思わぬ対立
図書館から団長室に向かう途中、ユウナが私に向かって不安を溢した。
「私、気になる発言を耳にしました」
「んっと、議員とのこと?」
「そうですね。革命派は魔族を利用しようと考えているのですけど、ミリシアさんは知っていますか?」
ブラド団長の作戦で確かに魔族を利用するのだが、それには議員の人は関わっていない。
完全な聖騎士団が独断で行う作戦のため議員がそのようなことを言うはずがないのだ。
予測されていると言うのだろうか、それとも革命派も似たようなことを考えているのだろうか。
いや、そもそも議員一人に議会の討伐軍を動かす権限はないはずだ。そう言ったことをすると言うこと自体できない。
「ううん。そんな情報は知らないわね」
「私は魔族が嫌いです。それはミリシアさんも同じなのでしょう?」
「もちろんよ」
「でしたら、魔族を味方につけるような作戦はしないで欲しいです」
ユウナはそう言って頭を下げた。
確かに今討伐軍を利用するのは私も嫌なのだ。しかしそうすることで議会が混乱すると言うのもまた事実なのである。
私の見立てではあのような実力ではいくら聖剣を持っていたとしても完全には防衛できないはずだ。
それは私が一年以上監視を続けてわかったことである。
討伐軍に負担がかかり、防衛に一回でも失敗すれば議会の支持率は急激に下落することだろう。
もしそうなったら市民は議会ではなく聖騎士団を支持するようになるはずなのだ。
私の計画がうまくいけば問題なく議会を崩壊させることができる。
崩壊させれば後は再生させるだけ、安定化させることなどすぐに達成するのだ。
「……まだ魔族を利用した作戦ができるかまだ検討段階なの。だけど、ユウナの意見も参考にさせてもらうわ」
「助かります」
感情論で言えば、魔族を使いたくないのは山々なのだ。
だが、敵の敵は味方だ。
利用できるのならとことん利用するべきではないだろうか。
それから私たちは団長室にノックをした。
「入れ」
中からそう返事が聞こえ、私たちは扉を開けた。
そこにはいつものように椅子の上で書類を読んでいる団長がいた。
「ふむ、ユウナ。まずは報告をしてくれ」
「はい。革命派の議員に魔族の侵攻を誘発させると伝えました」
「その議員の反応は?」
「あの人はいい兆候だと言っていました。どうやら革命派はその混乱に乗じて議会を変えようとしているようです」
ユウナは少し躊躇しながらもそう報告した。
「なるほど、了解した。ミリシアはその作戦で行けると思っているのか」
「可能性はかなり高いと思うわ。でも議会の方も何か企んでいると考えていいでしょうね」
「ミリシアさん?」
「あなたの言った議員の反応が気になるわ」
私がそう言うとユウナは首を傾げた。
「いい兆候と言ったのでしょう? と言うことは魔族が侵攻してきた時の対応まで考えていると言うことになる」
「……しかし、団長が議会に向かった時にそのようなことを話していたのではないですか?」
私と団長が議会に向かったときに確かに団長は魔族の侵攻を誘発させると言った作戦のことを口にした。
とは言ってもそれはつい先日の話である。
こうすぐに対応されると何かを企んでいたのだとわかる。
「ええ、話したわ。けどまだ数日しか経っていないわけだし、すぐに革命派が対応できるのかしら」
「それは……」
「我々が魔族を使うと言うことは議会に周知している。すぐに作戦会議が行われたとしても不思議ではない気がするがな」
ブラド団長はそう言った。
確かにあの後すぐに作戦会議を行なっていれば可能なのかもしれないが、それ以外に何か企んでいるような気がする。
「団長、私たち以外にも生存者がいたと言っていたよね。その人の所在は掴めているの?」
「議会病院に連れて行かれた後の所在は不明だ」
「どうして私たちの管轄で処理しなかったの?」
すると、ブラド団長は書類の一つを取り出した。
「これを見てみろ」
私はその書類に目を通す。
ユウナも横から顔を覗かせて中身を見る。
「これって……」
書類の内容は驚くべきものであった。
議会の本当の狙いが書かれているもので、どうやら議会は十五年ほど前からセルバン帝国の技術を盗もうと企んでいたのだ。
「帝国の卓越した技術は我々聖騎士団ですら理解できないものであった。特に合金で作られた義肢の技術は素晴らしいものだ」
