分断の広がり
僕、アギスは今日も防壁の警備をしていた。今日も変わらず、国外の様子は平和そのものであった。近くに聖騎士団が調査と言う名目でこの国に来るそうだが、その真相はおそらくミリシアと名乗る人たちの影響があってのことかもしれない。
少なくともこの国の中枢は今までに起きていなかったようなことが起きている。以前までなら何か事件があればすぐにでも情報が開示されていたのだが、今回はあまりにも情報を教えてくれない。何かを隠していると言うことは誰が見ても明白だと言えるだろう。
そんな状況がもう何日も続いている。市民の王家に対する不信感も徐々に高なっていることだ。もちろん、今までにそのような忠誠心のないような人たちは一定数いたが、今回に関してはそれも広がりを見せつつあるようだ。
そのことは先ほど防壁警備の隊長から教えられたところだ。
「以上で今日の報告は終わりだ。それに、これは俺からの忠告だが、反乱勢力に関してはまだわからないことが多い。少なくとも、さまざまな情報に左右されず、自分の意思で考えるように」
そうとだけ言って彼は今日の報告を終えた。
彼は王家の意向に従うようにとは言わなかった。あくまで自分の意思で考えるべきだと言いたいそうだ。隊長らしいと言えばそうだ。
前々から彼は王家に対してそこまで強い忠誠心のようなものがなかった。ただ、強く反発することはなく、僕と同じように自分の意思で防壁警備に就いたのだそうだ。特に深い理由のようなものがあるわけではない。ただ自分たちの国を守るために戦うと決意したのだそうだ。
改めて反乱勢力のものと見られる資料へと視線を落とす。
確かに彼らの言うように王家は色々と隠していることがあるそうだ。そして、僕の師匠であるアミュラを秘密裏に処刑したとすら思わされる情報も持っていると言っている。普通であればそのような情報は真っ先に僕たち警備隊にも情報が回ってくるものなのだが、今回はそのようなことはなかった。そもそも特級剣士である彼を処刑する理由などないように思える。
それに加えて多くの人もそのことを知っている様子ではなかった。この反乱勢力とやらが嘘を広めている可能性だってあるだろう。ただ、僕個人としてはおそらくアミュラは何かに巻き込まれ、反逆者として処刑されたと考えている。反乱因子として囚われていた時点で覚悟していたことだ。
もう少し話を聞きたかったところなのだが、嘆いている時間はあまりない。
「アギス、師匠のことは……」
アミュラのことを考えていると細かな指示を出していた隊長が僕に話しかけてきた。
「覚悟していたことです。僕なら大丈夫ですよ」
「そうは言ってもな。反乱勢力の噂など鵜呑みにしない方が楽だろう」
「……この国では何が起きているのかわかりません。それは王家に近い人たちも同じでしょう。僕たちは僕たちの目で確認しなければいけません」
そう自分の持論を言ってみる。大まかには彼が先ほど言った自分の意思で考え決断すると言ったことだ。
それがどのような真実であっても目を背けるべきではないし、否定して閉じこもるべきでもない。今僕たちは転換期にいると見ていい。それは小さき盾がこの国に言い残したことからもわかっている。
これからどのようなことが起ころうとも僕は逃避することはしない。
「その覚悟はいいんだが……とりあえず、今日は休め。これは隊長命令だ」
別に仕事に支障が出るまで落ち込んでいるわけではないのだが、隊長命令だと言われれば僕から否定することはできない。
「わかりました。そこまで言うのなら今日は休ませていただきます」
「その方がいい。それに、今日よりも明日の方が忙しくなることだろうからな」
確かに言われてみれば明日は聖騎士団が来る日だ。当然ながら、様々な人が来ると予想される。それに乗じて魔族が突撃してくることだってないわけではない。
加えて反乱勢力が何を考えているかわからない以上、彼ら聖騎士団の安全を確保するために僕たちはいつも以上に警備を整える必要がある。
「そうですね。隊長の言うとおりかもしれません」
「それじゃ、ゆっくりと休めよ」
彼はそういうとまた今日も警備の配置を指示するためにまた戻っていった。
今のところ彼が何を考えているのかはまだわからない。ただ、今は敵ではないだろう。
それから僕は防壁から離れ、自宅へと戻ろうとしていた。久しぶりの自宅ではあるが、別に部屋に何かがあると言うわけでもない。警備隊に入る前から僕は訓練ばかり続けていた。剣を振ることが趣味になっていたのだ。
別の何かをしようにもあまり興味が湧かないと言った方が正しいのかもしれない。
ふと、そのようなことを考えていると先ほど隊長の話を聞いているときに疑問に思っていたことを思い出した。反乱勢力と見られる組織がアミュラの処刑に関する情報を持っていると言うことだ。資料にはその証拠になるものも持っていると書かれていた。全てを鵜呑みにするわけにはいかないが、ある程度彼らの言い分も聞いてみるべきではないだろうか。隊長も自分で判断しろと言っていたことだ。
