表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
576/675

動き出すべき信念

 僕、アギスは今も防壁付近の警備をしていた。基本的にこの国で僕のできることはそこまで多くはない。王城の警備隊にでもなればもう少しは信頼され、多くの人を動かすことも可能ではあるだろうが、当時はそのようなことを望んでいなかった。

 目立つことは避けたかったのだ。理由としては僕があまりこの国の体制に対してそこまで好意的ではないからだ。本音を言えば、国外へと旅に出たい気分ではあった。ただ、そんなことができるほど僕に実力があるとは思えない。外に出る実力もない上に、貫けるほどの勇気すらもなかった。魔族との戦いを避け続けている警備隊や王家直属の騎士には興味すらなかった。

 だけど、そんな僕にもやらなければいけないことがある。今、この国が魔族によって侵略されつつあるということは小さき盾と名乗る人たちから聞いた。

 僕は彼らがうまく国外へと脱出できるよう手配したが、それからのこと特に連絡などもない。エルラトラムから別の人がやってくるということもない。それにこの国は外部からの人間を制限しているのもある。以前、彼らが来た時のような状況ではない。


「……」


 個人的にはこの国の本当のところが知りたいところだ。第二王女ラフィンが国外逃亡してからまだ何も情報を公開していない。国民の不満は時間と共に薄れていってはいるものの、僕たち兵士の中には王家に対して不信感を持っている人間も少なからずいる。

 僕が所属している防壁警備隊の中でもそのような兆候が見られる。


「ここにいたのか。アギス」


 そんなことを考えながら防壁の外を見ていると体調が話しかけてきた。彼は僕の実力をよく知る人で、高く評価してくれる数少ない人だ。もちろん、僕も彼に対して尊敬している。

 彼の指示は的確で魔族が攻め込んできた際もその判断力と決断力で指揮してくれた。彼が指揮してくれている限りは大きな混乱が生じることはない。


「どうかしましたか。隊長」

「暇すぎてな。最近の調子はどうだ?」


 確かに最近は魔族の攻撃もほとんどない。かと言って警戒を怠ることはできない。いつ彼らが攻め込んでくるかはわかったものではないからだ。

 僕は外から視線を外さずに彼の問いに答えることにした。


「あれから変化はありません」

「ま、そうだろうな。何ヶ月も剣を振るってない。ラフィン王女殿下が東の方から逃げ出していったとき、俺たちが東門にいればもう少しは活躍できたかもしれねぇがな」

「……そうでしょうね。ですが、僕たちは人に対して剣を向けたくはありません。ラフィン王女が何を企んでいたのかはわかりませんが、なんであれ僕たちは魔族から民を守る剣士です」


 彼の言うように第二王女ラフィンが国外へと逃亡する時に僕たちが東側の防壁を警備していたのなら、状況は少し変わっていたのかもしれない。ただ、それでも僕は彼女を止めることはできなかったと考えている。

 理由としては彼女の護衛の中にアミュラ特級剣士がいるからだ。仮にその時、僕たちが東側を担当していたとしても結果は対して変わりなかったことだろう。それほどに彼は強い人間なのだから。


「にしても、妙に平和だな」

「ええ、本当に静かです」


 いくら外を眺めても景色は変わることはない。エルラトラムが魔族の領土を取り戻したこともあってか、ここ周辺の魔族も少なくなったのかもしれない。一体どれほどの実力があれば魔族から領土を取り戻せると言うのだろうか。

 僕も遠征をしたことがないためにその難しさは理解していないが、上位種との戦いは何度かある。領土を奪還すると言うことは魔族らの本拠地を攻めると言うことと同義だ。それもあれほどの大きな土地。魔族もかなり抵抗したことだろう。

 攻め込むと言うことは守るよりも非常に難しいとよく言われる。きっととてつもない死闘が繰り広げられたはずだ。


「お前にしてはどうなんだ?」

「どう言うことでしょうか」

「いや、もっと戦いたいんじゃないのかって思ってな」

「何も僕は戦闘狂と言うわけではありません。戦うことを生業としていますが、それが好きと言うわけではないのですよ」

「そうだったな。お前は民を守るって言ってたな」


 戦いが好きだからこうした警備隊をしているわけではない。魔族から民を、人類を守るために僕は戦っている。それができるよう僕は必死に剣術を学んだ。聖剣も手に入れ、実戦で高い実績も残すことができた。

