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調査と計画

 私、ジェビリーは王城の一室でシャワーを浴びていた。もちろん魔族による監視の下でだ。磨りガラス一枚挟んで座っている魔族は私になりすましてこの国を乗っ取ろうと考えている。

 容姿だけで言えば私と全く変わらないものの、口調までは完璧に真似出来ていない。一部の人間は彼女の言動から私ではないのではと思っているはずだ。ただ、それでも国内が大きく混乱していない点を考えると不審に思った連中を魔族側が排除しているのだろう。方法に関してはわからないが、処刑したり王女自身に近づけさせないようにしているはずだ。

 そんな乗っ取りに成功している魔族とは言え、聖騎士団の調査には応じなければいけない。もちろんエルラトラムもドルタナ王国のことを一つの貿易国、つまりは信頼できる国かどうかを調べる必要があるからだ。そんな彼らからの調査をいくら乗っ取りに成功している魔族だからと言って無碍には出来ない。魔族とて国を維持するにはまず人民をうまくコントロールしなければいけない。

 こんな時にエルラトラムとの聖剣取引を断つことは却って国民の信頼を損ねることだ。そこから王城に不信感を抱く人も必ず出てくる。そんな危険なことはいくら魔族であろうとしたくないはずだ。


「ふふっ、久しぶりの水浴びはいかがかしら?」


 そう今の状況を思い返していると磨りガラスの向こうから魔族が話しかけてきた。魔族にも名前があるそうなのだが、彼女の名前はまだ知らない。まぁ彼女が教えてくれるとも思っていないし、そもそも興味がないわけなのだが。


「そうですね。髪を洗うことができたのは嬉しいです」

「それは良かったわ。聖騎士団の調査には私が出向くわけにはいかないからね。だからこうして特別にあなたをここに連れてきたのよ」

「魔の気配、と言うものですね」

「ええ、聖騎士団は特に勘がいいと聞くからね。下手な細工で誤魔化すよりも本人を使ったほうが効率的でしょう」


 確かにそうなのかもしれない。あいにくと私にはまだその魔の気配というものは感じ取れないためよくわからない。

 ただ、話を聞くに魔族からは異様な空気感のようなものが放たれており、人によっては針で肌を撫でられるような、ピリッと軽く刺されるような感じがするらしい。そのほかにも息が詰まったりするようだ。それもこれも経験の差というものなのか、個人差というのだろうか。

 ともかく、小細工でそれら魔の気配を誤魔化したとて魔族討伐を専門としている聖騎士団相手に通用するかどうかは怪しい。それなら王女である私本人を使ったほうが効率的で確実と言える。ただ、それにはいくつかリスクがある。


「それでも人間である私を利用するのは、魔族であるあなたたちからすればリスクでしかないですよね。そのあたりはどうするのですか?」

「……監視するだけなら下級の、あなたたちの言葉で言えばゴーストを使えばいいのよ」


 下級魔族の種類でゴースト型がいるという話を聞いたことがある。確かに気配を完全に無くすことができる魔族と言えばそれぐらいしかいない。監視させるだけなら彼らを使えば問題ないということのようだ。

 ただ、いくら監視が付いているからと言ってもリスクを払拭することはできない。


「監視させるだけで十分と思っているのですか?」

「何が言いたいのよ」

「私なら監視させるだけでなく、その場で殺すことができるようにします」

「ふふっ、自分が殺されると思っているのね?」


 少なくとも今の状況ではそのほうが安全と言える。私が何か口走った時にすぐ実行できるようにしなければいけないはずだ。監視しているからと言ってもその不安は拭い切ることはできない。加えて聖騎士団の目の前で殺すのは不可能だ。

 それならどうやって私を口封じするのだろうか。


「まぁ捕虜であるあなたがそんな心配をする必要はないわ。わたしたちにも考えがあるのよ」

「……その考えというのはなんですか?」

「あなたが余計なことを言えば、その時点であなたの妹を殺す」

「妹は関係ありません」

「いいのよ。そう思って王城が魔族に乗っ取られていることを言えばいいわ。ただ、私はもう指示を出したのよ。エルラトラムに何人か潜入させているからね」


 そういえば妙な書類にサインを強要させられたことがある。確かあの書類の内容はエルラトラムの内情を調査するために部隊を送るといった内容だった気がする。

 まさか、その潜入している部隊を使って妹を、ラフィンを殺すと言っているのだろうか。


「自分よりも妹のことが大事なあなたにとってそれ以上の脅しはないでしょう」

「仮にそうだとして、本当にその計画が成功すると思っているのですか?」

「するわ。エルラトラムって国は形式を重んじるところよ。だから人間である潜入部隊をなんの理由もなしに追い払うことはできない」


 つまりは人間である部隊が潜入する分にはなんら不都合ではないということだ。それはいくら亡命者であるラフィンがいたとしてもその形式を破って立ち入りを制限することはしない。