そう考えた僕は軍の証であるバッジをポケットにしまい、市場の方へと向かうことにした。どうやらそこでビラなどが配られているらしい。
防壁付近から市場へはそこまで遠くはなく、十分ほど歩くとすぐに見えてくる。
「みんな、俺たちはもう騙されたりしないっ。王権に従うだけが俺たちの生き方ではないんだ!」
「先代の王は偉大だ。たが、もうそれも古い伝説の話っ! その子孫である今の王女は信頼に値するのかっ!」
少しばかり散策するとすぐにそのような声が聞こえてきた。
おそらく彼らは王権に対して反乱している勢力のようだ。そして、彼らの周辺にはその声を聞いている市民が何人も集まっていた。半数近くが彼らの発言に頷いたりしているものの、一部の市民は彼らを睨みつけるような視線で見つめていた。
確かに王権に対して批判するような人は今までいなかったことだ。仕方ないこととはいえ、日々変わりゆく情勢を知らない人も存在している。少しでも王権に対して不信感があれば彼らの言うことは一聞するとある程度信憑性があるように思える。僕ですらそう思ってしまうのだから。
「今、この国は選択を求められているっ。俺たちが独立するか、それともいつまでも王族の言いなりになるかっ」
「そうだっ! 今こそ変革を求めるときではないのか!」
「彼ら王族は俺たちを騙しているんだ。もやはそんな連中の話を聞く必要はないだろう!」
市民を騙しているのは何も王族だけではない。僕だって防壁周辺に魔族がいたとしても、国内に混乱を招かないよう平静を装っていたことがある。それはある意味彼ら市民を騙していることだと思っている。
防壁の警備をしているとよくわかる月に一回程度は魔族が集団で攻めてくる。いや、彼ら魔族からすれば攻撃しているわけではないのだろうが。ともかく、魔族がすぐ近くまで来ているものの、彼ら市民の多くはそのことを知らない。それは僕たちが隠していあるからであり、混乱を防ぐ目的があるからだ。
「そして何よりも、親身に俺たちの意見を聞いてくれたラフィン王女を国外へと追いやった。それはジェビリー王女が自身の影響力が落ちると危惧したから、そう彼女自身の地位を守るためにっ!」
「そんな傲慢で自己中心的な人が俺たち市民を導いてくれると思うかっ!」
「ジェビリー王女は、あの女は最低最悪の人間だっ」
流石の僕も最低最悪とまでは思っていないが、それでも市民の声を直接聞いてくれるような人ではないことは確かだ。それは今までの状況を見てもよくわかる。国内で何が起きているのか、王城内でどのような話が行われているのかは全て非公開となってしまっている。
ラフィン王女が国外へと逃亡した際、僕たちには情報を口外しないように言われた。特に王城内での詳しい情報は教えてはいけないと。まぁその時の僕はそのような命令が出ているとは知らずに小さき盾と名乗る女性に話してしまったのだけど。
それはともかく、彼ら反乱勢力はおそらく僕の知らない情報すらもどこからか入手しているのだろう。
そうでもなければ、あのように強く批判することはないはずだ。
彼らの話を一度、詳しく聞いてみる必要がある。彼らに話せば首謀者となる人に会えるかもしれない。
演説している人とは別の人に僕は話しかけることにした。彼は市民を装っているが、周囲を警戒している素振りがあることからおそらく反乱勢力の一員だろう。
「少しいいかな」
「っ!」
「君たちの首謀者に話があるんだけど」
「なんだよ。俺たちの活動が気に食わないって言うのか?」
「違うんだ。僕も君たちと同じように王族に対して懐疑的な立場なんだ」
そう言ってみると彼は周囲をまた警戒しながら、僕に紙を渡してくれた。
「……いいか、あんたを信じるわけじゃない。だが、そこまで気になるのなら自分で確かめてみるべきだ」
「そうだね。ありがとう」
僕はその紙を受け取ってそこに書かれた場所へと向かうことにした。
こんにちは、結坂有です。
少しばかり更新が滞ってしまいましたが、これからの投稿の調整を行なっていました。ネタ切れになったわけではございません。
ドルタナ王国内での分断も大きく広がってきましたね。これからどのようになっていくのでしょうか。
そして、アギスはどのような選択をするのでしょうか。気になるところですね。
これから徐々に戦闘シーンも増えていく予定です。
それから、これからの投稿に関してです。
他サイトの『カクヨム』にて公開していきます。そこではここと同じ時刻に更新していきます。また、随時加筆、修正も行なっていきますので最新版に関しては引き続き『カクヨム』にてお楽しみください。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu




