幕間:戦略的、エレインとのデート作戦〜中編〜
私、ラフィンはラクアの言うようにエレインとのデートを夕食を食べながら考えていた。ただ、それが議会で許されるかどうかは怪しいところだ。何を言おう、その剣聖であるエレインは議長の弟にある人だからだ。
もちろん、個人の自由を他人である議長がどうこう言える立場ではないのは確かではあるのだが、私に限って言えば事情が少しばかり異なる。今の私はこの国に保護されている存在だ。そんな私が自由に外を出歩くなんて許されるのだろうか。議長であるアレイシアはある程度の自由は許してくれているとは言っている。
その認められた自由の中に剣聖とのデートは含まれているのかという話だ。こんなことは当の議長は想定していないことだろう。あくまでこれは私個人が勝手にやることだ。
「それにしてもあと三日でドルタナ王国に戻るのよね?」
そんなことを考えていると横からラクアが話しかけてきた。
そのことは昨日、ミリシアから言われたことだ。ついにあの作戦を実行する日が近づいてきているということでもある。
「すぐにこちらに戻ってくることになりそうですよ」
「でも、王女なわけだし……」
「以前にも言いましたが、この戦いが終われば私は王女ではなくなります。ドルタナ王国はエルラトラムの統治下になりますから」
そのことはこの国に亡命してきた時から決めていたことだ。おそらく第一王女は魔族によって殺されてしまっていることだろう。
たとえ生き残っていたとしても今はまともな扱いは受けていないはずだ。王家が既に崩壊してしまっているのだから仕方のないことでもある。ただ、ミリシアさんの言っていたようにどうやら国内はまだ混乱状態ではないらしい。本当の姉、第一王女が生き残っていて、彼女から国政について色々と聞き出している可能性もある。
さまざまなことは考えられるが、結局のところ、自分たちだけで国を守れないのならエルラトラムと併合した方がいいと考えている。セルバン帝国と同じようにできれば成功と言えるだろう。
ただ、そう簡単に進まないのが現実と言うもので、何かしらの問題や障害が立ち塞がることだろう。
「統治下って言っても完全に支配するわけじゃないでしょ?」
「その点はまだわかりません。こちらの議会が決定することですから」
正直なところ、その辺りの返答はまだないと言った状況だ。ともかく、私個人としては少なくとももう王家の立場を捨てたいと考えている。もちろん、すぐに庶民的な生活に慣れるかと言われれば難しいところもあるかもしれない。ただ、ここでミリシアやラクアたちと過ごしているとこうした友だちとして接してくれる人に囲まれて生活するのも楽しいものだ。
王城では皆が部下で、私が彼らの上に立つ存在。対等な立場で接してくれる人など姉ぐらいなものだった。
「……難しいことはわからないけれど、王家の生活には戻りたくないみたいね」
「はい。こうして王族としてではない生活は楽しいことばかりです」
「それはいいんだけど、本当にそれでいいの?」
「構いません」
私の決意はこの程度のことでは覆らない。もうドルタナ王国に未来がないのなら何も気にする必要などないに等しい。しかし、私もあの国に何の思い入れもないわけではないために滅亡してほしいとまでは思っていない。ただ、何かを変えるにはこう言った機会がないと変革など起こらない。
あの国民は自分たちのことだけしか考えていないのだ。魔族のことなど、ましてや世界の情勢に関してもあまり関心のない人が多い。
目を向けていると口だけは言うもののそれら全て他人事のように思っているだけの人があの国にどれだけの数がいるのか。私が想像しているよりも多くのドルタナ王国民がそうなのだろう。
「……それで、明日エレインとデートするんだよね?」
唐突にラクアがそういった。
彼女の皿はもう何も残っておらず、私だけがまだスープが残っている。
「そ、そうですが、いきなりどうしたのですか?」
「前日だってのにデートの話してないから」
確かにドルタナ王国のことばかりを考えていた。目先のことを考えずに未来のことを考えてしまうのは昔からだ。
ただ、今回に限っては考えないわけにはいかない。相手はあのエレインなのだ。剣聖と呼ばれている人なのだ。
そんな人を相手にデートなんてとんでもない話だ。
