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本部の混乱

 ブラド団長の展開した影の軍勢はものすごい勢いで走り出していく。

 すでに数百体の影が団長室から飛び出していったのを見ている。


「団長、これは……」

「これで時間稼ぎはできるはずだ。ミリシアはあの男の対策を考えろ」

「……無理よ」

「お前にはその魔剣があるではないか。以前はどうだったのかは知らないが、お前はお前の力を信じろ」

「そうですよ。ミリシアさん!」


 アレクがどういった意図でここを襲撃しているのかは知らないけれど、私にはしなければいけないことがある。

 エレインのためにも邪魔されてはいけないのだ。


「わかったわ。少し考えさせて」


 私は窓から彼の動きを観察する。

 どうやらもう影の軍勢と戦っているようで、圧倒的な数に若干押されているようにも思える。

 いや、よく見てみると影の動きに順応しているように見える。


「団長、その分身はどの程度の力を持っているの?」

「今は力の半分も発揮していない。数を優先して展開しているからな」

「団長と同じ実力を持った分身も作れるわけよね?」

「やろうと思えばな」


 団長の剣術はかなり強力だと聞くが、実際に彼が剣を振るっているところを見たことがない。


「その強い方の分身でアレクに戦わせて」

「義肢だからと侮っていたが、相当な強さのようだ。一段強い分身を作り出そう」


 そういってブラド団長は魔剣の柄を強く握り込んだ。

 すると三体の分身が作られた。

 その影の分身は先ほどのものよりも姿が団長のシルエットに酷似しており、彼の分身だとはっきりわかる。


「あの右腕と左足の義肢を集中的に狙ってほしいわ」

「なるほど、あいつの義肢に攻撃を集中させろ」


 団長が分身にそう命令すると、三人の分身が走り出した。

 数百体の影をいとも簡単になぎ倒したアレクはそのまま建物へと入っていった。

 やはりあの程度ではアレクには勝てないか。


 アレクの剣は非常に流線型の連続した美しい剣技で捌いていくもの、当然ながら数だけでは勝てない。

 そしてあの大聖剣の能力かわからないが、その剣撃一つ一つが重く強烈なものへと変わっている。

 素早さと連続性を兼ね備えたその重い一撃、もはや彼を止める方法など一つしかないように思える。


「監視カメラで確認してください」


 そういってユウナが私にモニターを見せてくれる。


「ありがとう」


 モニターにはアレクと先ほど走り出した団長の分身が映し出されている。

 分身の一体が彼に攻撃を仕掛けるが、その攻撃の隙を狙った鋭い一撃を繰り出した。

 しかし、分身の方も団長の実力に近いためにそう簡単に攻撃を与えることができない。

 彼の攻撃を避けるともう一体がさらに攻撃を仕掛ける。

 一瞬の出来事だが、アレクは義肢である左足を軸にして戦っているように思える。

 それなら私のこの魔剣の方が相手としていいのかもしれない。


 しばらくモニターで彼と三体の分身の戦いを見ているのだが、やはり左足を軸にして戦っている。

 素早い攻撃に予測できないような攻撃などを与えているが、それでもアレクは全く途切れることのない連続した剣撃を繰り出している。

 あの分身の力だけでは負けるのも時間の問題だろう。


「団長、まだ本気ではないよね」

「当然だ」

「私が出るから本気の分身を一体だけでもいいから作り出して」

「……わかった」


 すると、団長の姿のまま分身が作り出された。


「え?」


 今まで影だったのにも関わらず、今回は色や質感すらも遜色ないほどだ。

 左右に立っている二人はどれが本物か分からないほどだ。


「これが本気だ」

「……それを最大何体出せるの?」

「記憶の中では六体だ」


 はっきりいって団長には勝てそうにないのかもしれない。

 実力では数万体は引き出せると言っていたが、どうやら今までで出したのは六体が最大のようだ。


「そうなのね。じゃその分身を借りていくわ」

「好きにしろ」


 団長は私にその分身を操る命令権を与えてくれたようだ。

 それにしても呼び方に悩んでしまうな。


「なんて言ったらいいかな?」

「どう呼んでくれてもいい。俺の力を持っているが俺ではないからな」


 確かにそうなのかもしれない。

 団長であって団長ではないのだから。


「じゃあ、分身さん。私の後ろに付いてきて」


 すると、その団長と瓜二つの姿をした分身は私の背後へと張り付くように歩いてくる。


「ちょっといい子過ぎよ」

「命令に逆らう方がいいのか?」

「いや、それはそれで扱いにくいから。いってくるね」


 私はそう言って魔剣を引き抜き、部屋を出ようとする。


「ミリシアさん、頑張ってください!」


 私が団長室の扉を開けるとユウナがそう言ってくれた。

 応援してくれる彼女に私は手を挙げて返事をして、そのまま扉を閉めた。




 階段を降りて先ほどの場所に向かうとそこには左腕に切り傷を負ったアレクが立っていた。

 さすがの彼でもあれほどの強さの分身が三人もいれば怪我を負うものだろう。

 逆に言えば、よくその怪我だけで生き残ったものだ。

 あの分身もここの聖騎士団の中級騎士ほどの実力があったはずだ。


「ちょっといいかな?」


 アレクはそう甘い声で私たちに話しかけてくる。


「……」


 私だと気づかれてはいけない存在、だからここで声を上げることはしない。


「そこを通してくれるとありがたいのだけど、通してくれるかな」


 私は軽く首を振ってそれを否定する。


「女性相手には本気を出したくないのだけど、敵対するのなら僕だって本気だよ」


 アレクはそういうと剣を構えて見せる。

 彼の構えはいつ見ても美しいもので、その構えのおかげであの流れるような美しい剣技を生み出しているのだろう。

 私もあれほどに美しく剣技を繰り出してみたいものだ。


「私の攻撃の後、走り出して本気で戦って」


 私はアレクに聞こえないぐらいの小声で分身に命令した。

 分身は私の命令に小さくだが頷いた。


「っ!」


 私は持っている魔剣を振り下ろした。


「攻撃的な人だね」


 そう言ってアレクは私の剣を受け止める構えを取る。

 私の持っている魔剣はレイピアの形をしている。当然軽い攻撃だと判断し、剣で受け止めるはずだ。

 だが、それが目的である。


 私の魔剣グルブレストは分散という能力を持っている。

 力を分散させることで力を広範囲に伝えることができ、相手には大きく力強い一撃に思えることだろう。


 ガキィィン!