「エルラトラムを信じて、真実を聖騎士団に伝えるか。それとも黙って私の言う通りに動くか。リスクを考えるあなたからすればどっちを取るは決まってるわね」


 確かあの国には剣聖と呼ばれる強い剣士がいるとも聞いている。それに魔族領奪還作戦に大役を担った小さき盾というエルラトラム秘匿部隊もいることだ。彼らがラフィンを守ってくれているのならおそらく大丈夫なのだろう。しかし、ただでさえ関係が良好とも言えないドルタナ王国の第二王女をそこまでして守るのだろうか。ただ保護しているだけでしっかりとした警備がされていない場所にいるのではないだろうか。

 彼女なら大丈夫だろうと思っていたものの、今になって不安が込み上げてくる。


「……そこまで入念に計画していたのですね。わずか数日の間で」

「あら、評価してくれるとは嬉しいわ」

「わかりました。あなたの言う通りにしましょう」

「懸命な判断ね」


 彼女の言う通りには動くが、それ以上のことはしないとは言わない。私にも考えがあるのだ。彼ら魔族に気付かれないように、それでも決定的な違和感を彼ら聖騎士団に伝える方法はもう考えてある。

 今の私に取れる方法はおそらくこれしかないのだから。


   ◆◆◆


 僕、アギスはクラーナと一緒に王城についての資料を眺めていた。こうして見てみると王城が国民に公開していることだけでもかなりの情報量となっている。当然ながら、一つの国を運営しているのだから大量の資料になることは当たり前のことだ。

 ただ、僕自身そんな政を守護する立場ではあったがそれでもこれほどの仕事をしていると言うのは驚きだ。もちろん決定し、指示する王女もすごいのだが、彼女らを支えている官職の人たちも僕たちとは違った役目で仕事をしている。思い返してみれば王のお膝元にいる連中はきっと怠惰な生活をしているのだろうと言う人が警備隊の中にも何人かいる。

 確かに体を張って何かをすると言うことはないのだろうが、人を配置したり、資材を手配したりと事務的な仕事はしっかりとこなしている。

 少なくともこの王国の政治はそこまで堕落しているわけではないようだ。ラフィン王女からの指示で国内の流通も安定し、剣術競技以外の娯楽に関してもそれなりに充実してきている。それに加えてジェビリー王女も兵士の質を向上させるために軍備を増強したり、兵士たちが過ごしやすいよう防衛施設の拡充にも努めてくれていた。そのあたりのことは僕でも理解していることだ。


「やっぱり、中止になっている計画が多いわね」

「理由については国内の混乱しているからみたいだね」


 国内の情勢が落ち着くまではそうした計画を実行できない。しかし、そんなことは都合のいい口実に過ぎないのだろう。僕の実感として、そこまでラフィン王女の亡命によって大きな混乱は起きていない。少なくとも現場レベルの話をすれば直ちに計画が中断するような状況ではないのだ。

 確かに国民は不安だらけなのかもしれないが。


「こんなの言い訳にもなってないわ。都合のいいように言ってるだけよ」

「そうだね。実際に現場は動いているわけだからね」

「……この国は何か隠してる。それも私たちが想像していないような重大なことを」


 資料を眺めながらそう呟くように言ったクラーナの目はどこか恐怖を感じている様子だった。この国がすぐに破滅すると言うことではないだろう。

 しかし、それでも何か暗闇に埋もれていくような未来が僕の脳裏にも浮かび上がった。

こんにちは、結坂有です。


2023年最初の回となりました。一ヶ月ほど休止となっていましたが、これから一気に投稿頻度を上げていく予定です。毎日投稿できるようにまで回復していきたいところです。


それはさておき、ついにジェビリー王女も何かしら動き出す様子ですね。

果たして聖騎士団によるドルタナ王国調査はどのようなものになるのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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