デートに関してはあらかじめ連絡しておいたために問題はないものの、憂慮くなしなければいけないことは私に対する印象が悪くならないかどうかだ。おそらくデートには彼のメイドも付いてくることだろう。
それに、そんなことを他人に話すものなのだろうか。
「そもそもデートの話はこうした時にするのですか?」
「こんな時以外にいつ話すの?」
「確かにラクアさんからの提案では在りますし、関係ないわけではございませんが……」
「何か問題でも?」
「わかりました。少しだけ話しましょうか」
王族でしか生活したことのない私がどうこう言える話ではない。ここは少し一般の生活をしている人の意見を聞けると思ってラクアに話してみるべきかもしれない。
何も益にならないと言うことにはならないはずだ。
「それで、エレインのどう言ったところに惹かれたわけ? やっぱり顔とか?」
「顔で人を判断するのは失礼ですよ。私はただ彼の本性を知りたいのです」
「至って普通かもよ? あの人、真っ直ぐなんだから」
「そうなのですか?」
「まぁ私の生まれた国に彼が来た時も何か解決できないかってずっと考えてたからね」
そう言えばそう言った話を聞いたことがある。彼女は元々この国ではなく、ヴェルガー連邦国の人だと聞いていた。彼女とエレインが出会ったそのころは連邦政府に問題を抱えていた様子だった。
政府の軍事を司る部署が私の国のように魔族に乗っ取られようとしていたからだ。当然ながら、エレインや彼の友人によってそれらの問題は事前に解決され、被害は最小限に留めることができたのだそうだ。ただ、言い換えれば魔族が高度な戦略を組み始めていると言うことでもある。
「ラクアさんから見た剣聖エレインは真っ直ぐな人なのですね」
「そんな真っ直ぐなエレインを見てたら私も自分の生き方をしっかり考えないとって思ったのよ。だから私も惹かれたのかもね」
「そうですか。私も真っ直ぐな人は好きです」
「……それでデートをしてみたい、と?」
「それだけではございません。色々と理由があっての提案でした」
私が剣聖と婚姻をすることでドルタナ王国もエルラトラムのことをよく思ってくれると信じている。もちろん、それは政略的なことだ。エルラトラムとドルタナ王国の橋渡しとなる婚姻なら国民もきっと納得してくれるはずだ。
しかし、ただ婚姻をしたと言うだけでは説得力に欠ける。そのためにあの作戦を成功させなければいけない。ミリシアやアレクが言うに成功率はかなり高いとのことだが、失敗することだってあるだろう。
その場合は最悪な方を考えなければいけないものの、失敗することを前提に考えるのは悲観的になってしまう。今は成功すると仮定して物事を進めるべきだ。
そして全ての作戦が成功した時こそ、私とエレインとの婚姻を発表。国民は彼の功績を無視することはない。エルラトラムからのやってきた聖騎士団の実力も理解できたところでの発表は国民にとってはインパクトが大きいはずだ。
「もしかして、政略的な意味もあるってこと?」
「はい。おそらくそれが私の、王族としての最後の仕事になりそうです」
「……エレインはそんなことに協力してくれるかしら」
「無理そうなら、私が一方的にするだけです。私は王女ですから」
「意外と強引なのね」
王女の権限を使えばドルタナ王国内での婚姻を特別に認める、認めさせることができる。私としては正式に同意を得て行いたいところではあるが、現実的に難しいのなら仕方ない。
私の婚姻発表はあの国にとって、国民にとって大きな転換点となるはずだ。少しでも王国がいい方向へと進むためには王族である私が必要となる。私ができることはそれだけなのだから。
とはいえ、全ての作戦は明日の昼にかかっている。デートで私の印象が良くなれば、正式に彼から同意を得られることだろう。結婚まではいかなくとも、婚姻発表をするだけでもいい。それらの手続きさえ終えればその先はどうでもいいことだ。
あくまでそれらのことは建前だと私は理解しているのだけれど……
こんにちは、結坂有です。
果たしてラフィンのデート作戦はうまくいくのでしょうか。
政略的な目的もあるようなのですが……
一体結末はどうなることやら。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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