 重く鈍い音が廊下を響かせる。

 当然、レイピアとサーベルが鳴らすような音ではない。

 私が分散という能力を使ったからだ。


「見かけによらず、重たいね」

「……」


 彼は右腕の義肢だけで私の全力の一撃を受け止めることに成功していた。

 あの義肢は一体どれほどの力を持っているというのかしら。

 すると、横にいた分身が攻撃を仕掛ける。

 どうやら先ほど私が言っていた義肢狙いでということを知っていたのか、左足の義肢を狙いに行った。


「悪くない連携……」


 アレクはそういうと体を回転させて、私の剣を払うと同時に分身への攻撃を開始した。

 しかし、分身は団長の実力とほとんど同じでそれを簡単に受け止めた。


「この速さでも受け止めるのかい?」


 当然、素早く連続した攻撃であったが分身は防いでみせたことでアレクは驚いている。


「だけど、これは無理なはずっ」


 すると、彼は今まで左足を軸にしていたのを変えて右足に重心を寄せ、義肢である左足で回し蹴りをした。

 しかしその攻撃でも分身はもう一本の剣を引き抜いて対応した。

 一瞬の駆け引きでこれほど動けるのはそういない。


「なっ!」


 分身がその蹴り込まれた義肢に向かって鋭く強烈な一撃を与える。


 ガリィィン!


 甲高い音とともに体勢を崩したアレクが地面に倒れる。

 それに追撃するように分身も前に出た。

 私もそれに合わせるように分身の後ろに隠れながら追いかける。


「その連携、見たことあるな」


 この追撃をみたアレクはそういうと剣を左手に持ち替え、右腕で地面をさせる。

 すると、右腕を軸に逆立ちし義肢の左足で分身の攻撃を受け止めた。

 もちろんながら分身の剣は聖剣でも魔剣でもないただの剣の形をしたもののため金属の塊である義肢をそう簡単い斬ることはできない。


 分身は二つの剣を交差させることでそれをうまく受け止める。

 そして、私は分身の背後から飛び出して逆立ちをしているアレクの義肢ではない右足を攻撃した。


「ふっ!」


 その息を吐く音とともに彼の右腕から蒸気が溢れ、地面に指先を食い込ませることで完全に固定した。

 右腕を固定したことで義肢を受け止めている分身が飛ばされ、私に直撃する。


「……っ!」


 まさか、アレクがこれほどの力技を繰り出してくるとは思ってもいなかった。

 完全に想定外の攻撃ではあるが、私とてこの程度では負けない。

 分身と共に飛ばされた私は魔剣を地面に突き刺して、分散の能力を使う。

 そして、分身もまたうまく受け身を取って体勢を立て直す。


「こんなに素早い対応をするのはエレイン以外見たことないよ」


 どこか楽しんでいるかのようなアレクはまた左足を軸に立ち上がった。

 しかし、それが目当てだ。


「これは……地震?」


 私の突き刺した魔剣の分散で地面を震わせた。

 当然揺れていると感じているのはアレクだけで、分身には何の影響もない。

 そう、彼を止める方法はその連続した剣撃を止めることにあるのだ。


「くっ!」


 体勢を崩しかけてきたアレクに分身の二つの剣が襲いかける。

 左手に持っていたせいか、二つの剣撃に耐えることができなかったようで彼はまた地面に倒れてしまう。

 どうやら左足を軸にしているのは義肢であるからだろう。

 義肢に慣れるためにそうしているのか、また義肢に依存しているのか分からないが、それが原因で地面に倒れることが多くなっているように思える。


「一度の訓練だけでは無謀だった、かな……」


 アレクはそういうと聖剣を突き立てると地面が盛り上がり、爆発する。

 その砂塵でよく見えなかったが、どうやらこの場から逃げ去ったようだ。

 あの剣、力を強化させる能力でもあるのだろうか。

 剣を突き立てただけで地面を破裂させるなど、普通ではあり得ない。

 すると、後ろの階段から団長とユウナが走ってきた。


「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ」


 砂だらけの服を払い、周囲を見渡す。

 やはりどこにもアレクの姿はいない。


「カメラで見ていたが、まさか増幅の大聖剣を持っていたとはな」

「増幅?」

「ああ、剣撃の力を増幅させることで強烈な一撃を生み出すことができる聖剣だ」


 だから、聖騎士団が最初に立ち向かった時に剣をあんなに飛ばされたりしていたわけか。

 確かに彼が持ったら強力なのかもしれないわね。


「とりあえず、脅威はなくなった。感謝する」

「護衛騎士なんだから当然よ」


 私は聖騎士団に所属していないが、団長の護衛騎士を務めている。

 これぐらいの仕事はやらなければいけないのだ。

こんにちは、結坂有です。


本部の戦いはどうやらアレクが逃げたことによって落ち着いたようです。

それにしてもアレクとミリシアの対決はどうやら五分五分といったところです。

そして、団長の実力もかなり高いと伺えますね。


それでは次回もお楽しみに。



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