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気持ちを切り替えて

 聖騎士団に後のことを任せてから、俺はアイリスと共に商店街を歩いていた。

 彼女は商店街にあるものそれぞれに興味を抱いている。目の前に歩いている人の買い物カゴに入っているものや横の店に並べられた小物、普段見られないような服の多くが彼女にとってはとても新鮮だったらしい。

 今まではリーリアやミリシアからしか聞けなかったことをこうして実際に目にするのは面白いはずだ。俺もアレイシアと初めてここの商店街を歩いたときはかなり驚いたな。ただ、それも一年近くも通っていれば慣れてくるもので、ただ、慣れたとは言っても日々移ろう商品の数々は見ていて興味深いものだ。

 それにリーリアと歩くときも彼女らしく、服飾系や美容系の商品を多く見る機会が増えた。アレイシアはあまりそういうのには疎かったためにその辺りのことはあまり教えてはくれなかった。


「お兄様は何か買われるのですか?」

「特に買う用はない」

「そうですか。すみません、急に言い出してしまって」


 こうして商店街を歩いているのは彼女が一緒に来て欲しいとお願いされたからだ。別に俺も特に予定がなかったためにこうして来ているわけだ。

 それに彼女とは兄妹という関係だ。商店街を一緒に歩くことなどよくあることだろう。


「謝ることはない。ちょうど俺も暇だったからな」

「……その、先ほどの件、迷惑ではなかったですか?」


 先ほど、というのはやはり謎のフード男のことだろう。あのような連中は以前からもいたわけだしな。どこを歩こうが同じというわけだ。


「学生時代からこういうことはよくあったからな。もう慣れた」

「そう、なのですね」


 彼女はそういうがどこかまだ納得していない様子だった。家にいればあんな風に誰かに付け回されないで済んだのではないか、と彼女は考えているのだろう。ただ、そんなことをしていては結局のところ問題を先延ばししているのと何ら変わりはない。

 今、出会うことがなかったとしてもいずれリーリアと買い物をする時に話しかけて来たことだろうしな。


「気にすることはない。あいつは俺のことを狙っていた。いずれ会っていたことだろうし、その予定が前後しただけだ」

「……それなら、気にしないことにします」

「それより、アイリスは服を買いに来たのか?」

「いえ、買いに来た訳ではございません。正確には見に来た、というところです」

「興味でもあるのか」

「はい。ミリシアさんからこの服を教えてもらってから少しばかり自分でも調べてみたいと思ったのです」


 そういえば彼女の今着ている服はミリシアから教えてもらったものらしい。

 フィッシュテールというスカートにフォーマルな服を合わせている。白を基調としたスーツにコルセットベルトで体を引き締めている。どうやらそれには理由があるらしく、スカートに関しては可愛らしく演出しながらも前を広く開けることで機動性を確保している。

 それにウエストに巻かれたベルトでは彼女の俊敏さを補助する目的でもあるそうだ。よくみてみるとそのコルセットベルトには締め付ける部分に一部伸縮素材が使われている。そう考えてみると確かに楽そうではあるか。


「なるほどな」

「その、似合ってないでしょうか?」

「ああ、似合っていると思う」

「そうですか。ありがとうございます」


 彼女の体は非常に美しいものだ。日々鍛え抜かれたことで程よく引き締まった体をしている。徹底された訓練を幼少期からずっと続けていたため、彼女は健康的で美しいものだ。ミリシアも同じようなものだが、アイリスはより洗練されていると感じる。

 やはりその点では俺と同じく最高記録を叩き出した彼女らしいと思える。

 すると、アイリスは続けて口を開いた。


「お兄様の服もかっこいいです」

「そうか。まぁ神が作ったものだからな」

「神、ですか?」

「話は長くなるが、まぁ天界の手土産としてもらったものだ」


 正確には俺のためにあの老人が命をかけてまで作ったものだ。彼の真意はまだわからないもののそれでも善意だけで行ったという訳ではなさそうだ。おそらく何か明確な理由でもあったのだろう。

 俺の能力や実力的なところも彼は気付いていた様子ではあったからな。

 まぁ流石に神を騙すなんてことはできないということらしい。


「そういえば、天界に行かれたことがあるのでしたね。精霊がいれば、神がいたとしても不思議ではございませんし」


 それに神の力なら俺たちはよく知っている。精霊に与えられた力がそのまま神の力に直結している。俺たちもその恩恵を受けている身なのだ。


「鎧、というわけではないがな」

「いえ、こうして普段着としても使えるように作られたのではないでしょうか?」

「確かにそうかもしれないな。今となってはあの老人の考えなどわからないが」

「……亡くなられた、のですか?」

「神が死ぬなんて不思議な話だがな。彼が遺してくれたものだ」


 この服と同じものを人間は到底作り出すことなどできることではない。中には天界にしかないような素材もあると聞いている。そんな存在そのものが聖剣並みのこの服は普通の製法では作れないことだろう。


