集う同志
僕は反乱勢力の構成員の一人についていき、彼らの本部へと辿り着いた。
本部と言うことでどのような場所かと思っていたが、そこまで大層な場所と言うわけではなく一般的な倉庫のようなところだった。それも先ほどの市場周辺から近い。本格的に王家が兵を挙げて調査を行えば見つかりそうなところに位置している。
ただ、そのようなことは彼ら反乱勢力もよく知っているようだ。きっと何か理由のようなものがあるのだろう。
「ここから先はリーダーの話を聞いた方がいい。俺はさっきの配置に戻るぜ」
そう言って僕を案内してくれた彼は元いた場所へと戻っていった。配置に戻ると言っていたことから、彼らはかなり計画的に人員を動かしているようだ。
人員の動向に関しては正しく管理する必要があるだろう。このような国なのだから尚更気をつけるべきとも言える。彼ら反乱勢力はただでさえ敵視されやすい立場だからだ。
「そこのお前」
そんな本部の様子を見ていると一人の男が話しかけてきた。
「リーダーに話があるんだって?」
「そうだね。もし都合が悪いのなら日を改めるよ」
「別に問題はねぇがな。俺としちゃ会わせたくねぇんだ」
「それはどうしてかな?」
「あんたが王家に認められた軍人だからだ」
彼も先ほど僕を案内してくれた人と同じように警戒しているのだろう。そもそも今の僕は一度も自宅に戻っていないために警備隊の装備をしている。バッジは隠しているとはいえ、それでもわかる人には僕の装備が軍で支給されているものだとすぐに気づくだろう。
先ほどの人と同じように誤解を解きたいとはいえ、また長話するのは気が引ける。
「大声を出してどうしたのですか?」
そんなことを考えていると倉庫の中から一人の女性が出てきた。大きな帽子をかぶっているために表情まではわからないが、彼女の着ている服装はどこかで見たことがあるような気がした。
「クラーナ、それは……」
彼がそう言ってすぐにクラーナと言う女性が僕の方を見る。
その時に見た彼女の顔は僕の遠い記憶にあった。
「アギス?」
「久しぶりだね」
「……っ! ごめんなさい。立ち話もアレですし、中に入りましょう」
「ですが、こいつはっ」
「私の知り合い、それならいいですよね?」
そう彼女が強く言うと彼はそれ以上何も言えなかったのか小さく「わかりました」とだけ言った。
彼女は僕がアミュラ師匠のもとで修行していた頃によく話していた女性だ。年は僕と同じだそうで、親衛隊として働く彼女の姉に荷物を届けるために彼女はよく城に来ていた。
僕が防壁付近で仕事をするようになってからは話したことも会ったこともなかったが、まさかこんなところで会うとは考えてもいなかった。
倉庫に入ると中は案外にも広く、仕切りをうまく活用することで本格的な事務室のようになっていた。中にいる人たちはそれぞれ資料を見比べたりして王家のことを独自で調査していることがよくわかる。
それにしても彼らが持っている資料はどこから集められたものなのだろうか。もしかすると、王城内に彼らへと情報を流している協力者がいるのかもしれない。
「防壁の方に向かってから一度も会っていませんでしたね?」
中の様子を眺めているとクラーナがそう話しかけてきた。
「そうだね。あれからもう一年ぐらいは経っているかな」
「言葉にしてみると案外短いものですね」
言われてみればそうだ。一年ぐらいと言ってしまえばそこまで長い時間会っていなかったと言うわけではないように感じる。しかし、彼女も僕と同じく長らく話したことがないようなそんな感覚はしている。もう何年も会っていないような気分だ。
「……あれからアギスはどうしてたのですか?」
「普通に防壁の警備をしてただけだよ。たまに前線へと出ることはあったけど」
「そう、なんですね。新聞で名前を見た時は驚きました」
そういえば僕が攻めてきた魔族を一掃した時の話だったか。魔族の数がそこまで多くはなかったと記憶している。正確に数えたわけではないが、十数体程度だった気がする。
ただ、それでも国内では大々的に取り上げられていた。理由としては単純にジェビリー王女が演説で取り上げてくれたからだ。どうして演説で僕を取り上げたのかはよくわからない。
