向かうべき選択
私、リーリアは倉庫にて魔族化した人間を始末した。それなりに強敵ではあったものの、それでもミリシアたち小さき盾の敵ではなかった。彼らの援護もあり、円滑に戦闘を進めることができた。
もちろん、ルクラリズも非戦闘員であったが、訓練を通して今ではかなりの実力を手に入れている。その上、エレイン様からの指導もあって彼女の能力も最大限に活かした戦闘スタイルを獲得しつつある様子だ。そんな私たちに対して直ちに脅威になるような存在はここエルラトラムにおいて存在しないかのように思えるぐらいだ。
それほどに安定した戦いだったのだ。
「にしても、これだけ魔族化した人間がいたとはな」
「フィレスの報告ではかなりの人数がいると言っていたけれど、ここまでとは僕も考えていなかったよ」
「まぁまだ魔の力を制御できていない様子だったから今回は簡単に倒すことができたわね」
フードを被った主犯格と見られる男のほか、六人の魔族化した人間がいた。セシルやルクラリズのように魔の力をうまく利用できていなかったようだった。私が戦った相手も急に溢れ出すような力に戸惑っているように見えたからだ。
精神干渉のできる魔剣ではあるが、戦闘中に彼らの心の中まではすぐに覗き見ることはできない。
「ただ、こんなにも魔族化できるとしたら、先ほど言っていた本当の脅威というものも存在しうるということでもあるね」
アレクの言っていることは人間の国から魔族化できる人間を集め、それらで結成された組織が脅威としてエルラトラムやその同盟国の脅威になることだ。もしそうなってしまっては私たちとしても今まで以上の対策を講じる必要があるということだ。
その対象は魔族に限定されず人間にも広げるべきだろう。そうなってしまったとしたら、今まで以上に関所などで大規模な検問が常に行われるようになることだろう。
「私たちは魔族化に関しての情報は全くないわ。奇妙な肉塊を食べたらそうなるらしい、ぐらいの今年から知らない。そんな状態でまともに対策ができるとは考えられないわね」
「あっ、魔の力を持ってる奴は大体気配でわかるだろ」
「だけど、そんな曖昧なもので敵か味方かを判断するのは間違っているよ」
「そうかもしれねぇけどよ。じゃあどうすんだ?」
「その点に関しても後々議会とか聖騎士団と話し合いするべきかもしれないわ」
少なくとも七人も魔族化した人間がいる。それにこれが氷山の一角に過ぎないというのも間違いない。もしその先にあるものが混沌とした超大規模な戦争、なのだとしたらそれこそ脆弱な人類はすぐにでも滅んでしまうかもしれないだろう。
そんな暗い未来ばかりが脳裏に過ってしまう。明るく平和な未来を期待してもそれは難しいのかもしれない。
「まぁ今後どうなるのかはわからないけれど、私たちはできることをただひたすら続けるだけよ」
ミリシアのいうように私たちのできることは限られている。しかし、根本的な解決になっていないからといって、それらを止めるわけにもいかない。私たちの活動で救える人がいるのだから。
救える人を救わずして何が正義と言えるだろうか。
「ともあれ、ここでの仕事は終わりだ。そろそろ議会に戻ろうぜ」
「そうね。予想ではもうアレイシア議長も戻ってきている頃だろうしね」
「……本当にいろんなことを想定しているのね」
全てを見越して行動している彼ら小さき盾の言動を見てルクラリズは少しばかり呆れたようにそう呟いた。
確かに彼らの行動はエレイン様のように全てを予想、いや予見しているかのように見える。しかし、それらは一つ一つ情報を整理して推測していることにすぎない。言葉にすれば簡単ではあるが、実際に行動できる人はほとんどいない。ましてや戦闘中に相手の行動を全てその”推測”でまともに戦うことができる人なんているはずもない。
そのような超人的なこともエレイン様はやっている。そして、小さき盾の人たちもそれに近いことをやってのけている。エルラトラムの全勢力でもってしても彼らの実力に匹敵する人はもはやいない。
それから私たちは倉庫街を後にして議会の方へと向かうことにした。エレイン様もおそらくはそちらに向かっていることだろう。議会で合流してからあとは考えることにしよう。彼も今後のことは考えているはずだから。
◆◆◆
俺、エレインはアイリスと共に議会の方へと戻っていた。理由としては小さき盾と合流することが目的だったのだが、それ以外にも実はある。それは諜報部隊を取り仕切っているブラドに確認したいことがあったからだ。
そのため、俺は議会の奥の方へと続く廊下を歩いてその諜報部隊の本部となっている場所へと向かっていた。
その部屋をノックするとブラドではなく、その助手のフィレスが扉を開いた。
「あ、エレイン……」
彼女と俺とではあまり接点がない。遠くから俺たちのことを監視しているのは知っているが、それ以上の関係はほとんどないと言っていい。
「ブラドはいるか?」
「……その、今はいないようでして」