 少なくとも僕はこの国の防衛に貢献していることだろう。


「ですが、それだけでは不十分だとも思っています」

「と言うと?」

「とある方から聞いた話ですが、魔族に協力する人間も存在するらしいのです」

「ほう、それはまた笑えない冗談だな」

「冗談ではありません。その方はエルラトラムの剣士でした。信頼できる人です」


 小さき盾というのはここでは伏せておこう。彼らもあまり名が広まることを避けている様子だった。それに、新聞で彼ら小さき盾の詳細が記載されていない時点で怪しいと見るべきだ。

 エルラトラム国外へは彼らの素性は非公表となっている。それなら僕が勝手に彼らの名前を言うのは控えるべきだ。


「……そうだとして、人間になんのメリットがあるんだ? 聞いたところ、魔族は俺たちを食糧にするんだとか」

「深い理由は分かりません。ただ、全く可能性がないわけではないでしょう」

「魔族と協力するなんざ、飛んだイカれ野郎だな」

「到底許されるようなことではないでしょう。ただ、それでも魔族に頼る選択をすると言うのは何か裏があるのでしょうね」


 なんの利益もなければ敵対勢力である魔族と協力するなんて考えは起こらないはずだ。きっと大きな得があるから協力するのだろう。

 詳しいことはまだわからない。それでも僕たちは人間に対しても警戒をしなければいけないと言うのは事実のようだ。こうして王国内が混乱しているのも魔族が関与しているとなればそれこそ危機的問題だ。


「そうなりゃ俺たちはどうすればいいんだろうな」

「……それこそ人に刃を向ける事になるでしょうね」

「物騒な世の中だ」


 隊長もそのことはよくわかっていることだろう。魔族に協力する人間もまた僕たちの敵なのだと。

 しかし、それには今まで以上に覚悟をしなければいけない。人類を守るために剣を握ったのにその人類が僕たちを裏切ったらどうなるのだろうか。僕たちはそれでも信念を貫くべきだろうか。

 自分の正義が果たして本当の正義なのだろうか。

 疑問はいくらでも出てくる。生半可な覚悟では戦っていくうちに志が失われ、自我が失われていくことだってあるだろう。良心あるものがあるのなら、人を殺すなんてことはしたくはない。


「僕はそれでも立ち上がって自分の志を貫くべきなのでしょうか」

「……お前の道はお前が決めるんだな。俺がとやかく言う資格はねぇ。だがな、一度決めたのならその意義をしっかり考えろ」

「意義、ですか?」

「そうだ。存在意義ってもんが自分の中になければ、それこそ自分を見失ってしまう。ブレた生き様だけは晒すなよ」

「なるほど。自分が存在する意義ですか。なかなか難しいことですね」


 自分で自分が存在する理由を探すと言うのは難しいだろう。しかし、そんなことは他人が決めることではない。自分で決めるべきことだ。

 難しいからと言ってその問いから目を背けてはいけない。しっかりと自分の中で整理して考えてみることにしよう。


「もう暗くなる頃合いだ。今日は家に帰って休め」

「……そうします。あとはよろしくお願いします」

「おうよ。エースがいなくても俺がいる。任せとけ」


 エースだなんて大層な功績は残せていないと思うが、確かに隊長がここに残ってくれるのなら僕も気兼ねなく休むことができる。

 いついかなる攻撃があったとしても対応できるよう適度に体を休めないといけない。今日はゆっくりと休むことにしよう。

こんにちは、結坂有です。


アギスも何やら自分の信念を貫こうとしているようです。

この王国の剣士は落ちぶれてきていると言われていましたが、それでもまだ強い意志を持った剣士は少なからずいるのですね。

王国に伝わる伝説、そしてそれを信じ、歩んできた剣士もまた強い信念があるようです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