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王国内の分断

 〜〜〜 ラフィン脱出から三日後のこと 〜〜〜


 私、クラーナ・エルディクラは王城へと向かう準備をしている。

 先日姉が戦死したとの通知が家に来た。父は魔族との戦いで戦死し、母は数年前に病気で死んでしまった。姉は私の唯一の家族だったのだ。近衛騎士と言うことで父のように前線で戦うような危険な仕事ではないと言うことだった。しかし、いくら安全と言っても軍人であることには変わらず、何か危険があればすぐにその対処に向かわなければいけない職業でもある。

 ただ、私にはまだ納得しきれていないことがあった。


『逃亡者ラフィンの脱出を阻止するために出動、その後戦死した』


 化粧台の端に置かれた手紙の一文を見る。

 王家の裏切るようなことをした当時第二王女だったラフィンが逃亡した事件があった。その際に私の姉がその脱出を阻止し、拘束しようとしたらしい。しかし、ラフィン側もかなり抵抗したそうで、それで戦死したとこの手紙には書かれている。

 しかし、そのことについてはかなり疑問ではある。そもそも姉は第一王女の近衛騎士であり、逃亡者を捕らえるような憲兵でもなければ、即応部隊と言うわけでもない。

 そんな彼女がわざわざ第一王女から離れてラフィンの確保と言う任務に向かうだろうか。

 そして、もう一つの疑問が戦死したと言う報告をこの手紙一つで済ませると言うことがおかしな話だ。

 普通であれば、戦死したり殉職した場合は上層の人や同僚の人たちが直接話をしに来ることになっている。今回はただ王家と証明する特殊な印が押された封筒がポストに入っていただけだ。確かにラフィンの逃亡から国内は混乱状態だ。それで戦死報告に時間を割くことができないのかもしれないが、いくらなんでもポストに入れるだけと言うのはどうかとは思う。


 だから私は今日、身だしなみを整え王城へと向かうことにした。姉の殉職について詳しく話を聞くと言うのは遺族である私が持つ当然の権利と言えるからだ。


「止まれ。王城へは許可なく入ることはできない」


 王城の門へと近付くと門番の兵士がそう私を止める。


「私はクラーナ・エルディクラです」

「エルディクラ……近衛騎士団の遺族の方ですか?」


 すると、少し離れたところに立っていた位の高そうな兵士が私にそう話しかけてきた。


「そうです。先日、この手紙が届いたのでその話を伺いに来ました」

「……近衛騎士団の戦死については私から何も答えられません」

「その、どうしてでしょうか?」

「いろいろと謎が多いのですよ。おそらく魔族に殺されたのだろうと私は思っていますが」

「ですが、王国内で戦死したのですよね? それにラフィンの脱出を阻止するために出動したとこれには……」


 私はそう手紙を彼に渡しながら説明する。

 彼は魔族によって姉は殺されたと言った。彼の推測ではあるのかもしれないが、何か根拠がある様子でもあった。この手紙に書かれていることは事実ではないのだろうか。


「ラフィンの逃亡で怪我をした人はいますが、死亡したと言う報告は聞いていません」

「でしたら、これはどう言うことなのでしょうか?」

「……王城内でもいろいろと混乱しています。きっと何か良くないことが起きているのだと思います」

「軍曹、その話は……」


 そう門番の兵士が止めようとすると彼は手を挙げた。


「彼女は殉職者の遺族だ。話を聞く権利はあるはずではないか?」

「それはそうですが」

「これ以上憶測で話はしない。わかったら自分の持ち場に戻れ」

「はっ」


 軍曹と呼ばれる彼にそう指示され、門番の兵士は再び持ち場の警備へと戻った。


「すみません。見苦しい場をお見せして……」

「いえ、気にしていません」


 こうしたやりとりはよくあることなのだろう。それに軍曹の話は何も間違ったことは言っていない。私には話を聞く権利がある。当然私はそのことを知っているからこうして王城へと出向いてきたのだから。


「それで、姉はどのようにして亡くなったのでしょうか」

「……あまり聞かせれる話ではありません」

「覚悟しています。先ほど魔族によって殺されたと、何か理由があるのでしょう」

「彼女の頭部だけが残されていたのですよ。そして、その切断面も到底刃物によるものではありません」


 手紙が届いた時点である程度覚悟していたことだが、こうして改めて話を聞くとどうしてもショックが大きい。

 ただ、彼の言っていることが正しいのだとすれば、それはラフィン王女が脱出した際に殺されたと言うわけではないのだろう。私はラフィン王女のことはよく知っている。なぜなら彼女は国民の生活が豊かになるよう努めていたからだ。そのことは王国民の誰もが知っていることだろう。

