団といったところですね」
僕たちが部屋に入った途端、王女は小さく微笑みながらそういった。それと同時に門番の人は扉を閉めて部屋を離れた。
「来て早々褒められるとは思っていなかったよ」
「あら、嫌でしたか? それとも、あなた方からすれば当然のことかしら」
「戦いを生業としている僕らからすれば時間通りになることなんて滅多にないからね。珍しいことが起きたのだろうね」
「ふふっ、時間通りに進むのは初めだけですから」
どうやら彼女もそのことはよくわかっている様子だ。ラフィンからの情報では軍の指揮をとっていたらしい。一つの国を魔族から守るには軍備を強化するしか今のところ方法はない。
ラフィンが内政を、ジェビリーが軍事の方を分担して指揮していたのだろう。確かに分担した方が円滑に物事を進められる。
「それで、あなたが団長さんなのかしら?」
「僕は団長直属の部下、つまりは下っ端というわけだよ」
「……王女の前に部下を向かわせるのですね」
「アドリス団長は調査の方に集中しているんだ。それに王女への報告なら僕たちだけでもできるからね」
ここはあまり警戒されないようにしなければいけない。ミリシアが言っていたように僕たちが敵対したくはないと示す必要がある。
「まぁそうですね。ただ、それにしてもあなたからはとてつもない気迫を感じます。自ら下っ端と言うには違和感があります」
「僕は少し特別でね。こう言う性格だからかな」
「その物怖じしない態度、私のよく知る剣士に少し似ています。あなたを信頼しましょう」
「それは助かるよ」
どうやら僕たちが王女を敵対視していないことは伝わったのだろうか。少なくとも信頼するという言葉は聞くことができた。
僕はほっと小さく息を吐くと横で硬直したままのラクアが一瞬だけ僕の方を見た。
「……それにしても」
すると、ジェビリーが窓の外を見て呟くように口を開いた。
「あなた方の国に私の妹がいるとのことですね。ラフィンは今どうしているのですか?」
窓から見える小さな庭園を昔を懐かしむように眺めながら僕にそう問いかけてきた。
「身の安全を確保した上で、平穏に生活しているよ」
「生きているのですね」
「そうだね。姉として心配しているのかな?」
「ええ、昔から大胆なことをする妹でしたから。見えるかしら。あの庭園にある銅像を」
窓の外にある石像を指差しながら彼女は言葉を続けた。
「あの銅像は私たちの先祖になる方です。彼女はあの石像に落書きをしたのですよ。あまり良い王ではなかったと父から聞いていますが、まさか落書きしようとは驚きですよね」
「つまり、ラフィンは昔から大胆な人だったということかな?」
「叛逆行為に走るのもあの性格からして当然ですね」
そう言ってから彼女は大きく息を吐いてゆっくりと立ち上がった。
「長話もあれです。報告はこれで終わりにしましょうか」
「そうだね。僕たちも調査を始めないといけないからね」
「……一ついいかしら?」
踵を返して玉座の間から出ようとすると背後からそう彼女が話しかけてきた。
「私のことは妹に話さなくていいですよ。あのような性格とはいえ、王家を侮辱することは許されることではありません」
「それは、絶縁ということかな?」
「……どうでしょうか。私にもわかりません」
一瞬だけ彼女の戸惑いが見えたのは気のせいだろうか。どちらにしろ、妹にはこれ以上関わりたくはないそうだ。
「王家の問題は僕たちにはわからない。だけど、僕としては家族を信じてみるのもいいと思うけどね。まぁ下っ端の僕がいうのも説得力はないか」
「信じてみる、ですか。簡単に言いますね」
「少なくとも僕なら、信じて待っているかな」
目の前の王女は何を企んでいるのかはわからない。ただ、僕の直感が正しければ彼女は何か大きなことを起こそうとしている。一瞬だけ見せたあの目は帝国での出来事を思い出させる。
あの時の死を覚悟し、ある計画を実行した宰相の目と似た印象を受けたからだ。
「調査の結果は追って報告に来るよ」
「……ええ、駐屯地まで気をつけてください」
そう言って僕とラクアは軽く一礼してから玉座の間を出た。やるべきことはできたはずだ。そして、これでこの国の状況もある程度は見えてきた。
大きな戦争が起きる前に、僕は彼女を助け出さなければいけないと。
こんにちは、結坂有です。
ついに王女との対談となりましたね。今回の王女との対談ですが、何か違和感がありましたよね。
王女と言う割には……
果たしてアレクは無事に彼女を助け出すことができるのでしょうか。気になるところです。
次回は隠れ城へと向かったエレインたちの視点に移ります。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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