「エルラトラム議会はずっと前から帝国の滅亡を狙っていたと言うこと?」
「ああ」
団長はその通りだと言わんばかりに真っ直ぐな目で私たちを見る。
帝国を滅亡させることでエルラトラムは合法的に技術を盗むことが可能であると言うことだ。
技術者を買収するよりも国の全てを調べ上げた方がよかったのかもしれない。
資料をめくっていくと十年もの期間スケジュールが書かれていた。
「この十年計画は本当に実行されたの?」
「俺の知っている限りではそのほとんどが実行されていた」
どうやら本当に議会はこれに沿った行動を取っていたようだ。
「だが、最後の聖騎士団の遅延行為は意味をなさなかった」
「そうなの?」
「この俺が一人を先行させたからな。遅延行為は確かに面倒ではあったが、一人はすでに帝国に向かっていた」
どうやら最後の聖騎士団への遅延行為は意味をなさなかったのかもしれない。
「その資料の一番最後に書かれていると思うが、生存していた者は議会病院に移送後に『
567』と言う施設にに連れていくようだ」
そのどこかと言う部分は暗号になっているのか知らないが、数字となっている。
「これだと私たちもこの施設に運ばれる予定じゃなかったの?」
「お前たちは俺が単独で保護したからな」
「ってことはもう一人の生存者は他の人が見つけたってことなのね」
私とユウナは倉庫にいるところを後にブラド団長に見つけてもらったことで保護された。
だから私たちは議会病院に連れて行かれることはなかったのだろう。
「その人ってどんな状態で運ばれたか知ってる?」
「右腕と左足が欠損している状態だった。あれだと治療は不可能だと思うがな」
「……私の知っていることだけど、義肢の剣士がいたの覚えているわ」
私が子供の頃に教官として指導してくれた人は義肢であった。
それもかなり剣のうまい人だ。あの義肢で細かい動きができるものだなと感心していたからよく覚えている。
「そんな人、確かにいましたね」
横のユウナも頷いてみせた。
「困ったな……」
「どうかしたしたの?」
「俺がお前たちを保護した後、議会の技術者が送り込まれたんだ」
ってことはセルバン帝国の技術を盗みに来たのかもしれない。
もしそうなのだとしたらあの義肢の技術も応用されて、その生存者に施している可能性だってある。
「もしその生存者が義肢を得て、議会側に協力した場合は魔族だけでは不十分かもしれないわね」
「お前の国の剣士はそんなに強いのか」
「ええ、私が見ただけだと下級の聖騎士ぐらいの力は持っているわ。もちろん聖剣はないのだけど」
「議会側は自由に聖剣を調達できる。もしその剣士が聖剣を持ってしまったら厄介だな」
確かにそうだ。
そうなのかもしれない。
普通の剣士だったらいいのだが、もし私たちを指導していた教官だったりすれば……いや、もしその人がアレクだったりすれば厄介どころではない。
私では彼に勝てないのだから。
議会が勝利し、聖騎士団が敗北する。
そんな時であった。
キャリィィン!
聖騎士団本部の壁に剣が突き刺さった。
「敵襲だな」
「っ!」
こんな夕方に敵襲とは議会も変わった攻撃を仕掛けてくるものだ。
私は窓から外を確認する。
ユウナも遅れて窓を見る。
「……アレク?」
「知ってる人ですか?」
私は驚愕した。
アレクの面影を残した人が次々と聖騎士団の剣を交わしつつ、こちらに歩いてくる。
「団長、本部は放棄しましょう」
「どうしてだ?」
「彼には勝てないわ」
私は真剣な眼差しで団長を見つめた。
彼の持っている聖剣は普通の聖剣ではない。
大聖剣と呼ばれるものに違いない。
なぜなら彼の剣に触れた聖騎士団の剣はすぐに折れてしまっているからだ。
「……魔剣を解放する。少し離れろ」
すると、団長は魔剣の柄を握った。
それと同時に数えきれない数の黒い人型の影が走り出した。
こんにちは、結坂有です。
聖騎士団と議会の全面衝突が始まりました。
果たしてアレクの実力は如何なる程なのでしょうか。
そして、ミリシアはどのように立ち回るのか、気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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追記:一部名前を間違えていた箇所があったので修正しました