 しかし、そんな崇高な信念を持った彼女が魔族と手を組んで脱出したとも考えられない。それならなぜ姉は殺されたのだろうか。

 それは今の王城の混乱を見てもわかる。きっと第一王女ジェビリーが原因の一つなのだろう。


「……わかりました」

「深く考えるとさらに気を落としてしまいます。何か別のことに……」

「ご配慮ありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですので」


 もちろん、ショックを全て受け止め切れているかと言われれば嘘にはなる。だけど、覚悟していたことだ。これ以上落ち込んでいても事態の解決にはならない。

 それから軍曹の敬礼を背に私は王城を後にした。


   〜〜〜


 私が王城に向かってから何日も経った。


「クラーナさんっ」


 すると、一人の男が貸し倉庫の中へと入ってくる。


「どうかしましたか?」

「ついに見つけましたよ。王族の闇について」


 あれから私は色んな人と話をした。

 そして、立ち上げたのが王族の情報を集めて回る私立組織だ。もちろん、王家やその関係者には知られないように立ち回っている。

 ただ、この活動もそう長くは続かないことだろう。気付かれてしまうのは結局のところ時間の問題なのだから。

 それから男の人がカバンからいくつかの資料を取り出した。


「これが昨日、廃棄される物資の中から見つけたものです」

「燃やされた紙か何かですか?」

「はい。所々読めない部分はありますが……ここです」


 そう言って指差した場所の部分を読んでみることにした。

 そこにはどうやら処刑に関する部分のようだ。おそらく何かの名簿か何かだろう。


「第二王女近衛騎士、アミュラ・クラウディオスの処刑を命ず、ですか」

「彼は特級剣士の一人ですよね。そんな彼を何の罪名もないまま処刑するのは普通のことではありません」

「そうですね。彼ら特級剣士は王家に守られる存在ですから」


 魔族に強い抵抗力のある特級剣士は王家によってある程度守られる側の存在だ。そんな彼が何の理由もなく処刑されると言うこと自体がおかしな話だ。

 ただ、彼に限ってはそうではないのかもしれない。高齢と言うことで剣士としての体力も落ちてきている。数少ない聖剣は余程のことがない限り五十歳を過ぎた頃には返納される仕組みになっている。

 仮に彼が超極悪人であったとして、いくら強力な剣士でも聖剣を持った相手には手も足も出ない。それならわざわざ処刑してまで排除する必要もないと言うことだ。


「処刑に匹敵するような悪行を犯したとしても極刑に処す理由はどこにもありません」

「……理由は一つ、ラフィン王女の近衛騎士だったと言うことでしょうか」

「それで違いないでしょう」


 加えてこの国では反逆的な行為が見つかったとして死刑になることはない。それは歴史を見てもそうだ。

 ラフィンの脱出で大きな怪我を負った人も、死人が出たと言う報告も調査によれば存在しないことが確認されている。それならなぜ彼らが処刑されることになってしまったのか。

 もう理由は一つしかない。

 ジェビリー王女が王権と言う非常に強力な権力を振るっていると言うことだ。


「調査して今の王権は問題だらけと言うことがわかりましたね」

「そうですよ。今すぐにでもビラを撒いて国民に知らせないと」

「……王家は私たちの存在に気付いています。目立った行動はまだできません」

「どうしてですか。今こそ立ち上がる時ですっ」

「いいえ、彼らは聖剣を持っています。私たちに勝ち目はないでしょう」

「……」


 私がそう言うと彼は小さく俯いた。

 私たちには一般的な武器を持つぐらいしかできない。そんな私たちが聖剣を多く所持している彼ら王家に反旗を翻すと言うのは無理な話だ。ビラを撒くと言ったことをすれば王家からの圧力も今以上に増えることになる。

 それこそ反逆思想に誘導していると見られ、弾圧してくることだってあるだろう。必要とあれば何の躊躇もなく人を殺すような人たちだ。


「ですが、もう始めていることです」

「今、なんて言いましたか?」

「もうビラは配られているんですよ」


 その言葉を聞いた時、私は今までに感じたことのない焦りを感じた。

こんにちは、結坂有です。


少し更新が滞ってしまいましたが、これからは頻度を上げていく予定です。

また、来年にはほぼ毎日更新ができそうです。


それにしてもドルタナ王国民の中で日々王家に対して不信感が高まっている様子ですね。確かにあの様子ではいつか反発が起きそうですが。

クラーナの私立組織はビラを撒いてしまったようですが、これからどうなっていくのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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