「剣聖という名に恥じない立派なものなのですね」


 この服も別に派手というわけではない。人間の日常生活にも馴染むようデザインされている。俺の動きに破れたり壊れたりすることなく、動きの邪魔をしないものだ。それに金属を張り合わせ、それを革で縫い合わせたこの靴も俺の機動を全く損ねることがない。

 地下訓練施設では毎日のように支給された服や靴などを壊してきたからな。


「俺としては出費が少なくて済むわけだ」

「ふふっ、確かにそうですね」


 そう上品に彼女は口元を押さえながら笑う。そんな彼女を商店街に出歩いている人たちが視線を向けている。多くは男性のようだ。


「視線は辛くないか?」

「殺意がこもっているものではありません。それに、視線を向けられているのは何も私だけではございません」

「まぁそうだな」


 事実、俺も注目を浴びているわけだからな。

 服装的には生活に溶け込めているとは思っているのだが、どうしてこうも注目されるのかはわからない。アイリスも同じように思っているのなら俺の思い違いではないのだろう。


「かっこいいお兄様は私の自慢です」

「俺のことはわからないが、可愛らしい妹は俺の自慢、か」

「っ!」


 すると、アイリスは頬を赤く染めて目を見開いた。

 少し変なことを言ってしまったか。言い返すようにして褒めただけなのだが、もう少し時と場合を考えるべきだったかもな」


「……その、精進しますっ」


 そう言って視線を逸らすようにして前を向いた彼女はどこか嬉しそうに笑っていた。


 それからしばらく商店街を歩いて回る。

 彼女は知らない服を興味深そうに眺めていたりした。リーリアと歩いていて思ったことなのだが、女性用の服の種類はかなり多いらしい。種類だけでなく、派生したものまで含めるとかなりの数になるそうだ。

 それぞれに用途や理由があるのだが、デザイン性を高めるために派手な装飾を施しているものまであったりする。

 俺にはまだおしゃれを楽しむということがわからない。ただ、こうしたものに触れていくことでそうしたことも少しは理解できてくるのだろうか。


「お兄様、今日は楽しかったです」

「ああ、俺も知らないものを見れてよかった」

「そうですね。あの服とか、どうやって着るのでしょうか」


 一枚の大きな布を巻き付けるようにした服を指差して彼女はそういった。展示されているものを見ても確かにどのようにして着ているのかわからない。

 構造的には理解できても留め具などがない以上、服が外れてしまいそうな気がする。まぁ激しい動きを前提としていないのかもしれないがな。


「またこうしてゆっくりと街を歩きたいものです」

「以前、セシルが言っていたのだが、食べ歩きというのも楽しいらしい」

「食べ歩き、ですか。確かにいろんな料理が並んでいましたね」


 今回は服を主体としていたが、軽い食事を主体として食べ歩くということもよくあることのようだ。

 商店街には俺の知らない食材も並ぶことがある。


「今度、リーリアと一緒に来ようか」

「はい。リーリアさんなら色々と知っていることですしね」


 彼女は流派の教えもあって食材の知識がある。食材の特徴などを知りながら食事を楽しむのもまたいいだろう。

 平和という日々が続くのならこうした毎日を過ごすことができることだろう。


「こんなにも戦いを意識したことのない日は初めてです。お兄様の守りたい平和、少しは理解できた気がします」

「それはよかった」

「……私もお兄様と同じく、このような日々がずっと続くよう尽力します」


 真っ直ぐ俺の目を見ながら彼女はそう言った。

 そこには強い決意のようなものがあった。それは剣聖の妹というものではなく、自発的な意志のようなものを感じる。


「なら、ドルタナ王国も守らないとな」

「はいっ」


 そう強く彼女は返事をした。

 こうした平和を魔族なんかに邪魔されたくないものだ。彼らにも理由はあるのだろうが、俺たちは人として生きていく。人間らしい生活、人間らしい社会で俺たちは生きていくのだ。

 それを邪魔される権利など彼らにはないはずなのだから。

こんにちは、結坂有です。


エレインとアイリスとのデートでしたが、今後もこのような日々があるといいですね。

アイリスももう少しすると、自分の本心に気が付くのかもしれませんね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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