しかし、こんなところで思い出話をしている場合ではない。僕が聞きたいのは彼女のこと、なぜ反乱勢力のリーダーとなっているのかだ。
「師匠の教えがよかっただけだよ。それより、どうしてここでリーダーに?」
「私の姉が死んだって報告がありました。不審に思った私が王城に入って色々話を聞いて、それで王家が何か大きなことを隠していると言うことがわかりました」
「だから、こうして独自で王家のことを調べているのかな?」
「最初は協力者なんて一人もいなかったのですが、王族関係者の不審死は続いていることです。そこから協力者を募るようになりました」
防壁周辺で働く僕の周りでは不審死の話は聞かない。それは王家にほとんど関わりがないからなのだろう。しかし、城によく出入りする兵士たちの間ではそのような話がよくあるのだそうだ。
もし、その話が本当なのだとしたら王家は何かしら情報を隠していると考えるのは普通のことだ。もしくは彼ら王家がとんでもない計画を考えているかだろう。
少なくとも反乱勢力は王家が何を隠しているのかを知ろうとしているようだ。それは僕がやろうとしていることと全く同じと言える。
「それで今の組織があるってことだね」
「そんなところです」
「……特級剣士アミュラが処刑されたって情報はあるのかな?」
「気になる、のですね」
「僕の師匠だからね」
僕から視線を逸らした彼女はどこか緊張した様子だった。市場であのようなビラを撒いていたのだ。確固たる証拠があっての行動に違いない。
それに僕は彼の直弟子だ。彼の情報を知る権利は当然あるはずだ。
「わかりました。こちらです」
そう言って彼女は部屋の奥へと案内する。
一見するとただの談話室のような作りをしているが、彼女がそこに置かれているソファのクッションを避けると小さな金庫が隠されていた。
彼女はその金庫を首に下げていた鍵で開けると中から黒い紙を取り出した。
「これがアミュラが処刑されたと書かれた資料です。一度燃やされたものなのでここで大事に隠しています」
僕もその灰になりかけていた紙を見てみる。周囲は黒く焼け焦げていて判読することはできないが、中央に書かれた文字は読み取ることができる。そこにはアミュラ特級剣士の処刑を指示する内容が書かれていた。いつ書かれたものなのかはわからないが、これだけでも十分な情報だ。
そして、何よリもその文の下に押されている印が王家を象徴するものだ。その印はこの国に二つとないもので偽造することは固く禁じられている。何度もこの印を僕は見たことがある。これは偽造されたものでもなんでもなく、本物だと断言できる。ここまで精巧に作られた紋様はそう簡単に再現できるはずがない。
「……どうやら本物のようだね」
「はい。彼以外にも同じように処刑され、隠蔽された人も多いはずです」
「そうみたいだね。横にも同じように処刑を指示する文字も見える」
残念ながら、この燃かけの紙には五人程度しか名前が読み取れなかった。元の大きさを考えると少なくとも十人以上のリストだったと考えられる。
それほどの人間を一度に処刑するなんて今までなかったことだ。そんなことが僕の知らないところで行われていたことになる。明らかに王家は何かを隠しているし、何か公言できないことが内部で起きていると見ていいだろう。
「だから私たちはこうして調べています。王家の暴走を止めるのは私たち市民の義務ですから」
「……この組織がやろうとしていることはよく理解した。僕も協力するよ」
「え?」
「僕も秘密を探ろうとしていたところなんだ。同志なら協力し合うべきじゃないかな?」
そう僕は一緒に協力しようと言うと彼女は何故か一瞬だけ嬉しそうな表情をした。
「そうですね。私からもよろしくお願いします」
頬を若干赤くした彼女はそういうと僕から視線を外した。僕はその理由がなんとなく理解できた気がした。
こんにちは、結坂有です
アギスとクラーナが出会ったことで彼ら反乱勢力はどのような活動に向かうのでしょうか。
そして、王家で起こっている問題は解決できるのでしょうか。気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu
 




