デートの終わり
俺、エレインはラフィンとのデートの後、小さき盾の家へと戻っていた。ミリシアたちはいないが、ラクアやマナが家にいる。
ただ、それでも気になるところがあるのはやはりラフィンを狙ってわざわざドルタナ王国から剣士を送り付けてきたところだ。聖騎士団や新生議会軍によって彼らは拘束されたのだが、それでも気を抜くことができないのは事実と言うものだ。
それに明後日にはエルラトラムからドルタナ王国に出発する予定だ。そのための準備はすでに整えられていると言った状況だからな。
「おかえり、早かったのね」
家の中に入るとラクアが出迎えてくれた。どうやら窓から俺たちが帰ってくるのを見ていたようだ。予定で言えば、もう少し商店街を歩き回っているところだったのだが、ドルタナからの刺客が襲い掛かってきたと言うことで急遽この家に戻ってきた。
「王国から刺客が送られてきていたみたいだからな」
「……商店街で襲撃されたの?」
「いや、そこからは外れた場所だ。幸いにも大きな混乱は起きていない。それに今頃議会軍が彼らを拘束している」
「そう、それならよかった」
俺がこの国に来た直後のエルラトラム議会はそこまで信用できる組織ではなかったものの、アレイシアが議長となってからは議会軍の様子も大きく変わったのだからな。
それに議会軍には剣術学院の生徒たちがいる。その中に俺のことをよく知るミーナやリンネたちもいることだ。そう敵になることはないと言える。
「……それにしても、本当にここまで追いかけてくるとは想定外でした」
リビングの方へと向かい、ラフィンが椅子に座るとほっと安心したのかそう呟くように言った。
確かにわざわざ国外に剣士を向かわせると言うのはいくらなんでもやりすぎな気がする。それもエルラトラムの議会に通達すらしていない状況で送りつけてきたのだ。非常に強引な手段だ。
「おそらくですが、ラフィン王女の確保ではなく、殺害が目的だったのでしょう」
すると、アイリスがそう推察を話した。
そのことは俺も同意できる。確保するのが目的なら議会に何らかの連絡があってもいいはずだ。おそらく今回の作戦は急遽決まった作戦で、それも殺害命令だったとも取れる。暗殺することが目的なら議会に通達なんてしないはずだ。
彼らはエルラトラム議会の信条を知っているからな。
「私の殺害ですか?」
「急な作戦だったのは明らかです。それに裏で魔族が繋がっているとなれば尚更です」
「……そのことが正しければ王国はすでに魔族の手によって陥落しているかもしれませんね」
ラフィンは俯きながらそう口にした。
彼女にとってもドルタナ王国の陥落は分かっていたことだろう。それも彼女が王国内で追い詰められた時にはすでに手遅れだったのかもしれない。今となってはもう魔族があの国の主権を握ってしまっているのだからな。
そのことはミリシアとレイからの報告でも推察できることでもある。
「問題なのは王国の陥落ではありません。魔族がこのように人を使って攻撃してきたことにあります」
「と言うと?」
「今までの戦いからするに、魔族が人を使うと言った作戦はあまり見られません。あったとしても人に成り済まして自ら実行するものでした」
「そうだな。そう言った点でも今回の魔族は賢いと言えるだろう」
上位種、それも大軍勢を率いる長ともなる魔族ならこうした作戦を取ってきたとておかしな話ではない。グランデローディアとの戦いでもそのような戦略的な攻撃をしてきたのは確かだからな。
ただ、それでも魔族が直接人を使うと言うのはなかったと言える。
「エレイン様、今回の敵ですが、私たちが攻撃してくるのをすでに察知している可能性があります」
リーリアもその点はかなり懸念している様子だ。
それもそのはずで、ラフィン王女が亡命した直後の立ち入り調査を怪しまない理由がないからな。魔族側もきっと何らかの攻撃があると構えていることだろう。
「その点だが、ミリシアはあえてそうしたのではないか?」
「そうなのですか?」
「聖騎士団による調査を怪しむのなら相手はそれに警戒するはずだ。その裏で動く俺たちへの注意も必然的に緩くなってしまう」