ということはまだアレイシアの援護を続けているということなのだろうか。その点はわからないが、別に確認したいことに関してはフィレスでもわかることかもしれない。
「そうか。直接本人に確認したかったんだが、今の関所の警備はどのようになっているかわかるか?」
「そうですね。確か、聖剣使いの人が三人、聖騎士団の方が二人の体制で各関所を警備していると聞いております」
「わかった。ありがとう」
「いえ、それより、関所がどうかしたのですか?」
「警備に穴が空いているという様子がないのなら、気にすることでもない」
俺がそういうと彼女は「そうですか」とだけ言って一礼した。
気になっているというのは魔の力が取引されているという点についてだ。おそらくは俺たちの知らないところで怪しい取引でも行われているのだろう。どのような形状のものなのかは全くわからないが、セシルの話では怪しい肉塊を食べさせられたと言われた。食料品として輸入されていてもおかしくはないか。
もしくは裏取引でもして密輸されていることだってあるだろう。少なくとも俺一人でどうこうできる問題でもない。これに関しては議会と聖騎士団が一丸となって取り組まなければいけない問題の一つでもある。
このことに関してはミリシアたちも気付いていることだろう。
「その、要件はそれだけでしょうか」
「ああ、仕事を邪魔して悪かった」
「大丈夫ですよ。それでは」
そう言ってまた再度一礼すると彼女はゆっくりと丁寧に扉を閉めた。
アレイシア議長が行方不明となって取り乱しているのかと思ったが、その辺りはブラドが後々になって連絡したのかもしれない。まぁどちらにしろ、アレイシアの作戦はうまく行ったようではある。別にこれ以上気にすることもないか。
そんなことを考えて議会の廊下を歩いていると横を歩いていたアイリスが俺の方を向いて口を開いた。
「……それにしても、アレイシアさんは思い切った作戦に出ましたね」
「確かにそうだな。ただ、こうでもしない限りは暗殺集団も動きはしないだろう」
「そうかもしれませんが、失敗すれば命はありません」
アイリスのいうように彼女の作戦は危険なことには変わりない。しかし、それでも実行できるほどの自信がどこかにあったはずだ。失敗することはないと彼女の中で確信していたからこそできた作戦でもある。
俺たちに隠れて密かに計画していた作戦なのだ。それを邪魔するのは余計なお世話と言えるだろう。ただ、彼女の計画に含まれていない点を俺たちが補えばいいだけの話だからな。
「彼女もそのことに関しては理解しているつもりだろう。それでも強行する形で実行し。その点は尊重するべきかもな」
「……そうかもしれませんね。私もそのような時は止められたくはありませんし」
「それに今回のような事件はそう頻繁に起きることもないだろう。エルラトラムも徐々に一枚岩となりつつある。アレイシアも今後はもっと動きやすくなるはずだ」
今回の一件で相手がどれだけのリスクを負って今の議会を潰そうとしてるのか、よくわかったはずだ。その点に関しては議会だけではなく、聖騎士団も同じく危機感を持っていることだろう。
少なくとも何かしらの行動を起こさなければ、今の現状を打開することはできない。多少なりとも強引な手段を使う日が来るのは仕方のないことだ。
それからしばらくすると議会へと小さき盾が戻ってきた。もうしばらくするとアレイシアたちも戻ってくることだろう。あの様子だと、作戦自体はうまく進んだようだ。
俺たちは彼らの名目上、本部となっている部屋で待機していると彼らが部屋に入ってきた。
「あれ、鍵が開いてる……」
そう呟きながら扉を開いたのはミリシアであった。
「エレインっ?」
「先に戻ってきたからな」
「……そっちもうまく行ったようでよかったわ」
「エレイン様、ご無事で何よりです」
そう言ってリーリアがホッと胸を撫で下ろすと俺のすぐ右横へと歩いてきた。立ち位置としては左横に立っているアイリスと全く同じ感じだ。
「はっ、そっちはどうだったんだ?」
「想定通りではなかったが、やはり魔族の連中が忍び込んでいた」
それから俺たちのことと、彼らのことを話し合うことにした。何も全てを推測できているわけではない。それこそ特殊能力とでもいうべきものだろう。
ともかく、今俺たちがするべきことはお互いの情報を共有することだ。
こんにちは、結坂有です。
アレイシアの作戦は無事に成功したようですね。もちろん、小さき盾やエレインのバックアップもあって完璧なものとなっていました。
しかし、問題が全て解決したわけではないようです。エルラトラムだけでなく、魔族は全世界にいるのですから。
これから剣聖エレインたちはどうするのでしょうか。
とりあえずはドルタナ王国の問題をどうにかしないといけませんね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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