触れ合う考え
市場から離れた僕は反乱勢力の詳しい話が聞けると渡された地図の場所へと向かうことにした。もちろん、拠点として活動している場所へはすぐに辿り着けないと思っていたが、別にそのような場所に行かなくとも詳しい話が聞けることだ。それに地図を渡してくれた人は僕のことをそこまで信用してくれている様子ではなかった。もちろんそのような怪しい人に拠点となる場所を教えることはしないのだろう。
ともかく、これで詳しい情報が得られるようになったと言うのはよかったと言える。彼ら反乱勢力がどのような情報をもとに王族批判をしているのか気になるところではあるからだ。
当然ながら、王族やそれに親しい関係者などは彼らのことを敵対視するだろう。ただ、真実がどうなのかは僕だって知りたいところだ。それが目を背けたくなるようなことであっても僕はそれから逃げてはいけない。今僕たちは決断を迫られている状況なのだから。
そんな決意を胸に僕はその地図に書かれた場所へと到着した。
場所とは言っても先ほどの市場と同様にここは公共的な場所となっている。多くの人が通りかかる大通りから少し外れた路地だ。
「……」
以前は不良の溜まり場となっていた場所ではあったのだが、ラフィン王女の指導によりここも随分と綺麗になった。排水溝の整備も大規模に行なったために衛生状況も良くなってきているのだそうだ。
ただ、まだ整備が行き届いていない場所もそれなりに残っているために全てが順調と言うわけではない。それでもラフィン王女がこの国をよくしようとしてくれているのは誰が見ても明白ではあった。きっと彼女のような存在がこの国には必要なのだろう。今となってはもう彼女はこの国にいないわけなのだが。
少し路地を歩いていると一人の男が僕に話しかけてきた。
「ここに人が来るなんて珍しいこともあるもんだな」
「……そうだね。今となっては国内情勢も随分と安定してきたものだからね」
「はっ、本当に安定していると言えるのだかね」
彼の口ぶりから察するにどうやら反乱勢力の一員なのだろう。客観的にこの国を見ればそれなりに安定しているようには見える。しかし、その実情と言うのはとてもではないが安定しているとは言えない状況だ。それはこの国に住んでいればわかることだ。
少なくとも王女が国外へと逃亡するなんて、この国の性格的にあり得ないことなのだから。
「君は今の王族に対して批判的なんだね」
「当たり前だろ。こんな俺でもしっかりと国民として認めてくれたラフィン王女を追い払う奴らの言いなりにはなりたくねぇよ」
「もしかして、君は剣士崩れなのかな?」
「もう何年も前の話だ。今は剣術競技の審判と言ったところだがな」
どうやらこの人もかつては剣士になりたくて修行の道を進んだのだろう。しかし、政権に認められなかった場合には兵士になることはできない。仮に剣士になれたとしても実戦で魔族を目の当たりにした時に強いトラウマなどで剣士を引退することだってある。
誰しもが剣を握り、魔族と対抗できるわけではない。おそらく彼もそのような立場の人なのだろう。
基本的に剣士崩れの復職は困難を極めている。強いトラウマなどで精神的に辛い思いをした人は特に難しいと言われている。だが、そんな彼のような人でもラフィン王女は国の土台は民だと言って全力で支援しようとしていた。
第二王女として内政を担当していた期間はそこまで長くはないものの、それでも彼女の言動に救われた人は彼のように多いことだろう。
「……僕も今の王政には懐疑的でね。詳しい話が聞けるとここまで来たんだ」
「なんだ。そうなのか。てっきり俺たちを摘発しに来たものだと思ったぜ」
「軍のバッジは隠していたんだけどね」
「はっ、その脛当てとベルトは軍人しか持ってねぇものだ。そこらへんで買えるようなものじゃねぇからな」
「なるほど。よく見ているんだね」
バッジを隠すだけではどうやら警戒されてしまうようだ。彼のように従軍したことがある人なら装備を見ただけでも勘付いてしまうらしい。
思い付きの行動だったためにそこまで気が回らなかった。
「これでも審判だからな。それより、詳しい話を聞きたいってか?」
「そうだね。一番気になるのは特級剣士アミュラの処刑についてかな」
「俺の古い知り合いの話か。まぁ証拠となるものは見つかってるみてぇだな」
