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幕間:政略的、エレインとのデート作戦〜前編〜

 私、ラフィンは考えていた。

 もちろん、ドルタナ王国のことも考えてはいるが、それ以上にこれ以上ここで何もしないでいいのかと言うことを考えていた。

 具体的にはこの国のことを持って知りたいと思っている。理由としては今後、ドルタナ王国でもここと同じようにしなければいけないと考えている。第二のエルラトラムとは言われなくてもそれに近い存在として国民を守っていく必要がある。

 国力としてドルタナ王国は十分なほどの力を持っている。それに聖騎士団や小さき盾が奪還してくれた魔族領も全て解放されることだろう。そうなれば王国に足を運んでくれる人も増えるはず、そうなればさらに国力を伸ばすこともできる。その時にエルラトラムのような圧倒的な自衛力を示すことができれば、国外から移住してくることも考えられる。


 あらゆることを考えて、エルラトラムは非常に高い防衛力を誇っている。度重なる魔族の大侵攻にも耐え続けているその背景にはこの国の体制にもあるだろう。

 彼らの強さは聖剣や神樹によるものではなく、この国の風土というものも大きく関わっているはずだ。強大な軍事力だけでこれほどの豊かな国になるはずがない。この国独自の何かがきっとあるはずだ。私たちドルタナ王国もそれらに見習うべきだ。

 ただ保護されていると言っても私はこの国で誰かに狙われているということもなく、さらに言えば王国もここまで誰かを連れてくることもないことだろう。それならこの国で多少自由に過ごしたっていいのではないだろうか。

 もちろん、王女としてではなく一般人としてこの街を散策して見たい気分だ。


 そんなことを考えながら、リビングで紅茶を啜っている。

 私以外にもこの家にはラクアがいる。保護されている身の私を一人にしておけないからだ。彼女のことはこの家にいた時に何度か話をした。彼女は自分自身に精霊を宿しているのだそうだ。

 それを聞いた時は驚いたものだが、確かに訓練をしている彼女を見ると人間離れした技を何度も見させられた。それに順応して彼女の訓練に付き合っているアレクやレイも異常なのだが、この小さき盾という人たちは本当に超人の集まりなのだと認識させられた。


「……ラクアさん、一つ話をしてもよろしいでしょうか」

「ええ、いいわよ」


 彼女は私に対して平等に接してくれている。当然ながら私からお願いした。この国では私は王女という立場ではないからだ。それに気兼ねなく話せる友だちという物が欲しかったというのもある。

 王国ではこうして自由に交友関係を築くことが難しい。一昔前までは王国内の騎士貴族との政略的な交流なんかもあったそうだ。ある程度自由はあったのかもしれないが、それでも制限される。もしその頃に私が生まれていたとすれば日々面倒ごとを押し付けられていたことだろう。とはいえ、現代ではそのようは風習のようなものはなくなりつつある。

 この私も王女として王城に住んでいた時もそのような交流はあまりなかった。


「この国の様子はどのようなものでしょうか」

「それって、議会のこと?」

「いえ、国民全体としてです。みなさん、どのように過ごしておられるのでしょうか」

「まぁ普通よ。平和に過ごしている人が多いわ。まぁいくつかの頭のおかしな人は魔族と結託したりするらしいけれど」


 そのことは以前ミリシアが話していたことだ。一体どのような理由で魔族と協力するのかは知ったことではないが、今の私も他人事ではない。事実、ドルタナ王国は魔族の陰謀によって崩れつつあるのだから。

 それよりも、国民は平和に過ごしていると言っていた。


「そうなのですね。聖騎士団に守られているとなればさぞ安心でしょう」

「守られているから安心して暮らせるのもあるけれど、おそらくはこの国の剣術に対する見方にあると思うわ」

「剣術に対する見方、ですか?」

「うん。単にこの国は剣術を単に技として見ていないような感じがするわ。私の感想なんだけれど」


 彼女は本来この国の出身というわけではない。そんな彼女がこの国に来て感じた感想なのだ。その話は私にとってとても貴重なものになることだろう。


「感想でも構いません。みなさんどのように考えていると感じているのですか?」


 私は彼女のその感想を引き出すべく続けてそう質問してみた。


「剣術を学ぶってことは自分を磨くこと、そんな見方だからみんな安心してるんだと思う」

「それが安心に繋がるのでしょうか」

「ええ、剣を通して自分の心を磨き上げる。そうして聖剣に認められる。だからこの国の剣士を目指す人は強い志を持っている人が多いのよ」


 それは彼女が議会や聖騎士団の人と関わってきたからこそ感じてきたことなのだろう。私も剣を学ぶということはどういうものなのかは理解できる。一般的な稽古ではなかったかもしれないが、それでもある程度は同じだろう。

 確かに稽古を続けるには体力や筋力といった目に見える実力はもちろん、精神力や忍耐力と言ったものも試されることがある。師からの試練を乗り越えるにはそのような見えない実力というのも必要になってくるからだ。

