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信念を背負って

 僕、アレクはラクアと一緒に聖騎士団の制服を身に纏っていた。そう、僕たちはこれから聖騎士団としてドルタナ王国へと向かうのだ。ラフィンからの情報では王城はすでに魔族の手によって制圧されてしまっているらしい。そのことはミリシアからの情報でも明らかになっている。少なくとも魔族が人間を支配している状況ということらしい。

 しかし、それらの情報はどれも確証のあるものではない。実際に僕たちがドルタナ王国を制圧するには王家が魔族によって乗っ取られている、もしくは成り代わっているという確実な証拠が必要となってくる。もちろん、それらの確証が得られれば直ちに聖騎士団は彼らが持つ信念に従って攻撃することだろう。

 それが意味することは実効支配と同等と言うことだ。その制圧力に関してはあのグランデローディア領を瞬時に我が物にできるほどのものだ。もちろん、魔族の排除は僕やエレイン達のおかげではあるが。

 ともかく、今僕がするべきことは聖騎士団の制服を着て、ジェビリー王女に謁見することだ。そうすることで僕たちは彼ら魔族に対して強い牽制を示すことができるからだ。言うまでもなく、彼らは簡単に尻尾を見せないことだろう。僕たちが王城に入ったところで魔族が出迎えてくるわけでもあるまい。


「これだと聖騎士団になったみたいね」


 すると、目の前で聖騎士団の大きな紋章が縫い込まれた外套を着たラクアが僕に話しかけてきた。その外套は白を基調としており、いかにも神聖なものであると言うことが一目でわかるものだ。

 僕たちはこれから戦争をしにいくわけではないために戦闘服ではなく制服を着ていくのだ。

 これを着ているだけで聖騎士団の一員だと誰もがわかるからだ。


「なったみたいではなく、実際になっているんだよ」

「……そうだったわね」

「今の僕たちは小さき盾というわけではないよ」

「ええ、でもそれってこの作戦中ってことだよね?」

「まぁそうだね」

「私たちが聖騎士団じゃないって見破られないかしら」


 確かに彼女の疑問は理解できる。聖騎士団の団員リストは全て公開されているわけではないとはいえ、怪しまれることは避けたいところだ。他の団員との会話から気付かれてしまうことだってあるだろう。

 ミリシアとレイの報告からも市民の目はかなり強いのだそうだ。誰がどこから監視しているかもわからない。

 ただ、何もしないでいるよりかは行動に移す方がいいだろう。


「不安はわかるけれど、僕たちが何かしないといけないのは明らかだよ。多少の不安要素は無視する方がいい」

「それでも怖いものは怖いわ。相手は王城を乗っ取るような連中だから」

「……もし激しい戦いになったとしても僕が誰も死なせない」

「え?」

「荒事は僕の得意分野ではない。でも、やらなければいけないのならやるよ」


 セルバン帝国が魔族によって陥落した時、僕がそう心に刻んだことだ。基本的に僕は大胆な作戦はしない。無駄なコストや犠牲を出したくないからだ。ただ、それでもそのような大胆で強引な作戦をやらなければいけないのなら、躊躇なくそれを実行する。

 そんなことはここエルラトラムに来てから何度も考えたことだ。


「……エレインに似てる」

「そうかな。少なくとも僕はそう思っていないのだけど」

「似てるわよ。内容は違うけれど強い信念を持っているのは同じよ」

「あんなことがあれば誰でも変わるよ。エレインもそうだし、ミリシアもレイもきっとそうだよ」


 たった数体の魔族によってゆっくりだが着実に国を破壊していく様子を見ていれば誰でも意志が固まるものだろう。あのような状況で生き残ってしまったのだから僕はなんとしてもあのような惨劇を繰り返してはいけない。

 魔族によって人が死ぬのはもう見たくない。


「もしかして帝国のこと?」

「あれは地獄だったからね」


 そう二言で形容したものの、本当の地獄と言うのは千を超える魔族と戦うことだろう。僕は数体の魔族でも手こずってしまったのだから。

 あの状況でどうやって生き残り、どうやって千体もの魔族と戦うことができたのかは僕でも理解できない。地下訓練施設の時から彼の異常な戦闘能力に関しては驚いてばかりだった。

 ただ、それを知りたいとは流石に思えない。彼のことを考えれば聞くのは野暮と言える。


「……ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。恐ろしいものだったけど、僕にとっては必要なことだったんだから」