「僕が確認することはできるのかな?」
「ここにはねぇが、本部に行けばあるだろうな」
流石にこんなところにあるわけもないか。強い証拠と言えるものなら王族が取り戻しに来てもおかしくはない。簡単に盗まれないよう厳重に守るべきものなのだろうからな。
ともかく、それ以外の話を聞くべきか。
「ラフィン王女の逃亡について何か知っていることはないかな。防壁警備だから僕もあまりよく知らないんだ」
「第二王女の脱出阻止に参加した人の話によれば、急な作戦だったらしいな。確固たる証拠があると言って部隊を動かしたらしいぜ。俺からすればジェビリー王女が一番怪しいがな」
確かに裏切りの証拠があるからと言って急に捕らえると言うのは不思議な話ではあるか。とはいえ、彼女がどのような思考でそう判断したのかは推測の域を出ないが。
「それよりあんた、防壁警備をしてたって?」
「王城の警備よりかは防壁の方が僕には合っているからね」
「……怖くはねぇのか」
「魔族のことかな。それはもちろん怖いね。だけど、誰かが戦わないといけない」
少なくとも僕はこの国ではそれなりに先進的な技術を持っていると自負している。それは師匠であるアミュラを見ていればよくわかることだ。そんな高い技術を持っていた彼から直接指導された僕は対魔族においては強いと思っている。
それは魔族の討伐数として結果が出ているぐらいだ。
力あるものが民を守ると言うのは当然の道理だと思っている。こんな魔族が蔓延る不安定な時代なのだからそうでもしないと人々は社会的に生きていけない。
「若い頃はあんたと同じように思っていたがな。一度奴らの顔を見りゃ軸足が震えて止まらねぇ。あんたみてぇな剣士がこの国にもっと必要なのかもな」
「どうだろうね。僕は少し事情が違うから」
「本当の強さってのはな。何も力があることじゃねぇ。信念を貫く力だと思ってる。それは俺が奴らと戦って思い知ったことだ」
「そうかもしれないけれど、難しいことじゃないかな?」
「今のままじゃそう言った人は出てこねぇ。自分で物事を考えれるようにならねぇとな。王族の言いなりになっている今の国じゃ無理な話だがな」
彼の言いたいことは確かにわかる気がする。
多くの民は生まれた時から王家に忠誠を誓っているようなものだ。それはいつしか義務のようなものになり、今となってはある意味洗脳に近いものになっているのかもしれない。中には自ら進んで忠誠を誓う人もいるだろう。だが、多くの人はそこに主体性と言うものがない。彼の言うようにただの言いなりになっているだけなのかもしれない。
だけど、これからは違う。こんな不安定な時代だからこそ、人々の主体性と言うものが必要になってくるはずだ。誰かの言いなりではなく、自分で物事を考えられるようにならなければいつまでも誰かの奴隷のままなのだから。
「変えたいんだよね。君たちは」
「できるかわからねぇがな」
「協力するよ。僕ならきっと力になれる」
「はっ、本気で言ってるのか?」
「本気だよ。僕もこの国の在り方には少し不満があるからね」
それはこの国の剣士の質に関することだ。剣術競技だけでなく、もっと魔族に特化した戦術を広めるべきだと思っている。彼らの多くは対人での成績ばかりに囚われている。それではいつまで経っても魔族に打ち勝つ力や技術は生まれてこない。
師匠であるアミュラが国外へ修行しに行ったのもそう言った背景があるからだ。
当然ながら、僕も剣術競技と言うものに触れてきて疑問に思っていたことだ。この国は根本から変わらないといけない。
「契約があるだろ。それはどうすんだ?」
「王家との契約か。確かにあるね。だけど、それは気付かれた時の話だよ」
「バレなきゃ問題ねぇってか?」
「そういうことだよ」
僕がそう言うと彼は小さく笑った。
こんにちは、結坂有です。
ドルタナ王国でもさまざまな考えを持った人がいるのですね。今まで疑いもしなかったことが、崩れてきた時人々はどう動くのでしょうか。
彼のような人はどれだけいるのでしょうか。
これからの展開が気になりますね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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