 ドルタナ王国では剣術競技が盛んで、そこでの勝ち上がる強い人に対して憧れのような念を抱く。そうすることで剣術が広まっていった。この国でも剣術競技は盛んに行われているようで、特に聖剣を持っていない人たちはそれらを繰り返すことで実戦的な実力を身につけるのだそうだ。もちろん、この国の多くの流派は魔族を前提とした戦いをしている。実際に聖剣を手にして魔族との戦う際にも自身の実力を十分発揮できることだろう。そして、それ以上に日々の鍛錬で身につけられた精神力は恐怖に打ち勝つはずだ。


「……私の国では対人戦を重点に置く人ばかりいます。この時代、剣術を学ぶ本質を知らない剣士が多くいるようです。それは姉である第一王女ジェビリーがそういっていました」


 私自身はそこまで剣術競技に参加したことはないが、よく観戦に向かっていた彼女は競技に参加する剣士たちを見てそう感じたことを正直に言っていた。もちろん、公の場でそのようなことは発言しなかったが、内心それらを変えたいと考えていたのは姉から距離を置かれていた私からでもわかった。


「目に見える強さではなく、その本質をまず知らないとね。敵を倒した数だとか、剣技の正確さばかりに目を向けていてはダメなのよね」

「はい。私もそう思います。確かに目に見える強さは凄いと思いますが……」

「意志のない力はただの暴力、レイがよくそう言っているわ」

「その通りだと私も思います」


 誰かを守るだとか、人類のためにだとかそんな強い志のようなものがあれば力は武力となってあらゆることに貢献する。

 しかし、そのような大義名分のない力は暴力となってしまう。それでは誰も認めてくれるはずもない。このエルラトラムの人たちは剣術を学ぶことで、また学ぶ人を見ることでその意志というものを理解しているのだろう。

 ドルタナ王国のただ盛り上がるだけの剣術競技とは違う。

 結果ではなく、剣を握る人がどう戦うかを見ているのだろう。


「まぁそんなこと言ったって人を評価するのは簡単なことではないのだけどね」

「そうですが、それを意識するだけでも物の見方というのは変わってきます」

「できるかどうかではなくて意識の問題ってことかしら」

「私はそう思います」


 見ただけでその人を評価するなんてできない。一言で人柄を説明することができないように、その人と何度も交流しなければ本当の意味で評価なんてできないだろう。それに人というものは日々成長していくものだ。兵士長と言われる人もその昔は訓練生だったように。

 それでもその人の本質を見極めようと上辺だけでなく、多角的にその人を見ることで変わってくることもある。


「……それで、急にそんなことを聞いてどうかしたの?」

「エルラトラムとドルタナ王国はどう違うのかと思っただけです」

「この前、レイから王国での話を聞いたんだけど剣術に関しては大したことないみたいなことを言っていたわね」

「対人として、競技として映えるようなものばかり。見映えだけは立派ですが中身が伴っていないのです」


 そのことも姉は危惧していた。中身のない技は何の役にも立たないと言っていた。それに関しては私の師匠であるアミュラ特級剣士も同じようなことを言っていた。

 対人としてはそれなりに通用するかもしれないが、いざ実戦で、それも魔族ともなればそれら技は全く通用しなくなるらしい。そんなことに強い危機感を持っていた彼は私に対して他とは違った剣術も教えてくれた。


「この国の人々の考え方はよくわかりました」

「エルラトラムの国民性を知りたかったのね。それなら一度商店街にでも行ってみたら?」

「商店街、ですか?」

「うん。ちょうど、ここから近い場所だと高度剣術学院の近くにあるわ」

「……それでしたら詳しい事情というものもわかりそうですね」


 剣術学院の近くということで剣を学ぶ人とよく交流することだろう。話によれば高度剣術学院に向かう生徒は皆優秀だと聞く。それもそのはずだ。聖剣に認められるだけの実力を持った人たちが向かうのだから。

 こうして軟禁状態ではこの国の内情に関して全くわからない。せっかくの機会なのだから勉強のためにも商店街へと向かう方がいいのかもしれない。幸いにも私の顔はそこまで知られていないはずだ。自由に一般人として街を歩ける貴重な時間でもあるだろう。


「エレインならその商店街をよく知ってるはずだから、案内してくれるはずよ」

「……剣聖エレインと一緒に、ですか?」

「ええ、彼も高度剣術学院の生徒だったみたいだし」

「つまりはデート、ということですか」


 千載一遇のチャンスかもしれない。この国に来たものの、彼とはあまり交流を持っていないことだ。妹であるアイリスとは牽制のために結婚がどうなどと言ったが、そのことは何ら嘘ではない。

 もし私が剣聖エレインと結婚ともなればエルラトラムとドルタナ王国の政略にも大きく貢献するはずだ。実際にするかどうかは別として、多少政略的に私が動いたところでアレイシア議長はともかく、彼は許してくれることだろう。この機を逃してはいけない。


「デートって……本気なの?」

「この目を見てわかりませんか? 私は本気です」

「……余計なこと言っちゃった」


 そう小言を言った彼女は私から視線を逸らしたのであった。ひょっとすると彼女もエレインのことが好きなのだろうか。

こんにちは、結坂有です。


まさかのラフィン王女とエレインがデートをするようですっ。

妙な展開になりそうですが、リーリアとアイリスは許すのでしょうか。きっと二人だけにはならない波乱なデートとなることでしょうね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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