「お兄様の言う通りです。いくら魔族と言っても数には限りがあります」
聖騎士団の調査に多くのリソースを割くのなら他の点が疎かになるものだ。つまり、聖騎士団の調査と言うのは囮の作戦と見ていいだろう。
「……今一番警戒すべきは魔族の直接的な脅威と言うよりも人と言う存在だ」
「相手が人であるのなら聖剣を使ってくることもあるだろう。中には強力な能力を持った人もいるはずだ」
「そして何よりも、彼らは善意のもとで私たちを攻撃してくる点にあります。洗脳よりも厄介と見るべきでしょう」
洗脳によって人を制御するのではなく、今回は国民の王家に対する忠誠心をうまく利用して彼らを制御している。洗脳なら騙されていることを自覚させることができれば相手の戦意を奪えるが、今回に限ってはそう簡単にはいかない。
そもそも他国を信用しない国民なら俺たちが王族が魔族に乗っ取られていると言ったところで彼らは聞く耳を持たないのだからな。もちろん、リーリアの魔剣を使って無理やり信じ込ませることは可能かもしれないが、結局のところ根本的な解決にはなっていない。
それに魔族側も同じく洗脳と言う方法を行なっている。そのことに関しての対策も考えていることだろう。
「ああ、ラフィンの言っていた隠れ家の制圧もそう簡単に進むとは思えない」
「……今回の一件はドルタナ王国にとっての非常事態です。相手が純然な王国民であっても彼らの殺害をこの私が許可します」
すると、ラフィンは真っ直ぐ俺の目を見ながらそう言った。それは王国を取り戻したいと強く願う彼女の強い覚悟から来ていることだろう。
「確かに場合によってはそうなるかもしれないな。ただ、俺たちにも考えがある。ここで聖剣使いの数を失うことは避けたいところだ」
「はい。今や人的資源も重要となっています。聖剣を扱える人は私たち人類の貴重な戦力です」
「大怪我を負わせることはあっても極力命までは奪うことはしないでおく。それでいいだろう」
「……はい。可能であればそうしていただけると嬉しいです」
やるべきことは決まったわけだが、ミリシアたちが王国を離れてから随分と時間が経ってしまっている。当然ながら、その間にも王国内では色々と事件が起きているはずだ。魔族がこうして王国を乗っ取ろうとしているのだからな。
俺たちが向かう頃には王国内の状況も大きく変わってしまっているかもしれない。
「とりあえず今は明後日の出発に向けて体を休めるべきだな」
「そうですね。私も少し疲れてしまいました」
「……あの、言い忘れていたけれど私も明後日の作戦に参加するわ」
すると、今まで俺たちの会話を静かに聞いていたラクアがそう言った。どうやら彼女も聖騎士団の一員に紛れて参加するらしい。
「そうなのか?」
「ええ、人員的な意味での招集よ。ミリシアとレイは顔がバレてしまっているからね」
「確かにそうか」
「私なら大丈夫だから。アレクと一緒に行動する予定よ」
実力的に見ても彼女はそう戦力になる。アレクと行動するのならよほどのことがない限りは失敗することはなさそうだ。
いくつか不安要素は残っているものの、それらは今考えたところで意味のないものばかりだ。俺たちが今するべきことは先のことを心配するのではなく、どんな状況になったとしても十分に力を発揮できるよう万全な状態を維持することにある。
少なくとも、彼らは戦略的な侵攻を始めているのだからな。聖騎士団が国内に入った瞬間に攻撃されることだってあるかもしれない。
いついかなる時でも実力を発揮できるようにしなければいけないのだ。
それから俺はマナとこの家で少し遊んでから自分達の家へと戻ることにした。
こんにちは、結坂有です。
ついにエレインたちもドルタナ王国に向けて出発を開始するようですね。
それにしても王国内はどうなっているのでしょうか。次回は王国内の状況についてです。
そして、ミリシアの考えるもう一つの作戦についても気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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