 あの時の僕は帝国を守ることに注力していた。しかし、僕が守ろうとした帝国は僕の目の前で崩壊していった。

 今の僕はある意味で自由の身だ。帝国を守ると言う使命もなければ、今まで育ててくれた恩を返す相手ももういない。呪縛から解き放たれたのだ。あの時、帝国の宰相は一体何を思っていたのだろうか。彼は帝国が滅びることを予見していた。魔族が攻めてくることがわかっていたのなら聖騎士団を呼び寄せるなど方法はあったはずだ。

 エルラトラム議会はいい顔をしないだろうが、それでも聖騎士団なら支援してくれたことだろう。それなのに彼は何もしなかった。


「必要なこと?」

「地下訓練施設で育った僕たちは順調に試練を超えてきた。だからこそ、僕たちには絶望が必要だったんだ」

「それが今の強さに繋がっている、と言うことね」

「そうだと僕は思っているよ。僕は一度、魔族に負けた。全身全霊を尽くして負けるという経験をね」


 きっとそれだけではないのかもしれない。それ以上の目的があるのだろうと思っている。帝国が何を考えていたのかはわからない。ただ、あの時見た異様な光景は今でも忘れない。


「……話が長くなったね。そろそろ出発の時間だよ」

「そうね」


 話を聞いて何か考え込んでいたラクアに僕はそう言って家を出た。


 家を出て十分ほど馬車に乗ってから目的の場所へと到着する。エルラトラムと外を繋ぐ門の前で大量の人が集まっているのは聖騎士団の人たちだ。


「もう準備できてるって感じね」

「そうだね。エレインたちの方もあの荷馬車に乗っているんだろうね」

「本当にあれで大丈夫なのかしら」

「大丈夫だよ。魔族は僕たちを警戒している。荷馬車の方まで警戒しきれないはずだよ」


 そのことはミリシアと十分に話し合ってきたことだ。警戒されないための策も用意している。

 そんなことを話していると僕たちよりも先に出発していたミリシアが近づいてきた。彼女はリーリアを呼びにフラドレッドの家へと向かっていたのだ。


「アレクたちも来たのね。そろそろ出発だから」

「そうみたいだね。リーリアさんの方は?」

「あそこでアドリスと話し合ってる」


 そう言ってミリシアの指さす方を見てみると確かにリーリアが立っていた。普段のメイド服姿とは打って変わって凛々しい騎士になっていた。穏やかで可愛らしい表情こそ変わっていないが、服装だけでも随分と人は変わってしまうのだと実感した。

 彼女自身も元々聖騎士団だったと言うこともあり、制服を十分に着こなせているように見える。

 それと比べて僕やラクアの服装は少し見劣る。ミリシアは聖騎士団に一時所属していたこともあり服に関しては問題なかったものの、僕たちは急な作戦だったために採寸する時間がなかったからだ。予備の服で自分たちに合う服装を選んだだけだ。もちろん、サイズが合うからと言っても全てが合致するほど人は同一ではない。手足の長さのほか、筋肉の付き方によっても変わってくるらしい。


「本当に聖騎士団だったのね」

「僕もわからなかったぐらいだよ」

「……まぁ仕方ないわよ。私たちの馬車はこっちよ」


 それから僕たちはミリシアに案内されて聖騎士団の紋章が大きく書かれた馬車へと乗り込んだ。どうやらこの馬車は僕たちのためだけのもののようで、ほかの聖騎士団は別の馬車に乗っているらしい。ミリシアは馬車に乗り込むといつか見た鉄仮面を手にした。なるほど、顔がバレている状態でどう潜入するのか気になっていたところだが、その仮面を使うとはよく考えたものだ。

 総勢三十人の精鋭部隊、それに加えて僕とラクアはこれからドルタナ王国へと出発する。ミリシアとリーリアは王国に到着した後、すぐにエレインたちの支援に回るようだ。予定では危険な状況にのみ支援するらしい。まぁ結局のところ状況によってはミリシアたちが動くことになりそうだが。

 それはともかく、僕たちはこれからアドリスと共にジェビリー王女と謁見することになっている。

 どのような流れになるかは想像できないが、自分たちができる最善を尽くせばなんとかなるはずだ。

こんにちは、結坂有です。


ついにアレクたちは馬車に乗ってドルタナ王国へと向かうようですね。

そして、エレインたちも荷馬車に乗り込んで潜入のですが、果たして作戦はうまくいくのでしょうか。気になるところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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